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原田さん作品を初めて読んだのはベトナム戦争帰りの男が主役の話だったのですが、今回は舞台は日本で関わってくるのは第二次世界大戦。
といっても世界観は全く違って、こちらは現代日本舞台とした日常ファンタジー。
ファンタジーというより夢の様な、幻の様な、という表現が近い気がします。
主人公の千郷が祖父の元実家である長崎を訪れ、その先で加納敬吾と名乗る謎の青年に出会います。
戦争資料館に展示されている軍人達の中に若き日の祖父の姿と名前を見て、それと同時にその同じ写真の中に加納敬吾の名前とそして彼とそっくりな人物が写っているのを見付けます。
最初、千郷は加納の祖父か親戚だろうと思うのですが、加納自身がそれは自分自身だと言って去って行き、以来、千郷は加納の足取りを過去を探ろうとして長崎のあちこちの場所を巡り、そして加納の過去を知る事となります。
その過去とは加納と、加納の憧れの年上の従兄弟・優一郎との切ない恋情。
優一郎には恋人が居て、生きて戻るか分からない戦前へと行かねばならない。
その前の夜に、加納は慕っている優一郎と宿へと泊まるのですがそこで加納が己の腕を切り、その血を杯へと滴らせ優一郎も同じく血を杯へと落して、互いにその杯を飲み、生きて帰ってきて欲しいと加納は血の滲む想いで告げるシーンが美しくも切ないです。
キスもセックスもありません、官能的ではなく静粛な儀式の様なその血の杯が切ない。
千郷は彼女持ちで最後まで彼女を好きでいるので千郷と加納の関係は所謂BL的なものではありません。
戦争を知らない世代の千郷が、その加納の想いと戦地へと赴いた青年達と、そして残された人々の過去を知った事で深く永い愛が存在している事を知る。
美しくも切ない話です。