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double balance
かのえなぎさ先生の別名義による、98年の作品。毎度年代もののレビューが多く申し訳ないのですけど、時代は古くてもストーリーの中にキラリと光る萌えが。
リーマンものです。語り口はわりと淡白。最初、タイトルの意味をよく考えずに読みはじめ、読み進めていってなるほどー、と目が開かれました。タイトルがとても示唆的です。
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システム・エンジニアの久慈彰は、客先であるアパレル会社社員の桧山に迫られていた。その現場を久慈が大学時代に付き合っていた同社の社員、原宏美に目撃されてしまう。久慈の焦りをよそに、リベラルな元カノは何気に二人の様子を面白がっているらしい。
久慈には定期的にフラリと自宅にやってきては居候を繰り返す、雨宮というカメラマンの親(悪)友がいる。彼はバイトしてある程度の資金が貯まると、撮影旅行のため行方をくらますような生活をしていたが、実はその雨宮と元カノの宏美と久慈は、微妙なバランスを保ち続ける不思議な三角関係を形成していたのだった。
仕事に忙殺され疲れきった久慈を甲斐甲斐しく世話する雨宮。二人の親密さは非常に思わせぶりに描かれています。久慈の「妻」を自称して憚らない雨宮の描写だとか、雨宮のことを久慈が可愛がっている大型ペットだと例える宏美だとか。もしや雨宮は久慈のことが好きなのでは?って思っちゃいます。
このお話は久慈と桧山のラブストーリーではありますが、三人の関係に桧山が乱入してきたことによって、久慈の中で保ってきたバランスがグラつきはじめます。あたかも久慈のセクシュアリティー自体がグラついているかのように…。
作品が古くてもネタバレは避けたいのでどこまで触れるべきか悩みますが、久慈が桧山と正面から向き合うには宏美と雨宮の存在が欠かせず、あまつさえ彼らが後押しになってくれたこと、それと桧山がメッチャ魅力的で、オトナでエロな攻めキャラだったっていう点だけは触れておきたいかと。(さらっとしたエロシーンもステキです。)
久慈にはもともとゲイの素質があって、無自覚に雨宮に惹かれていたのかなー、なんてわたしは妄想してました。で、女性にも男性にもモテる久慈を雨宮が守ってきていたのだったら、そりゃ、桧山も嫉妬するわけですよ。
あとがきでこの作品を大学出たての新社会人が描いたと知って(おそらくですが)、わたしはそこに一番驚きましたΣ(゚д゚lll)
アタマだけで上手な小説は書けるかもしれないけど、人生経験からくる説得力とか、やおいの中でもマイナーな萌えをストーリーにブッ込めるのって、書き手の持つ技量が絞り込まれてくるような気がするんですよね。さらに読む側と作家さまの萌えがピッタリくる出会いがあってその物語は初めて生きるんだと思うと、作品との出会いってホント、巡り合わせなんだなと思います。
このお話は色んな読み方をさせてくれて、わたしにとっては面白かったです。そこまで入り込めない人には、もしかしたら全然つまんないかもしれないけれど。