塩茶
sphinx no yume
同人誌番号Op.30。17冊目の≪犬≫シリーズ。
あとがきによると、謎の詰め合わせ本とのこと。
五係の≪犬≫信乃のストーリーが2編。犬姫が1編。
表題作、信乃と五係の取調官・大介のお話が20ページ強。
最初の≪犬≫シリーズ同人誌「忘却曲線」の主人公、大介こと大城戸祐介のエピソード。
残りの2つは、10ページ弱。タイトル通り、信乃の「豆まき」と犬姫の「クリスマス」。
わんこたちは、季節のイベント事に熱心である。
警察官たるもの、国民の平和のために豆をまき、子どもの健やかな成長を祈り、笹飾りにとんでもないお願いを書きつらね、バレンタインとクリスマスは愛する主を思って暴走する。
以下、ネタバレを含む。
表題作は「忘却曲線」とそこに収録の「なくしものをいぬとさがす。」に続く小編。
大介の過去については、前作を読んでいただくのが一番なのだが、ここで描かれるのは信乃である。
愛する人を失った凄絶な過去を持つ大介。嘘を見抜く、取調官としては最高の能力ゆえに嘘を受けつけず、時おり崩壊を起こす。
その大介の前に立たされた信乃は、嘘偽りのない真実を差し出すのだ。
「智重が好きです」と。
無垢のなせる残酷に、あふれる涙が止まらなかった。
どうか、大介にも救済を。と願わずにはいられない。
心に刺さる一編である。
そして、大介の過去の更に前にも「事件」に係わる出来事があると推測するのは深読みしすぎだろうか。
残りの短い2編は、それぞれ行事ネタである。
五係の豆まきで信乃が散々な目に遭う理由。五係の擬似家族的などこかほのぼのとした雰囲気が楽しい。と言っておこう。信乃には気の毒な節分だったが。
そして、廃教会で独り迎えるクリスマスを犬姫はどう過ごすのか。主と共にあり愛し愛されることを糧とする≪犬≫なのに、孤独を余儀なくされる犬姫の行き過ぎた健気は、痛みを伴う笑いのようで涙ぐむ。
差し迫る聖夜に向けてキリキリと高まる緊張感を破るのは、愛する禪からの、、、
つくづく実感する。それぞれの主と≪犬≫の描き分けの見事なこと。
単語にしてしまえば、健気で一途でかわいらしい、美形につくってある人造人間。と共通なのだ。だが、鮮烈な個性をそれぞれのわんこが持ち、それぞれに唯一の片割れとしての主が居る。
彼らの物語の続きが読みたい!!と何度でも、言いたい!!
巻末付録のツイッターわんこbotlogを見ても、わんこたちと時々登場する≪きつね≫の凛たち、この世界観がどこまで拡がっているのか、焦がれるほどの思いで続編を待つ。(≪きつね≫は「千流のねがい」世界観がリンクしている)
以下「スフィンクスの夢」への個人的な感想。
とても私的な感想だが。崩壊寸前の大介の問いの前に、嘘をつかないことだけを真実に立った信乃の思いに、とんでもない既視感を持った。
私は、「ひとこと言葉を間違えて与えたら目の前の大切なひとを失ってしまう」恐怖に直面したことがある。それは、肉体の死ではなく、精神の死で、愛する人が自分の知っているひとでなくなってしまうかもしれないという言いようのない恐ろしさだった。
誰もが経験することではないと思う。でも、決して珍しいことではない。
簡単に命を失うように、魂も失うときはあっと言う間なのだ。
信乃の恐怖は私のものでもあった。
このシリーズにおいて、人工生命体であるわんこたちは、魂が無いと自ら言う。
魂の在り様。真実は、心はどこに宿るのか。
BLというエンタメのなかで、厳しくそのギリギリを追って描いていくことに魅力を感じる。
幾通りにも幾方向からも読み込み楽しめる作品。作家を心から尊敬する。
続編が描かれずに止まっている物語の続きが作者の思うように書かれることを、願い待ちたい。
商業誌『しもべと犬』の番外編同人誌です。
とりあえず、表題作はBL以前にそもそも『ラブストーリー』じゃないですね。
5係の引きこもり捜査官・大介(大城戸祐介)をメインに据えたストーリー。
この大介に関しては、こちらに先立って同人誌オリジナルのストーリーがあるんですが、私はまったく興味ないので読んでません(『バッドエンド』だそうですので)。
たぶん、そちらを読んでいれば、もう少しストーリーに入り込めたんじゃないかと・・・推測ですが。
ゴメンナサイ、私はこれ何をどう言えばいいのかもわかんないです。ハッキリ言ってしまえば『別にこんなの読みたくないんだけど・・・』です。
2編目『豆まき』
タイトル通り5係で節分の豆まき。引きこもりの大介と犬姫以外の係員と禪で。
鬼は恒例のくじ引きで、もちろん信乃が引き当てます。いつ気づくんでしょうか・・・
到底『豆まき』なんてほのぼのした響きからは想像もつかないほどのハードさです。信乃にとっては『豆というよりBB弾』ですね、まさしく。
3編目『X`mas 2009 』
犬姫のクリスマス。
巻末付録『わんこbotlog』
Twitterの『わんこbot』の過去ログ。なかなか面白いです。初めはサラ~っと流し読みのつもりがつい真剣に読んでました。『わんこbot』で見た覚えのないものも結構あったし。
表題は・・・個人的にはもう評価対象外ですが、トータルではそれなりに楽しんだので『萌』で。