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木原先生の作品としてはわりと穏やかなラブストーリーですよね。こういう、フツーな感じのお話ほど萌えるのはなぜだろうか。先生による作品の割に普通っぽい感じがギャプ萌えなんだろうか。「恋愛時間」、「恋人時間」、「兄の恋人」、「海岸線」と収録されていますが、前半の二編は恋について、後半の二編は愛について描かれているように感じました。後半は少々トーンが重めです。
職場の先輩後輩ラブ。広瀬が事務方に配属された新人当時、なぜか営業の有田が教育係となった。人より生活時間が長い(有田談)広瀬は面倒見のいい有田に長らく片思いをしていた。同じ部署の女子社員の送別会の帰り、広瀬が有田に告ってしまったことから、二人の恋の駆け引きが始まります。
広瀬はのんびりしているようで手堅く、仕事も時間はかかるが着実に成果を出していくタイプ。プライベートもそれなりに楽しんでいる、地味だけどなかなかイイ男なんですね。有田には男と付き合っている弟がおり、彼のことで苦労した過去もあって(『LOOP』に登場)、広瀬に惹かれる気持ちにブレーキがかかっている。広瀬の転勤を機に、二人の関係はあとはフィジカルな問題を残すのみというところに行き着きます。そのプロセスを楽しませてくれるんですねー。
わたしは後半の「兄の恋人」に掴まれました。これは広瀬の末弟・友晴視点のお話です。広瀬と有田の関係に何が何でも反対の妹・美和と、兄を理解してあげたいと思う友晴の対比が面白い。どちらの気持ちにも共感させてくれるんですけど、友晴が兄の知らない顔を見た時のドキドキ感や、偶然、有田と映画館で遭遇するシーン、友人に兄の相談を持ちかける様子などから、彼なりに兄を深く思っているのが伝わってきます。友晴の「…いつか駄目になるとしても(中略)僕等がこわしちゃいけないんだ」このセリフに強く胸を打たれました。
最後の「海岸線」は、美和によってもたらされた誤解から有田と広瀬が別れた後のお話です。明け方に有田のアパートへやって来た広瀬と二人で海岸までドライブする。ただそれだけの描写の中に、有田の広瀬への思いが目一杯綴られていて、とても叙情的で美しい光景が見えてくるんです。こういうの描いちゃうんですよねぇ。ズルいなぁ。この短い一編を読み返して「神」にしました。
古い作品ですが、だからこその良さ。
寮の公衆電話からかけるとか、電話を待って悶々とする、会社にかけて声が聴けた、なんて今ではないシチュエーションですが、だからこその説得力。
そして主人公二人の心情がとても丁寧に描かれていて、スッと入り込めます。
木原ファンになったきっかけの作品です。
地味だけど落ち着いた、いいお話でした。
なんの飛び道具も事件もないけど、じっくりと静かな片思いが、いつしか大きな根を張って実る。
ゆっくり時間をかけて実って、このまま静かに添い遂げるんだろうな。
そんな余韻が気持ちいいお話でした。
木原さんには、いつの間にか「痛い」とか「辛い」とか、そんな先入観がついてしまっていたけれど、こういう、普通の大人同士の地味なお話もいいですね。
ちゃんとした社会人で男同士なのに、好きになってしまった気持ちには理由も抵抗も出来ない。
そして普通の社会生活を送りながら、一緒に暮らしていくことを選ぶ。
最初に書かれた時から既に15年以上、携帯やメールのない時代背景が、恋のもどかしさのスパイスになっていて、今となっては新鮮です。
木原作品と言うことを抜きにして、BL本来の、女性が思う男同士の恋愛小説
のスタンダードとして、いい作品でした。