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本作は、17歳の高校生同士の絆を描いたもの。ラブではないけど、これも甘さ抜きのラブなのかもしれない…、そう考えさせてくれるタイプの作品で、個人的にはめちゃめちゃ好みのBL類型です。こういう作品を書ける作家様に弱い。
三兄弟の末っ子で、優秀な兄たちと比較されて親から邪険にされている岩浅。ヤクザと男狂いの美しい母親の間に生まれた高津。二人は岩浅の祖父母が所有するビルに住む同い年の幼馴染みで、毎日がつまらなくて気が狂いそうになる日々を、酒や煙草、暴力的な行為とセックスで紛らわせている。
高津の母はヤクザの愛人で、男に捨てられると自傷行為をして何度も死にかけていた。その度に高津が少しずつ壊れていく姿を近くで見張り、護っていたのが岩浅だった——
タイトルは高津を比喩しています。父親譲りの凶暴性を持て余す彼は、売られた喧嘩は片っ端から買いまくるうえに、強いのがムカつくと方々に恨みを買っていました。
母親の影響からか、高津は女嫌いで女が抱けません。彼が唯一心を許して懐いているのは岩浅だけ。岩浅が受けた嫌がらせには必ず報復し、興奮して凶暴な衝動が生まれると岩浅にセックスをせがむ。岩浅は正直、面倒臭くなっていたけれど、高津が自分に秘密にしていたことがあると知り、妙な嫉妬心が芽生えます。
岩浅はいつ死んでもおかしくない高津に首輪をつけているのは自分だと自負していますが、その自負心がどこからくるのかわかりません。たとえ高津が時おり身も心も自分に委ねきって安心している姿に欲情しても、それは恋情からくるものじゃない。恋はもっと柔らかくて甘いものだから…。
岩浅が高津に対して抱く思いの変化をたったの一文で表現してしまう、淡々とした力強い文章力に圧倒されました。
本作は作者様の出身地、福井を舞台にした方言BLとしても楽しめるのではないでしょうか。時代的にはヤンキーというより、不良や非行少年と呼ばれた若者たちを彷彿とさせ、ノスタルジックな邦画世界の味わいがあります。
これほど、イラストがドンピシャな作品はないと思いました。自分の中では石原先生の『テッペン…』の世界観と非常に重なるんですよね。この『のらいぬ』は、作者様の作品の中でも忘れられない個人的名作として記憶の中に棲みついています。
SHYノベルスの路線、甘すぎず、時々マニアック臭がして前から大好きなんですけど、近年刊行数が少なくなってきているので不安です…。どうかレーベルがなくならないで欲しいよ〜
自分を取り巻く全てに腹を立て、行き場のない焦りと怒りの捌け口を暴力とSEXに求めているかのような高津。そんな彼を戸惑いながらも受け止めてやる幼なじみの岩浅。
一見しただけでは「年下の彼氏」を書いたのと同じ著者だとは思えない。
BLというよりはシリアスな少年漫画のようなタッチで、暴力シーンやSEXシーンの描写がいささか痛い。主人公達の言葉が福井弁ということもあってか、独特な雰囲気のある作品である。
高津を按じながらも、自らも己の若さを持て余し思うさま欲望に呑み込まれていただけの岩浅が、やがて相手のことを思いやってやれる男に成長していく過程がていねいに描かれている。こういう心理描写の細やかさは、やはり菱沢さんらしい。
その感情を恋でも愛でもないと言いながら、高津の傷に痛みを覚える岩浅。
傷だらけになりながらも、互いにとってお互いこそが何よりも大切でその他のことは皆、取るに足らないのだと気付く。これは、やはり、愛なんじゃないだろうか。
最後の一行に、ふたりのこれからは決して暗いものではないのだと安堵する。
好き嫌いは大きく分かれるとは思うが、不思議と心に残る作品。