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tsumibukaki seiyaku
『快楽の支配者—Rough Trade』の続編。こちらと併せて完結です。
前作と同様、Sの能代視点とMの澤崎視点が交互に進みます。それぞれの葛藤や相手への思いを分析するようなかたちで展開を追っていくスタンスは萌えとは程遠いかもしれません。しかしながら、SMって結局なんなんだろうと追究していくお話としては、とても興味深い作品だと思います。
自分のS要素を認められず、澤崎とのSM主従関係に踏み込めない能代は、ボンデージナイトで一度顔を合わせたことがあるベテランSの寛司に相談します。そこで、澤崎を伴って寛司とパートナーのあきらとのスパンキングプレイを見せてもらい、澤崎が「それ」を望んでいるのを確認して鞭に手を出していきます。
プレイが少しずつ過激になるにつれ、澤崎の反応を通して己の嗜虐性を確かめていく能代。最終的には、自分には澤崎がいればいいのだと思い至るわけですが、その道のりを辿るのが苦でなければ、なんかわかんないけどこういう世界もあるんだ!ってなれるかな…?(自信がない)
最後に、寛司とあきらカプのスピンオフSSが収録されていて、ここでやっと萌えられた感じです。
寛司と澤崎は一度プレイをしています。その様子を見ているあきらは、痛みに弱い自分がMとして寛司にふさわしくないのではないかと不安になります。我慢強く従順な澤崎の方が寛司の好みなのではないかと…。
まぁ、それもお仕置きしてもらうことで寛司の愛を確認する手段だったわけですが、思いっきりシバかれた後の甘い飴にウットリと安心するMの性癖は歪んでいるといえるのか…、恋愛で相手の気持ちを確認するために試すようなことするのと同じなのかな、なんて思ってしまいました。ただ、彼らは痛みの極限に近づかなければ実感できない仕様なだけのことで。
性質が似ていてプレイの相性が良さそうな二人がパートナーにならず、SとしてもMとしても未熟な者と筋金入りが引き合わされて理想的な関係性を探っていく…。ゲイであり、さらにSMでしか相手に信頼を見出せない希少なモデルを通して作者が描きたかった世界に、色々と考えさせられます。
面白かったのは面白かったんですが、衝撃的だった前作に比べると面白さは落ちてるかなァ…と思いました。
理屈が勝ち過ぎてて、逆に興が削がれちゃった感じ。
ただ、物語としては、前作よりも完成度が高いかもしれないと思います。
前作で腹黒っぽかったドM受けの性格は可愛くなってたし、ラストも綺麗な場所に着地してるし。
人によっては、前作よりこっちのほうが好きっていう人がいるだろうなとも思いました。
私は逆にそれが不満でした。ネクラなもんでw
受けの弱さや攻めのトラウマが前面に押し出されてて、ストーリーもそれを軸として進んでいきます。もちろん中心軸はSMなエッチなのですが。
エッチな場面はすごかったですよー。
クラクラしそうなほどの激しいスパンキングシーンとかさ。
痛いのが好きな方なら是非ぜひ読んでみてください。
ホントに痛いっす!
あと、攻めが鞭打ちの痛みを知るために、Sな知人のもとに出向いて自ら叩かれたというの、ツボでした。
キャラクターでの不満は、前作であったギャップ萌えがあまりなかったことかな。
ドM受けのキャラが弱くなってたの。「プライベートではドM、でも仕事ではクールで厳しい上司」っていうのをもっと楽しみたかったなと。
オフィスでも「実は優しい」って周りが理解するようになってきてて、それはストーリーとしては素晴らしいんだけど、ギャップ萌えという意味ではマイナスだったなァと。
『Another Chrirtmas Eve』
表題作のスピンオフ。
泣き叫ぶMくんの登場。
痛いけどめっちゃ萌えてしまいました。
SMも深淵ですな…。
他では見かけない設定なので、続編が出ただけでもすごい。
SMを取り上げながら、わりとBLらしいBLで、こういった作品をもっと読みたいところ。でも暁さんも最近は新作を執筆なさってないし、フォロワーな作家もあらわれてないので残念。
割とゲイっぽい展開で進んだ第1巻でしたが、完結になるこの2巻はBLらしい着地をしたんじゃないかと思いました。
真正のMの望むSの姿。
自分の持つ嗜虐性を恐れるS。
微妙にその気持ちにすれ違いを持ちながら一途にSを信頼するMの姿があればこそ、Mを好きだから彼に合わせるのではなくて自分は一体どうしたいのか、どうなりたいのか考える。
それは前の巻からずっと彼が悩んでいることではあったので、また堂々巡りなの?という感もなきにしもあらずなのですが、
Sはその為に自分を見つめ直し、試行錯誤をします。
彼の過去を知ること。自分の過去を振り返ること。
暴力に嫌悪を覚えるはずの自分が、それを受けている者の恍惚とした表情に興奮するその由来を知ること、そしてそれを認めること。
前のご主人様だった男の前に立つこと。
痛みの先にある快楽を求めるMを知る為に自ら体験をするS。
一見、何も変わっていないような二人なのですが、明らかに変化がある。
Mの澤崎は聡に笑顔を見せ、SMのプレイとしてのセックスがなくても自分を繋ぎとめるためのご主人様として全幅の信頼を寄せ、それは愛なのであるが
仕事面でも、無表情で他人と交わらず四面楚歌だった彼が後輩の信頼を得るまでになるし、心の満足は仕事へも影響するようだ。
この澤崎が健気なのが実はカワイイのである(驚!)
