木原先生のプロフィールにはたいてい「『眠る兎』でデビュー」と書いてあります。そういえば読んだこと無いなと思い、注文してみました。
といってもほんとのデビュー作掲載の雑誌でもなければノベルズでもなくて、新装版の文庫の方です。(ということに後から気付きました)
お話は、いまならマッチングアプリなんでしょうけど、このときはゲイ専門の雑誌に掲載された友達募集のコーナーを見て手紙を出した、ところから始まります。
時代ですね。いや、当時のゲイ専門の雑誌は見たことないですが、昔の雑誌には友達募集のコーナーが確かにありました。
切実な思いの真性ゲイは雑誌に載った方。遊び半分でノリで手紙を出したのはノンケです。しかも前者は高校教師、後者は同じ学校の生徒、先生の方は相手が高校生とは思っていません。
これだけでもう嫌な予感しかしないし、木原先生だからこのあとどんな酷い事になるのかとびくびくしながら読み進めました。
で、驚いたわけです。なぜなら、びっくりするほどのド直球な恋物語だったからです。
本書は、表題作の「眠る兎」のほか、8年後の物語「冬日」、さらにその3年後の「春の嵐」の計三作が収録されています。
「春の嵐」は書き下ろしで、前二作と比べると、よく知る木原先生らしさが味わえます。
「眠る兎」の主人公である高校生(当時)の里見のそばで、正論を口にして軌道修正を図ったり里見を応援したりする、よく出来た幼馴染みの柿本が「春の嵐」の主人公なのですが、あんなに真っ当でブレなかった彼が、会社の後輩くんに迫られていて目が離せません。
しかもどうやら気持ちは固まっていないのに身体先行です。目が離せません(2回目)
続き、どこかで読めないのかしら。とても気になって仕方ないです。
慈英×臣シリーズスピンオフの4編を収録した同人誌。
「こじらせ作家とホスト」(灰汁島セイ×瓜生衣沙)
2024年コラボ感想企画御礼SSとして書かれた作品なので、「バタフライキス」のキャラが一部登場するクロスオーバーとなっています。
デビューから間もない灰汁島先生が意地悪な編集から酷い目に遭う中で、接待要員としてホストクラブに行き、助けてもらうエピソードがメインとなっています。
王将の違う一面を見た思いです。私はもしや王将を誤解している?
セイイサの二人はいつも仲良しでほっこりします。
「花茶ひらく春の宵」(慈英×臣)
同人誌感想企画御礼SSとして書かれた作品。お茶をテーマにした同人誌だったので、こちらも慈英と臣がお茶を飲んでいます。
慈英の帰国に備えて二人で家の片付けをしている際、しばし休憩してどこかからか出てきた工芸茶を嗜む二人です。
家中が段ボールに埋もれているのに、硝子の器で花びらが広がるのを眺めつつ、「カオスですね」と呟く慈英に臣が「お花いいじゃん。癒やされるじゃん」と答えるのがすごく可愛いです。芸術家の慈英となにも気にしない臣。団らんの空気が実にあたたかい。はやく二人で暮らせる日が来るといいです。
「夜の新海さん」(久遠×円)
表題作、書き下ろしです。本編のあの低空飛行な雰囲気そのままで、新海さんが珍しくその気になった夜のお話。
とはいえ、ですよ。とはいえ、新海さんのテンションがそう変わるわけではないのですよ。
掴めない! 欲情しているようでもこのローな感じ。窺いながら探るような二人の心の距離感がしっくり来ないけど、そういえばもとはセフレでしたね、と思い出しました。今後左右が変わったりするかも、との匂わせもありましたが、いやでも新海さんこんな感じでは攻められないかも知れない、など思いました。
「霧島久遠についての証言」
こちらも書き下ろし。未紘、照映、慈英、臣、新海の5人がそれぞれ久遠がどんな人かについてコメントします。インタビューに答えているような感じです。
慈英のコメントが能面みたいで怖いなと思っていたら、臣さんが「(嫌われてることを)慈英がなんとも思ってねえのもちょっと怖い」と言っていて吹き出してしまいました。ですよね!
