「美しい彼」の4巻、シリーズでは5冊目、最新巻です。
3巻からは5年経ちました。その間に著者の凪良先生が文芸でご活躍になったり、「美しい彼」の映像化が当たりに当たったり、色々ありましたので、4巻をずっと待っていたけどもう出ないかな、と弱気になっていたものでした。
今年の夏に発売が大々的に宣伝されて、そして実際に書店で本を手に取ってみてようやくじわじわ実感したような次第です。4巻の発行がとても嬉しくて、書店での大量な入荷数にも驚きました。
前置きが長くなりましたが、4巻はこれまでの4冊の延長線上にあるものの、登場人物が大きく飛躍した作品になっていました。
瑞々しい、の一言に尽きます。
簡単にいえば3巻は清居が役者として一皮むけた作品。努力して階段を上がっていた清居が大きな壁にぶつかり、考えてもっと努力して体当たりで壁をぶち破った内容でした。
4巻は平良が写真の世界で認められ、自己評価と他己評価の乖離に悩み消化できないまま歩いていたら上下左右が分からなくなって、自分自身と向き合い切って道をみつけるお話。
3巻と対になっていますが、作中の時間も経っているので4巻では登場人物が少しずつ変わって行っています。
作中の時間においても人は生きて悩んで学んで、絶望したり乗り越えたり停滞したり歓喜したり、少しもじっとしていない。現実世界と同じです。
特に、平良も清居も22歳と若いので、日々発見と喪失を重ね、不器用に愚直に歩んでいます。4巻はとくに、二人の成長を感じ、瑞々しさに打たれ、周囲のおとなの眼差しの温かさにうるっと来てしまいました。周囲のおとなも数年前、数十年前には同じような時を過ごしてきたのだと分かるからです。
描かれているステージは、芸能界だったり写真芸術の世界だったりと、クリエイティブで華やかなものですが、すべて人間と社会とが凝縮されて顕現されているなと思いました。
よい作品でした。シリーズ中、それぞれの巻ごとに描かれているテーマがありますが、4巻が一番好きかもしれないです。
プロローグでのっけから驚いたのは、清居が平良の世界を、理解はしなくても受け入れていること。待ったり、聞こうとしたりすることに、「あれ?」と思いました。
でも清居の性格は依然としてよく知る清居のままだったので、時間の経過と成長をまずここで感じたものでした。
最後まで読んでわかったのは、ここでもうこのような描き方をしていたことが全てだったのだということ。
あちらこちらで「美しい彼」特有の面白さ(蝋燭で円を作って内的宇宙に潜り込んだり)を交えながら、無垢で直情的な二人の若さを描いているのが良かったです。
巻末の「青は藍より」を読めたことも良かったです。
ブラックボックスは言い過ぎかも知れないけど、明かされてこなかった野口さんの経緯。平良を見つけた時の思いも良く分かりました。
自分を見ているような親近と才能への脅威を感じる一方で、いまの自分だから出来てしまう見守りや手助け、クリエーターとして挑みたい思い、すべてがこの短いお話に詰まっているなと、ますます野口さんという人を魅力的に感じました。
だから平良のことを「嫌い」と言ったことの内実も分かるというか。言葉の表面と、内包されているものは違うというか。
奇しくも平良が清居に「きらい」という言葉を発していて、そのときに、野口さんの発した「嫌い」という発言を思い出しました。こういう仕掛けも良かったです。
「特務刑事オメガパンチ」の続編。電子単話の合本版で全3巻の3巻目、完結編です。
面白かったです。これまでのあれこれを回収して、きちんと最後まで。
この長丁場の事件解決、しかも1巻で見せた異能オメガとハイアルファの対決(再)もしっかり描き、広げた風呂敷をきれいに折りたたんでのエンドマーク。素晴らしい。
犯人のその後は文字での説明はなかったけど、救急車で運ばれるコマがあったからきっと飲んだ薬は全部吐かせられて身体の回復を待ってその後事情聴取等するのでしょう。研究成果やあのとき集めていた人体については言及があったのでほんとに全て回収済みと思います。見事すぎる。
この事件を通して二人の絆は一層強くなり、頼りなさげではありつつ真っ白な嵯峨野が防護壁として君臨する以上は特務課は安泰でしょう。四門部長の捨て台詞が次への布石かなあと期待。シーズン3ないかなー。待っています。
3巻の巻末にはあとがきがあり、インスパイアされた海外ドラマのことや、二人の関係性のモデルについても言及されていたので、触れられそうなら見て見たいと思いました。
