「東京心中」は同人誌でスタートし電子書籍化され大人気となり、2013年に茜新社からコミックで上下巻の2冊同時発売された異色のキャリアをもつ、現在はOPERAにて絶賛連載中のトウテムポール先生による人気シリーズです。コミック発売後は、さらに読者の支持を得て “このBLがやばい!2014年度版”で見事1位に選ばれています。
仕事も恋もほどほどに器用にこなしてきた宮坂絢は、軽い気持ちで応募したテレビ番組制作会社のADとして働きだすものの、夜も昼もなく仕事に忙殺される毎日に、この仕事でいいのか悶々と考えるようになります。いままで何の仕事をやってもしっくりこなかった宮坂。また仕事選びに失敗したのかなと悩んでいたところ、上司の矢野(美人)に声を掛けられます。お互い好きだという映画「青い春」の話をし、いつもは傍若無人で無愛想な矢野の笑顔をみて、その存在を意識しはじめる宮坂。大変だけど、この人と一緒に仕事をしたい!と、なんとなく過ごしてきた今までの人生を振り返り、はじめて目的らしいものをもつことができた現在の状況や矢野との出会いに運命を感じるのでした。
誰もが一度は考えたことがあるであろう“なんでお仕事するんだろう?”ということに、ユーモアとラブを交えヒントを教えてくれる“おしごとBL”の決定版といえます。そもそもゲイではない二人が、お互いへのリスペクトから惹かれあう自然な展開や、彼らの周りの人間模様、特に働く女性の描写は秀逸で、思わず共感してしまいます。リアリティたっぷりのテレビ番組制作の裏側についての描写も興味深く、さらにときどき登場人物によって説明される映像制作講座もわかりやすくて面白いです。
地方出身の若者・宮坂が、東京で仕事や恋愛を通して成長していく“生活日誌的”な作品ですので、日常ドラマが好きな人には特におすすめです。乙女気質で料理上手な大型ワンコ・宮坂が試行錯誤する様は、ついつい応援したくなります。作風が独特なので第一印象で趣味じゃないと思われる方もいるかもしれませんが、読まずにいるのは勿体ないですよ!
番組制作会社の求人に気軽な気持ちで応募した宮坂でしたが、入社初日からいきなり現場でハードな仕事をやらされ何がなんだかわからないまま忙殺される毎日を送るようになります。なんでこの仕事をしているんだろう、と悩み始める宮坂だったのですが、上司の矢野(美人)が徐々に認めてくれるようになると、やりたいことがやっと見つかった!と仕事に打ち込むようになり、自分を顧みずに仕事に打ち込む宮坂に彼女(いずみ)は不満を覚えるのでしたが…。一見チャラい?見た目ですが実は結構まじめで純朴な若者・宮坂と、第一印象は女性?と見間違えるほど美人だけど性格はちょっと粗暴で極端な上司の矢野の出会い編です。ラブストーリーメインというより、お仕事を通して発展していく恋愛感情という描かれ方が新鮮でした。登場人物それぞれの、ありそうでそうでもない(笑)突き抜け感が魅力です。
宮坂からの告白に“関係を定義したくない”という矢野でしたが、なんとなく一応お付き合いしている態の二人。とはいえ、ドラマの監督が決まり、いつも以上に仕事が一番モードの矢野に対して、恋愛感情を自覚してしまった宮坂は欲望を抑えるのに悶々とする日々なのでした。何事もダイレクトな矢野とロマンチストな宮坂がちぐはぐな感じのまま、関係を進めていく様子に思わず笑ってしまいます。果たして二人は無事合体できるのでしょうか…?!
矢野さんとセックスしたい、と真面目に悩む宮坂がおかしくて可愛いターンです。一方、無自覚美人の矢野の既成概念を超える対応はなにもかもが新鮮!“矢野さんが好きなんです”と一本調子な宮坂に、“それを言えばすべてが解決すると思うなよ”と返す矢野の言葉にはハッとさせられます。(でも、ちゃんとラブストーリーなのです!)
矢野の記念すべき第一回監督作品となったドラマの撮影も無事終了し、念願の合体(!)も果たして、恋も仕事も充実とウキウキな宮坂でしたが、うっかり会社で矢野に抱きついているところ(甘えているところ)を同僚のユカに目撃されてしまうのでした。“付き合ってるの?”というユカに、“そうだ”と平然と答える矢野、認めてもらえた!と感激する宮坂。ところが、そんな周囲も公認の二人の前に矢野の幼馴染という女性が現れ、不安になる宮坂なのですが…!?
