難しい!難しかったです。
上巻のレビューで「この二人は圧倒的に会話が足りない」と書きました。
そのことの裏付けのように、下巻ではものすごく語り合います。隠していた本音までぶちまけて言い合いなどします。
10年間の空白期間を経て、ためにためこんだ気持ちを明らかにするのです。
二人のつながりは、子供の頃の思い出と長じてからのセックスに尽きます。どちらも弟・春の、兄・圭への慈しみとその延長、執着の表れでもあり、春は圭に好きだと告げていて、あとは圭が自身で蓋をしてがんじがらめに封じていた自分の本心を認め明らかにするだけでした。
「だけ」と書きましたがそこには相当の努力とエネルギーが必要で、どういう風にこの状況を打開するのか、わくわくしながら読み進めました。
春と圭の衝突が下巻は特に多かったのですが、終盤それぞれが「今さら遅い」と口にする場面があり、そうだよなと共感しながらも、でも何故かしっくり来なかった。
春はこじ開けるのではなく、最後の最後に圭のために引き、圭は自分の心にやっと向き合いました。その展開は最適解だったはず。だけどやっぱり私には圭の気持ちを受け止めるのは難しかった。
春の思いと圭の思いが、すれ違っているようにも見えてしまったのも残念でした。片方が今だと思っているときに、もう片方も同じタイミングで今だと思っていて欲しかった。これは本当にこちらの勝手な思い込みと期待とわがままではありますが。タイミングがずれてる、と判じてしまった段階で、感動するところから離れて行ったと感じました。
瑠璃子さんの存在と彼女に対して圭がとっていた態度は誠実だったのか、というところも同様です。
それから、上巻レビューで書いた秋兄は、いかにも長兄的な鷹揚な人でした。裏はなかったです。
兄弟BLで弟×兄ですが、兄は親に捨てられたよその子(親戚でもない?)で引き取られた身の上。
小さいのに過酷で、その影響で子供の頃から不眠で、いっときは夢遊病の気までありました。
弟は兄を心配して、一緒にくっついて眠ったりしていたのが、思春期になって関係性が変わってしまうという背景が語られます。
現時点では二人ともいい大人です。兄は広告代理店でばりばり働いていて、弟は俳優をしています。
その現在と過去が行ったり来たりする構成なのですが、読みづらくないので、世界観が広がり肉厚で読み応えがあります。
この二人は圧倒的に会話が足りない! からのすれ違いのCPです。
帯の煽りやカバーから、勝手に弟が兄に意地悪なのかと思っていましたが、弟はただただ優しいだけでした。兄を心配しているだけでした。
なのに、兄の方が心に蓋をして鍵を掛けています。大変もどかしいです。
下巻はどうなるのか。それと、この二人の兄(弟の実兄、兄の義兄)の秋兄も気になっています。ただ優しいだけの鷹揚な人なのか、本当は裏があるのか。上巻からは読み取れませんでしたので、下巻に期待。
舞台がアムステルダム。馴染みがなくて、アムステルダム中央駅を画像検索したり、ビターバレンを調べたり、作中に登場するオランダ語をGoogle翻訳したり、ちょこちょこ調べては「お~!」と驚きながら楽しく読書しました。
アムステルダムに3年ほど暮らしている日本人のヤマトは、ある時ひょんなことから港颯真と知り合いになる。港は日本の人気俳優だったが週刊誌の記事がきっかけで引退、国外を転々としているところだった。
二人は友達になり、より親しく日々を過ごす中でだんだんお互いを大切に思うようになる、というお話。
その関係性の変化や、自意識ゆえの葛藤など、瑞々しくじっくり描かれています。
著者のことはテレビで見る程度だったのに、読み始めた最初こそなんとなくチラチラと浮かんだりもしましたが、途中からそんなことは忘れて作品世界に耽溺しました。
無為な日々を送り壁を作り下ばかり見ていたヤマトが、港と付き合うことでどんどん感化されて、前を向いて歩くようになる姿にほろっとしました。「本当に小さくていいから、いいことばかりを思い浮かべてみなよ」という港の科白に、読んでいるこちらもついつい「そうだよなあ」などと思ってしまいました。
