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natsu no shokuzai
うえださんの中では異色作、でしょうか。もともとデビュー前の投稿作だったそうです。
でもこれ、ものすごく好きなんです。私の中で、うえださんの作品中1・2を争うインパクトでした。
ひとことで言うと、幸せな家族を壊された京介(攻)の復讐譚なんですが、復讐される側にいる馨(受・本来の京介の復讐の対象は馨の父なんです)がただ翻弄されるだけじゃないのがよかったんです。というより、京介と関わったことで、純粋だった子どもが変わらざるを得なかったということなんでしょうね。
構成は、前半(1作目)を現在とすると、後半(続編)が、その10年後になります。
京介は、自分から家族を奪った馨の父も同じ目にあわせようと、馨の家庭教師として家族の中に入り込み、最初は馨の母を誘惑しますが、思ったように上手く行かない(彼女は家庭を壊す気はなく、単なる不倫相手として以上に自分にのめりこんでは来ないんです)と焦り、今度は馨にターゲットを移します。で・・・結果的には馨の母と馨で京介を取り合うような形になるんですね。もう昼ドラ真っ青のドロドロっぷりですよ。
結果的には、京介の思惑通り、家庭はバラバラになるんですが・・・そこで前編は終わります。
単純に考えるなら、一度は復讐しようとはしたけど、諦めて(憎むべき存在であるはずの馨を愛してしまって)お互いの思いが通じて前編を終え、続編はラブラブ後日談、ってあたりが定番でしょうが、そうはならないんですよ。復讐したまま前編が終わってしまう!で、別れた2人が10年後に再会する続編になるんですが・・・
馨は、京介の復讐で『家庭を壊された』ことよりも、『母と天秤に掛けられた』ことが許せないんです。再会した時、京介は重役の娘との縁談が進んでるんですが、それとは別に馨とも付き合っていこうとします。自分が失った家庭が欲しいから結婚はするけど、本当に愛してるのは馨だから別れない。馨は、10年前と同じく自分と他の女性を並べようとする京介に怒りを感じ、『復讐』するんです。じわじわと、でも的確に恭輔を追いつめて行くんですが、執念!って感じでコワイです。
馨もたいがいですが、京介も過去の幻想に凝り固まって、視野が狭くなってしまってますよね。愛してもいない相手と結婚して作る、形だけの家庭が幸せなはずがないのに、そんなことさえ気づけないんですから。
ラスト、ちょっと想像もつかない形で、複雑ではあるけどもハッピーエンドを迎えます。この形に持って行ったうえださんに感服しました。読む人によって、このラストの捉え方は違うと思いますが、私はいいと思いましたね。
私は個人的に、『俺様』『傲慢』『自分勝手』な攻はキライなんですが、京介はかなりの部分でそれに当てはまるのに、不思議と気にならなかったんです。キャラクターが好きになれないと作品自体もダメなことが多いんですが、今作はストーリー展開の中にキャラクターが(嫌な部分も含めて)上手く組み込まれていたからか、まったく平気でした。
実際、京介も馨も、その他細々したエピソードも、『キレイ』なものなんてほぼないんじゃないか、と思うくらい徹底してましたが、その『嫌らしさ』『異常さ』も行き過ぎてなかったのが、私はいいと思いました。たとえ力技であろうとハッピーエンドでまとめて、暗いまま、痛いまま終わらなかったことが、なによりの評価ポイントです。
京介は幸せだった家族を奈落の底へ突き落とした有村へ復讐を誓い、
有村家を崩壊へ導くために、有村の妻とその息子を誘惑します。
ひとりの男を巡って、母と息子が恋のライバルになるという異常事態。
母親が女となり、息子と男の取り合いをする姿は醜悪でしたし、
仲の良かった親子が擦れ違っていく様は痛々しかったです。
京介と有村一家が過ごした軽井沢の別荘の愛憎渦巻く描写は、
昼メロ顔負けのドロドロでダーク。読んでいて息苦しくなるほどです。
そして10年後。成長した馨が京介の前に現れて、形勢逆転。
復讐が憎しみを生み、更に新たな復讐を生みます。
そんな憎しみ・悲しみの連鎖の中で生まれた恋のやるせなさ。
許しの言葉さえ言えないくらい、二人の背負ってきたものや犯した罪は重く、
相手に本当の気持ちを伝える事さえ出来ない二人の切なさに、胸が痛くなりました。
復讐劇というより、復讐によって人生を狂わせ傷を負った恋人達が
救済されるお話しでした。しかし二人を救う救済者が、
罪の結果だというところが、この物語を安易なハッピーエンドにしていません。
文学調で耽美色の強い、読み応えのある作品でした。
中立か萌えかで迷い、微妙なんですが、萌え評価にしました。
いろいろ不満はあったんですが、プロットにうえだ真由さんの気合いを感じたので。
うえだ真由さんにしては珍しく、復讐に燃える超悪い攻めが主役です。
悪い攻めは大好物なんですが、でも、うえだ真由さんには悪い攻めが向いてないような気がしました。
あとがきによると、この作品はうえだ真由さんの三冊目の本で、新人賞に投稿するため、デビュー前に書いたものらしいです。
プロットは練り込まれたものでした。愛憎による家族の復讐劇。その連鎖を、10年という長いスパンのなかで書いてゆく。
感動的なのか何なのか、正直微妙な気分にさせられるラストでしたが、妙に心に残るものがありました。
最後の最後に、受けを天使にしちゃったのが不満だったのかなァ。
いっそ、復讐が復讐を呼ぶ弱肉強食展開にして欲しかった、というか。
悪くなりきれなかった登場人物たちに、人間の業や優しさを感じるより、中途半端さを感じちゃったんですよ。
たとえば木原音瀬さんなら、こういうストーリーでは突き抜けた悪を書いて痛い展開にするだろうなとか思った。
まあこのへんは、趣味の問題なんだろうなとは思うんですが…。
それでも面白かったです。
作者が入魂してるのは、読むと伝わってくるし、気持ちがいい。