chill chill ちるちる


BLアワード2009


ドラマティックなくせに、シニカルでシビアな大人の御伽噺
猿喰山疑獄事件 遙々アルク
評者:編集部さん
「2009年に読んだBLマンガの中で一番傑作なモノといったらこの「猿喰山疑獄事件」だったと断言できます」
と茶鬼さんがきっぱり断言。それぐらい素晴らしかった本作です。どちらかというとBLには向かない絵柄といえますが、エピソードが秀逸でグイグイ読者を引き込んでいくのです。ストーリー重視の2009年度BL界を象徴するような快作が5位に入賞。
ひろさんとmegさんのレビューをピックアップしてその素晴らしさを再確認してみよう。

【コミック部門】 5位「猿喰山疑獄事件」

★ひろさん

読了後、放心状態に。
遙々アルクさんは、自分が世界から要らないと思われているような気持ちになる孤独を、良く知っている。
誰もがきっと持ったことがあるであろう感情を、良く覚えている。
このお話、ただの“王様”の初恋物語や、庭師のシンデレラストーリーなどではありません。
ドラマティックな癖に、シニカルでシビアな大人の御伽噺。
理屈じゃなく、面白かった。
イラストが苦手でも一度トライする価値は充分! この際イラストは不問!

星グループの若き総帥、星義彦。
彼がただの冷徹非情な王でなく、身近な家人や社員から誇られ、愛される存在であるのがとてもいい。
それを独特の台詞回しと、相変わらずの詞的なモノローグで実に巧く魅せています。
彼の存在とその深い孤独、そして優しさにとても救われました。
星は、自分が人を愛せない人間であることを悟りのようなレベルで気付いていることに、一種の諦めと哀しみを覚えています。
彼の抱える深い深い孤独は、そこが根底なんじゃないかなあ。

そんな哀しみの王の前に現れた庭師・鷺坂貢は、子どものように無邪気に、そして時に誰よりもシリアスに、星の生活に介入して行きます。
やがてこの小鳥のような彼を、星は深く愛してしまうようになるのですが…。
鷺坂のくるくる回る表情と、何処か抜けたような喋り口調に親近感を抱き、そして時に見せる裏の顔に胸が締め付けられました。
そう、彼は星をカモにしようと企む詐欺師だったのです。
鷺坂の真意は何処にあったんだろう。。。
彼の言葉総てが星に取り入るためのステップでしかなかったとは思えませんでした。

「信じて下さい、人を」

星に投げ掛けた言葉は、本当は己に云ってやりたい言葉だったのかもと邪推してしまいます。

星は最初から地に足のついた大人でした。
王として、光の中を颯爽と歩いて行くひとです。
見た目は冷たくスマートに、けれどきっと必死で生きていました。
光の中を行く彼の傍らで、何とも惨めで哀しいそれぞれの生涯が描かれます。
星も鷺坂に出逢わなければ、非情な暴君を巧く演じ切るだけの生涯だったかもしれません。
御伽噺の主人公は紆余曲折の果てに幸せを掴むけれど、その影で容赦なく斬り捨てられていく魔女や継母や王がいるのです。
勧善懲悪とはちょっと違う。
けれど、総ての行いにはやがて帳尻合わせの皺寄せがやって来る。
このお話を、シニカルでシビアな大人の御伽噺だと思った理由は此処にあります。

必死に貪るように読み続け、迎える最後の4ページ。
突然酷く息苦しくなって、一体何処から来たものなのか解らない、正体不明の涙がぼたぼたっと膝に落ちて、自分が一番驚きました。。。
こう云うハッピーエンドもありだなあと思わされるラスト。
3人と1匹の、心安い生活と幸せを願わずにはいられません。


★megさん
レビューは読むなっ、な作品かも。
こんな、すごい作家さんがいたとは!ジーザス!ジーザス!BLの神様、有難う!
正直、、まず本屋で手に取らない、癖のある絵柄。
ですが、読んでみて是非とも皆さんに勧めなきゃと、絵が苦手ってだけで読まないのはもったいない~!!

皆様おしゃられるように、これはレビューすんの難しい、、。レビューは読まないほうがいいんじゃないかな~?ってレビュっといてなんですが。
先入感持たずに読むのが一番いい。
私、衝撃のラストって、、を勘ぐり過ぎて、まさかのフャンタジーか?いやいや?兄弟オチ?とか。
勘ぐりすぎました。いや、ダメって事じゃありません。

アルクさんの作品はいつも孤独感がつきまとっている。
二人の孤独な男の行く末を、祈るような気持ちで読まずにはいられません。
童話のナイチンゲールが織り込まれ、美しく残酷で幸福な、、舞台は現代ですがお伽噺のようです。
張り巡らされた伏線に何度か読んで、ハッとしたり。
脇役が効いていたり。
最初読んだときは、よく解からなかった、カエルの折り紙。
人間には失うことが出来ない、逃れられないものがあるんだよ。カエルは鷺坂にそう云ったのかな?

何度読んでもモヤモヤしたり、、単に切ないとは表現できないような複雑な気持ちになります。
この気持ちは、木原作品を読んだときの気持ちに似ています。
なんとも表現できない切なさ、幸福感に涙が溢れる。
ああ、いい話だった。で、終わらない。読後に、う~んと考えさせられる。
5回程読みましたが、まだうまく着地出来ないのです。何年後は、どう感じるのかなぁ。

アルクさんを見つけてきたリブレさんGJ!!
只今アルク病で過去のアンソロ本やら何やら集め中です。
今、最も期待している作家さんの一人です。
本年のダークホースですな。

作品データ
作 品 名 : 猿喰山疑獄事件
著者 : 遙々アルク イラスト : 遙々アルク
媒   体 : コミック シリーズ : ビーボーイコミックス ~ BE×
出 版 社 : リブレ出版 ISBN : 9784862636270
出 版 日 : 2009/07/10 価   格 : ¥600

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