港もヤマトに会って変わって行きます。そもそも日本から逃げて来た人です。刹那的な快楽に身を委ねて、その場さえよければいいと考えていた人が、紆余曲折を経てやめられなかったドラッグをやめて、俳優業に復帰した。すごいことです。人間らしくなっていく過程を見届けている気持ちになりました。
巻末に港颯真が復活したときのインタビューが載っているのですが、インタビュー途中にヤマトに電話したりして、にやけてしまいました。可愛い二人です。
そう、ドラッグの蔓延がすごいです。本の半ばまで、普通にドラッグ、ドラッグなので、ちょっと麻痺してしまいました。こんな感じなのかと。煙草を吸うようにドラッグを吸っている。怖すぎます。
親の再婚で兄弟になった二人のお話。
弟の夏芽は兄の雄飛のことがそういう意味で好きで、あるとき泥酔して帰ってきた兄から元カノと間違えてキスをされてしまった日を境に、泥酔して眠る兄にこっそり迫るようになる。私は雄飛は寝たふりをしているのかと思っていたのですが、たまたま眠りが浅かった雄飛が気付いたときに本気で驚いていたので、とても意外に思いました。
夏芽は真面目で思い詰めるところがあるのですが、雄飛は反対におおらかで全然気にしなく大胆な性格。
雄飛は元々夏芽のことを可愛がっていたことも手伝って、むしろ「俺も今フリーだからまたエッチしようぜ」などと言い、二人はセフレ状態に。
夏芽は罪悪感を感じつつも雄飛のことは好きなので兄とのセックスをやめられないのです。ここで、我ながら不思議に思ったのは、背徳感を感じているのは夏芽だけなんですよね。雄飛はもちろん、読んでいるこちら側も色々絆されてしまっていて、気付けば二人を応援してしまう。私だけかな。たぶん雄飛の性格のせいもあると思うのですが、全然○○警察が脳内にあらわれませんでした。うん、やはり雄飛のキャラのせいだな。この手の兄弟ものにある、S味(というか弟に対する意地悪さ)を雄飛からは全く感じられず、それどころか弟が可愛くて甘やかしまくるんですよね。雄飛は作中でクズ男呼ばわりされているのですが、いい意味で抜け感が効いていると思いました。
とはいえ夏芽の方は苦しんでいるので、どうにかしてあげたいと思っていたら、そのことも雄飛が力技でなんとかしてしまいました。
行為をだめだと思いつつ目を潤ませて感じている夏芽は可愛いしで、最後まで楽しく読みました。
同人誌やレーベルの小冊子等等に掲載されたSSを集めた、じえおみシリーズの本。ひとまとめにして読めるのはとても贅沢ですし、読んだことがあるお話も単体でなく他のお話とまとめて読むとまた異なる感慨があります。改めて長いシリーズなのだなあと思います。
キャラクターやそれぞれの関係性が確立しているからこそ「逢魔が時の慈英さん」のような別世界パロディも自然と入って来ますし、キャラクター名だけでその作品世界にすっと没入できるのも長作ならではですね。
収録されているなかで好きなお話は、「あなたへの距離」、「つめきり」、「逢魔が時の慈英さん」ですかねー。なんだかんだ、慈英×臣のお話が一番好き、みたいです。本書を読みながら再認識しました。
気になったことは、シリーズもここまで長くなり元の作品数も派生も含めるととんでもない数になったことで、後追いの読者さんにとってとっつきにくいと思われやしないかということでした。たとえば巻末にでも、シリーズの紹介(誰と誰のお話はこの本、みたいな)を載せてもよかったかもしれません。
転職で他業種の営業職に配属になった柏木は、雨宮から仕事を教わるようにと上司に言われる。
が、雨宮はとても忙しく、ましてや柏木の方が年上で前の会社では管理職でもあったことや、現時点では入社したばかりで担当業務がないため時間的余裕があることから、周囲への目配りがきき他の人のサポートをするなど、立ち回ってしまう。
そのことで雨宮は自分とのやりにくさを感じているようだと察した柏木は、ぎくしゃくした関係を少しでも良くしようと、一人残業する雨宮に声を掛け資料が分かりやすいと褒める、といったところから始まるお話。
主人公である柏木が、どういう経緯で転職したのか、そのことを踏まえて他との関係性をどのように考えているのか、とても丁寧に描かれています。
そのため、読み進めていく上で、柏木が動転して気持ちが揺れ動いたりしても、それを矛盾やブレとは感じず寄り添って読み進められます。
