bonny
yukishnobu
たけうち先生が描くお話には現実を突きつけるようなシビアな面があるので、甘いラブは期待しない方がいいですね。本作は90年代の作品ということもあって、現在のBL小説とは別物としてとらえた方がいいかもしれません。通販サイトで奇跡的に残っていた最後の一冊を、幸運にも新品購入できました。
以下、アスタリスクで区切った部分はガッツリめに流れを書いていますので、ネタバレ回避してください。
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主人公は巌雄山乗光寺に代々仕える桜部で、十七代樋口烈山の孫、匡成(まさしげ)。後継者として期待され、烈山の下で修業中の身にある彼と、中学を卒業してすぐに弟子入りしてきた綾瀬は情交を結ぶ間柄にあった。匡成が二十五歳の年、山のシンボルでもある桜木「吟老」が枯れてしまう。かねてから二人の関係を憂慮していた烈山は、匡成を後継者として不適任とみなし、先代のつてで磐木という人物が経営する観葉植物販売会社「グレナダ・プロダクツ」へ彼を送る。
グレナダ・プロダクツの所在地、七島に到着直後、匡成は高校生くらいの男子生徒二人連れと出会い、島を案内してもらう。偶然にもそのうちの一人が磐木の孫、千だった。千は日常生活や対人面において支援を必要とする繊細で純粋な少年で、彼には植物と心を通わせる特殊な能力があった。初めは千の扱いに戸惑っていた匡成も、無垢で汚れのない彼に心を奪われていく。
吟老は以前にも花をつけない年があったと磐木はいう。それは当代の烈山が襲名した年で、どうやら彼は当時のことをよく知っているらしい。匡成が導かれるように七島で見つけた、岬の飛び島に一本だけ佇む雪柳。烈山の庭にも丁寧に手入れをされた雪柳があったことを思い出す。そして烈山が匡成と綾瀬を引き離し、匡成ではなく綾瀬を山に引き留めた理由とは…
千の存在は、匡成と綾瀬の関係に変化をもたらします。肉体的なものから、精神的な繋がりへと。彼らが新たに迎えようとしている関係性は、常に気を配り、手入れを続けなければ枯れてしまう植物の育成に似ていて、皮肉にも彼らの使命そのものと重なります。雪柳はその象徴なんですね。読み終わった後にタイトルを振り返ると、「しのぶ」という言葉の意味が解け、深く心に沁みてきます。
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たけうち作品って、何気に受け攻め問わずホイホイ貞操破り(られ)がちなんですよね。そこは苦手に感じる人がいるかも。個人的には男女間だと特に何とも思わないんだけど、男同士でやられると無性に萌える。。
エンディングはメリバです。これまでレビューしたたけうち作品はオール神、オールメリバ!ファンタジーより日常系が好みなせいもあるのですが、心打たれたり励まされるお話がハッピーエンドに限らないというレビュアーの嗜好ゆえ、ご容赦くださいませ(笑)
柔らかく優しい雰囲気のイラストが、シリアスなお話のトーンを中和してくれていました。ストーリーも挿絵もトータルでとても好きな作品です。