碗先生の描かれる、「変わった人×普通の人」の物語に、はまっています。
この漫画も、ストーカー浅田の変態ぶりだけでもかなり面白いのに、それに対する山内くんの、冷静な返しとの落差がまた、心地よい意外さで、ベテラン漫才師コンビの掛け合いのように、楽しめます。
さらに、それだけではないのが、この漫画の魅力です。
軽快なテンポで読み進めていると、なぜ山内くんのような常識的な人が、浅田を受け入れているのかが、山内くんの故郷の事情と絡めて描かれはじめ、彼らにギャグマンガの面白キャラというだけに止まらない、奥行きを感じられるようになります。
後半、舞台が都会から、閉鎖的な田舎に変わり、焦点が山内くんの兄とその幼馴染に移ると、物語はぐっと湿り気を帯びて、エロもより、淫靡に感じられてきます。
一冊の漫画が、最初から最後までひとつの物語でありながら、こうも読み味を変えて読者にみせてくる、さすが、碗先生が長年かけて生み出された作品だと感動しました。
ギャグも新鮮でとても面白く、それだけでも満足ですが、最後にはときめく話もあって、失礼にも「この作風でこれはずるいよ」と叫びたくなりました。
その胸キュン話『タダでは転びたくもねぇ』は、冒頭の2話『合法レイプ』『見返り美男?』の福澤×樋口の出会い編です。
当初は冒頭2話に続けて掲載される予定だったのを、先生が希望して、最後に持ってこられたとあとがきにあり、先生が樋口に負けない策士であることがうかがえます。
冒頭2話に続く『ふわふわかれし』『ホーミングわんこ』も毎度ばかばかしくて、キャラのゲス顔は本当にゲスで、BLに甘い陶酔を求める向きには、お呼びではないかな、と思わせておいた後の、ちょっと良い話、本当に効果的です。
ふざけたカップルだと思っていた二人、このお話を読んで、どうして樋口は福澤みたいなアホと、福澤は樋口みたいなゲスと付き合ってるのかが、「すとん」と胸に落ちてきました。
(ここから先、ものすごいネタバレです)
樋口に騙されていたとわかった時、怒るのではなく、樋口が悲惨な境遇ではなかったことを「良かった」と喜ぶ福澤には、私も感動しました。
「他人を納得させる根拠がないと恋愛じゃねーのか?」「んなもんクソ食らえだ」とゲス顔で言う樋口も格好良くて、惚れてまいそうです。
購入前、ピクシブでサンプルを拝見し、キャラのあまりのゲス顔に腰が引けましたが、評判の良さを信じて買ってみて、本当によかったと今は思っています。
「笑い」と「感動」が両方味わえる、それならミヤ先生の漫画を、もっと読みたくてたまりません。
「明るさ」と「エロさ」が殺しあうことなく両立する、こんなに見事な漫画が読めるなんて、良い世の中に生まれたものだと感謝しています。
私が普段「エロい」と感じるのは、どちらかというとシリアスで、湿り気のある物語です。
ほの暗さの中では、エロはより、引き立つとも考えています。
この漫画は、そんな私の常識を、あっさりとひっくり返してくれます。
軽やかな話の中に織り込まれたエロ場面の一コマ一コマが、後ろめたさとは無縁の開放感いっぱいに描かれていながら、これ以上ないくらい、エッチなのです。
修正が薄めの局部の美しさも、受のタマタマなどは、まるでぷりぷりのサクランボのようで、現実にはあり得ない、これは高崎ぼすこ先生がくださった「夢」なのだ、「BLはファンタジー」ってこういうことなのだと感動しました。
私は、この漫画を読み返すたび、全身に力が漲ります。
明るい気持ちになって、いつもより笑顔になれます。
心に余裕ができ、寛大な気持ちでいられます。
高崎先生、出版社の方々、こんなに素晴らしい漫画を世に出してくださり、本当にありがとうございます。
ムシシリーズの続編が読めるというだけで、本を開く前から幸福度最高潮だったうえ、しょっぱなから子持ちだわ、シリーズ中で一番好きな『愛の巣』夫妻が登場するわで読み始めて早々に昇天しました。
嬉しさに悶絶しながら読み終えましたが、贅沢を言います。
これでは読み足りません。
ムシ攻の真骨頂、惚れた(と自覚した)とたんに、それまでの傲慢さや自信家ぶりはどこへやら、ひたすら受の愛情を求めてヘタレまくる、一番おいしいところが、ほとんど描かれていないではないですか。
今回の攻、シモンは、本シリーズの攻の中でも、とりわけ当初は人間味がなく受に無関心で冷たくて、さぞやヘタレた時のギャップが大きかろう、とわくわくしながら読み進めていたのに!!
