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Satujin ongaku
スペル・イー・エスシリーズの商業1作目が収められた単行本です。
このシリーズの短編4本の他に大変にJUNE的な短編が2本同時収録されています。
シリーズの始まりの話なのに、それはまるで以前から存在して継続していたかのような始まりで、平然とそこに存在します。
普通のお話のような何か前フリの説明があって、という流れをとっていません。
あくまでもエピソード短編の積み重ねの様を呈しています。
そこの中で、主要登場人物と、関連する人、ゲスト、という区分けが、そして人となり、抱えるものがみえてくる仕組みです。
エスは30台の男性です。
ほうっておくとヒゲは伸び、おおよそ美しい男という表現は出てきません。
作者さんの好みからして、某海外ロックバンドの人間をモデルにして描かれているのかという見当をつけてみるのですが。。。
汚い部屋に住み、その部屋はアンダーグラウンドで支持を得ている紙面の主催をしている、自らのイチモツを妻に焼かれて失くした男ヒラーにフィストファックをさせることで家賃をチャラにしてもらい住んでいる。
このエスに執着している人間がもう一人。
それはふたなりの娼婦・ナルです。
エスはバイであり、リバーシブルです。
『精霊憑き』において、後半に登場する俳優のマネージャーで恋人の青年。
彼が見える人だという設定で、エスの後ろに憑いているのだといいます。
それは彼の過去、本当は三つ子で生まれたはずなのに、死んでしまった妹、それに関するこだわりを指し示すのですが、
それは次の話『THREE ORANGES KISSES FROM KAZAN 』において、父親が虐待するにあたり、痛みを感じるなと暗示をかけたためにそうなってしまった少年との出会いを、そして身体に刻まれた彼がこだわることになった傷を、
『Fingered 』において、傷にまつわるさらなる原点のエピソードを。という形で展開していきます。
表題の『殺人音楽』において、仮死状態でうまれてきて息を吹き返して今まで生きてきた売りをしている青年が、もう一度生まれたいと望む、死と隣り合わせる瞬間に聞こえるノイズのような音楽を求める姿をエスが捉える話として、
エスの死への執着を垣間見せる話として展開されています。
その展開の中には、出会いがあって恋をして、というまっとうな人としての生き方から逸脱した人々が(エスも含め)主人公として登場しているので、ある種の愛ではありますが、それはフェティシズムに近い、執着に近い、憧れに近いものとして存在するのではないでしょうか?
同時収録は、沼に沈んだ子がその地に縛られた天使として出現して、主人公と共に沼を再構築する話はとても幻想的であります
(醒めた目で見てしまうと非常に陳腐ですが、こういう作品が美とされた時代を感じます)
もう一本は、強盗に失敗して父親に監禁されている青年の元に逃げ込んだ主人公が、二人して籠の鳥となり、そして脱出を図る話です。
やはり、この本に「萌え」というものを求めるのは難しいと思います。
この1冊だけはエスの魅力はまだで切っていません。ただ非常に興味は惹かれる人間であることは確かです。
このスペル・イー・エスシリーズは実のところ、全てを1冊にまとめて、一般小説として発表するに足る内容であるとは思っているのですが・・・