ハーリドとの再会から始まる下巻。
逞しく成長したハーリドであってもイリヤにとってはずっとかわいい存在であるという2人の関係性が素敵です!
ハーリドとの接触を契機に再び訪れるイリヤのヒートには、かつて魂だけは誰のものにもならないと決意していたイリヤが、とうに魂の領域をハーリドだけには明け渡しているんだなぁという事を感じてきゅんとします。(名実ともに番うまでは大分ハーリドに焦らされますが…)
対ザインでとくに切れ味鋭いイリヤの皮肉が、上巻から非常にツボでした。最期に誰も味方がいないのは身から出た錆すぎるのですが、指導者としてのハーリドやイリヤとの間の残酷なまでの対比にいっそザインが哀れにもなってくる。本人も資質の違いを本当は分かっているからこそ、やたらと出自やバース性を盾にハーリドとイリヤに突っかかっていたのでしょうか。
刀が振り下ろされる瞬間でさえ泰然としているイリヤに、ザインとの格の違いとハーリドへの絶対的信頼が感じられて、大好きな場面の一つです。
そして何と言ってもエンディング。
今まで没入していた物語からぐっと引き離されるあの感覚がなんとも寂しくはあるのですが、光射す情景や表情が本当に美しい。2人は終生仲睦まじく過ごしたのだな…2人の穏やかな日常も見たかった…それにしてもタイトル回収が鮮やかすぎる…と様々な気持ちが湧き上がって胸中忙しかったです。
上巻はイリヤとハーリド(幼少期)の出会い〜相愛〜別離編。
本来警戒心の強そうなイリヤが、ハーリドをついつい懐に入れてその一生懸命さに絆されていく過程に、8歳という二人の年の差が絶妙に効いてます。イリヤ曰く「青臭い子ども」のハーリドだからこそ成し得た急接近というか。
Ω蔑視の強い祖国を持ったイリヤにとって、Ωを神聖視するハヌへと嫁いだことは大きな転機ではあったけれど、頑なだったイリヤの心を何よりも溶かしたのは、ハーリドがΩという属性を取っ払ったイリヤ自身を見てくれた事。
一方で、幼いうちから王位に付くことになった(そしてしっかりその風格がある)ハーリドにとっても、イリヤは自分を崇拝の対象とせずに同じ時間を過ごしてくれる唯一の人だったろうなと。出会って早々迷子と間違われて手を引かれている面持ちが、すでに満更ではない感じで可愛らしい。
お互いがかけがえのない存在である2人の関係性が尊くもあり微笑ましくもあり。ずっと見ていたくなりますが、そうは問屋が卸さないわけで…。
ともに在る約束をした2人に間もなく訪れた別離には、こ、ここでか〜!(ToT)となります。けれどハーリドが遺した(便宜上こう書きます)宝剣とタルジュがイリヤの窮地を救い、ハーリドの遺志(便宜上こう書きます)が自棄になりかけたイリヤを王后として立ち上がらせる展開に胸が熱くなりました。
どんな時も主に寄り添い、さりげないアシストを決めてくれる侍女のスゥヤも素敵です。
どのキャラクターをとっても、イリヤが、ハーリドが、スゥヤが、…そこにいる!という感動を覚えます。
イリヤの優しさや高貴さを感じさせる場面はもちろん、大きくは取り乱さないイリヤの声に僅かに滲み出る悲嘆、動揺、哀しみに入り交じる愛しさの表現が絶妙ですごい…!鳥肌たちました。
また、猫を被ったイリヤ、ザインに対して冴え渡る皮肉の数々、飾り気のない爆笑シーンも必聴です!
そしてハーリド!幼少期の聡明さと威厳を感じさせる婚礼の場面と、イリヤの前での年齢相応の一生懸命な様子のギャップが良い!少年王の健気さに胸を打たれました。
そして成長後は男気&色気増し増しです。チェン(初見)やザインに対する険を含んだ声もまた良い。
ぜひ雪花の章も!制作お願いします!
父との繋がりを否定する言葉をあえて口にすることで、僅かに残る期待を振り切ろうとするイリヤの本心を拾い上げ、優しく丁寧に背中を押してくれるハーリドが頼もしすぎる。これで19歳だってよ…!
