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いじめによって五年間も引きこもりをしている18歳(受け)と、その姉の同僚の会社員(攻め)の、心あたたまるストーリーでした。
少しずつ成長していく主人公の姿と、彼を成長に導いていく寡黙で誠実な攻め。それから、気長に優しく見守ってる家族。
いい話を読んだなァ…と、読後感が最高に良かったです。
こういう、引きこもりみたいな社会問題をテーマに小説を作る場合、扱い方を間違えると、説教くさくてウザいか、ひたすら陰気でうんざりするか、考察が浅くて薄っぺらな話になるか…とにかく難しいと思うんです。
でも、榊花月さんは、上手にこのディープな問題を扱っていたと思います。暗くなりすぎることなく。でも、底の浅さを感じさせることもなく。
良作でした。
ややタイムリーな感さえある、いじめが原因の引きこもりの少年の話。
主人公の実景は、学校でいじめられたことが原因で引きこもりがちになってしまう。
部屋の中は安全な逃げ場所で、誰も何も実景を傷つけることはない。
そんな温かな巣の中で、実景はぬくぬくと生活をしていた。
実景の心の拠り所は、そんなにメジャーでもないけれど、独特な歌を歌うアーティスト。実景の姉には理解してもらえないけれど、実景はそのアーティストの書く歌詞にすごく共感していた。
そんなある日、「同じアーティストが好きだから」という理由で、姉から姉の同僚である藍川を紹介される。
突然、初対面の人間と二人きりにされても、実景には話すことなんてないと思ったけれど、思いの外藍川との話は弾んだ。
最初は実景が聞いたことのないという好きなアーティストのCDを藍川が貸してくれたことから始まった二人の関係は次第に深まって行く。
そして、そんな関係を嫌だと思わない自分に気がついた実景は自分が藍川に恋をしているのだということを知る。
という話でした。
何というか、いい意味で温くて暖かい話でした。
あえて、自分で閉じこもることを選んだ実景の世界にそっと藍川が入り込んできて、実景の世界を少しずつ広げて行くという感じの話で、大きな変化は起こらないけれど、そういう日常こそが大切なんだなーと思える人にはおすすめです。
個人的には、実は温い引きこもりと不登校経験者なので、自分のいる世界を「内」と表現して、そうじゃないところを「外」と表現した実景の気持ちはとても理解のできるものでした。
ただ、私の場合は「外が全部敵」だったのではなく、私を「私」として認識ない外はどちらかといえば、居心地のいいところだったので、それが実景と私の違いかな、とは思います。
余計なことですが。
何にせよ、そんな引きこもりの気持ちを丁寧に理解して書けている話なので、ちょっと弱っている時に読むとちょうどいいと思います。
世の中は、こんな物語のようにうまくはいきませんが。