プロローグのみ雑誌で読んだことがあり、先が気になっていました。
このシリーズを読むのは初めてなのですが、本書は王道中の王道といってもよい正統派のオメガバースで、色々なアレンジや派生した設定が多くなっている昨今、却って新鮮に感じました。
まだまだ序盤、どうやら運命の番らしい二人が出会ったところまで。情報が少ない状況ではありますが、このままだと本当に王道の展開かも知れないです。
メインカップルの旺と李里耶(李里耶なんて、旺の名前すら知らない)のほか、李里耶のナイト然とした幼馴染みの圭騎、絵に描いたようなクズ男颯真、この4人の今後がどうなるのか。そもそもカップルの片割れである旺のプロフィールが全く謎です。2巻を待ちます。
幼馴染みとはいえ、圭騎が李里耶のヒートに全然反応しないのは、番がいるからなのですね。
それにしても幸村先生の絵がものすごく美しいです。大富豪の内輪のパーティーはこんなにも絢爛豪華なのか、と別世界過ぎるお話ですが、それもこれもこの美々しいキャラクター勢揃いな状況が設定を後押ししていると言えます。
良かったです良かったです。なにから言えばいいだろう、とにかく良かった。
「明烏夢恋唄」に続く、かすみ楼シリーズの2冊目。
前作の「明烏夢恋唄」と同じかすみ楼が舞台なので、同じキャラも登場して、その後が見られて嬉しかったです。翠蓮も、豆腐小僧も白うかりも大好き。
前作は、一般人が妖かしの世界に行くお話でしたが(助けた亀に連れられて竜宮城へ、に近い)、本作は、陰陽師の東御門家の長男が主人公で、かすみ楼から結界を張り直すように依頼を受けるところから始まるお話。
本来は妖かしとは対極の、魔を払うのがお仕事の東御門家。主人公の紺は小さいときから寧ろ人間より物の怪が大好きで、今回も反対する父親を押し切って依頼を受けます。
かすみ楼に居る物の怪と仲良くなったり(そもそも妖かしを好きなので垣根が低い)、物の怪の生態や文化にわくわくしたり、その好奇心旺盛なところが可愛らしいです。
紺が最初に仲良くなったのは、鬼の茨木(しき)と、がしゃどくろの瓦楽(がら)で、交流を深めていき信頼関係を育んでいく様子がとても微笑ましいです。
紺の恋のお相手の茨木は、かつて斬られた自分の右腕を探しているのですが、右手に親友の酒呑童子の角を握ったままになっているから、というのがその理由。
そもそも腕を斬ったのは人間で、紺のご先祖である東御門家(陰陽師)と源氏(武士)の手にかかったという経緯。
ほんわかしている作品の雰囲気が、この相関関係が明らかになったときにぴりっと引き締まります。
つまり二人は敵対関係にあるということなのですが、前半で明らかになるので、この先どうなるのだろうというドキドキ感が募ります。
お話の作りも破綻なく、全6話できれいにまとまっていて、読みやすいしキャラクターは生きていて可愛いし、なんといっても絵が丁寧で美しいです。
名も無いキャラまでもが可愛いですし、着物の柄や調度品などのディテールも全然手を抜いていない。
また、紺が結界術を得意としている設定なのですが、その結界術で魔を守っているのが良かったです。本来の使い方は魔を閉じ込めて人を守るもの。同じ力でも使い方が異なること、そういう事柄一つとってもキャラや関係性や作品の裏打ちになっています。無駄なものが何一つなくて、全1冊という中に全部詰められているのが凄いです。
全体的に雰囲気がよくて世界観が完成されていて、アニメにならないかなあと夢想しました。
「アヴァロンの東」と同時に刊行された本書。前作は個人的に少し好みから外れていたので、あまり期待せずに(すみません)読んでみたのですが、こちらはとても良かったです。
前作のメインの二人イグナーツとヨシュカも登場します。ヨシュカの兄、マティアスの物語です。
マティアスは、泉を守ってきたハイメロート家の嫡男で、司祭で、奇跡持ちと言われる特別な力を持っています。
