ふばば
hi no kawa
直木賞作家の桜木紫乃さんが、同郷の「カルーセル麻紀」をモデルに新聞で連載した作品です。
カルーセル麻紀さん。
LGBTQも、トランスジェンダーも、そんな言葉の何も無かった。
オカマ、変態。そんな形容詞しか無かった頃を生きてきたレジェンド。現在79才。
そんな麻紀さんの「少女時代」を創作させてくださいと頭を下げる小説家に「うんと汚く書いてね」とあっさり承諾して、そうして生まれたのがこの「緋の河」。
小さな頃から姉とばかり遊び、綺麗なものが大好きで。
化粧の匂いに誘われて「アチシ大きくなったらお女郎になります」と言って父親に張り倒された秀男。
「なりかけ」と笑われ、怒られ。
辱められ、畏れられ。
「この世にないものにおなりよ」という呪文に、ある時は囚われ、ある時は鼓舞され、秀男はいつでもどこまでも自分であろうとする…
本作は、幼少期から中学時代、家出の時代、本格的にゲイバーで働く時代、大阪で口コミ人気が広がる時代、TVから声がかかる時代、の頃までが描かれています。
カラダの事で言えば、タマは取り、サオは残っている。ホルモンは打っていておっぱいはある。
秀男は良く言えば超ポジティブ。
死にたくなってもおかしくない視線を浴びても、毅然として前進のみ。
各所に哲学的とも言える金言や悟りのような文言が散りばめられ、特に幼少期時代にはちょっと出来過ぎな心持ちにも読めるけれど、とにかく読み応えがあって凄い作品。
私などは実際に若き日のカルーセル麻紀本人の美貌と鉄火と機転をTVで何度も見ているから、いくらフィクションだといっても完全に本人のドキュメントにしか思えないです。
「カルーセル麻紀」を知らない若い方も、こんなレジェンダリーがいて今も美しく在るということを知ってほしいですね。
完全に性転換手術をしてタレントになっていく後半生が「孤蝶の城」という続編となっています。こちらも読まねば!