ここでも「一番描きたいのはベータかも」と書かれていましたが、本編通じてベータの三好が秀逸でした。
過去に巻き込まれた事件含めて苦難の道程を歩んできた高森が、心の底から安心できるのが三好の背中だと良く分かります。姫の大大ピンチを救う三好。かっこよすぎます。フェロモンを感じない特性がいい面悪い面どちらも描かれていて、結局キーになっているのがよいです。最強オメガに最強アルファに、でも誰よりもベータが強いんじゃない?と思わせる展開。絶賛。
「特務刑事オメガパンチ」の続編。電子単話の合本版で全3巻の2巻目。
1巻で三好が高森を助けたことへの報復人事か、人事異動で三好が証拠物件管理室という閑職に飛ばされ、代わりに捜査一課の岸が特務課に配属に。岸については三好を抑えられなかったことへの嫌がらせですかね。ハイアルファの四門部長の差し金。
2巻では、証拠物件管理室の室長でオメガでもある白木の過去~現在の謎行動と、嵯峨野部長&室生医師のSクラス番のあれこれ、加えて前巻から引き続いての猟奇的殺人事件の捜査が描かれています。
楽しいです。わくわくします。
ストーリー性があってキャラ設定の細かな長編は読み応え充分でいいですね。
無フェロモンオメガのセンシティブな悩みと、それにつけ込む犯人(と思われる人物)の行動が気になります。高森が患者を装って同じ苦しみを持つ者同士の裏掲示板に潜入し、情報を得ていますが、万が一仁井と接触することになったら顔バレしているからうまくいかないだろうとの不安材料も残していて、うまいなあと思います。
事件の全容は杳として分からないものの、手がかりがあちこちにばらまかれていて、拾い集める楽しさがあります。
1巻目と比べると四門部長の出番が少ないので、対立構造が見えづらくなってはいますが、周囲のキャラのエピソードなどが丁寧に描かれているため、作品の厚みを感じられます。
どんな風に集結するのか、3巻目が楽しみです。
一口にオメガバースと言っても作品によって大きく世界観が異なります。
本作は「特務刑事オメガパンチ」の続編にあたり、前作は前作で完結した物語なのですが、その設定の特殊性やキャラクターの関係性を踏まえる上で、前作の読書が不可欠な作りと思います。(なので、是非前作をお読みください)
本書は電子単話の合本版で全3巻。シリーズ物続編の物語がこのような長編でとても嬉しいです。
前作も過去設定と現在がリミックスして読み応えがありましたが、本書は無フェロモンオメガの苦悩や猟奇的殺人事件の捜査など複雑に展開していきます。
主人公の高森は不顕性発情症候群というオメガ異能者であり、ほぼアルファで構成される警察官の中で唯一のオメガ性の刑事。
高森は強いフェロモンでアルファを操れる最強なオメガで、新キャラの四門部長は特殊な周波数の声で相手を萎縮させ従わせるハイアルファ。最強同士の対立構造が不穏で面白いです。
それまで高森を庇護していた(でも番ではない)嵯峨野部長とも対立している四門部長。
後ろ盾をなくす形で中和剤まで取り上げられ、はらはらし通しです。
高森の相棒の三好はベータ性なので、高森のフェロモンに惑わされることなく最適な相性と言えます。
抱え込む性格の高森が三好を疎んじても、完全わんこ体質の三好の存在に、こちらも安心できます。
全3巻中の1冊目なのでまだわからないことも多いですが、前作の完成度を思えば期待が高まる一方です。
好きなシーンはやっぱりテラスで四門が高森を追い詰めた場面ですね。
口は悪いし気が強いけど姫な高森が好き。
1945シリーズの同人誌。
タイトルにもあるように「天球儀の海」の番外編です。
「天球儀の海」は希の視点で全編綴られていますが、本書は資紀の側から描かれています。
2024年3月改訂版を読みました。
A5版2段組で、小さい文字でびっしり、190ページの本です。何万字なのでしょう。
もうこのまま文庫で発行できてしまう大作です。
表題作の「葉隠否定論」のほか、巻末に「ひかるきずあと。」というSSが収録されています。
「天球儀の海」は衝撃的に過ぎました。
希の側からのみ描かれていたこともあり、こんなに健気でまっすぐでいい子に、資紀はなんてことをするのだと、怒り恨みました。
あの当時の社会情勢、田舎での成重家の家格と嫡男としての立ち位置、色々なことを踏まえて思考しても、どうしてもどうしても理解できなかった。
小説としての吸引力や影響力、大いに慨嘆させられたことを踏まえれば、「神」評価にするところでしたがこの資紀の行った所業が許せず、恐れ多くも一番下の評価としました。