彼がまだ子供の頃、教会巡行をしている時に出会ったのが鍛冶屋の息子であるレーヴェ。危ないところを助けられたのが縁で、レーヴェはマティアスを守る騎士にと望まれて、村を出て教会に引き取られることに。レーヴェの人生の転換点です。
二人はお互いをとても大切に思い、尊重し合い、司祭と修道騎士という主従でもあり親友でもあります。
BLなので自然と恋人にもなりますが、マティアスがこんなに幼くてネンネでどうなるだろうと思っていたら、それなりにどうにかなりました。
マティアスとレーヴェの恋は実に可憐で、小さな恋の物語を読んでいるようでした。
マティアスがいるところ、常にレーヴェあり、というくらい、絵に描いたようなベストカップル。
出会って間もない頃、レーヴェがマティアスのためにロッキングホースを手作りするのですが、そのプレゼントをマティアスがずっとずっと大切に持ち続け、大事な場面ではお守りに持参するなどのエピソードが、彼のとても清廉で愛情深い性格を表していてとても良いです。
ストーリーの肝になる、困難の打開策についても、二人の信頼と息の合った連携があってこそで、かつてのエピソードと符合するなど、ひとつひとつが破綻なく効果的に出来ています。
「アヴァロンの東」に出てきたのと同じ場面が本書にも出てくるので、同じ場面を併読してこっち側とあっち側から楽しみました。一瞬邂逅したあのあと、マティアス達はこんなに大変なことになっていたのかということを知りました。
多角的に楽しむという読み方ができるのも、視点違いのシリーズ物ならではですね。
忽滑谷刑事と柳川刑事の日常勤務、第2弾。
聴き込みをしているときに忽滑谷さんが聴き込み相手のDV被害の可能性に気が付いて、変化球的な手法でDV夫を逮捕するお話。
警察官らしいエピソード。そして柳川さんはやっぱり色々気付きが遅くて(というよりも観察力が人並み)、忽滑谷さんがいくつかの事象をヒントに可能性をさぐり、どうにか表出させ、警戒されないように手を尽くしているというのに、その間聴き込み相手の服装から栗のフラペチーノを連想したりしているのが面白いです。
忽滑谷さんは気が付きすぎるくらいの人だから、余計に柳川さんに苛々していそうですが、「1」との違いは柳川さんの中に少し忽滑谷さんへのリスペクトが見えてきているところですね。
まだまだ距離はありますが、すこーしお互いの呼吸が分かり始めているでしょうか。
日常勤務なので、アルとか暁とかは全然登場しません。(「1」は暁が出ましたが)
そうそう、柳川さんの審美眼がここでも窺えます。いや待て、この隣室の学生はもしや。
本編を最後まで読んだので、我慢して読まずに保管していた「忽滑谷刑事の事件簿」に着手し、吸血鬼ロスを埋めていきます。
続きものか一話完結か分からなかったのと本編のミスリードを避けたためです。やっと読める。
「1」は、忽滑谷刑事と柳川刑事のある日の昼休憩の一コマでした。アルは出ません。
ここに描かれた柳川さんの言動を思えば、本編6巻の逮捕劇の立ち回りは相当な成長が感じられます。
「1」ではまだまだ二人の間には相当の距離があるようで、忽滑谷さんも指導が大変でしょうし、柳川さんも働きにくいだろうなとお互いに同情を禁じ得ません。
暁の美形に気付いた柳川さんの審美眼が微笑ましかったです。
こう舵を切ったか、と唸る思いでした。
配信者ならではの方法で悪事を明らかにして炎上を誘い、自分たちは行方をくらまし沈静するのを待つ。
今どきだなあと思い、録画(盗撮)・録音(盗聴)が普通になっている状況を改めて認識し薄ら寒くなったりもしました。
配信で人気になったコマがドラマに出演したのが上巻。そこからテレビ界の悪しき常識に砂をかけるわけなのですが、横やりで降板になっても泣き寝入りしないというか、配信者だから強いというか、いや違うな、コマはあくまでも駒なので思い入れがなく、サイは俯瞰して計算して仕掛けている側なのでこちらも思い入れがない。
