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ningyotou
人魚姫の童話に着想を得て描かれたという本作。
童話をモチーフとしつつ、民俗学的要素や男の美学のような概念も盛り込まれた、美しいだけでないえぐみあるファンタジー作品となっています。
舞台はハワイ島をモデルとした南の島。
観光に来たビジネスマン・アレックス(攻め1) は、レンジャーガイドの青年・スライ(受け)と一夜を共にする。
翌日、アレックスの企業を吸収合併した因縁の相手・バイス(攻め2)と島で出会う。
バイスとスライは旧くからの知り合いらしく…という三角関係の物語。
表題作・過去編・後日談の三部構成です。
主人公は一応アレックスですが、物語の主軸となるのは元人魚のスライとバイスの悲恋。
海を捨て人間界でのし上がろうとするバイスと、彼を連れ戻すため人間となったスライの切ないすれ違いの物語です。
バイスとスライは人魚時代、導兄・授弟として契りを結んだ関係。
人魚の世界では、少年の人魚は体内に年長の人魚の精液を受け入れることで男になるという風習があり(元ネタはメラネシアの島々に実存した通過儀礼と思われます)、スライにとってはバイスがその手解きの相手でした。
婚約者がいながら、再会後もスライを抱き手元に置こうとするバイス。
その真意が作中で詳しく語られることはありませんが、高い自己実現欲求を抱きつつ、最後は授弟のため志半ばで散るという生き様の哀しさは、童話の人魚姫に通じるものがあります。
それでいて、目的のためなら手段を選ばない野心の高さや、年長者としてスライを導く頼もしさも感じさせる点が、このキャラクターの多層的な魅力かと思います。
そんなバイスを愛するスライが、身を呈して彼を守る表題作クライマックスは切なくも感動的。
スライの行動を目の当たりにしたバイスが下した決断も、続く過去編を読むと心打たれるものがありました。
ただ、バイスが自身の導兄(スライの父)を刺した経緯はもう少し掘り下げてほしかったかも。
導兄の立場を慮ったとのことですが、授弟のスライが普通に生かされているため、説得力が今ひとつ。何も刺すことはなかったのではないかという思いが残りました。
結末は一応ハッピーエンドですが、その幸せの形はBLとしてはやや異色かも。
結婚や安泰という概念に価値を見出さないアレックスと、海に戻り年少の人魚の導兄となったスライは、今後も年に一回程度の逢瀬を続けていくのでしょう。
お伽話に対するアンチテーゼのようなこの結末は、互いに闘う場所がある男同士の物語としてはとても面白いと思います。
惜しむらくは、人魚に戻ったスライとアレックスの濡れ場がカットされている点。
人間×人間、人魚×人魚の絡みはどちらも良かっただけに、人間×人魚も見てみたかったです。
挿絵は石田要さん。
あとがきでも触れられていますが、口絵カラーの美しさとスケール感は必見。
中の挿絵も美しく、人魚の物語をよりドラマティックに演出して下さっています。