突然のカミングアウトに、全く動じない周囲の同僚の態度が素敵です。相思相愛となった二人が、嫉妬したり喧嘩したり、そして同棲したりする楽しさが伝わってきます。“宮坂と一緒にいると映画も仕事ももっと好きになる気がする”という矢野の告白には、宮坂じゃないけどじーーーんとくるものがあります。
矢野との同棲生活が始まり、仕事でも後輩ができますます多忙な宮坂ですが、別班の制作スタッフに抜擢され矢野とは違う現場に通うようになるのでした。しばらくぶりにロケから矢野の待つ自宅に戻ると、別れた元カノ、いずみが現れ、ヨリを戻したいというのですが…。付き合っていたころとは全く違う雰囲気になった宮坂に諭されるいずみのモノローグには、共感する人が多いのではないでしょうか。さらに、仕事ではアメリカ帰りの生意気な後輩・橘がぐいぐい矢野に迫る様子に、心穏やかではいられない宮坂なのでした。女装の俳優や巨乳の後輩etc.、個性的な登場人物が増えて賑やかになり、ますます物語の密度が濃くなります。なにかにつけてイチャコラしたがる宮坂に対して、揺るがないつれなさの矢野なのですが、それでも相手を大切に思っているということが丁寧に描かれています。
大手制作会社(ファニー)への出向から戻ってきた宮坂は、矢野と一緒に仕事ができること、一緒にいられることに幸せを噛み締める日々。ところが、そんななかファニーとビープラネット(矢野や宮坂が所属している会社)が合併することになり、矢野が映像部門への異動のため大阪にいくことになってしまうのでした。“いかないでほしい”と悩み、落ち込む宮坂なのですが…。番外編では、カメラを矢野からプレゼントされた宮坂が暴走します。テレビマンとして本格的なキャリアを着実に進む宮坂の恋は、ここからちょっと波乱の予感を含みつつ、久々の休日に二人で近所を散歩しキャッチボールするほんわかエピソードも収録されている盛りだくさんの巻です。さらに後半、矢野の不在のときだけに登場するモテオーラ全開の新キャラ・アンニュイ宮坂にも注目!
愛する矢野が大阪に転勤だと思ってアンニュイになっていた宮坂でしたが、実はロケで全国を飛び回っていたため帰れなかっただけらしいと知り安堵するのでした。また一緒にご飯が食べられるのが嬉しくて仕方がない宮坂、“幸せ”のかたちって色々だなぁとほのぼのするターンです。見解の不一致はあるものの、そこそこエッチもさせてもらえるようになって充実の毎日だったのですが、仕事では部門の人手不足から、ついに宮坂も番組のディレクションを任されることになりました。しかも、後輩の橘と交互に担当することになり、いよいよ宮坂vs橘対決の様相を呈するのですが…!テレビ番組ってこうやって作られているのか~というのが、かなり本格的に描写されていて興味深いです。また、編集作業に悩む宮坂に対して、ユカちゃんの名言“面白いものなんて 世の中にないのよ”には目からウロコでした!
宮坂vs橘対決の深夜ドラマ対決のテーマは“ホラー”に決定、矢野が橘チームに参加することになり、いよいよ宮坂の苦悩もMAXに。初めての脚本作業がはかどらない上に、矢野が宮坂の誕生日を忘れていたことも発覚し悶々とする日々。ついに“監督したくない”と言い出す宮坂に、しびれを切らした詩さん(宮坂の上司で矢野の幼馴染)は矢野に宮坂のモチベーションをあげるように詰め寄ります。そこで矢野が思いついたのが…!
今さらながら、仕事も私生活も矢野中心な宮坂の態度に、周囲の女性陣がイラっとする気持ちにシンパシーを感じてしまいます。BL作品ですが、女性キャラクターの描写が秀逸で、ユカが彼氏自慢する同僚にキレる“あたしの幸せを決めるんじゃねー”は名場面と言ってもいいと思います。
ロケハンのため山奥の廃村を歩き回り、宮坂から矢野へ一世一代の告白を経て、ますます絆を強くした2人ですが、ドラマの制作はいよいよ佳境に突入し、宮坂の修行は続きます。イヤミな後輩・橘が矢野と一緒にいることへの嫉妬のあまり、アンニュイに続く新キャラ・ブラック宮坂が登場してしまうのでした。橘へのライバル心と矢野に振り回された感情を糧に(笑)ついにドラマは完成、無事オンエアされるのですが、そのドラマを見た矢野の反応は…!?
宮坂のテレビマンとしての成長が感じ取れるターンです。さらに、私生活ではラブラブ全開のはずが、まさかのマリッジブルー(?)、“結婚ってなに?””家族と夫婦って違うの?“、ブレない矢野哲学にいつも勝てない宮坂なのでした。番外編として二人のルーツを垣間見る思春期のエピソードも収録されています。
大手のテレビ局へ出向することになった宮坂。しばらく矢野さんと会えない日々が続きます。出向先で一緒に仕事をするのは、他の制作会社から出向してきた使えない新人達とホームレスで番組制作を渡り歩く女性(平内さん)。所属している制作会社“ファニー”とは全く違う、人も環境も荒んだ現場に戸惑いながら、一緒に出向してきたユカとなんとか業務をこなしていく宮坂でしたが、傲慢で一方的なスタッフの対応や仕事のやり方に疑問をおぼえ、徐々に肉体も精神も追い詰められていくのでした。臨場感ある人物描写が秀逸な8巻、でもラブはちょっと小休止。宮坂が直面する状況のシリアスさに、改めて“お仕事”について考えさせられます。とはいえ、そういう状況だからこそ矢野さんとの日常の大切さ、仲間と一緒に働いた楽しい日々を思うものです。カバー下は三者三様な休日の過ごし方、描き下ろしは宮坂不在の日々、“ふぞろいの矢野たち”。