一定の距離感を保ちたいのに過剰に距離を詰めてくる雨宮に戸惑ったり、果たしてそれを自分は迷惑なのか満更でも無いのか、ぐるぐる考えるところに、過去のエピソードが差し挟まれる形です。
ただ一方で、雨宮の気持ちが、途中私は掴みきれなかったところがありました。
頼りになる同僚として懐いているわりには強引に休日に会ったりしますし、雨宮はノンケなようなのにどうなんだろうと。雨宮がゲイ設定だったらもう少しスムーズに思えたかもしれないです。
そういうこともあるからか、本編はエロはほぼ無し。
私は読みながら、これだけ丁寧にじっくり描いている二人の恋を、最終話でいきなり濃厚セックスになだれ込んだら興ざめだなと思っていたので、そこは良かったと思いました。
それで巻末の番外編も朝チュンだったので、そういうものかと油断していたら、電書の最後についていた初回限定小冊子は取り戻すかのようにエロでした。逆に見てはいけないものを見ているような気分に(笑)
些末なことですが、タイトルは「年下上司」となってますが、二人は上司部下の関係ではなくて、同僚(先輩後輩)ですね。
まあ年下上司の方が分かりやすいのでしょうけど気になりました。
「メロウレイン」は「ふったらどしゃぶり」の同人誌等を集めた本。「イエスかノーか半分か」にとっての「OFF AIR」みたいな位置づけです。
その「メロウレイン」が、「ふったらどしゃぶり」のドラマ化を機に上下巻の文庫になりました。
上巻のレビューで「メロウレイン」の素晴らしさについて滔々と述べましたが、下巻の感想も似たようなことを繰り返すことになってしまうので、こちらでは下巻収録のうち思い入れのある作品について書きたいと思います。
下巻の巻頭に収録されている「恋をする/恋をした」。
収録作品はどれも好きですが、特にこのお話が大好きです。
内容は、一顕が結婚式の二次会幹事を代行で行うことになって、新婦側の幹事代行から片思いされているのを、整がSNSで追ってしまうというもの。
一顕からは隠してないからLINEのやり取りを見てもいいよ、と言われていて、整はそのときは「見ない」と答えていたのに、本当に些細なきっかけで相手の女の子のTwitterアカウントを知ってしまい、一顕への本音が包み隠さず呟かれているのを見てしまう。
整は、別に不安に思っているわけでも、優越感に浸っているわけでもなく(本妻の余裕というものを感じなくもないですが)、見た事も無いその女の子の目を通して、改めて一顕の良さを思い、追体験するように惚れ直していく。いいなあ、こういうところ好きだなあ、一顕らしいなあ、と見ていく姿がどうにもいじらしくて、しかも整はこの女の子に共鳴しているので他人と思えなくなっている節もあり、こんなことでもなければ恋を応援しちゃうかもしれなくて。イラストレーターのこととか(「できるって言っちゃった。チュートリアルみてがんばろ。」 → お前のために彼女はがんばったんだよ)、一顕の指がきれいなこととか(「途中から指を肴にお酒飲んでた」→ 俺も指好き)、見ようによっては鼻持ちならなく映るかもしれないのですが、私はこのときの整が背反ぽくてとても好きでした。
このあと「恋をした/恋をしている」という続きのお話で、覗き見したことを謝っていて、言わなきゃ分からないのにそういうところもちゃんとしていて好き。「見ていいって言ったでしょ」と返す一顕ももいいなあと。このとき一顕は整のことをまた好きになっているんだろうなと分かるのも良きです。
このお話のほかにも家族の話とか、同僚の話とか、色々世界が広がっていく一方で、秘密にしないといけないために二人だけの世界が閉じているのの対比が、とてもバランス良くてこのシリーズをとても気に入っています。
実に実に中身の濃い、本編の後日談が詰まった贅沢な作品集でした。
「メロウレイン」は「ふったらどしゃぶり」の同人誌等を集めた本。「イエスかノーか半分か」にとっての「OFF AIR」みたいな位置づけです。
その「メロウレイン」が、「ふったらどしゃぶり」のドラマ化を機に文庫になりました。
ソフトカバーの「メロウレイン」は既読で、ほとんど同じ物とわかっていますが迷わず文庫を購入。