仕返しに対する熱は全然なくて、クールに立ち回っているんです。
いま現実でもこれまで泣き寝入りし搾取されてきた側が色々な理不尽を明らかにすることで、悪弊が変わってきつつあります。(もしかしたら表に出ない、裏工作がもっと巧妙になっているだけかもしれませんが)
そういう現実がここに現れていて、配信とテレビの構図も現れていて、面白いなと思いました。
恋愛面に限って見てみると、常に達観して世の中を睥睨しているサイが、本音を吐露する場面(11話)に尽きるのですが、これも一筋縄ではいかないというか、あくまで聴衆を意識して本音を配信、コマの声までも電波に乗せていいところで配信を切るというプロデューサーとしての顔を残しつつ、配信を切った後は本当の本音で二人の会話になるという。本当にクレバー過ぎますね。
これまでも配信系のコミックいろいろありますが、ここまでプロデュースに特化したキャラクター(しかも隙がない)見なかったような。
サイの計算が破綻しないのはコマのキャラ故なんですよね。コマがもう少しプライドが高い人だったら、ここまでサイの手のひらの上で転がされてムッとしたり距離を置いたりすることもあると思うんですよ。コマが全力で色々な事象に向き合うと分かって仕掛けていることばかりなので、見方によってはコマが馬鹿にされていると思ってもちっともおかしくない。コマはサイにベタ惚れだから成立している話なので、サイがコマの言動その他を微塵も疑っていないということの現れで、つまりは最初からものすごく相思相愛なのでした。
新しくもあり、現代の縮図でもあり、割れ鍋に綴じ蓋で相思相愛全乗っかりのお話でした。脱帽でした。
YouTubeでフォロワー数を稼ぐために、BL営業をはじめたサイ。
相手は後輩で、以前自分に告白をしたことがあるコマ。
コマはサイを好きだけど、サイはコマに恋をしているわけではなくあくまでも営業。
結果このコンセプトは当たり、サイコマチャンネルの登録数がメキメキ伸びていく、というところから始まるお話。
サイの感情が見えづらく、一見ただ頭がいいだけのヤリチンクズ男に見えるのですが、もともとコマのことは素材として気に入っているのがポイントです。
芸能の仕事を諦めて田舎に帰ろうとしているコマに声をかけたし、ユーチューバーになる前TikTokをしていた時代にも、コマの動画をたびたびアップしたりしています。
二人のチャンネルとコマのプロデュース志向もあるサイの意向でコマはドラマのオーディションを受けて受かり、ドラマ出演でコマに人気が火が付いたところでとりまく環境が変わっていって上巻が終了。
芸能やスポーツをテーマにした物語でよくある、これまでの二人三脚もしくはグループ活動を続行していけない環境の変化が展開していきそうです。
コマの方はサイの気持ちがあやふやでも、このまま二人のチャンネルを続行していくだけでよかったかもしれないけれど、サイはコマを手のひらの上で転がしてプロデュースすることで、自分のアイデンティティを支えている向きもあったように思うので、今後それがどう変わっていくのか。いまはまだ水面下にあるサイ→コマの感情がどう恋愛に変わっていくのか。下巻を読むのが楽しみです。
上下巻だけにゆっくりとしたペースで心情面が描かれていて、対照的に環境変化はアップテンポで描かれており、読み応えを感じます。
弟に欲情する兄と、その兄に執着する弟のお話。
兄弟といっても、弟は施設から引き取った養子なので実の兄弟ではないのですが。
二人のひりひりした関係がとても良かったです。兄の方は弟に嫌われていると弱気になり、一方で弟の顔やら身体やら色気に当てられて欲情する後ろ暗さを抱えていて、その複雑な感情が読み応えありましたし、弟については兄への独占欲や執着心が顕著で矢印がわかりやすく、その辺りはとても大好物でした。
子供の頃の出会いから行き違いを経て、ギクシャクした関係性が氷解するまで目が離せず、楽しく読みました。
