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negaigoto wa kuchi ni shinai
1冊丸ごと表題作です。朔実の目線で進んでいきます。
作者様もあとがきで書かれていますが、読み終えた後、もう一度最初から読み直すと、賢一の言動の意味が分かって良いです。
朔実と賢一の出会いから両思いになるまでの長いラブストーリーです。賢一の失踪という決定的な事件に至るまでの、二人の日常の中で垣間見える賢一の秘密が、物語のポイントとなります。
とはいえ、賢一の言動にミステリーはありますが、基本的には朔実の恋愛過程がメインです。小学校から大学に勤めるまでの長い期間の話を、じっくり読ませる作品です。
悪い人は登場せず、その点では安心して読めます。朔実の母親以外では印象に残る女性は登場しません。
賢一と元彼、朔実の両親については、朔実と読者の心情を慮ってか、賢一からあっさりと話すにとどめていますが、ちょっと気になるところでした。
朔実がもっと、嫉妬やショックで自暴自棄になったりするキャラだと、読んでいてもっと感情が揺さぶられたのかもしれませんが、常に賢一の傍にいることを第一に考え、比較的落ち着いたタイプだったので、読後は淡々とした印象になりました。
ドキドキハラハラしたり、胸がぎゅっと苦しくなる作品ではありませんが、ゆっくり恋愛になっていくまでを楽しむには良い作品だと思います。賢一は魅力的ですし、朔実はイイ男です。お勧めです。
カラーイラストのキスシーンは手つきがやけにエロく感じました。水仙の表紙も素敵でお気に入りです。
ネタバレにチェックしますが、核心の部分に触れない程度に書きます。
攻めは健気な男前の甥で、受けは儚い美人の叔父です。
朔実(攻)は、叔父の賢一(受)へのこみ上げる気持ちを押し殺して、いつまでも認めないいじらしさが男らしいと思いました。しかし朔実は大学在学時、教授と身体だけの関係を持って度々抱きます。朔実本人は気がついていないのですが、教授を叔父の身代わりにしてしまっていたんです。教授を傷つける残酷な関係に平然としているわけでは決してないのですが、教授が可哀想でした。谷崎先生の容赦ない描写に感服です。
しかし今度は、朔実にとって決して喜ばしくない衝撃の出来事があって、それこそが核心の部分です。
これは詰め込み過ぎかな、と個人的に思った部分があります。朔実の親友が美しい叔父に惚れていた描写は、味が濃すぎかなと感じました。友達が少なかった朔実の親友という、朔実にとって明るい人生の部分は雑念なしにそのままで良かったのではないかと思いました。朔実の親友が惚れてしまうほど美しい叔父という対比にはなっていますが。親友が傷ついて、朔実は友を失いました。
谷崎作品は初読です。文体が過不足なくきちんとしていて、安心して読めます。
ストーリーの骨組みがしっかりしていて逞しいです。今作は感情移入できませんでしたが、これから追っていきたいと思います。