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kare no rakuen
表題作と「まだ見ぬ夢の」の二編収録されています。作者様の耽美寄りな作品と今市子さんのイラストは究極の組み合わせですね…。
表題作は、従兄弟同士による監禁愛。今読むとヤンデレです。密室で攻めが見せる静かな狂気と、彼に支配される受けの関係性は、やるせないのになぜか幻惑されそうになる危うい美しさを孕んでいます。舞台がベルリンの壁崩壊前の西ドイツなのも非現実性を引きてているのかもしれません。
悦司と文彦はいとこ同士。
幼くして母親に捨てられた悦司は、文彦と兄弟のように育てられました。傷付きながらも強がる悦司の悲しみに寄り添う文彦でしたが、思春期を迎えると悦司は変わっていきます。荒んだ心を持て余した彼は、自分を憐れむような文彦にまるで罰を与えるかのように、彼を凌辱するのです。
成人して西ドイツにある同じ製薬会社に勤務していた二人。短い休暇を一緒に過ごそうと、悦司は新しく購入したリゾートマンションへ文彦を招待します。
なにもかも文彦を閉じ込めるためだけにしつらえた部屋の中で、日中は姿を消し、夜は部屋に戻り文彦を抱く悦司。外に一歩も出してもらえず、日にちの感覚すら失われていく文彦は正気を失いかけますが…
悦司が文彦を閉じ込める前は暴力的に文彦を抱いていたようなので、これはもうDV共依存的な関係そのものです。
愛を知らない人に愛を伝える難しさ、痛ましさを感じました。監禁するほどの独占欲も、一方的に憐れむことも、エゴなのではないか。相手に自由を与えられないのなら、愛とはいえないのではないか…?
どうも、文彦の父親と悦司の母親の関係も怪しいんです。兄妹の間で確執がありそうなのですが、愛憎のようなものが仄めかされています。…耽美ですね。
終わり方がこれぞメリバ!といった感じなのに夢のような美しさしか印象に残らないのは、イラストの力が大きいと思います。
もう一つのお話「まだ見ぬ夢の」は、表題作よりも尺が長めのファンタジー要素を含んだもの。こちらは父親同士が親友の幼馴染みもので、14歳の隆裕が5歳年上の祐一へ向ける切ない片思いが描かれています。
祐一は隆裕の兄・和行と恋人同士。なのに、和行は祐一を残してイギリスに留学してしまいます。その間、祐一は自分を束縛する父親から逃げるように家を出て、知り合いのつてで間借りした部屋で和行から連絡を待ち続けていました。
隆裕は、心細そうにしている祐一の助けになりたくても、何の力にもなれない自分の不甲斐なさに苛立ちます。ところが、祐一のいる部屋を訪れた日の帰り、転んで怪我をした隆裕に声を掛けてきた女から不思議ないい伝えを教えられて…
和ファンタジーです。タイトルにも雰囲気がよーくでていて、とても幻想的なんですよね。家出した祐一の格好が、とうに卒業した高校の制服みたいだったり、彼が間借りしている部屋が橋を渡った向こう側に位置していたり、彼岸のにおいがプンプンするところもゾワっとする。
早く大人になりたかった少年の願望は本当に叶えられたのか、ただの妄想だったのか…。そして、あの出来事は10年後の隆裕にとって幸福な思い出となったのか、それとも罪悪感しか残らなかったのか…とても気になるところです。
隆裕からしたら苦い結末にはなりますが、祐一の方はハッピーエンドに向かっていくので、このお話もメリバといえるかもしれません。
BLというより、文芸寄りの作品です。とにかくイラストとの至高コラボが神!
それと、傷口に入った異物を口で吸い出すシーンが両方のお話にでてくるのですが、ぼやかした濡れ場よりも一層官能的で、ドキリとさせられます。