そしてここでも新海さんのテンションがロー。不思議。
巻末には慈英×臣シリーズの読書順アテンドがあります。すごくわかりやすいです。
「吸血鬼と愉快な仲間たち」、集英社文庫で大団円を迎えてコミコミ特典SSで余韻に浸り、あとは羅川先生のコミックに癒やされるのみ、と思っていたところに転がり込んできた、この同人誌。忽滑谷編です!!! ありがとうございます。本当にありがとうございます。
しかも高校時代のお話なのです。
ページをめくると次のように書いてありました。
「没原稿なので設定が少しパラレル気味になっています。ファンタジーとしてお読みいただけたらと思います」
なるほど、なるほど、と思うそばから、そのすぐ下にあった登場人物紹介に、頭がくらくらしました。
・主人公 ナイーブでまだ人間のできていない少年忽滑谷
・おともだち とげとげ美人の高塚暁
・嫌なおともだち 少年時代から不変の酒入
もうこれだけで期待値マックス、世に出してくださって本当にありがとうございます。
視点は高校二年の忽滑谷さん。クラスに溶け込んでいる風を装いつつ全てが面倒くさくなっている様子が、それはそれは丁寧に描かれています。頭が良すぎて立ち回りがうまいのは本編の30代の忽滑谷と同じですが、その器がまだ高校生なので精神的に幼くてすごく不安定。自意識が高いので安定して当たり前だと自分では思っているから平静を装う、その外側と内側の隔たりや機微にとても痺れます。
暁は本編よりももっととげとげしていますが、「bitterness of youth」でどんな子ども~学生だったか知っているので、納得のキャラ立ちです。
No.1はまだ序といったところなのですが、シリーズがお好きな皆様はきっと満足すると思います!
この二人がどうやって仲良くなっていくのか、駒は出揃ったという感じがしますので、いつか出るNo.2をわくわく待っています。
それと、そうとは書いていませんが、冒頭に登場するバーのママ、イングリットさんとかだったら嬉しいなあ。
中国のドラマ「光・淵」の原作小説。
ドラマは全30話でWOWOWで放送中ですが、本国では8話まで公開ののち配信停止になっていたとのことです。
刑事が主人公の事件解決もので、ハードモードでとても面白い。ドラマでは時々挟み込まれるダークなトーンの映像に震えます。
原作を読み始めて驚いたのは、登場人物の名前がドラマと違うことです。そんなことあります?
性格とか設定とかほとんど同じなのに、名前が違う。
・駱聞舟(ルオ・ウェンジョウ)=駱為昭(ルオ・ウェイジャオ)
・費渡(フェイ・ドゥ)=裴溯(ペイ・スー)
・陶然(タオ・ラン)=陶沢(タオ・ゾー)
・郎喬(ラン・チャオ)=嵐喬(ラン・チャオ)
・肖海洋(シャオ・ハイヤン)=肖翰揚(シャオ・ハンヤン)
前者が小説での名前、後者がドラマでの名前です。不思議ですよね。
上記はほんの一例で、たぶん全員名前が違います。何故なんだろう。
さて、「黙読」第1巻は、第1部ジュリアン(第1章~第25章と終章)が収録されています。
ドラマとの比較ばかりで恐縮ですが、1~5話のお話(最初の事件)と6話の一部に相当します。
やはり小説とドラマとでは見せ場が異なるので、どちらも特色を活かしていてどちらも楽しめます。
カーチェイスはドラマに軍配があがりますが、事件終盤の、駱隊長が犯人を煽ったり理詰めで説いたり鎌を掛けたりしながらも追い詰めていく場面は小説の方が手に汗握ります。犯人の方が有利だったのが余裕がなくなり、その後また巻き返すところなどはさながら綱引きのようで、とてもはらはらしました。
また、地道に捜査をしている場面がとても多く、要素も多岐に亘ります。
駱隊長は型破りではありますが、次々に入ってくるたくさんの情報を、全部受け止めて整理して、足りないところを瞬時に判断して部下に指示を与えたり自ら動いたり。この人の頭の中はどうなっているんだろうと驚嘆します。
一方で飼い猫には滅法弱いし、費渡にはやりこめられて子どもの喧嘩みたいなことになるしで、ギャップが面白い。
1巻の事件は一応は解決したものの、謎が残されていますので続きへの引きもあります。2巻が出たらまた買いたいです。
BL的な面は、この巻では薄いです。前述のとおりキャットファイトみたいな感じです。
営業部の綾川と開発部の山岸、職務柄対立しやすい立場にいるとはいうものの、双方の仲の悪さは社内で有名。
だけど実際には二人は隠れて付き合っている、というお話。本書はその続巻です。
前巻では、つきあっていることを内緒にしているわりに、時間外とはいえ職場でエッチしたり、社員旅行の宿でエッチしたり、隠す気ある?と問う以前に、人としてどうなのか首を捻っておりましたが、続巻である本書はそうした違和感を覚えることなく、楽しく二人の物語を味わいました。
うっかり人前で「シュウ」と呼んでしまったり、焼きもちをやいて綾川を追いかけて階段で迫ったり、わざと自分を追い込んで残業三昧な日を送ったり、山岸のやらかしがちょっと多いのですが、それすらも可愛げと受け取れて、仕方ないなあと飲み込めました。
新キャラの片岡さんと綾川のやりとりが面白くて、さすが元上司部下だけあって阿吽の呼吸を見た思いです。二人がコンビを組めば大きな仕事もバンバン取れるんだろうなと思えました。もう本社に帰ってしまいますが、再登場を望みます。綾川にちょっかいをかけるような当て馬キャラでないのがよかったです。
巻末に、二人の馴れそめの番外編が収録されています。
これは電子単話で購入できるお話で既読でした。2冊分の二人の恋愛を読んだ後に改めて馴れそめ話を読むのもまた乙なもので、同じお話なのに初読のときよりも好印象でした。
ニクヤ乾先生特有の勢いやノリがおかしみを生んでいて楽しかったです。
1945シリーズの番外編集。なんと26本ものSS・短編収録で、牧先生のイラストのみならずマンガも読めてしまう、超お得な一冊。
2013年から2018年にかけての同人誌や特典ペーパー等をまとめた大変貴重な作品集です。
本当に本当に発行ありがとうございます。堪能しました!