全幅の信頼を寄せるってこういうことなんだと。
聡は完全に自分の嗜虐性への恐れを解消したわけではない。
ただ、その恐れがあることがエスカレートしないストッパーになっているのです。
酷くしたあとに、大丈夫?と澤崎に聞くその姿はきっと本物のプレイを重視する鬼畜ご主人様にはニセモノのSなのかもしれないが、それはそれで彼なりの愛のあるS行為なのだと思う。
何が正しくて、何が間違っていて、という定義はないのかもしれない。
ただ互いが互いを信頼して愛して、二人で築きあげればいい関係なのです。
【Another Christmas Eve】は、最初の巻のSMパーティーで聡が声をかけたMと、澤崎にプレイしたSのカプの物語。
彼等は、作中で彼等なりの普段のSMの姿を見せ、そして聡に鞭の調教を教えた人物でもあります。
彼等も彼等なりに、完全なるSMのカプではないが全幅の信頼と愛情の下に成り立っている愛し合う恋人なのだというのが見えます。
そこで二人が目にしたクリスマスイブに連れ添って買い物する聡と澤崎カプについての感想も込められており、
それぞれの甘い瞬間がありました。
最初にも書いたように興味深いといってしまったらそれまでですが、中々ユニークな話だと思います。
よくSMだと完璧なドSがあれよあれよとMを調教するキレイなSMが多い中、結構リアルを感じさせる生生しいものかもしれなくて、夢を求める人には顔をそむけたくなる世界なのかもしれないのですが、それでも根底にある「愛」に何ら変わりないという意味で、こういう世界感と表現もありなのだと思います。
SMとは何か?というSMの根底を描いた「快楽の支配者」の続編ですが、作者さんいわく「これ単品でも読めるようにした」との事。
ですが、何だか結局前と同じ事を繰り返している気がします。
聡は結局まだ完全にSとなることに抵抗があり、譲は最終的な判断は聡に委ねています。
前のお話で悩みは一旦完結したんじゃなかったのか、と言いたくなりますが、SMプレイができるかどうかに重点の置かれた前回よりは恋愛している感が強いです。一緒に旅行に行ったり。普通にしていると普通のカップルなんですが。
聡が譲の足にタバコを押し付けるシーンがありますが、これも「プレイ」なんですよね…。
聡はSを演じているわけです。聡は自分をコントロールできると思っている。暴力も自分の意思で歯止めが利くと信じて、譲がねだっている事をかなえようとしており、譲はそのことに涙します。
けれど聡の「歯止めがきかなくなったらどうしよう」という恐怖も伝わってきます。
聡は自分が譲に与える痛みも知りたいと知り合いに頼んで鞭も打ってもらいます。こんな真面目で努力家なSって今まで見たことない気がします。
結局すごくMに尽くすSを描いた話だった気が。譲もすごく聡に尽くしますが、譲が割と素なのに対し、聡の努力はすごいと思う。
こうしてみるとこんなリスクを負ったSMって奥が深くて突き詰められるもんじゃないんだなぁと思うし、聡は譲がこういう体質になった理由を知ろうと過去を探りますが、結局それだけでは割り切れないものを感じます。
最後、2人で互いについて話し合うシーンがシリアスながら面白かった。
真剣に二人で向き合ってSMプレイについて、嗜好について、自分の体質について話し合うのですが「俺たち、一体何話してるんだろう」って笑いあうのがなんだか良かった。
結局聡はちゃんとしたSになれるかどうかはまだ保留という感じでしたが、譲はどうなろうと従うしあなた以外の主人は生涯探さないと誓約します。
2冊もかけて終着したのかどうかわからなかった思考のお話ですが、Sの快楽のためにMは居る→Mの快楽のためにはSが居るという考えると堂々巡りになってしまうのでこのくらいで考えることは終わりにするのがいい気がします。
今回は2人がきちんと恋人になれるかまで描いた感じで、前は痛々しいカップルだった譲と聡が今回は微笑ましいカップルに感じられました。