これだけ心を揺さぶられたことからも、真ん中の3つの評価は当てはまらないと思ったためです。
本書「葉隠否定論」も同様の評価としました。理由は以下のとおりです。
理解できなかった所業ではあるものの、前述のとおり、好きなシリーズであり大作とも思っており、別の観点から別の読み方ができるのであれば試したいとの思いから、手に取りました。
全編、希の視点で描かれたあのお話を、今度は最初から最後まで資紀の視点で読み解く。
このような機会は通常では得られません。
(お書きになった尾上先生の筆力や情熱には舌を巻く思いです。)
希が小さい時、たった一度の出会いの後、資紀がここまで希に魅入られていたのかというのはある種怖くもあり(ごめんなさい)、興味深くもありました。
驚くほどに生真面目に、希を大切に思っていたことが伝わってきます。
「天球儀の海」では、希が資紀のことを憧れの対象として敬愛している描写が何度も出てきますが、資紀にとっても希はそれに近しい、もしくは同じくらい、敬愛しているのだと知りました。
お互い一度の出会いなのに、心の中に相手の像がいつまでもあって消えない。
純愛なのか、盲愛なのか、妄想なのか、でも昔の一目惚れなんて同じようなものかなとも思えます。
「葉隠否定論」を読み、前提が覆ったのはここでした。長いこと資紀の方も希を星だと思っていた。
それならば、やっぱり何故、とあの凶行に思念が及びます。
あの凶行については、いろんなことを考えてあの方法が一番いい、これしか手は無いと思い、実行するに当たってはシミュレーションも何度もして、準備もして、特攻の報を受けてのタイミングはこのときだ、とかなり詳細に描写されていました。
それを読んでなるほど、と思う自分もいましたが、でもやっぱり許せませんでした。
資紀の誤算もあり(希が真実に気付いて、特攻機を追いかけて暴れて大変な目に遭ったこと)、実際には希は資紀の思惑をはずれて、大切にはしてもらえなかったことを知っているし、希は資紀を恨まないし、ならなくても良かった右手の欠損という障害を抱えて生きていくこと、それらを良しとするに足るほどの解釈を私は見出せず、心を広く持てませんでした。
もうこれは感情の問題なのだと、自分の頑なさに呆れますが、資紀を受け入れることはできないようでした。
希が相変わらず資紀を好きで、寄り添い、尽くし、それが幸せならばもうそれでいいのかも知れない。
一方で、恒兄ちゃんにボコボコに殴られろ、と思う気持ちも拭えません。(恒は怒りで卒倒するかも)
貴重な本を読む機会をありがとうございました。
たくさん出ていたらしい本シリーズの同人誌もいつか読むことができればと願ってやみません。
土工作業で日銭を稼ぐムラは自分のことを宇宙人だと思っていて、いつか父母のいるジブンの星に行くことを夢見ている。易しい言葉で穏やかに話してくれれば少し分かるが、早口だと分からない。大きな声も苦手、怒られる、怖い、と常に怯え、父親が教えてくれたことを守って正しく生きているものの、コミュニケーションが取れないので周囲の理解は得られず、騙されたり搾取されたり、でも人の優しさに触れることもある、そうした日々が描かれるお話です。
夢中になって読みました。まったく先が読めず、着地点はどこなのかと。
BLなら概ねハッピーエンドでしょうが、こちらは文芸。メリバも当然あるし中途半端に投げ出されることもあります。びくびくしながら最後のページを読んだときに、そうなのかー、と。すぐにコミコミ様のSSをすがるように読み、また、そうなのかー、となりました。
ムラさんの人生は非常に困難なものです。はっきり書いていないけれど発達障害? いつまでも親は生きていないからいつかはこのような日が来ますが、庇護なくして一人で生きるのは過酷だと思いながら見守っていました。
家もないし、土工の仕事もその場限りのものなので不安定。
物理的、精神的身体的なたくさんの困難、胸には溢れんばかりの思いを抱え、言葉に出来ずただため込むだけ。
そんな中でのカンさんとの出会いは、彼の人生を一瞬光らせた宝物のようだと思いました。
三和甘雨。なんて素敵な名前なのでしょう。カンさんは勿論ムラさんの来歴や抱えている何物も知りませんが、ムラさんの存在を親以外で丸ごと受け入れた初めての人でした。
たとえお家が裕福だとしても(そうは書かれていませんが)、アルバイト生活をしているカンさんが、2人分の生活をそれほど長い間養えるとも思えないので、ずっと二人のやさしい暮らしが続くわけでもないとは思いながらも、突然の破綻はショックでした。
