【同人コミック部門】 1位
ヨネダコウの大人気コミック『どうしても触れたくない』
そのスピンオフとして同人誌で発表されたのが、この小野田×出口シリーズである。
本作で主人公・嶋にひっそりと片思いし、ひっそりと失恋した小野田は、飲み友達である出口に嶋への思いを相談する。しかし出口は実は小野田に思いを寄せていて…。
4冊で構成された小野田×出口のラブストーリー。
それは本作よりもまっすぐな純愛で、同人作品でありながらCD化もされたほど、ファンの間でも人気の高い作品である。
私自身も、原作よりもこのカップルの話のほうが好きだ。
話が進むにつれて、胸が痛くなるほどの切なさを味わい、小野田の鈍感さ・無神経さに苛立ち、早く出口を幸せにしてやってくれ!と願わずにはいられない。
その分、4冊目でやっと結ばれた二人を見て幸せな気持ちになるのと同時に、幸せそうな出口を見てまた切なくなってしまうのだ。
この作品の最大の魅力は、やはりキャラクターだ。
中でも受である出口。最初はデキる先輩リーマン風を吹かしていた彼だが、1作目のラストで思わぬ切ない表情を見せてくれる。ゲイである彼はノンケ小野田に3年も片思いしていて、小野田が嶋という“男”を好きになったことにより、自分にもやっとチャンスが巡ってきたと思ったわけだ。しかし出口は本当に小野田のことが好きで、きっと今まで散々遊んでいただろうに、小野田の前では携帯を持つ手さえ震えたり、小野田を待つ間に告白の練習をしたり、その純情っぷりが度々窺える。飄々とした俺様なのに、真っ赤になったり、可愛らしいことを言ったり。そのギャップこそが出口晴海の魅力なのだ。
一方の小野田は地味ではあるが、出口いわく“懐のでかい”男。本当に、その辺にいそうな平凡な男なのだ。しかしそんな彼も出口と深く関わっていくにつれ、人間くさい感情を露わにしていく。普段の“いい人”小野田よりも、嫉妬とか欲望にまみれた小野田のほうが魅力的に感じた。
物語は小野田と出口の追いかけっこである。
出口が逃げては小野田が追いかけ、小野田が逃げては出口が追う。
そんな中でも、小野田が出口を受け入れる過程が一番の見所ではないだろうか。
小野田はノンケだが、嶋のことを好きになるなど、ちょっとソッチの世界に片足つっこみかけている。しかし元ノンケ。出口の思いには気づくわけもない。そんな小野田に軽いノリで告白した出口も、冗談としてあしらわれる。そう、小野田はデリカシーがない鈍感くんなのだ!!そんな小野田も逃げだした出口の態度で、自分への思いが冗談ではないことに気付く。今までの出口の言動を反芻して、自分にとっても出口は大切な存在だと思い知る。そして、「前向きに検討する」ということで丸く収まる。ここでの出口がめちゃくちゃ可愛いのだ。俺様だった出口が耳まで真っ赤に染めた後姿は、ついつい抱きしめたくなるに違いない!
こうして徐々に会う回数が増えていった二人だが、出口の家に誘われた小野田が変に意識してしまったことにより、二人の間に溝ができる。出口のアッチ関係の話について。3年間小野田に片思いしていた出口だが、不特定多数の相手と後腐れない関係を持っていた。そのことを知った小野田はついつい「軽蔑する」と言ってしまうのだが、これは明らかに嫉妬なのだ。小野田がそのことに気付くのもだいぶ時が経ってからで、ようやく自分の気持ちに気付いた時にはもう出口にメロメロになっていた。自分のいいところも、些細なことでも、一番に理解してくれるのは出口なのだ。一緒にいて楽しく居心地がよくて…。そんな存在は出口だけ。そう気付いたとき、小野田は出口のことがちゃんと好きなのだと実感したのだった。その後、小野田の気持ちを理解した時の出口もこれまた可愛い。「好き」の言葉が聞きたくて聞きたくて、お願いだからと、1万円やるからとまで言って、小野田の口から「好き」の言葉を引き出そうとするのだ、あの出口が。
恋人になった二人はもうラブラブで、出口も魔性全開。もちろん男との恋愛は初めての小野田は緊張しまくりなのだが。二人の初エッチの時でさえ、小野田は自分が受だと思っていたというお約束の展開(笑)。これには出口も萎えてしまうのだが、こういうコミカルな部分もこの作品の魅力なのだ。そして、出口の物言わぬ背中に「抱いて」の文字が見えた瞬間、小野田も生唾ゴックン。ラブラブエッチへ突入…なのだが・・・
この作品、エッチはカットなのだ。小野田の回想でチラっと見える1コマだけ。しかし、そのチラリズム的な見せ方がまた、妄想力を膨らませるのである。正直言えば、ヨネダ先生の絵で、二人のエッチを事細かく見たい!!しかし、その後のお風呂の二人がいかにも幸せそうなので、もうヨシとするしかない。
余談ではあるが、現在一時休業中のヨネダコウ先生だが、以前この『どうしても触れたくない』に出てくる金沢部長の話も商業で発表する、とおっしゃっていた。それがいつになるのかはわからないが、またこの作品から新たな萌えキャラが出てくるのかと思うと、今から楽しみで仕方がない。
たかが同人誌であるが、この作品には原作コミックスをも超える感動が詰まっている。コミックス化を待ち望むファンも多いようだが、まだその話も出ていない。原作に萌えた人もそうでない人も、この機に一度、読まれてみてはいかがだろうか。