何度読んでもいいなあとしみじみ、一顕と整の生きる世界に浸り、幸せな気持ちになりました。
「ふったらどしゃぶり」には思い入れがあり、この二人がとても好きなのです。
本編の後日に当たる本書には、本当に他愛の無い二人の日常が描かれています。
朝起きて、会社に行って、帰ってきて夕飯食べて、お風呂に入って眠る。休日には一緒に遊ぶし、平日も時間が合えば飲みに行くし、社内で見かける時もある。
本当に普通の、息をするようにごくごく当然の、ありふれた毎日です。
その日々がとてもキラキラして見える。好きな人が居て、なんてことのない言葉を交わして、共に笑ったり、ちょっとムッとしたり、仲直りしたり、非日常を楽しんだり、そうして一緒の時間を過ごしていく幸せの積み重ね。
なんて尊いのだろうと思うのです。それが一冊にまとまっている(文庫は上下巻ですが)。ページをめくるたびにあたたかい気持ちになり、キュンキュンしたりじわっとするのです。読書がとても贅沢な時間に思えます。
忽滑谷刑事と柳川刑事の日常勤務、第6弾。の後編。
前編に引き続き後編も段組ではありませんでした。
後編は2部構成だったので、「***」のところまでを前編に入れればよかったのにと思わないでもないですが(字数の関係ですかね)、そんなことよりも、後編の後半! まさかのまさかの20年後のお話で腰が抜けました。
前編のお気楽な感じからは全く想像もしておらず、何度も「五十を過ぎた今は」というくだりを繰り返し目で追ってしまいました。
そうなんです、柳川さんが五十を過ぎていて、つまりは忽滑谷さんも五十代後半なのでした。
本編の6巻の書き下ろしの「大好きなお父さんと吸血鬼」よりもさらに後のお話です。
蓮が30歳になるとか今度結婚するとか、情報が多すぎて内心でわーわー叫んでしまいました。
この頃には忽滑谷さんはぐんぐん出世していて、警察官になった蓮をもてる権力の全てをつかって裏からサポートしていると書いてある。
その辺りのお話を読みたいぞー。この数行の情報からむくむく想像の翼が羽根を広げ、ちょっと泣きそうになってます。
暁とアルは違う街で暮らしているのかな。そのことは書いてなかったけど、でもそうなのかなとか。
「忽滑谷刑事の事件簿」は、もしかしたら忽滑谷さんの出自?とか描かれたりするのだろうかと読む前には考えていたのです。
たとえば暁と高校時代の友達だというけれど、暁が蝙蝠を好きだってどうして知っているんだろうと謎でしたし。
「事件簿」で柳川さんが酒入さんに、高校時代の忽滑谷さんのことを質問するくだりがありましたが、それは空振りに終わってまして、同じ回でうさぎ柄の服を着ていたこともあって、今後併せての答え合わせのエピソードが来るかなと思っていましたが挫かれました。
でもこの20年後の会話からあの世界の続きが片鱗でも窺えたことで、自分のそんなゲスの勘ぐりみたいのはどうでもよくなりました。
イケオジの忽滑谷さんはミステリアスなイケオジのまま、柳川さんやほかの刑事に懐かれつつ、それなりに愉快な老後を送るのならそれはそれでいいのかなと。
そこへ、暁やアルや蓮が遊びに来たり、鳩野さんや酒入さん、まだ見ぬ蓮の奥さんとかその後生まれるかもしれない赤ちゃんとか、みんなでわいわい日々を過ごす未来は、考えるだけで殊の外気持ちがあたたかくなるもので。
おまけの小冊子の後半の数ページでこんなわくわくした気持ちになれたことがとても有り難いです。
忽滑谷刑事と柳川刑事の日常勤務、第6弾。の前編。
表紙をめくって違和感。段組じゃない! 6は前編後編に分かれているせいなのかも知れません。ずっと2段組だったのであっという間に終わってしまいました。しかも話が半ばなのでコメントが大変しづらいです。
柳川さんが旧友から「結婚します」という連絡をもらい、祝福しつつもつい自らを顧みてしまう。
自分はこんな人と結婚したいなと妄想していたら、警察署に体現したような美女が、というお話。
「5」で相棒にときめいたことはひとまず気の迷いと脇に置いて、運命の出会い?に懸命な柳川さん。
この美女は、女性ではなく、……嗚呼可哀相だ。さて、このあとどうなるのか。
そして忽滑谷さんの出番は!(科白「あれ?」だけだったよ。タイトルは「忽滑谷刑事の事件簿」なんだよ。号泣)