元々表紙の美しさに惹かれて気になっていたのですが、上巻帯の「好いているだなんて口にはできず、ただひっそりと愛を注ぐことしかできないのです。」という言葉にとてつもなく惹かれ、購入しました。
上巻では主に義父に体を売る養子の伊月、伊月に使える付き人の芳野、伊月の義父で主人の環が、下巻ではそこに環の因縁の相手である結城を加えた4人の心情が複雑に絡み合います。
個人的に4人の中で一番感情移入してしまったのが芳野でした。
元々伊月と同じように旦那さまに拾ってもらった身なので、昔の醜かった自分を見ているようで伊月にきつく当たることもありました(言ってしまえば同族嫌悪)。
そんな芳野でしたが、伊月がこんな自分にも感謝をし、信頼してくれているという嬉しさや、自分の力で事を動かそうとする強かさに惹かれていきます。
しかし、伊月は旦那さまに体を売っています。
伊月が旦那さまに酷いことをされてボロボロになった姿を見たり、見知らぬ男に壊される姿を見たりした時の芳野の表情が…
本当は伊月が自分以外の誰かに抱かれているところを見たくない、と思う芳野ですが、当然そんなことを口に出せない。でも伊月を守りたい。ともがく芳野の姿は鳥肌ものでした。
また、この漫画はモノローグよりも表情でキャラクターの感情を語ります。
大好きな人にこんな姿を見せたくない、でも自分にこれ以外出来ることはない、と自分を嫌う伊月、
大好きな人の前では泣きそうな顔、怒った顔、笑顔…と様々な顔を見せるのに、その大好きな人を傷つける人には冷酷な顔しか見せない芳野、
大好きな人が自分から離れていくのが怖くて酷いことをしてしまうけど、本当は大好きな人の幸せを心から願っている環、
大好きな人を想うあまりどんどん「酷いやつ」になっていく結城。
それぞれの想いが交錯する、圧巻のストーリーでした。
肉体的にも精神的にも痛々しいシーンが多い作品ですが、それすらも美しい。
タイトルに「踊る」とあり、上巻下巻それぞれダンスしているそれぞれのカップルが表紙になっていますが、作中でもダンスシーンが何度かあります。
一回目は、伊月が月明かりの中芳野を想って一人でワルツを踊るシーン。
二回目は、想いを通じ合わせた伊月と芳野がパーティーで幸せそうに踊るシーン。
三回目は、足が不自由な環を「足を踏んでも構わないから」と結城が誘って踊るシーン。
このダンスシーンもそれぞれの気持ちが伝わってきて、とても美しい大好きなシーンです。
最初から最後まで作画もとても綺麗でしたし、個人的には文句のつけどころがない。
間違いなく人生で出会った中で「一番」の作品です。
theメリバという感じで、面白かったです。
二人が最終的に幸せになれる結末で良かった、と感じます。メリバ好きな方はハマると思う。
メリバ苦手な方以外はいけると思う!おすすめ!と言いたいところですが、一つだけ注意点。
ネタバレになってしまうので多くは話せませんが、本当にショッキングな描写が最後の方にあって私は若干トラウマ気味になってしまいました。
グロシーンではないのですが、なんというか、「現実ではこういう性犯罪もあるのかもな」みたいな…
すごくキャラクターにも愛着が湧いていたので、正直結末よりもその描写の方がかなりショックでした。
勿論、その描写があったからこそ、最後の"本人たちにとってのハッピーエンド"がより際立つんだと思いますし、私はそこも含めて神作品だと思います。
なので、そこだけ注意かなーと思います。
ごちゃごちゃ書きましたが、私はこの作品が大好きです。
久しぶりに読んでみたら新たな発見があったのでレビューします。
本当に、読む人の数だけ解釈がある作品だと思いました。
ハッピーエンドかバッドエンドどちらなのか、など。
個人的にはハッピーエンドだと思っていますが、別の角度から見るとバッドエンド。そうやって自分の中でも角度を変えて読んでみるのも面白いです。
小児性愛を肯定とも否定とも捉えられる描き方をされていて、そこもまた良い。
何度読んでも、主人公のゆいが本当に魔性だな…と思います。
帯に書いてある「愛を証明して?」という言葉が、本編を読んでからだとさらに深みが増して、心を抉ってきます。
きっとこの作品は、誰が悪いとか被害者とか、そういうことじゃないんだろうなーと思います。
番外編の「ゆい」が、読むたびになんだか泣けてきて本当に大好きです。
読み終わってから表紙を見ると、ああ、ここはこういう意味なのか、と考えさせられます。
読めば読むほど深くなる、神of神作品だと思います。
乱文失礼しました。