【コミック部門】 7位
一言で表すのならば、隠微なダーク・パトス・エクリチュール。
ハードな痛みを描く耽美系BL漫画です。
「Jの総て」はもちろん、「エス」「茜新地花屋散華」「DOGLA+MAGLA」が好きならハマるのでは?
さてこの作品。
ボーイズがラブを越えて魂で繋がりあっているところがなんといっても1番の魅力!
純愛なんておキレイな話ではないけれど、一途な愛の美しさがあります。
けれど、愛が強すぎる故の醜さが見え隠れするような不気味な面も併せ持ち、影の部分から匂い立つ後ろめたさがなんともいえず甘美。
わがままでSな黒猫『市川光央(いちかわみつお)』。
みつおに絶対服従の犬『壱河光夫(イチカワミツオ)』。
彼らの交流は高校で同じクラスになったところから始まる。
同姓同名な2人の切っても切れない縁が、話の底辺をどんよりとエロチックに漂う。
同姓同名。しかし性格は正反対。
そのギャップから、互いを意識せずにはいられなかった。
そのうちミツオは気付く。
みつおに服従を誓いつつも彼に焦がれ、彼を抱きたかったことに。
ミツオはみつおの鋭く色っぽい視線に欲情していた。
―――そんな高校時代から数年。
忘れかけていた熱情は一本の電話で蘇る。
「女を殺してしまった。どうにかしろ」。
ぶっきらぼうなみつおの声。
ミツオはみつおに荷担し、女を埋めに行くことにする。
共犯者として危ない橋を渡るスリル。
絶妙なバランスで綱渡りをする道化のように、屋根から屋根へと飛び移る盗っ人のように2人は危険な裏社会へ首を突っ込んでいき、片道列車は加速する。
みつおは組の下っ端の売人になり、ミツオは一般企業のシステムエンジニアでありながらどんどんと影をまとっていく。
巻き込みたくないのに頼ってしまい、魂の片割れはどこまでも後ろを付いてくる。
戻れない道だからお前は来るな、ミツオ。
いやだ、みつおくんが行くなら僕も一緒だ。
相手への思いでがんじがらめになった魂たちはどこへ辿り着くのか。
読み始めたら止まらなくて、2人のイチカワミツオがどんなところに辿り着くのか気になって気になって、1回目はバカみたいにドドドッと読んでしまった。
ページをめくるごとに新しい感覚が芽生え、頭が痛くなるくらいに愛おしかった…。
印象深かったシーンはたくさんあるけども、あえて詳しくは述べずにおこうと思います。
自分で読んで感動するのが1番。
お楽しみを奪うのは勿体ないと思うので―――というのがタテマエで(笑)
ホントは、明日美子作品を絵で見てもらいたいから。
BLは心の変化に中心を置くラブストーリーなので、ここの心情がグッとくるのよ!と語れるハズ。
しかし、実は作中、話はミツオ主体で進むもののミツオのモノローグはほとんどない。
彼は表情と行動で語るので、だから正直なところ、ワタシが文字だけで説明できるシーンなんてないのです。
気になった人は見てくださいな。
みつおの寝顔なんて女よりもまつ毛バッサーで色気垂れ流しだから!(笑)
本書既読の方には、ワタシの印象に1番残ったシーンの感想。
ワタシ的には桃を食べるという演出がなんともいえずゾクゾクしました。
桃をじゅるっと啜ったり、手がべとべとに甘くなるのがいやらしい感じでね。
見てはいけないものを見ているという背徳的な香りがするところも印象的。
2人の関係がすでに引き返せないくらいに深く、歪んでいることを象徴するシーンかなーと位置づけています。
この後に続くシーンも、痛みとして絆を強める名シーンだと思うし…。
すいません、おネガな部分が好きなんです(苦笑)
また、2人の名前が印象的な本作。
ワタシは唯名論者ではないけれど、名前がその人間の一部を表すというのは一利あると思った。
作者のあとがきでも『だいくとおにろく』という絵本を例にあげ、『名前が同じであるということは…つまり同じ人間であるということが言えるんではなかろうか』と述べている。
簡単に言うと『ちょっと似た名前に出会うとなんとはなしに親近感を覚えてしま』う感覚の話だそうで。
もしかしたらワタシの近くにも同じ名前(本質)を持った人がいるのかも、とヒヤリとする。
そういった不気味さ、ミステリアスさも本作の魅力の一つでしょう。
スリリングな展開に息を呑むこと間違いなし!
エロス(生)とタナトス(死)、希望と絶望、離別と融合。
相い反する事柄がぶつかりあって何を生むのか。
是非本書を読んでこのサスペンスを感じてみてほしい。
………と、カッコよく締めてみようかと思いましたが、全然カッコいい話じゃないですよ。
殺人未遂にドラッグにヤーさんから足洗い失敗して殺人者になって高飛びするし。
キレイじゃない歪んだ美しさ。
不純。
だけれど、美しい。
そしてその不純な美しさこそが、明日美子先生の最大の魅力だとワタシは思うのです。