「碧のかたみ」「天球儀の海」がお好きな方は是非是非是非に読んでいただきたいです。
収録のほとんどが六郎×恒のお話です。資紀×希のお話も。
(残念ながら「蒼穹のローレライ」「プルメリアのころ。」「彩雲の城」CPはお休みです)
すべてにコメントすると大変なことになってしまうので、特に気に入ったお話のみレビューします。
○郵便飛行機より愛を込めて
ロジャーという米兵が主人公。
島から本国に引き揚げる病院船の船底に牢があり、ロジャーはカードで負けて牢の見張りをすることになる。
牢内には敵国の捕虜が二人居るが重傷で、片方は眠っているのか死んでいるのか分からないような有様。
この二人が恒と六郎で、最初こそ警戒していたロジャーですが、食事を運んだり片言の英語で意思の疎通をはかるようになって、徐々に彼らのことを気に掛けるようになっていくというお話。
そうなんです、「碧のかたみ」の補完ともいうべき内容でして、あのとき、二人がどのように過ごしていたのかが明らかになります。
そして、敵同士である恒・六郎とロジャーとの交流も描かれます。
戦後、日本に帰国する前にロジャーが二人と再会した場面が好きでした。もう顔を合わせることは無いでしょうけど、お互いの心の中にはきっとずっと居るんだろうなと思えるよいお話でした。
○桜雨
戦後、行方を眩ませている希が父を介して恒と連絡をとり、対面するお話です。
兄弟がやっと会えました。
資紀のことがあるのでとにかく人目に付かないように、何回も場所を変えて誘導する希を見ながら、私は「碧のかたみ」で恒が寝言で希の名前を呼んだり、「兄ちゃんがんばるからなー」と自分を鼓舞したりしていることを思い出し、悲しくなりました。
恒も痛む身体をおして杖を突き、文句も言わず言われるままに移動します。手紙で資紀の名前を見て、仰向けに寝転がる場面。何もかもが腑に落ちたんだなと分かり、胸が痛かったです。
ようやく希と対面したときに、まっさきに無くした方の手を掴んだのが恒らしくて、その後の心無い罵倒も自己嫌悪もすべてが辛かった。崩れた恒を六郎が掬い上げたのが救いで、一緒に居てくれて本当に良かったと改めて思いました。
戦争で痛めつけられた心と身体と思い出と現実が、この二人の兄弟の再会をこんな風にしたのだと、悔しい気持ちでいっぱいでした。
でも、少しずつ、飲み込んだり踏みだしたりしながら、最後は笑顔になれたことに安心しました。
満開の桜が象徴的でした。
○天の川の話
織姫彦星の年に一度の逢瀬に思いを馳せる六郎と、お前は馬鹿かと一刀両断の恒の会話。
廃品の操縦桿をつかって、「キューン、バリバリバリー」と飛行機ごっこをしている恒がめちゃくちゃおかしいんですが、疳の強い小学生みたいな恒がそういえば天文学者の息子だった、と思い出させられる一作。
その後の牧先生のマンガも可愛い。
○星空地図と六等星
希の同期の石田が主人公。
予科練での希の生活が描かれます。
終始おとなしく控え目で、体力的に訓練の成績もそれほど目立たない。
それがある日、「五連星の琴平」の弟だと知れた際の周囲のざわめきが面白かったのと、「兄がご迷惑を」と頭を下げる様子がいじらしくて、笑いがこみ上げてしまいました。
○嫁に来ないか
「郵便飛行機より愛を込めて」の関連SSです。六郎視点です。
病院船が大陸について病院に運び込まれ、寝たきりの恒につきっきりの六郎が、アメリカの豊かさを思い知って、勝てるわけがない、としみじみ実感する場面と、恒が朦朧としながら「目が覚めるたびに景色が違う」とつぶやく場面が、まるで映画を見ているようでとても好きです。
こんなに短いお話なのに、投降の時のエピソードや、タイトルどおりのプロポーズの場面など、見所満載過ぎて大好きです。
余計なことを考えてはいけない、と繰り返し思いながら読み進めました。
レイヴェダ族の次期の長候補ジズと、その右腕であり親友である戦士ツァドのお話です。
ツァドは戦闘で大怪我をし戦えなくなってから、一族の慰み者として拘束されて生きています。
屈辱を味わいながらそれでも前を向いているのは、いつか自分が見込んだジズが立派な長となるところを見たいから。
そんなある日のこと、ツァドが起こした事件をきっかけに、ジズはツァドをさらって村を飛び出すのです。
