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shinon
上手く言えないけれど、とても任侠味あふれる展開。
ファーストエッグの読後感がとてもよかったので、
谷崎先生の随分昔の人気作「真音」を選んで読んでみた。
タイトルが意味するものは、未だ分からないけれど、
読んでいて、進藤がやっと味わう「人らしい生活」に戸惑う様子が不憫になる。
官能場面は、後半に少し。殆どが、心情描写。
天涯孤独になった訳あり21才の進藤が、3月に少年院を出て、母の借金の保証人になり、母は蒸発。
母の代わりに借金を弁済することになる。
職場の工場に取り立てが来たせいで、その日に解雇。
不憫に思った、取り立て屋の槇原が、進藤に住み込みのパチンコ屋を斡旋する。
飯屋の「さめ」で初めての給与から返済をする進藤から、数枚しかとらない槇原。
この場面が印象的。
槇原と食事をする最中に、母がひき逃げで事故死した報道をみる。
関わる人は経験豊かな人ばかりで、余計な事を聞かないし、言わない。
黙って、母の遺体安置場所を「さめ」の客が調べる、「さめ」のおかみが槇原に「連れてってやれ」と告げる。
槇原は、進藤を引っ張り、遺体を引き取りと葬儀まで段取りを打つ。
「どうして、こんなに・・(親切にしてくれるのか?)」、言葉が詰まる進藤。
生まれて初めて受ける他人の親切に、途惑う。
社会のどん底まで落ちて、這い上がる気力が沸かない進藤だったけど、
闇金の督促役の人達が、進藤にとっては良い人達だった。
そして、進藤は活路を得る
・・・但し、変わり者の本部長の愛人として、だけど。笑
生きてさえいれば、良い事がきっとあると思える展開で、凄く良かった。
2009年の作品の文庫版。
続編も順次文庫化されるとのことです。
極道の世界を描いた物語でありながら、この1巻では派手なドンパチは一切なし。
淡々とした筆致の中に浮かび上がる人情の機微、キャラクターの人間味といったものが大変味わい深い作品です。
あらすじ:
失踪した母親の借金を背負わされた溶接工の青年・進藤(受け・21歳)。
工場をやめさせられ、ヤクザの槙原に連れて行かれた先で出会ったのは、暴力団組織の本部長・富樫(攻め・30代半ば)。
進藤を気に入った富樫は、度々彼のもとを訪れ…
進藤は寡黙で硬派な好青年。
富樫を恐れつつも彼の口説きには一切応じず贅沢も望まないあたり、一本筋の通った人物です。
そんな彼が富樫により少しずつ開発されていく様はなかなか色っぽく。
周囲から「野犬」と呼ばれるような、色気とは程遠い生活を送ってきた青年(童貞)が乱れる姿にはドキドキさせられました。
富樫は強引で傲慢で威圧感たっぷりのザ・極道ですが、どこか言動に温かみや愛嬌があり憎めない人物。
気まぐれに進藤の職場にフラリと現れては、食事を奢ったり、軽井沢の豪邸に連れて行ったり…と、何かと進藤の気を引こうとする姿がチャーミング。
進藤の母が亡くなった際の行動にも隠れた優しさが見て取れます。
この1巻は導入部のような内容ですが、掴みとしては完璧。
進藤の母の死の真相、
富樫の組での派閥争いの決着、
進藤の今後の身の振り方…等、
気になる事柄が多く、次巻の発売が待たれます(ノベルス版はすぐ読めますがせっかくなので書き下ろし付きの文庫で揃えたい…)。
居酒屋の女将さんと富樫の丁々発止のやり取りも微笑ましく、生活音が聞こえてきそうな日常描写に引き込まれます。
富樫、進藤の他にキーパーソンとなりそうなのは富樫の部下・槙原。
槙原視点で物語が展開する箇所も多く、富樫と進藤の人物像を客観的に分析する役割を果たしています。
巻末の番外編「邂逅1」も槙原視点の話。
当時23歳の富樫との因縁めいた出会いが描かれており、ドラマを予感させます。
書き下ろし「逢瀬1」は、進藤の働く居酒屋に富樫が訪ねてくるという話。
富樫が来たことで常連客は帰ってしまいますが、詳しくない話題を振られていた進藤は、富樫の来店にひそかにホッとする…という話でした。
こちらも続編で「逢瀬2」「逢瀬3」…と新たに書き下ろされ、その度二人の距離も縮まっていくのかと思うと楽しみです。
硬質なイメージがあったせいか積み本となってましたが、想像していた硬さは無く、登場人物の魅力でページを捲る手が止まりませんでした。
進藤が何故物事を達観したようなのかは、まだ詳しく分かりません。
賢く若い彼の過去に何があったのか、そして富樫への気持ちの変化があるのか、次巻以降楽しみです。
富樫も魅力的でした。
いわゆる俺様なんですが、進藤にはつれ無くされるし野菜嫌いとか可愛い面あるし(笑)
何も怖い物無しのような彼にも過去に何やらあるようです…。
一巻という事もあり、物語の核心にはまだ触れられてません。
2人の生き様や気持ちの推移だけでなく、槇原と富樫の過去、諏訪組の未来等が気になります。
文庫版にはノベルス版には無い書き下ろしがあるようなので、文庫版の出版に感謝です^ ^