ソーンや城内の人々の冷淡な態度には眉一つ動かさないイリヤが、父王の一見冷ややかな言葉には一瞬傷ついた顔を浮かべるところは、父王の本心を予想はしつつも胸がキュッとなりました。
兄ソーンが色々と画策はしますが、イリヤがハーリドを信頼して泰然としていたのと同様、読者としてもその点はハラハラせずに見守ることができました。
なかなか本心をさらけ出せなかった似たもの同士の親子が、ハーリドの橋渡しで無事心を通わせることができて良かった。捨てきれなかったイリヤの期待が報われて、また父王の後悔が後悔のまま終らずに本当に良かった。
それにしても、自分のためではなく誰かのために立ち上がる時のイリヤの気高くて美しいこと…!
そして、後日譚!!
かわいいおこちゃまたちと父王のデレにほっこりさせていただきました。
明かされる事件の動機。
主犯から突きつけられた言葉に慶臣が見せる表情に胸が痛みます。前作に続き、人としての一線を越えてしまった主犯の確信犯的な描写が上手くて一種のホラー…
ここぞと言うときの橘兄弟の阿吽の呼吸も健在です。
三輪が抱えざるを得ない悔恨と罪悪感をどう着地させるかが今作の大きなテーマだったように思いますが、そこがとても良かった!決まりすぎていないところも慎仁らしくて微笑ましい。
また、終盤にかけて慶臣が紀人に見せる言動に、紀人から注がれた愛情が見事に花開いたような印象を覚えました。今回しばしば翳りを見せていた紀人の晴れやかなお顔が見られて良かったです。
描き下ろしや特典でも、慶臣が年齢相応の色々な表情を見せてくれて精神的な回復を感じました。
慶臣、慎仁と三輪、紀人がそれぞれに見せた覚悟に胸がいっぱいになった完結編。
身勝手な大人たちに宗像兄弟が背負わされたものの大きさを思うと複雑ですが、4人のこれからの日々に幸多からんことを祈ります。
不穏な夢に始まり、世界観が凝縮された扉絵、一見穏やかに見える二人の日常に自然に紛れ込むニュース記事…と冒頭からぐっと作品世界へ引き込まれました。
慶臣の見る夢はいわば予知とテレパス…嫌でも卜部の血脈を感じさせられます。
今回慶臣と慎仁がかなり打ち解けていて微笑ましい。(この二人のバディが見られるとは…!)
病室で「おはよ〜」「またね〜」という慎仁の例示の直後に「久しぶり〜」という紀人の実演があって、兄弟だなぁとにこにこしてしまいました。
仲良さげな慶臣と慎仁の会話が気になってしまったり、基本的に他人に期待しなそうな紀人が、慶臣には求められたい自分を信じてほしいと思っているところにきゅんとします。
前作で自分の手の及ばないところで慶臣に傷を負わせてしまった紀人は慶臣を1ミリも危険に近づけたくないし、慶臣は慶臣で蚊帳の外ではいられない。
焦る慶臣と捜査のために連絡の取れない紀人はすれ違い気味ですが、慶臣の視線とか紀人の表情の揺れにお互いへの気持ちをしっかりと感じます。
早く三輪を取り戻して、落ち着いてラブラブして欲しい。
上巻で役者は出揃い、事件が動くぞ…!という良いところで下巻に続きます。
2人の思いが溢れて結ばれる場面がもう本当に美しい。
モノローグは慶臣のだけれど、きっと紀人にとっても初めて遭遇する巨大感情だったことでしょう。
いつも余裕綽々な男の余裕無い顔最高でした。
一転、一時しんどい展開となりますが、絶望と諦めに呑まれそうになった時に紀人のことを思い出して生きる意思を見せる慶臣か尊かったです。
結局、呪いとは何だったのか、義臣に課された役割に意味はあったのか、三輪が一命を取り留めたのはどうしてか、等々明らかには提示されないのですが、色々と考察する余地が残されているのがむしろ好きです。
誰かと感想戦したいくらい。
紀人のストレートな告白も、描き下ろしの激重なモノローグもごちそう様です。
基本的に素直に感情表現しない2人のモノローグが読めるなんて、よくよく考えると美味しいポジションすぎますね。