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mikan
ちるちるでは非BLと表示されていて、何度も情報修正かけたり、ちるちるにお問い合わせしても一向に改善されないのですが、本作「蜜柑」は非BLではなくBL作品です。
時は明治。川鍋暁斎(幕末から明治にかけて実在した浮世絵師)の弟子である天才浮世絵師・千秋遠文と版元である雨宮紫朗は情人(こいびと)同士。愛を交わした夜、気を失ったはずの遠文が起きて絵を描きだします。まるで何かに乗り移られたかのように、一心不乱に、狂気のごとく。遠文が描いたのは見知らぬ男の絵でした。
こんな男が彼の好みなのかと嫉妬する紫朗でしたが、一週間後ある事実に直面します。遠文が描いた男は巷を騒がせている華族連続殺人事件の被害者の一人だったのです。愛する遠文が殺人事件に関与しているのか。情人への疑いで苦悩する紫朗。その頃、遠文のもとに藤堂男爵家の令嬢・香耶子をモデルに絵を描いて欲しいという依頼が舞い込み、遠文は藤堂家に起居するようになります。遠文が香耶子を愛してしまうのではないかと紫朗はさらに苦悩を深めます。
その頃、遠文は香耶子から行方知れずの実弟・倫太郎を探し出してほしいと依頼を受けます。実は香耶子は藤堂家の養女で、実家に弟を残していました。香耶子は遠文の特別な力「夢絵語り」のことを知り、遠文に弟の捜索を頼んだのです。香耶子はその能力を鷹司公爵の子息・真広から聞いていました。
鷹司真広ー遠文の異母弟にして、遠文がかつて恋い焦がれた相手でした。
華族連続殺人事件と青年の失踪事件。二つの謎が交錯するミステリー。
同時に遠文と紫朗の感情も縺れ合います。遠文は美男で人を引き付けるのに自分自身の魅力に無頓着で、好意を向けられても気が付かない天然さん。紫朗はやきもきしたり、遠文が誰かと仲良くしていると嫉妬したりと目が離せません。紫朗の心には遠文がいつか自分の手が届かない遠くへ行ってしまうのではないかという恐れがありました。北国の貧農の出身で這い上がって生きてきた紫朗。それに対して遠文は花魁と公爵の間に生まれた子で、本来であれば公爵家を継ぐべき嫡男です。紫朗とは釣り合わない身分階層の青年なのでした。一方の遠文は紫朗を心の底から愛しているのは嘘でありませんが、真広への苦しい恋を忘れられないのも事実でありました。
過去と身分、そして事件によって二人の愛が試されます。
ミステリ的にはあっけなく、もう少しひねりがあったらよかったのですが、明治時代の耽美な恋愛模様はなかなかに優雅でした。
時代背景は上手く描けています。東京日日新聞や牛鍋、カンカン帽など明治時代を象徴するアイテムもさかんに登場し、物語の雰囲気を盛り上げています。さらに文章が美しい。たとえば、
「鼓動が伝わってくる。恋愛の進化する音が伝わってきた」
「烈しい愛が、烈しい憤りを喚んでいた」
などなど。二人の愛が切実に伝わってくる美文となっています。コバルト文庫としては漢字が多く硬派な印象を受けますが、本作にぴったりな文体でした。
明治好き、ミステリ好きの方は是非。