【コミック部門】 8位
デビューコミックス「エンドルフィン・マシーン」から1年と少し。
井上佐藤の2冊目のコミックス「子連れオオカミ」が発売されたのは、ちょうど昨年のこと。
個人的に待ちに待ったコミックスだったため、感激もひとしお!といったところで、実は当時、早売りを期待して前日に書店へ出向いたくらいだった。(もちろんなかったんだけども)。
前置きはさておき。
表題作はお互いバツイチで子連れ同士という2人を描いた「子育てBL」とでも言うべきお話。
子供という存在が単なる物語のアクセサリーになっていない所がリアルであり、それでいて重い。
女性一人で子供を育て働くのも大変だけども、出世も世間体もあったもんじゃない男性だって、それは変わらないんじゃないだろうかと思わされるシーンも沢山あり、気づけば2人の恋愛模様よりも彼らの子育てに注目してしまっていた。
さてこの男どもが「子連れオオカミ」になってしまった経緯と言うのは、意外と切ない。
合理的で卒なく何でもこなせそうな男・田所は、同じように合理的な妻に「恋に堕ちたの」とアッサリ捨てられしまい、また生来の甘えたがり男・宮本は、家族と過ごす時間を我慢し残業も厭わず働き続けていたら、同じように甘えたがりだった妻が育児ノイローゼになってしまい、気づけば妻の姿はなかった・・・というなんとも痛い結末。
そんな2人が出会い惹かれあうお話なのだが、他の子連れ作品と雰囲気が違うなと感じたのは、彼らの人生においての中心が、自分たちの色恋事でなく子供であったという部分。
本当は親としてそんな事は当然なんだけども、BL界では結構珍しいかもなあなんて思った。
だから子供たちが絶対に蔑ろにされない。
互いに抱きしめあおうが、キスしようが、それこそ本番をおっぱじめようが、その傍らには必ず息子たちが眠っている。
それが情操教育に良いのか悪いのかは別として(笑)、親たちがいくら問題を抱えようがストレスをためようが、子供たちは常に健やかだ。
その様子がコマの端々から溢れ出ていて、読めば読むほど私は温かい気持ちになってしまうのだった。
中身はどエロなのに・・・なのに、すごくほんわかしてしまう。
なんて不思議な感覚。
ただその分、田所の前妻の人でなしっぷりは際立っていたと言える。
離婚の際に元夫の田所に対して笑ってサヨナラするのは構わないが、自分の息子(旭)に対して「旭は君の種なんで 何とか二人で生きてって」という言葉には頭を抱えたくなった。
また田所が宮本とデキてしまった事に対して「別れただんなが今来たら ホモになってたの~」のバカ笑いも、それ一体どうなんだ。
子供の存在がお飾りでないだけに、親としての立場や発言もノリでは済まされないものを感じたので、前妻の発言だけはこの物語の唯一のマイナス点となったが、個人的評価ではそれ以外はほぼ満点に近い作品だった。
物語の最後に、とても印象的な台詞がある。
宮本の息子に対して田所が「同じお墓に入るんだよ」と、少し間を置いて答えるシーンなのだが、これは続編を読む限りでは、概ね実現しそうな雰囲気だ。
「麗人Bravo! 2009年春号」に掲載された『オオカミの血族 最後の楽園』(コミックス未収録)が、本作の最終話になるのだが、舞台は本編から約20年以上経った頃。
すっかり気難しい大人になってしまったバツイチ子連れの旭(あっくん)と、チッチの弟・のんが主役だ。
ワールドワイドな自由人のんに、愛想の欠片もなくなったリーマンのあっくん、そして普通に女性と結婚してしまったチッチ。
どれを取ってもその成長っぷりというか、その展開には驚愕だ。
将来はチッチとあっくんがカップルになれば・・・なんて簡単な読みだった私は、そうか!そこでのんかー!と膝を叩いた次第で・・・(笑)
父親たちを全否定しながら、チッチへの想いをガチガチに閉じ込めたまま大人になってしまった旭。
だが彼に残されたものは母親のいない子供だけだった。
これじゃあ結局は同じ道。
それを認めまいと駄々っ子のようにのんに抵抗するあっくんだったが、あの手この手を駆使したのん(のエロテク)に結局は陥落してしまうわけで。
ここは見所!
エロいから。
激エロだから!!
・・・・・・いやいや。
ただエロいだけではなく、ちゃんとあっくんが精神的に安心できる術も知っているのんってのはすごいと思った。
それはのんがあっくんの事だけを見つめ続けてきた証拠。
かくしてオオカミの血は脈々と息子たちに遺伝してゆく。
旭の息子もそれを受け継ぐのかな、どうなのかな。
そうやってああでもないこうでもないとやり合いながら、田所が言ったようにみんな同じお墓に入っていくのかと思うと、私は何とも言えない気持ちになった。
家族ってただそこにあるだけじゃない、つくっていくものなんだなと。
そして本を閉じてもオオカミたちの泣き笑いを、まだまだ見ていたい気分になる。
ぜひ多くの方たちとこの気持ちを共有したい、そんな思いで私はいっぱいになった。