仕方ないことです。カンさん、20代後半~30歳くらいなのかな。42歳の、一人では出来ることが限られる、謎な部分の多い成人男子を、丸ごと抱えるのは難しい。実親だって丸抱えしかねると思うのに。ましてや二人の間には明確な関係性がありません。成り行きとはいえ家に連れて帰ったことだけでも相当なハードルです。出会って連れて帰った怪我した野良猫を洗って餌をあげて手当して、放り出せなくて一緒に暮らすうちに猫がなついて自分も癒やされて、といった感じなのかなと。猫じゃなくて人間ですが。
いろいろあったけれど結局、ムラさんにとっては、ジブンの星に行くことが一番の幸せなのでしょう。最後の最後、お母さんのいいつけを破り、お父さんの言いつけを破りました。そうなればもう、このあとの転落が見えてきます。
でも頭がお花畑な私は、いつか北の海に写生旅行に行ったカンさんが、偶然ムラさんを見つけるお話を妄想し、自分を慰めるばかりです。
高校を卒業してから上京して、同居して6年。元同級生で友人の柿谷と周防は性格も違うし仕事も違うけれどルームシェアがうまくいっている。
居心地のよい生活。だけど本音のところでは友情なのか恋なのか。7年を目前に少しだけ気持ちが変化していく。というお話。
日高先生の描く人物も背景も、なにもかもが美しいです。線一本ですら描画が既に美しいです。なので画面が美々しくて眼福です。
何度かトライしても読んでいてとてもしんどくて、いつも半分くらいで中断してしまうのですが、今回ようやく1巻を読み切れました。たぶん4回目トライです。
私自身、うまく行ってるならそのままでいいよね、という性質なので、周防の気持ちがよくわかる。
主人公は柿谷の方で、柿谷の揺れ動きまくる(というか、横からつついて水面を揺らす奴がいる)気持ちがとても丁寧に綴られているため、うっかり寄り添って読もうとしてしまうのですが、でも、でもですよ、このわざと波風を立てる戸和田さんがいなければ、別に二人はそのままだったのではないのかと思ってしまうのです。
繰り返しますが、そのままで問題が起こらないのならそのままでいいと思うんですよ。
たとえば柿谷が、周防への恋心を抑えられなくて、いますぐにでもキスしてセックスしたくて、他の誰にも取られたくない、自分のものにしたいとぐるぐる思い悩んで寝られない食べられないとかいうのなら分かります。だけど戸和田さんが揺らしまくって煽り立てなければ、普通にお互いに目を瞑って「友達」でいられるくらいの関係じゃないのかと。
友達と恋人の間だからといって、必ずしもどっちかに白黒はっきりつけなければいけないわけでもないし、少なくとも現時点では困っていないように見えるので。
普通に仕事して生活して、距離感を保ちつつ、たまに無意味な接触にドキドキするというのが今の状況で。心が壊れそうだとかの切羽詰まった感情でもないのなら、現状維持でいいよね、なんて思ってしまうから、終始首をひねって1巻が終わりました。
しんどいのは、リアルな心理描写と、結局他人に揺すられて動いている(ように見える)ことによるのかも。
二人の関係に果たして結論は必要なのかな、2巻読めるかな。
ダリア文庫で発行された「不埒なモンタージュ」「不埒なスペクトル」「花がふってくる」「サーカスギャロップ」「勘弁してくれ」「ぼくらが微熱になる理由 ~バタフライ・キス」「くちびるに蝶の骨 ~バタフライ・ルージュ」それぞれの番外編を集めた作品集。
かつての特典(全員プレゼントとかCDの冊子とか)に加えて書き下ろしも3作収録。
かつて崎谷先生は、ルビーとルチルとダリアの各社から続々と書き下ろしの本が出ていて、5ヶ月連続刊行フェアなども組まれたりして、都度購入してはプレゼントに応募し様々集めたものでした。それらがこうしてソフトカバー単行本という形で刊行されるというのが実に感慨深いです。
ルチルさんからは既に「はるならい」「薬指にたどりつくまで」という同主旨の単行本が発行されておりますので、本書の告知を見た時に「おおダリアも!」と感動したものでした。
ただ、番外編の集合体なので、元の作品を知らずに読むのは困難と思います。
本編を知っている前提で書かれたものばかりなので、キャラの説明がすっかり抜けていますし、エピソードもざっくり書かれているだけなので、想像して読むことの限界を超えます。それは前述の「はるならい」等も同様です。
かつて本編を読んだ方は、懐かしい!と思うとおもいます。
