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oboreru neko ni ajisai
2014年に第7回B-PRINCE文庫新人大賞優秀賞を受賞されている作品ですので、執筆されたのは電子書籍刊行年よりだいぶ前ですね。
本作は先日拝読して個人的にすごく好きだった『夏の庭に、あたたかい雨』(第5回B-PRINCE文庫同賞受賞)の後に書かれたようですが、テーマに通底するものを感じました。シリアスなトラウマを抱えた主人公がありのままの自分を絶対に否定しない人に出会い、前を向けるようになっていくお話です。
競泳選手として将来有望視されていた高校生の龍一。高校でも水泳部のエースで特待クラスに所属していましたが、トップアスリート一家に生まれた重圧と双子の弟との確執に苦しんでいました。ケガで泳げなくなり、自分の居場所や生きる意味を失いそうになった時に浅見と出会います。屈託なく優しい言葉で包み込んでくれる彼は、龍一にひと時の避難場所と癒しを与えてくれるのですが…。
浅見の住む家は、彼の祖母が二匹の猫とともに遺していったもの。引っ越してきたばかりでライターを生業にしているようだけれど、詳しいことは語りません。飼い猫にも名前をつけていないし、たまに不躾な編集者が訪ねてくるくらいで、交友関係も不明。なんとなく怪しげで謎めいた人物なのです。
どちらが受け攻めかは期待を裏切られず地味に嬉しいのですが、ストーリーの要所で予想を裏切る種明かしを後出しされたりするので、不意打ち効果大。先が気になってどんどん読み進めてしまうのは、お話の運びが巧みだからだろうと思います。
こういった苦しみの果てに救いが感じられるお話、個人的に大好きなんですけれど…。
作者のTwitterで、本作以前の作品は書くのが苦しかった時期に創作したのものだった、とのツイートを目にしました。先日拝読した作品もそうだったのかと思うと、自分が好きでハマった作品は作者が本当に書きたいものではなかったのだろうかとしょんぼりです。『花嫁のカヤ』こそが本当に書きたかった作品だそうなので、これは読まねば…。
龍一や浅見の抱える苦悩が作者と重なるかのように思えたのは、浅見の職業がライターだったからでしょうか。彼らの心情にシンクロしていくうちに、わたし自身も辛くなり、時には身体的にも疲労を感じるほどでした。作者の産みの苦しみが直に反映されていたからなのだろうかと、後から知ったツイート内容から憶測してみたり。
作家様に書きたいものが書けない時期があってくれたからこそ、『夏の庭』やこの作品に出会うことができました。それがきっかけで、設定で食指が動かなかった他の作品も読んでみようと興味が湧いたので、とにかく一つひとつ過去作品を書き上げてくださった先生と当時の担当者様に感謝しかありません。
そういえば、第6回B-PRINCE文庫優秀賞の『あなたの物語を、聞かせて。』はどこかで読めるのでしょうか?