同窓会をきっかけにやけぼっくいに火が付くお話はよくありますが、こちらは当時特別な関係だったわけではなく、ただ同窓会で再会したのを機に元担任、元教え子の関係のまま交流を深めていつしか恋愛感情に発展する、というお話でした。元教え子視点の「いつか終わる恋のために」と、元担任視点の「恋ひめやも」の二本立てです。分量は前者の方がページ数多いですが、だいたい半々くらいです。
「いつか終わる恋のために」を読み驚いたのは、主人公の棚橋には結婚を控えた彼女が居たことでした。しかも仲も悪くなく、両親に紹介する約束までしています。繰り返しますが学生の時に水原先生を好きだったとか、主人公がゲイだったとか、そういうのは一切なくて、同窓会きっかけで交流するようになって、御飯食べたり本の貸し借りしたりたまに遊びに行ったり、そうこうしているうちに好きになっていったのでした。水原先生の元彼とのあれやこれやを知ってしまったことが、多分に影響しているだろうとは思うのですが、人生が変わってしまうほどのことに踏み切るには些か短絡的という印象は否めなかったです。まあそれが恋に落ちたのだ、ということかもしれません。
続く「恋ひめやも」はその続きにあたるお話で、水原先生の側から描かれています。ものすごく内省的で後ろ向きで強情で、差し伸べられる手を振り払い言葉で傷つけ、居なくなったら遠くの月を眺めて涙するような、大変に大変に面倒くさい性格の人です。なので、この人視点で物語を進めると、地の文はほぼネガティブ思考で満たされ、同じところをぐるぐる周り、読んでいるこちら側も迷路にはまったかのように八方塞がりのような気持ちに。棚橋が押して押して、ようやく最後に結ばれましたが、今後この二人はどうなっていくんだろうなあ、と遠い目です。
どちらのお話も、ものすごく丁寧に二人の心情が綴られており、大きな事件など全くなく淡々としているのに飽きることなく最後まで読み切れました。「恋ひめやも」の方は書き下ろしで、終盤ときどき科白がかたくなるのだけ気になりましたが、気付いたら最後のページでした。さすがの筆力といいますか、集中を途切れさせられずに走らされたような、ちょっと不思議な気持ちです。
それと、本編にまったく関係ないのですが、途中の地の文で「伝染病に冒され病に倒れた人がいても、どうして感染なんかしたんだと責められないのと同じだ。」という文章がありまして、確かに昔はそうだったけどコロナ辺りから変わっていったな、と世情につい思いを馳せました。
第一部完、だそうです。おおお。
2巻が出るのを待って、1巻から続けて読みました。
1巻ではなんとなく見えてきた不穏な状況と、あまりに対照的な朱里の無垢な表情で終わったので、次巻への引きがものすごかったですが、2巻は種明かしの回というか、次巻への準備回といった印象を持ちました。
朱里とマリィの過去エピソードを知ることで二人の絆の強さを見せつけられました。1巻のあの一連の場面からは想像もできない、二人の間に流れる強い信頼感、一体感とでも言えばいいのか。てっきり酷い目に遭わされていると思っていたのですが、全然違いました。二人はお互いの存在に生かされているといっても過言で無く、その根底には恐怖と絶望があるのだと。
朱里にとってキーパーソンとなる元彼については、来る来ると言われながら来なかったので、どうやら再会は次巻に持ち越し。ただ、当時と今とで朱里は変わったので(本人は変わっていないと言って震えてましたが)、だいぶ異なるものになるのではと思うのですがどうだろう。もっとも元彼も変わっているかもしれません。回想ではただのクズでした。
一方で、暁は、朱里との関わりを通して考え方が変わり、その言動からも一本芯が通った様子が垣間見られます。恋をすると大人になるのか、表情も少し変わって見えます。
それにしても朱里は抱えているものが大きすぎて、「好き」という言葉すら無垢な表情でたどたどしく告げるくせに、掴まえたと思ったら逃げるような一筋縄ではいかないところが、BLのメインキャラとして実に良いです。暁の焦りや喪失感はどれほどであるのか想像するだけでBL読みとしてわくわくし、今後の展開に期待が募ります。
1巻のレビューにも書きましたが、この作品はホストクラブのお客をモブではなく、光と闇の両方の意味合いをもたせて描いているのが特色で、個人的にも気に入っています。
1巻が出た時にすごく話題になって、続巻を待つ声がとても大きかったので、それなら2巻が出てから読もうなどと考え、果たした次第です。
なるほどこれは、ここで終わったら「2巻早く!!」ってなりますね。
「ベルベットキス」というホストクラブが舞台で、メインの二人はNo.1の朱里(じゅり)とNo.2の暁(あかつき)。美男の並びは壮観です。
暁はNo.2とはいっても勤め始めて3か月の新人。体験入店してみたらびっくりするほど稼げたのがホストになったきっかけだと言っています。
