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心が壊れても貴方を待ち続けたい…
kioku no ori
幾時代かにまたがるお話し。
そもそも因縁のあった二人だが、男娼と客として再会。大切な記憶をなくして、タイトル通り檻に入れてしまった受けは再会だとは気づかない。しかし、その再会は新しい出会いとして再び二人を結ぶ、そんなストーリー。
全体に位雰囲気が漂っていてムード満点。男娼館のマダムとのかけひきや、当て馬との駆け引きなど、個人的にはどろどろした感じが楽しめました。
ラストの展開も爽快。
下手に大団円にしなかったところが好感が持てました。
思い出すのが幸せか、思い出さぬが幸せか
本編を読み終えた後も、どれだけ考えたことか…
男娼にいる、記憶をなくし壊れてしまった環
環を助けるべく悪事だろうがなんだろうが足を踏み入れる幹弥
究極の愛です。涙が止まりませんでした。
是非、読んでいただきたいので、ネタバレは極力しませんが、
結局、環は過去を思い出してはいないでしょう。
ただ今の環にとっては、それが今の幸せなのです。
私もこのまま2人を見守ることにします。
そして、なんといっても、太市はいい仕事をしていました!
かっこよかったよ、太市!
この作品は小説において私の中で初の神作品です。
ですのでもう一度、申しますが、是非読んでほしいです。
本当にすばらしい作品でした。
うまいストーリーです。
環の儚く今にも壊れてしまいそうな美しさ、そして幹弥の内に秘めた熱い思い。
最後に幹弥が自分の素性を明かさず終わるのがまたいい。
自分の素性を明かすことが彼にとっての幸せではあるはずなのに、そうしない。環のために黙っている。そうすることで彼の最愛の人になることができなくなるとしても、ただ彼の幸せを願い、尽くしていく。
その姿こそが、本当の愛なのだと感じました。
イラストもとてもすばらしいです。表紙のうつろな環の表情。幹弥の腕に抱かれながらまったくほかの方向を見ているその姿が、内容とあいまって切ない。
とにかくおすすめの作品でした。
千島かさね先生の本を読むのは、『花嫁は罪深く』に続いて2冊目です。
あとがきに、「何度も書き直した」とありました。
先生は、明るくしようと努力して、できなかったと仰っていますが、長い間かけて推敲を重ねたことが頷ける、きちんとした構成の話に、私はとても好感が持てました。
大切な人を救うために、必死に行動する主役の幹弥には感情移入しやすく、話が暗いのもそう気になりません。
真面目な文章にも、先生のお人柄が表れているように思えて、最初から最後まで気持ちの良い読書でした。
一般的にこれはハッピーエンドものでしょうが、やはり個人的な趣味では違うと思う。
恩人である伯爵家に医者を目指す書生として世話になる中で嫡男である環に
信頼され、自身も亡き弟と環を重ね合わせ愛しく思っている。
そしていよいよ医師になるために伯爵家を旅たつとき、環に寂しいと、
自分を忘れないでいて欲しいといつか再会できる時のために揃いの指輪を環に渡され
必ず医師になって環に会いに来ると約束を交わす二人。
しかし、ある男の策略で伯爵家は破産し、伯爵は家族とともに無理心中、
それを聞きつけ有馬は環の元へいき、一死で環の命を助けるが、
しばらくして忽然と環のゆくへがわからなくなる。
有馬は何よりも大事だった指輪を手放し、環を探し出すために相場師になり、
名を変え帝都の狐と呼ばれる存在にいつしかなっていて、そんな時期に環を偶然見つける
環は過去の記憶を一切無くして男妾になっていた。
しかし、約束の指輪だけはいつも手放さず誰とも解らない相手となりながらも
指輪と対の相手をひたすら待ち続けているという話。
記憶を無くしているので、名を変えた有馬を覚えていなく、有馬も指輪が無く、
二人の約束を知らしめるものが何もない状況で再会する。
結果的には環の家族の敵の男を有馬がたたきつぶす仇討ちものですが、
環は記憶が戻らないまま、新たに名を変えた有馬と一からの関係で共にいることになる。
もっとも、約束し別れた時に恋人同士だった訳でもないのだから、
ある意味再開で再び心を通じ合わせたことが恋愛的には本丸かと思います。
でも、やっぱり記憶が戻らないままで終わるのは個人的には面白くない。
微かに記憶の残骸が見え隠れするようないずれは的な流れがあるのだったら
思いっきりよく、記憶を取り戻し過去の痛みや辛さを有馬が全て受け止めて
真に繋がるような展開の方が好みだったかもと思いました。
『帝都の狐(もちろん、いい意味での通り名ではない)』と呼ばれる相場師・溝端幹弥(攻)は、わけありの男娼ばかりを扱う男娼館『紅楼夢』を華族の出で記憶がないという男娼を目当てに訪れます。
そこで出逢った男娼・環(受)は、幹弥がずっと探していた相手だったんですが、環は『自分と同じ指輪を持った誰かが迎えに来る』と・・・
5年前。
由緒ある侯爵家の嫡男である環と、書生の有馬。
有馬は医学を学ぶために侯爵家を出て環とも離れることになりますが、その後侯爵家で心中騒ぎがあり環だけが生き残るという事件が起きます。
そして、環はある(残っている)はずのない借金のカタに男娼館へ連れ去られ、客を取らされたことで『壊れて』しまう。
書生・医学生だった有馬(中川有馬)が、いまは相場師・溝端幹弥として生きているんですが、株を買う元手を作るためにかつて受け取った環とペアの指輪を手放してしまい、環を『迎えに来る人』の証がないんです。
その一方、溝端は侯爵家を破滅させて環を男娼に堕とした相手に復讐を企てて・・・
環は『記憶がない』『心が壊れてしまった』ために、魅力が見えない(見出し難い)キャラクターです。謂わば『生きてる人形』のような感じが強い。
でも、それは設定上どうしようもないんですけどね。それを補えるくらい溝端が健気で一途ないいキャラクターでした。
まあ、ちょっと狂気を感じるくらいでしたが、それも環を想うがこそでしょう。
ストーリーも、なかなかドラマティックで惹き付けられました。
でも、ラブ面は突き詰めればまさに『純愛』でしたね。
脇キャラクターの雑誌記者・太市もよかったです。この何かと暗~い話に少しでも明るさを止める存在というのか。
ちなみに、同時収録の『太市と紅薔薇』は太市がメインの掌編です(タイトルの『紅薔薇』は環に非ず)。
千島さんは、もともとこういう暗めのストーリーがご希望のようです。雰囲気で言えば、デビュー作の『闇を照らす君の指先』にどことなく近い感じかな?
少なくとも、前作『犬の王子様』でなんとも脱力させてくれたことを思えば、こちらのほうがずっといいんです。それは確かなんですよ。
トーンが暗いのは別に構わないんです、私は。
ただ、それにしても(特に、男娼館のあたりが)ちょっと陰鬱過ぎて重くて、途中読んでて気が滅入りました。←それがなければ『神』でもいいとさえ思ったよ。
でも、トータルではとてもよかったんです。好きなんですよ。
今までの作品レビューでも書いていますが、千島さんはここ数年の新人さんで個人的にいちばん(というより唯一)期待している作家さんなんです。
作家買いを続けて、正直『いまひとつ・う~ん』もありましたが、それでもここまで読み続けてきてよかったと思えました。それだけの作品でした。