条件付き送料無料あり!アニメイト特典付き商品も多数取扱中♪
lowell kottouten no jikenbo
ちるちるでは2か月振りのレビューとなります。なぜ間が開いてしまったかというと忙しかったのも一因なんですが、最も大きい理由はこの「ローウェル骨董店の事件簿」の評価に迷ったからなんです。
〈神〉〈萌え×2〉〈しゅみじゃない〉は読書中に決定しますが、〈萌え〉〈中立〉は読了後も決まらず悩むことが多いです。この本もまさにそう。〈中立〉にするほどの瑕疵は無い。では〈萌え〉にすればいいじゃないかとなるわけですが、心のどこかで否定する言葉がある。本当に迷います。結局結論を出すのに2か月かかりました。
「ローウェル骨董店の事件簿」は椹野先生のデビュー15年にして初の単行本です。普段椹野作品を読まない層(少女小説orBL小説を読まない読者層)が手に取ることを想定しているのか、〈英国〉〈検死官・監察医〉〈骨董〉と椹野作品の十八番を取り入れて無難にまとまった非BL推理小説です。
舞台は第一次世界大戦から四年後のロンドン。スコットランドヤードの刑事エミール・ドレイパーは幼馴染みのローウェル兄弟を案じていました。骨董店店主の兄デューイと検死官の弟デリックの間には戦争が原因で心の距離が生まれていたのです。兄弟に仲直りして欲しいエミールは、デリックが検死を担当した女優殺人事件の遺留品の鑑定をデューイに依頼しますが……。
兄弟が仲直りするのかが主題であり見所です。
兵役を拒否したために逮捕され足を患った兄・デューイ。
戦争へ行ったために左目と右手に傷を負った弟・デリック。
それぞれ刑務所と戦地から帰還した2人に兄弟の両親はどう接すればいいのか分かりませんでした。そして兄弟自身もお互いにかける言葉がない。戦争から4年経過しても2人はすれ違っています。兄は弟に罪悪感を抱き、弟は兄が自分を憎んでいると思い込んで関わりを避けていました。2人をつなぐのはデューイが引き取った少年・ケイと幼馴染みの童顔刑事・エミール。殺人事件を通して兄弟の絆を取り戻すまでが丁寧な描写で描かれます。
あらすじに書いてある通り物語の背景には戦争があります。大戦が兄弟の絆を引き裂く原因となって、更には弟のデリックは戦争の亡霊に苦しんでいます。しかしデリックは陽気(挿絵ではクールな知的眼鏡キャラなんですが、中身は熱血やんちゃ青年なんです)だし、作中の雰囲気は暗くない。登場人物たちは現代を生きる我々と同じように泣いたり笑ったりしながら戦後の日常を生きています。
暗くなりすぎず、明るすぎない。このバランスの良さはひとえに椹野先生の戦争や死に対する真摯な姿勢が産み出したものだと思います。戦争を物語の道具として軽く扱っていないですし、かといって忌むべきものとして目を背けることはしません。戦争の悲惨さに向かい合いながらも、登場人物の個性やミステリのエンタメ部分も上手く消化しています。
これでは称賛のレビューになりますね……。登場人物もいい人たちですし、ミステリ的にもこの分量・スタンスならまあこの程度かなと。あえて言えば、欠点がないことが欠点でしょうか。椹野先生らしく、物語の構成も心理描写も上手いです。しかし上手くいきすぎているからこそ、なんだか座りが悪いのです。
たとえば「兄貴が今死んでもきっと悲しまない」と言っていたデリック。私は肉親でも愛情があるとは限らないと思うのでこの毒のある言葉に頷けたんですが、その後デリックが意外とあっさり兄と和解します。和解するまでの心理描写・事情が手抜かりなく書かれていたので、納得はできるのですが……。人間の感情はそんなに理路整然としているのでしょうか?言葉では表せないドロドロとしたマグマのようなものを感情と呼ぶのでは?感情はこんなに簡単に操作できるもの?と。
それからラストで明かされる真実。姉妹の絆に感動すべきなんでしょうが、まとまり過ぎていて逆に気持ち悪かったです。
椹野作品はいつもそれなりに面白いのですが(私が読んだ限りでは〈しゅみじゃない〉本はありませんでした)、一方で〈神〉になるくらい感動する作品はありません。例えるなら安心品質のお弁当でしょうか。今回はまらなかったのはいつも食べているお弁当の味に飽きた結果なのかもしれません。