不動の1位である朱里のことをバチバチにライバル視していたのが、朱里が実はゲイだという噂を聞いてから俄然興味が出てつきまとったりして、流れでキスをしてそのまま雪崩れ込み。これを契機にライバル視していた暁はすぐに朱里贔屓になりますが、問題はクールビューティの朱里が極端なポーカーフェイスのかげでごくごくたまに漏れ出す本音の部分です。この翌朝、先に目覚めた朱里の幸せを噛みしめる顔が、それまで見せていたのとは全然違う無垢な可愛い表情で、キャラ変もかくや、といった衝撃を味わいます。なるほど、こっちが本当の顔なのか、と思うそばからすぐに元のクールな顔に戻るし、どうやら前から暁のことが好きだったらしい恋情も知るのは読者のみ、という作りが大変素晴らしいです。
朱里の秘密、枕との噂の真相も読者だけが知りますが、裏と表、光と影の差がこんなにも激しいのかと瞠目し、朱里が気の毒で、2巻を読みたいけど読むのが怖いようなそんな気持ちにさせられました。
確かにお金はあり得ないくらいに稼げるだろうけど怖い世界ですね。心のどこかが死んでいきそう。
ホストクラブが舞台のBLは読んだことがありますが、いずれもホストに焦点を置いているせいか、お客は基本モブなことが多かったです。ですがこちらはお客にかなりライトが当たり、豪遊するきらびやかな面と、その一方でどこか壊れているダークな面の両方が描かれていて、かなり怖いです。2巻でこれらがエスカレートするようだと非常に不穏ですが、メインの2人(特に朱里)の無事を祈る思いで、続きも楽しみたいです。
彩雲の城の特典なので、彗星ペアで「とりのはなし」。
「掃きだめに鶴」にて3題。
戦時中、男ばかりでむさくるしいラバウルの軍隊で。戦後、勤務している男子校の校内で。そして自宅の庭でもらったラブレターを燃やしながら述懐。
いずれも伊魚が鶴なわけなのですが、「これほど鶴だ鶴だと言われ続けたら、いい加減、ガーゼの一枚でも折って見せなければ名折れのような気がしてきた」と零すのが可笑しいし、ところどころに鶴の蘊蓄が入るのも面白いです。
藤十郎は、腕時計の交換に来た分隊員が伊魚に見とれていた、と目くじらを立てつつ(伊魚は全然本気にしていない)、はきだめだろうが伊魚のそばがいい、と言葉を惜しまずに気持ちを伝えますし、戦後ながい付き合いであっても恋文をもらったときけば「許さん、どいつだ」と眉をひそめるのがとても良いです。この年代の男性にしては異質なほどで、伊魚はこんなに愛されているのに、本編や番外編では自虐が止まらないのが不思議なくらい。SSではクールにいなしていますが。
なににしても日常の応酬も含めて対等でとても良い関係だなと、改めて思いました。
2巻は、第7話、第8話、草案、先生お二人のインタビュー、お二人の仕事場のお写真、西本先生によるキャラクター初期ラフ、小説版第1話、漫画版の「月下の独白」、編集部のメッセージが収録されています。
刊行してくださったことに、まずは感謝を。
本編としては第8話が最後の掲載作で、初出が2025年2月となっているので、英田先生が亡くなって半年経っていて、やはりこちらも制作し掲載してくださったことに感謝しきりです。
お話は中途ですが、そのあとに掲載の草案を読みながら、こんな感じになるのかな、などとたくさん想像しました。最終的には2巻の表紙のように、穏やかな結末を迎えることを祈ります。
最後まで読みたかったのが本音ですが、病をおして最期まで魅力的なキャラクターを生み出してお話を紡いでおられた英田先生と、受け止めて思いをこめて作画された西本先生の作品を、途中まででも味わわせていただけて感謝の念に堪えません。
巻末の「月下の独白」は、1巻の巻末SS(小説)のコミカライズで、書き下ろしとなっています。
第1話の小説版のときにも思いましたが、小説とコミックと表現方法は異なっているものの双方がぴったり一致していて、なんの齟齬も過不足も違和感もなくて、お二人の相性がとても良かったのだろうなと思いました。
収録されているキャラクター初期ラフは10ページあり、ところどころに西本先生から英田先生にイメージが合っているかを尋ねる書き込みがあって、コミュニケーションを取りながらお二人で作り上げた作品だと改めて感じました。(このうちの78、79、82ページの3ページ分は、コミコミスタジオ限定小冊子と同じです。また、小説版第1話は、コミコミスタジオ限定小冊子からの再掲ですが、小冊子の方は上下2段組で、こちらは段組無しでレイアウトもフォントも異なっています)
昨年の8月でしたので、もうじき一年になるのですね。
コミコミスタジオの有償特典、16p小冊子です。
表紙は電子単話の方の表紙です。(コミック1巻の表紙とは異なります)
英田先生による「虚空の月」第1話の小説版が9ページ、西本先生によるキャラクター初期ラフが3ページです。