『愛の巣』夫妻の子、翔の描写も幼いころのものだけでなく、大きくなってからの様子も、もっと欲しかったなあ。
(あとがきでの先生のコメント、「葵が初恋だったろう」には「そこもっと詳しく!」とつっこみたくなりました)
樋口先生には、この続きを書かれるご用意があるそうなので、必ずや近いうちに、私の欲求不満を満たしていただけるものと信じております。
『ROUGE』の続編目当てに買いました。
前号掲載作と同様、長門と藍の関係が本編の後、より深まってゆく様子が、しっとり、かつ軽快に描かれています。
桂先生は、「続編でやるべき宿題が」「3つあった」とツイッターでおっしゃっていて、そのうちの1つが今回の「セックスが下手な藍」だそうです。
(前号では、そのうち「3年になった藍と長門の友達との関係」を描かれたとのこと)
「格差」という今号のテーマに、「俺は下手だけど長門は上手だ」と思っている藍の話がマッチしています。
藍に「上手」と言われて、まずは素直にガッツポーズする長門。
ここは、本編一話目で、藍を女の子だと勘違いして、「女に呼ばれたと思ってテンション上げ」てしまったエピソードと同じく、長門の単純な男の子らしい可愛さが表れています。
一方、藍が「上手く」しようとするのを制して、セックスは「どっちが上手いから良い」というものではなく、比べるものでもなく、二人で良くしてゆくものだ、と説く姿は、思慮深い、一人前の男のものでした。
そのあとの「藍、初めてのフェラ」「藍、初めての騎乗位」「長門がいくまで頑張ろう」(桂先生のつぶやきより)も、色っぽくて、事後に藍のおしりにつけられた歯形も可愛らしく、期待どおりの素晴らしい続編です。
「大真面目」な「2人の恋愛のセックス」を描かれた物語の最後のページに、本編『ROUGE』のラストや、同コミックス収録の『愛は出番を…』のシリーズのシメを思い起こさせる、小気味よいモノローグをのせるあたり、先生の業師ぶりにもしびれます。
34ページという短編の中で、長門というキャラの魅力を表現し、二人の関係を深化させる漫画の技に、のこる一つの先生の「宿題」だという、「藍の家庭の事情」をどんなお話に仕立てられるのか、期待がふくらみます。
多くのBL作品において、エロは大切な要素の一つだと思いますが、この『テンカウント』ほど、エロ場面がクライマックスの効果を発揮し、読者の拍手喝采をもって迎えられる作品を、私は知りません。
水は、渇いた者に与えられるとき、最もその価値を大きくするもの。
エロいことなんて関係なさそうな、綺麗で格好良いキャラクターが、シリアスな話の過程で少しずつ見せてくれるエロ場面を、私は、ここに至るまでの巻でも、慈雨のように受け取ってきました。
エロ小冊子目当てに、聴く趣味もないCDを買ったこともあります。
そんな私にとって、このたびの本番エロ場面は、まさに砂漠で巡りあうオアシスのごとくでした。
なぜ、こんなにも「エロい」と感じられるのか。心惹かれるのか。
受攻二人の関係が、潔癖症患者とその治療者という、緊張のなかにあること。
治療と称してえっちなことしてええんか、という(読者が感じる)禁忌の念、背徳感。
『テンカウント』を読むと、BLのエロは「萌え」に奉仕するためにこそ、あるんだと納得させられます。
エロが、作品の中で最大限に生かされている。
私がこの漫画を王道中の王道、と評する所以です。
「超新星」との紹介が、決して大げさではない、思いもよらない表現に興奮しました。
キャラクターの気持ちを表す、ちいさな生き物なんかが、どれも面白くて可愛くて(時に、少し不気味で)たまりません。
BL黎明期とは異なり、どんな風変わりな発想や特殊なお話も、それのみを理由に「NG」を出されることは無くなっただろう今、考えうる限りの多種多様な表現が世に出されているなかで、なお、こんなに新しい漫画に出会えたことに、感動しています。
