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nusutto to koi no hanamichi
『答えて姐さん』で電子刊行をお教えいただき読了。挿絵、あとがきあり。
刊行当時に読んでいたら評価はもう少し下だったかも知れません。
9年前の作品を今読了して、物語の仕掛けが大変精巧であることに驚きつつ感心しています。
登場人物の心の動きを繊細に描写していくのではなく『それぞれの立ち位置からの関係性を描くことによって彼らの気持ちを想像させる』とでも言うか、余白が多い文章が読む楽しみを広げる様なお話でした。
そういえば、名作の誉れ高いあの噺家のお話もそうだったなぁ。
もう読めないのか、と思うと……(涙)。
環は10歳の時に、希代の盗賊、花輪の弥一に売られ、読み書き算盤や芸事、そして房術を仕込まれてきました。弥一の一味が押し込み強盗を働く金持ちの家に潜り込み、屋敷の間取りや金蔵の鍵を手に入れる『草(間者)』になるためです。環は非道で冷酷な弥一をとても恐れていて、言いなりにならざるを得ないと諦めています。弥一が目を付けたのは、羽振りが良い材木商で、大の『陰間好き』という噂の深川新左衛門。大火事に見舞われた飛騨の材木商の落とし胤と偽り、新左衛門宅に預けられた環は、初日から、若くして巨財を築き自由に生きる新左衛門に惹きつけられます。自分のことを「稔弟」と公言し可愛がってくれる新左衛門と暮らして行くほどに、新左衛門が飼っている色鮮やかな金魚と同じ様に「このまま守られて暮らして行きたい」と願います。しかし二年後、弥一の手下の者が訪れ、新左衛門宅の間取り図と蔵の鍵を要求してきて……
『薄幸の美少年』環と『豪放磊落な若き豪商』新左衛門の恋愛が縦糸として書かれているのですが、実は新左衛門にも家族にまつわる哀しい過去があり、その因縁の相手『火付盗賊改』荒垣尚安との関係が横糸として織りなされています。
これがね、何とも言われない切なさを醸し出しているんですよぉ!
近代から始まる『恋愛』と言うよりは、西洋的概念が入ってくる前の『情』とでも言うべき気持ちのやりとりなんです。
そしてそれが、新左衛門と環の結びつきを更に強く感じさせる一因になっているという、この上手さ。
細部の描写でグッと来るんじゃないんです。
読み進めていく中で構成された世界から「ああ、だからこう思うのか」「そっか、それじゃあこんな風に行動するよね」ということが、すんなり入ってくる。だからとても立体的です。満足度が高い。
もう一度、書きます。
剛さんの新作はもう読めないんだなぁ。
いなくなってしまった作家の偉大さに敬意をはらいつつ、
合掌。
久々に剛しいらさん作品を読みました。やはり引き出しが多い。何を書いても読みやすく面白く仕上げてくれます。BL時代劇ドラマを見ているような気分でした。イラストが葛西リカコさんで、葛西さんの和風時代物って珍しくて、美麗イラストに眼福でした。
受けの環は不幸な生い立ちだけど、健気で欲がなくて可憐な受けです。陰間になる一歩手前で新さんに出会えて幸せになれて良かった。数えで14歳から16歳の花の若衆時代を新さんはたっぷりと味わったのね。今で言ったら義務教育中の年齢なので完全に犯罪ですが、江戸時代だしフィクションだし気にしない。青年っぽい骨格に成長しても一生添い遂げてほしいものです。
攻めの新さんは生き別れの双子の武士のお坊ちゃんがいて、プラトニックですが惹かれ合っていたという双子萌え設定もあり読み応えのある一冊でした。
これが2009年作で前回レビューした英田サキさんの「デコイ」が2008年作。BLながらストーリーもシチュエーションもバラエティに富みながらもクオリティの高いこんな作品群がひしめいていた2000年代って(2010年前後?)BL小説界の黄金期で作家さんにとっては激戦時代だったのかなとも思います。今の小説も面白いのは面白いけど似たようなのじゃなく色んな設定の話が読みたいな、と切に願います。レーベルも小説家も減ってるから難しいとは思うのですが。
追記…私は受けが敵の懐に潜入してスパイみたいな始まりだったけど潜入対象に惚れてしまいミイラ取りがミイラになるという話が大好きだという事に今さら気付きました。