どちらも同じものが「虚空の月」2巻に収録されています。小説の方は上下2段組なので2巻とはレイアウトが異なりますが。
同じお話でもコミックと小説では、当たり前ですがアプローチが違うなと思いましたが、これはどちらが先なのかなとも思いました。
英田先生の原作をもとに西本先生が作画されているのはそうなのですが、この小冊子に掲載されている小説は、ノベライズだったりするのかな、などと想像したり。
原作を小説版とシナリオ版と両方のスタイルで書いてみたというのを2巻のインタビューで読みましたが、この掲載された小説は、その小説版の方なのか、それとも出来上がった掲載作(コミック)をもとに改めてノベライズしたのか。興味深いです。それほどどちらもぴったり重なっているのです。
また、西本先生のキャララフは、キャラクターのイメージに齟齬がないかを英田先生に確認するメッセージがところどころに書いてあって、二人で作り上げていることをまざまざと感じます。小冊子に載っているラフは、志堂が2ページ、比嘉が1ページです。
面白かったです。最後までドキドキはらはらでした。
こちらは、不動産営業マンのお仕事BLです。
成績があがらず、自分は営業に向いてないと思い詰めていた時、ひょんなことから異能を手に入れた主人公の友琉。
その後、異能を活かしてバリバリ売り上げを重ね、トップセールスを誇るようになります。
1位当たり前、賞賛もしかり、収入も増えて嬉しいと思う反面、自分はズルをしているという罪悪感も常にあって、異能を心強くも後ろめたくも思っています。
そんなとき同じ支店で売り上げを競う同期の久慈から相談があると声を掛けられ、一緒に仕事をしたことをきっかけに交流が始まるのです。
本のタイトルから読み取れる情報によって、勝手に頭の中でこういう話かなと想像していたことが、ことごとく覆されまして。
・読心術は先天的なものか →ちがった
・それなら身についたのはつい最近の話か →ちがった。就職して2年目の時
・異能を使ったのは半年以内の短期間か →ちがった。1年3か月使い続ける
・力が消滅するまでが描かれる作品なのか →ちがった。序盤で早々に消滅した
たったこれだけで分かるとおり、私は手のひらの上で転がされた読者でした。
ほかにも想像と違うところがいくつもあり、とても楽しく読みました。
良かったのは、主人公の友琉の頑なで意固地な考え方に、幼少期からの経験という裏付けがしっかりとあることでした。仕事に対して真面目に取り組む姿も好感が持てますが、幼少期から現在に至るまでの長年にわたる思い癖のせいで、なかなか人に心を開かない。異能もそれに拍車をかけたかもしれません。いずれにしても、できることは人に頼らず自分で始末を付けたいと思うタイプの人です。
友琉に片思いしている久慈にしてみれば、やはり淋しいわけです。自分のことを信じて欲しいし、頼って欲しいと思う。友琉だってそうしたいけれど、ブレーキがどうしてもかかってしまう。その機微がとてもよかったです。
また、ストーリー展開も、終盤のとある事件に尽きます。具体的には204-205ページが鳥肌ものでして、ぞわぞわしながら何回も読み、私も友琉と同じく画像検索などして確かめるなどしました。
こんな大事なことも一人で解決しようとする人なんですよね。支店長には少なくとも話した方がいいと思うんですが、それすらもしなかった。
今後もこの頑なな性格が災いすることもあるかもしれませんが、久慈が包み込んであげて仲良くやって欲しいです。
続編あったら嬉しいですけど、異能なくなってしまったから難しいでしょうね。でもとても楽しい作品でした。
警察官が妹の不審死の原因を探るために、妹の最後と関わりの深そうだったヤクザの幹部に近付き、配下、護衛として行動を共にするお話。
まだ1巻なので、死の真相にはたどりつきませんし、全貌も明らかにはなっていません。
原作の英田サキ先生の本領発揮といいますか、裏組織メインのお話で、登場人物の相互関係や過去のエピソードが盛り込まれて読み応えがあり、長編の1冊目としてはこれ以上ない出来映えで、次巻以降どうなっていくのかものすごく期待感が高まります。
なんといっても西本ろう先生の作画が美しいです。メインの二人は魅力的ですし、濃密な夜の雰囲気、秘密めいた二人の間の空気に酔いしれます。
中学時代のエピソードもあり、このような日々を過ごしながら、顔を見ても名前を聞いても思い出せないなんて、よっぽど何かあったのだろうと想像できますし、2話の「お前はあの人の好みのタイプだから」という秘書の新見の科白が、このエピソードを経ることによって腑に落ちます。
本当は3~4冊くらいになったのかななどと余計なことに思いを馳せてしまいました。読むのが惜しいですが2巻も心して読みます。
巻末に英田サキ先生のSS「月下の独白」が収録されています。いま読んだコミックの世界観が小説になるとこんな感じなのか、と二重に楽しめます。