受が、傍から見ればものすごく悲惨な境遇にあるのに、「アホ」なためにそのことに気づいておらず、それが、余計に哀れを誘う効果を発揮するのと同時に、読み手が物語を楽しめなくなるほど暗い気持ちになることを防いでいて、この「超新星」が、才能のひらめくまま、好き勝手に自分の世界を披露しているだけでは決してない、ということが分かります。
お陰で、昔ながらの物語の王道、「気立ての良い子が理不尽な目にあわされるも、救いの手を差し伸べる王子様が現れてめでたく幸せになる」話が大好物の私も、「かわいそう萌え」を大いに発動して、馴染んだ悦楽に浸ることができました。
この特集テーマで、こんなにしっとり甘いお話が読めるとは思いませんでした。
桂小町先生の『ROUGE 感情教育』、「女装」が中心の内容ではないのですが、それがきっかけで展開し、結末のちょっとした「オチ」にもかかわる話運びが、本特集にあっても違和感がなく、お上手だなあと感嘆しました。
女装ものの名作には、コミカルながらもせつない内容のお話が多いにも関わらず、どうしても、「キワモノ」という先入観を抱いてしまう私。
しかも、アンソロの短編とくれば、エロ重視の軽めの話ではないのか、そういう話も悪くないけれど、『ROUGE』の二人に私が求めるのはそこではないからなあ、と、当初は購入を迷ったものです。
先生のツイッターでの告知と、この副題から、どうも様子が違うようだと思い直し、読んでみて本当に良かった!
長門と出会ってから、それまで未分化だったとも言える藍の感情が、豊かに、複雑に育っていることが、短い中にも丁寧に描かれています。
藍に焦点が当てられているお話ですが、対照になる長門の健やかさ、大きさにも注目したくなります。
久しく無かった文化祭が、長門の提案で催されることになった、という物語冒頭でまず、「リーダーシップがある上に良い子だなあ」と感心しました。
長門の元カノに嫉妬したことを指摘され、「やきもち?」と問う藍に「だな」と微笑みかける長門の、包み込むような優しい表情には、私まで惚れそうになりました。
こんな男に大事にされている藍が、どんどん可愛くなってゆくのは当然で、説得力も十分です。
桂先生は、このアンソロへの寄稿に際し、全く新しいお話にすべきかとも迷われたそうですが、私は『ROUGE』で描かれて大正解だったと思います。
巻末の次号 『特集 格差BL』予告にも、先生のお名前がありました。
是非、またこの二人のお話を、お願いいたします!
田中の魅力に尽きる、と思います。
本編で脇役を務めている時から、面白さが光っていた彼が、番外編で主役に躍り出て、ぐいぐいと物語を展開させてゆく様に、夢中になりました。
名は体を表す、とのことわざのままに、平凡な容姿、ありふれた経歴で、どう転んでも「ハイスペック彼氏」、とはなり得ないように思われる田中。
メガネのために、その表情さえも読めないモブ顔で、本編初盤では、金や出世のためなら何でもする小物ぶりまで、披露してくれました。
ところがその田中が、徐々に本性をあらわにし、番外編では傲慢な王子マリクを、隠し持っていた性技と正論で屈服させるのですから、これが痛快でなくて何でしょうか。
さらに、彼が金を集めるのは単にそれが楽しいからに過ぎない、ということが明らかになり、その、なにものにも支配されない自由な心に、マリクも私も、すっかり魅了されてしまいます。
マリクが、惚れた男に言われるがまま、SM修行に励んでいるのを知っても、「適当なこと言っちゃったけど」「ほんとはSMとかあんま興味ねえんだよなぁ」「まぁ本人楽しそうだしいいんじゃね?」と、ひょうひょうと紫煙をくゆらす様は、紛うことなき一つの「ハイスペック彼氏様」の姿でした。