amazonの電子書籍版です
nakimushi summer channel
インディーズ作家様ですがコツコツと書かれていらっしゃって、いつも新作を楽しみにしています。今回は夏らしいタイトルと青城硝子さんの表紙イラストに惹かれて、配信後すぐに購入しました。電子書籍換算で600ページ弱。おおよそ文庫本二冊はいくのではないかと思いますが、そのかわり商業お約束の続編やスピンオフ狙いがないので、きちんと物語が完結する満足感があってスッキリ。
東京から車で片道3時間ほどの過疎集落で消防士をしている佳史。長身でガタイがいい男前だけれど、姉と高校生の妹に挟まれて散々扱き使われてきた?せいもあるのか、性格は穏やかで消極的。実はゲイだけれど、誰にも知られたくないと思っています。
幼馴染みが家業の農家を継いでいるような自然豊かな村で生活し、同性に惹かれる性向をひた隠しにして生きる佳史は、市街地の本屋でゲイ向け隔月刊誌を買うのが唯一の発散行為。このまま恋をすることなく一生を終えるくらいの覚悟でいたのに…、ある日佳史はバイパス沿にある大型書店で地元では浮くほどの超絶イケメン・絢人と遭遇します。
絢人は訳あって古い一軒家に間借りしており、超節約&極貧生活をしていました。書店で知り合って以来、佳史は都会からやってきためちゃめちゃフレンドリーな絢人がほっとけなくて、ズルズルとあれこれ世話を焼いているうちに、なぜか彼が思いつきで始めたサバイバル系動画配信の手伝いをするハメに…
そんな二人の間でじっくりと進んでいくラブストーリーです。カップリングとしてはゲイ攻め×ノンケ受け、メソメソマッチョとサバサバ美人といった感じでしょうか。
佳史はめちゃくちゃ後ろ向きで自意識のカタマリなんですが、絢人が男前なので、恋愛に消極的な佳史のお尻をビシバシ叩くかのように、あっけらかんと"やってみなはれ"なマインドで未知の世界へ誘います。また絢人自身もセクシュアリティを超越して、佳史を男ではなく人としてまるごと受け入れていく——その段階が丁寧に描かれています。
ラブストーリーの醍醐味って、攻めや受けが自分に向き合わざるを得なくなり、そこで読者にさらけだして見せてくれるふるまいだったりするんですよね、個人的には。メインの二人だけでなく、彼らをとりまく人々との交流も興味深く、一般小説を読むような感覚でラブの周辺も楽しませていただきました。
絢人がホント男前なんです。なんでも(昆虫も、、)美味しくいただく精神が素晴らしい!隣人の助けを得て、先達の知恵を受け継ぎ素直に楽しみながら動画配信でシェアしていくんですが、たとえ他人であっても持ちつ持たれつ、できることを与え合いながら日々を暮らしていくような、そんなところも今らしい温かみを感じました。まさに、「遠くの親戚より近くの他人」を地で行っています笑
キャラ心理を追うのが楽しい読者としては色々な面で満たしてもらえるお話だったのですが、今作は作者様の中ではライトでちょっとだけコミカルなカテゴリ作品かも。眩しい緑や夜の都会など、情景が鮮やかに頭に浮かんでくるので、コミカライズで読んでみたいような気もしました。
映画一本観たような読後感です。