私は懐かしく思うのと、今読めることの感慨深さと、古いはずなのに今読んでも面白いという新鮮な驚き、すべてがない交ぜになった気持ちで最後まで読書していました。
書き下ろし3本はすべてバタフライキスシリーズですので、同シリーズのファンの方は必読かと思います。
残念だったのは初出一覧です。
こうした番外編、特典などをまとめた作品集については、元はなんだったのかがすごく気になります。同じ小冊子からの再録であってもなんの特典小冊子なのか知りたいです。CDブックレットに載ったものや、Web再録もあるでしょう。それをすべてまとめて「各種特典など」とひとくくりになっていたことが残念でした。
8年ぶりに故郷に戻ってきたカオルは親戚のお弁当屋を手伝っている。あるとき配達に行った先で暴行を受けている場面に遭遇するというところから始まるお話。
こう書くと穏やかではないですが、高校生のときの思い出がところどころ差し挟まれて、このあとどうなるんだろうと先は気になりますし、ノスタルジックな気持ちにもなる、良作でした。
どうやら4~5年前に書かれた作品だそうです。「もろもろ大目に見てください」との著者のお言葉がカバーに載っていましたが、とんでもない。寧ろこのような作品が埋もれていたことこそ問題だと思いました。コミックス化おめでたいです。読めて良かったです。
ストーリー的には色々語るとネタバレも甚だしいので割愛します。ネタバレしない方が楽しめるお話です。
ちなみに私は最後の方まで気が付きませんでした。でも、最後まで読んでもう一度始めに戻ると、あちこちにそれらしきことが散りばめられていました。
はなぶさ先生の作品を読むのは2作目なのですが、キャラクターの過去エピソードが設定と上手く絡められていて、読みながら時折光る石を見つけるみたいな、わくわくする気持ちになります。
初読はどうしてもストーリーを追うことで精一杯になるところがあるのですが、キャラクターの過去エピソードで理解が深まることで感情に寄り添いやすくなる、はなぶさ先生の作品はその辺りがとても巧みで、世界観に吸い込まれるように読みふけってしまいます。
本作、受けの子が一筋縄ではいかないキャラですが、何もかもが分かった後にもう一度確かめれば、きちんと丁寧にそのときの揺れ動く感情が描かれていました。
このときどんな気持ちでこの言葉を発したんだろうと想像すると、じたばたする気持ちになります。
コミコミさんで購入したのですが有償・無償で小冊子がついてきてお得でした。
特に有償の小冊子は高校時代のエピソードが別視点で描かれていて、読めて良かったと心から思えるものでした。
この間読んだばかりの「社長、会議に出てください!」の続編が出ると聞き、それは読まなければ、と購入。
1作目は、医療機器メーカーから健康管理のモバイルアプリを開発するベンチャー企業に転職した主人公の鳴沢さんが、社長と社員の間を取り持ったり、社員の足りない部分を補ったりしながら、風通しのよい職場にしていくお話でした。2作目である本作では、新規事業への融資を得るために、課された無理難題を達成すべく、社内一丸となって邁進するお話。
面白かったです。お仕事BL楽しい。
今回、その無理難題というのが、3ヶ月足らずの間に、法人用に展開していたアプリを一般ユーザーも利用できるように開発し、さらに一万ユーザー達成するというものでした。とんでもない課題であり、時間的にもユーザー数的にも一体それは可能なのか?と読みながら首をひねったものでした。
もしもこんな大命題をあっさり達成したら、却って私はしらけてしまうのではないだろうかと、途中どきどきしながら読み進めていったら、思いも寄らない展開になりしらけるどころか目が離せなくなってしまいました。完全に手のひらの上で転がされました。我ながらちょろい。
コミュ障だったりいわゆる会社員の常識とはかけ離れていた社員の皆さんが、みんな自分のペースで少しずつ変わって行っていることにも、社長の久瀬氏が心を開くようになってやっぱり少しずつ変化していっていることも、2巻では顕著に表れています。
それだけに、自己肯定感の低い鳴沢さんがぐるぐる思い悩むことを自然に受け止められはしましたが、周囲の変化と比べると心配になるレベルで後退の印象すらありました。
鳴沢さんと社長の不器用な恋の行方も気になります。職場内恋愛は、バレたらどうする?と私の方がハラハラし心臓に良くないです。
続巻がもし出たらホイホイ予約すると思いますが、鳴沢さんのネガティブな思い癖が少し変わっていくといいなと思います。
それと、ポケットヘルスナビ、私もダウンロードしたいです。