表紙は、盗人の弥一ではなくて、環の想い人の深川だったんですね。深川さんは、意外と若い。(弥一・・曾曾祖父の名前と同じ~爆笑)
時代想定は、元禄あたりだそうです。
陰間茶屋があったのは、江戸時代初期、中期には数が減って湯島などに二軒ほどになったそう。
理由は、芸者や吉原の女遊びより数倍お金がかかるので、遊ぶ資産家が減ったからだそう。この辺りは「百と卍」に詳しく書かれていました。
金魚の養殖が盛んだったのは、今の墨田区から江戸川区辺り。当時はそのあたりに豪農が居て、江戸城から糞肥を船で今の浦安辺りまで運んでいたのも、江戸川区の豪農だったそうです。だから水路が発達していました。
押し込み強盗の仕込み、このお話だと、全部根こそぎ盗み取るまで、3年ほどかけています、
私が知る現代の進行中の件だと、金魚姫のような美人ではなく、お話にもならないような普通の人を使っているようです。醜いけどよく働く高齢の、根性図太いオバサンをお手伝いさんとして潜り込ませて、資産家の子息の超年上の愛人にさせ、父親が死んで相続するときをじーっと十年以上かけて待っている仕掛け人が居ます。
世の中の実際は、こんな小説になるような美しくはない、もっとドロドロしています。
でも今は誰も言わない。私も言わない。朽ちて果てて下から茸が出てくるまで、みんな見ない振りです。数百億が消える日は、もう少し先。弱い者からせびり取って蓄えた不当な財産には、恨みの涙が沁みているから、3代まで身に付かず消えるのは世の常です。因果応報。
剛しいらさんの小説を、電子版や古書で漁るように読んで居ますが、ほんとによく調べていて、物知りです。感心。そして、一番読みやすいです。文法や構成がしっかりしていて、疲れません。
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陰間:
男娼は陰間と呼ばれ、歌舞伎の女形としての修行の一環と考えられていた。子供の頃から役者の候補生として舞台の芸、歩き方や夜の技法、いろんな芸を仕込また。
陰間茶屋は当初は芝居小屋と併設されていた。美しくあるために、体臭のもとになる食べ物、貝類や焼いた魚、鳥類も禁止、ガスが出やすくなる芋類も禁止などの制限があった。
衆道においては11歳~14歳が「蕾める花」、15歳~18歳が「盛りの花」、19歳~22歳が「散る花」と言われ、成長すると客は女性相手に変わる。宝暦・明和の頃は男色隆盛期。陰間のほとんどは痔持ちだった。
https://mag.japaaan.com/archives/59542/2
時代物の良さがある。
時代物、実はけっこう好きなの。
盗賊の一味の親方に、色子として金持ちの所へ潜入させるため、ある意味大事に育てられてきた環。
その第一段階として、陰間茶屋に売られるその直前に、親方は狙いを、金持ち寺院の坊主から、茶屋で豪遊していた材木商へと変えることにします。
そして、環を材木商の深川の元へ連れて行くと、思いの外あっさりと深川は環を引き取って…。
剛しいら作品って、時として、あふれんばかりのアイデアやエピソードを詰め込みすぎで、それだけで終わっちゃうこともなきにしもあらずだけど、このお話はそんなこともなく、ちょうどいいテンポ感と密度。
深川の思いも、環の健気さも、こういう一途なハッピーエンドって、時代物だからこそって感じで楽しかったわ。
新しい年の1冊目の小説なんにしよ?積み本さぐってコレ!
剛しいら先生の2009年作品。時代ものです。
押し込み強盗の引き込み役として育てられた美貌の少年・環。
はじめは大きな寺へ渡される予定だったが、急遽江戸で羽振りのいい材木商の深川の元に潜り込まされる。
可愛らしく無垢な環は深川に気に入られ、念弟として片時も離れず身の回りの世話をするようになる…
…という事で、本当に深川を慕ってしまった環の「切な健気物語」だけかと思いきや。
大胆な仕事ぶりと粋な金遣いをするお大尽の深川の方の事情が明かされてから、俄然物語が面白くなる!
↓↓ややネタバレ強め
深川は、実は火付盗賊改の荒垣と共に押し込み一味を捕らえる算段をしているわけです。
なぜなら荒垣に命すら捧げているから。
なぜ荒垣に?
