イラスト入り
bakumatsu omegaverse
評判の麗人、菊夜叉は父を知らない。
菊夜叉が3才の頃に亡くなった母は、今世で言うシングルマザー。
生前に「お前は父上そっくり」と語っていた生母、
父親がどういう人なのか語られないで謎のまま。
その菊夜叉の謎の父が、この物語のキーパーソン。
意外な展開が面白かった。
バッドエンドに入ると思う。終りが耽美的。
もうちょっと幸せを感じる円満な終わり方にできなかったのか、
会話が無い、火事場の別離が少し残念。
主人公(受)の誇り高さがいい感じでした。
攻も運命の番としてだけではなく、主人公のそんなところに惚れたのだと伝わってきたのがいいですね。
攻の兄たちもただアルファに蹂躙されるだけではないところから愛刀を拾ってくれたのではないでしょうか。
「私の体は私のもの」辺りではすっかり魅了されているようですし。
先の方も書かれておりますが、主人公と攻の関係性の正体(?)がオメガバースであることや、年齢差として表されているのが上手いなと思いましたね。
短編ですが読み応えありますし。
ただやはりタイトル通り、できればあと100ページぐらい足した長編か、もしくは同じぐらいのページ数の短編をあと数話読みたいというのが本音です。
物語自体は攻受が無事想いを通じ合わせ、攻受の関係性もわかるところで終わるので、決して中途半端というわけではありません。
ただ主人公があれだけ気にしていたお祖父様との作中での再会はなく、攻の兄たちの受への恋慕の決着もつかないままなのでそこらへんが非常に気になります。
というかそもそも兄たちからはっきりとした言葉が発せられてすらいないので、そこらへんから始めて欲しい気もします。
宮緒先生の作品なので楽しく読めました。
架空の江戸を舞台にしたオメガバースで、読み応えがあり、また読者を心地よく裏切ってくれるような展開もありで、短い作品ですが集中して読めました。
時代物のオメガバースが好きな方にもオススメします!
『小説b-Boy2019年秋号』掲載作品です。
『華は褥に咲き狂う』と同じように架空の江戸を舞台にしたオメガバースですが、あちらで書かれる『恵度』とは異なり、こちらの『武都』は少しばかり暗い感じ。
血で血を洗う幕末ですからねぇ……天下泰平の世とは異なります。
時は大政奉還後(正史の言葉で書きますがお許しを)でございます。ただし、まだ幕府が政権の中枢を放していない時代。南虎と長龍(このネーミング、好き)は権力を完全に手中に収める為に幕府関係の施設を襲い、幕臣たちを挑発しています。
旗本家に生まれた菊夜叉はこのような南虎と長龍の非道なやり口に憤慨しているのですが、オメガとして生まれた為に19歳となっても元服すら許されず、外出もままなりません。アルファのことすら討取る剣の手練れである菊夜叉はそれが口惜しくてなりません。父を知らず、母を幼少期に亡くした菊夜叉は、年老いた祖父に代わり家督を継いで武士社会の為に働きたいと思っているからです。
母の命日、墓参りを許してもらった菊夜叉は3人のアルファに襲われます。今までは卓越した剣の腕で自分の身を守って来た菊夜叉ですが、手も足も出ないまま彼らに拉致されてしまいます。
菊夜叉を連れ去ったのは南虎藩の当主の息子たちでした。南虎藩主が「菊夜叉と番になった者が家を継ぐ」としたこと、特に三男の叢雲は菊夜叉を『運命の番』であると言い(色々な意味で)執拗に番になることを求めて来るのですが……
叢雲が徹底的に犬です。宮尾作品おなじみの『飼い主以外にはとても危険だけれど、飼い主の前ではちぎれんばかりにしっぽを振り続ける犬』。
登場した初っ端には危ない香りを振りまいていたこの大型犬の可愛いこと、可愛いこと。
今作、ミステリ要素が大きいのですよ。
「菊夜叉と番になった者が家を継ぐ」と南虎藩主が決めたのは何故?というミステリです。
これ、私は解んなかったのよ。
ゆっくり考えれば解る謎解きなんです。『オメガバースならでは』なんですよね。
ラストで「あああああ、そうか!」となりまして。
ただ、解らなかったおかげでラストの『オメガの悲しさ』や『愛情』が際立って感じられたと思います。
なので良し、としたいと(負け惜しみ)。
宮緒作品は常軌を逸した攻めの執着ぶりに笑えたり、ゾッとしたり、というものが多いですが、これはしっとりとしたお話だと思いました。
雑誌掲載の電子化なので尺が短い所為もあり、読後に漂う物悲しい余韻がグッと来たんですよねぇ……