前半が特に好みで神評価にしたかったのですが、どうしても気になってしまったのが、性行為を校内のあちらこちらで行うことです。空き教室、保健室、屋上などなど、そんな目に付くところでやりまくるのはどうなのか。血は繋がっていなくても兄弟で、特に弟は美形で目立つということなので、キスですらばれたらやばいのに挿入ありのセックスを人目を憚らずするのはまずい。
せっかく兄弟で同居しているのだから、家だけにすればいいのになと。家だって両親もいるし隣近所の目だってあるので安全ではないけれど、誰にも見えないところで密かに行った方が背徳感が更に上回ってより盛り上がるような(個人の好みです)。
兄のクラスメートの佐竹には行為を見られていて、そのために危ない目に遭うわけなので(そこもいきなりでしたが)その布石かもしれません。
落着後、いろいろ我慢するのをやめた兄が弟を煽る場面。佐竹には聞かれてるし保健室でやってしまうのはアレですが、余裕をなくした弟が飛んでくるのは可愛くてよかったです。
尾上先生の作品は1945シリーズしか読んだことがなかったので、他のも、と手を伸ばした次第です。
本書「アヴァロンの東」と「ルドヴィカの騎士」は2冊同時刊行だったようで、一つのシリーズになっているとのこと。
架空の王国の史劇でした。魔女や奇跡の泉などが登場し死者が生き返ったりもしますが、ファンタジーと言うにはもう少し骨太な印象を受けます。
王政の両輪であるはずの王家と教会が対立し、王家に仕える騎士であるイグナーツと教会側の修道騎士ヨシュカが、恋人同士でありながら敵味方に分かれるというお話で、この設定だけで大変わくわくしました。
ですが実際に読んでみて、あれ?と思うことも多く、特に前半は骨太な世界観とBLらしさとの乖離が目立つように感じ、二人が隠れて逢い引きしてイチャイチャすればするほど、今そういうことをしてる場合じゃないなあとこちら側が冷めるという事態に。
せっかくの設定が勿体ないと思ったので、サービスシーンはもっと少なくしてもよかったかも知れないです。
ただでさえ姫感の強いヨシュカが男に見えなかったり、よがり過ぎだったり、個人的には残念でもありました。
ヨシュカが生き返ってからのイグナーツは少し駄々っ子が入っているようにも感じられ、アヒムの言動と末路も納得の行くものではなく、すみません、どうも首を捻りながらの読書になってしまいました。
巻末SS「されどそれも佳き日」は、料理のできない二人が可愛くて楽しかったです。
こちらではヨシュカも「面倒だから先に行って片付けて来い」と言うなど、男を感じられたのも良きでした。でも出来たらラストシーンでは失敗スープをつくったのはヨシュカ単独ではなくて、二人での方がよかったです。
ざっくり言いますと、助けた亀(→豆腐小僧)に連れられて竜宮城(→かすみ楼)に行ってみれば、絵にも描けない美しい乙姫様(→烏天狗の翠蓮)に出会うところから始まるお話。妖かしの登場する和テイストのファンタジー。
お話もキャラクターも可愛かったです。絵の書き込みが、とても細かいところまで拘って描かれていて、木火土金水の設定も利いていて、世界観に引き込まれました。
人間と妖かしの恋なので、思いが成就したこの後、困難も色々あることが想像出来てしまいますが、もうそこには敢えて目を瞑り、主人公の暁人をただただ応援して読み進めました。
翠蓮の瞳がきれいな翡翠の色とあり、モノクロ画面なのに瞳の美しさが伝わってきます。カラーでないから余計になのか、脳内補完による翠色の美しさを感じるのです。そういえば同じ作者の「ルビーレッドを噛み砕く」でも同じようなことを感じたことを思い出しました。
夜の闇にぼんやり浮かぶ提灯の火、湖面に映るきらびやかな廓の明かりなど、かすみ楼の幻想的な雰囲気がとてもよいです。
キャラクターではかすみ楼の帳場を預かる白うかりと、豆腐小僧が可愛くて、お気に入りです。