その慕情のいきさつが語られるあたりからこの作品の重層性が際立ってきて非常にスリリングになってくる。
今のBLだと、実の兄弟だろうが双子だろうが、っていう部分ありますけど、本作ではここで2人の関係性は完全に精神的なものだけになります。
元々強く囚われていた深川は吹っ切って、輝かしい太陽としての兄・荒垣のためだけに何年もかけて罠を練る。
一方荒垣の方も同じく囚われながらも、月のように隠された弟である深川に返せるものは何もないのです。それでいながら、ようやく孤独だった深川にもたらされた「環」という宝物に対して妬むわけ。
この深川x環とあにおとうとの2組が絡む構造と、捕物がうまくいくのか?のハラハラが非常に面白かった。
ところで蔵の中で盗賊改が待ち構えて…というシーン、TVで見たことあるんだよなぁ。雲霧だったか鬼平だったか?
江戸時代、ワケアリの豪商・深川屋新左衛門と盗賊に育てられた美少年・環のお話。
ああ、時代ものは大好きだぁ。
自らの身体を使ってお大尽を手玉に取り、強盗先の情報を入手するよう育てられた環は、まんまと深川屋に預かられることになります。
自分の役目を果たさなくてはならないのはわかりながら、新左衛門を心から愛してしまう環。その環の選択は・・・
また、新左衛門の方にもなかなか辛い過去があり、それは今の生き方にまで影響していて・・・
武士と町人と、運命に弄ばれるしかない存在と、題名は軽い響きがありますが、内容は意外とシリアスなのです。
教えられたとおりに新左衛門を篭絡しようとする環は、閨房事は巧みなものの心根は純粋無垢で、ただひたすら健気です。
そして新左衛門は頼りがいのある男前で環を大変可愛がるので、妄想の世界は絢爛豪華な状態です。
そこへ、キーワードでもある金魚が絡み、盗賊と火盗改、仇討ちまでもが加わると、豪華な大江戸捕物帖となるわけです。
何かにつけ女性的な環ですが、そういう風に育っちゃったのだから仕方が無いでしょう。
「金魚よりも鯉になって、いっそ新様に食べられたい・・・」大川に身投げする直前に環が言った言葉です。
こういうの、時代劇だからこそですよね。好きだー。
ここ二カ月続いて時代物の刊行ですが、今度は時代が江戸は元禄の頃。
材木問屋と盗賊と火盗改が絡んだお話です。
時代物ですが、攻め様の男気がなかなか粋で、受けちゃんもかわいらしく純真で、気持ち禁忌の匂いも漂わせ、ちょっと切なさも取り混ぜてなかなかに良い出来の作品になっておりました。
環は小さい頃実の父親に芝居小屋に売られ、またそこから盗賊の草(手引きする間諜)として買われ、羽振りの良い材木問屋の当主・深川屋新左衛門のもとへ送り込まれます。
一目で新左衛門に心奪われた環は自分の使命を悲しみながらも、その日が来るまではと彼の為に一生懸命尽くします。
環を送り込んだ盗賊・弥一は、寺や豪商へ押し入っては惨殺・付け火などする残忍な盗賊でした。
環に惚れてしまった新左衛門ですが、実は環の正体を知っていて、実の双子の兄で火盗改である新垣とともに弥一を捕える日を手ぐすね引いて待っていたのです。
新左衛門と新垣は家の事情で17歳で出会うまでお互いの存在を知らない立場でした。
そして再会した時にお互いに恋をしていた仲で、新垣は衆道美学など尊んでいたようです。
兄弟とわかった時点でこの恋は破れているのですが、それでも密かに新左衛門を愛していたので、彼の愛を一身に受けている環に嫉妬していたりもします。
環はただひたすら新左衛門の為に生きるといった弱そうな存在でしたが、弥一が盗みに入ると、とうとう知らせが入った時点で新左衛門に死んで詫びようとしますが助けられ、それからとても強い子になります。
新左衛門が金魚を可愛がっているところから、環を金魚になぞらえているところが確かにそんな風情も醸し出しています。
でも後半金魚は池でなくても生きていけるちゃんとした人間になったんですよね。
新左衛門と環の関係が中心ですが、途中で絡んでくる兄の新垣のその恋心はこの物語に必要だったのか、それはちょっと疑問。
ひょっとして衆道を出したいが為の作者趣味だったかとも・・・