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tsuki no namida wa gin no ame
椹野道流先生のデビュー8作目にして初の本格的ボーイズ・ラブ作品です。
椹野先生の小説ってほのぼの系が多いイメージがありますが、この小説はまったく異なる作風です。生半可な覚悟で読むと痛い目を見るほどに切なくて重い作品でした。
主人公は高校一年生の天宅朋哉(15歳)。二年前に両親を事故で失ってからは、年の離れた兄・天宅展之(26歳)と支え合って生きてきました。優しくてしっかり者の兄が大好きだった朋哉。けれど展之は轢き逃げ事故に遭いこの世を去ってしまいます。朋哉は展之の死を受け止めきれません。追い打ちをかけるかのように、事件の調査のため展之の遺体は解剖されることになります。兄・展之の体をバラバラにされたくない。怒った朋哉は兄の司法解剖を担当する監察医・月森圭吾(31歳)を止めようとしますが、月森は朋哉を殴りつけます。「どこも……似ていないじゃないか……」という意味深な言葉を残して…。
展之が亡くなって数日。朋哉は幼馴染みで同級生の白瀬暁や暁の両親の支えによって、少しずつ平静を取り戻し、兄のいない現実を受け入れようとしていました。そんな折、朋哉のもとに展之を轢き逃げした犯人が逮捕されたという報せが届きます。犯人逮捕に一役買ったのが監察医である月森でした。刑事の話によれば展之を解剖する際の月森は鬼気迫るものだったらしいのです。さらに四日後、朋哉は月森が展之を殺した犯人を死ぬほど殴った話を聞きます。その行動のために月森は謹慎を受けているそう。
月森の不可解な行動、そして朋哉を殴ったときに放った言葉「どこも……似ていないじゃないか……」。まさか兄と月森は知り合いであったのではないか。死んだ兄の部屋を調べて、月森の自宅を訪れた朋哉。そこで展之と月森は恋愛関係にあった事実が判明します。
さらに月森は朋哉を無理やりに強姦します。けれど朋哉は月森を嫌うことはできませんでした。自分を抱く月森の姿から兄・展之への確かな愛が伝わってきたから。
恋人を失い、自暴自棄になって酒に溺れる月森。
朋哉は兄を心から愛し、兄からも愛された月森の支えになろうと奮闘します。どんなに暴行され、強姦されても月森の住むマンションへ通い続けます。一方の月森は朋哉に展之の面影を見出しますが、やはり展之と朋哉は違う人間。そのギャップに耐えられず、朋哉を殴りつけてしまう。さらにアルコール依存症に陥るのでした。
展之を失った悲しみで結びついた月森と朋哉。二人はお互いの存在に安らぎを覚えながらも、傷つけ合い、深みに堕ちて行きます。
朋哉のひたむきさ、愛する人をこの手で解剖しなければならなかった月森の苦しみ。二人の想いが胸に迫って目が離せませんでした。愛する人を失う悲しみを知っているからこそ二人はお互いを理解して支え合って生きていけることも可能ではないはずなのに、なぜか上手くいきません。二人でいるために別の苦しみが生まれてしまうのです。
読み終わってみると、この小説はただのボーイズ・ラブとは言えない。救済と幸福をテーマに、愛する者を失って残された人間たちの悲痛な生き様と選択を描いた作品でした。
心情の説明が多く、読者の想像に委ねて余韻に浸りたい部分も饒舌に説明しすぎているきらいがあったので、評価は〈萌え〉×2としました。でも椹野作品では1,2を争う傑作だと思います。ほのぼの系しか知らない椹野ファンにも是非読んでほしい作品です。