本の帯には「身分差ロミジュリBL」とあるのですが、果たしてこれはロミジュリなのか。身分差なのか。
キャッチコピーに疑問を抱きつつ、また、ラストの解決方法についても唸ってしまいました。
何もかも捨てて愛に生きるのも良いでしょう。でもそれは今なのか。ツァドが受けていた輪姦を止めることの方が先だったのでは。
また、ジズが取った解決方法は、一族として許せることなのか。そもそもツァドはそれでいいのか。大量出血不可避のはずの非現実に目を瞑り、それでも色々なことが頭に浮かんでしまいます。それら全部に蓋をしてページをめくりました。
絵はとても綺麗です。
「両方フォーユー」act5~8、「世界のまんなか」act1~3を収録しています。
「両方フォーユー」が途中からの掲載だったのでコミック2巻の「両方フォーユー」act1から読み返しました。
ついでに原作の「両方フォーユー」も読み返して思い出したことは、初期の皆川竜起はサイコパスっぽい印象で(個人の意見です)不気味さすら感じていたのでした、そういえば。たぶん計の生活を脅かす敵、のような気持ちで見ていたからだと思います。潮との間にも割って入ろうとしますしね。
その後、巻を重ねるごとに自分のなかで印象が変化していったのですが、コミカライズは現在の皆川のイメージそのまま、明るくうるさくやたらに勘のいい(野生の勘)コミュ力おばけとして描かれています。
ユキムラ先生すごいなと思った次第です。
コミカライズだけあって科白も展開もほぼ原作どおりではありますが、計が潮にプロレス技を決められる場面で皆川がつい実況してしまうところ、あれはコミックのオリジナルなんですね。すごく皆川らしくて良かったです。
原作とコミック両方見て思ったのは、やはり原作のテンポ感がそのままコミックになっているということでした。
一穂先生の原作は、科白の応酬やモノローグが軽妙で、つい吹き出してしまう面白さが魅力の一つと思っています。勿論しっかりとしたお仕事BLであることが最大の魅力ですが、この語り口も柱の一つと思っています。コミカライズの話を最初に聞いて不安だったのはテンポ感でした。でもその心配はまったく杞憂に終わり、1巻、2巻と重ねていっても全く損なわれず、コミカライズとはこういうことかとまで思うほどです。
小説は計視点でずっと書かれているので、潮のことがよくわからないというジレンマに悩む面もあったのですが(特に原作1~2巻の頃)、コミカライズの潮はそのよく分からない面も含みながら魅力的に描かれていると感じます。ぜひこのまま「おうちのありか」も描いて欲しいです。
「世界のまんなか」木崎了登場ですね。カバー裏にキャラデザ案があるのですが、私の脳内イメージは①のような感じでした。なので本編の木崎はちょっと意外なお顔でもありました。計が可愛いめの顔立ちだから全体のバランスかな。
お仕事BLの真骨頂でもあるお話なので4巻も楽しみにしています。
PSYCHOPATHIC KILLER×GLUTTONOUS KILLER と副題が付いている殺し屋CPのお話、2冊目。
セツナの子ども時代(大食らいで人肉もいとわない所以が明らかに)のお話、雇い主が明らかになりエイゴもスカウトされる話、二人が初めてセックスする話、二人で組んで現場に行く話。と盛りだくさんです。本のほとんどが過去エピソードです。
1巻と2巻でだいぶ内容に厚みが出るので、両方読むことを強くおすすめします。
セツナが大食らいである由来は予想どおりでしたが(1巻にもそれらしきコマがありましたし)、人肉のことは結構想定外でした。空腹を満たすのと愛情を得ることの合わせ技なのかなと。
エイゴはセツナの一部になることを望んでいるから、エイゴとの出会いは運命かも知れないですね。ただ、殺してしまうともうそこで関係が終わってしまうこともセツナは分かっているので、エイゴを殺すことはどうやら無さそう。
act2で初めて顔を現した二人の雇い主ですが、まだおもての顔しか見えていないです。善良そうな人ほど怖いの典型でしょうか。
1巻の最後にはTo Be Continuedの文字がありましたが(「?」付きでしたが)、2巻にはありません。
でもキャラが立っていて勿体ないので、続きが見たいです。
ストーリー展開させるの面倒かも知れませんができれば事件物で二人が活躍する長編を読みたいところです。