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ahougarasu
「真田太平記」「鬼平犯科帳」等、戦後を代表する時代小説家・池波正太郎の一般小説です。
11編収録の短編集で、内3編が男色が主題となっています。
「火消しの殿」
忠臣蔵外伝、と言えるような作品。
というのも、この「殿」はあの「浅野内匠頭」。
内匠頭の、「松の廊下」へ向かう道をこれまでの評伝とは全く異なる視点から描いています。
内匠頭は火消し狂い。火事が起きることを極端に嫌い、月に何度も屋敷内で演習を繰り返す。
また並外れたケチで、家の無駄金を常にガミガミとチェックしている。それなのに火事羽織には金に糸目をつけず、豪華絢爛な羽織を20着以上誂えて…
そしてもう一つの性癖が、児小姓狂い。美しげな小姓を召抱える時も、ポンと数十両を出す。
本作はその小姓として新しく召抱えられた美少年・久馬(きゅうま)の視点から語られます。
久馬は内匠頭への小姓勤めが夜の伽まで兼ねる事を知らず、いざ夜具に引き込まれた時に気持ちが悪くて、内匠頭を殴って逃げ出してしまうのです。
その事件と並行して、浅野家に「勅使御饗応」の役目が仰せられ大変な出費を強いられていた。
内匠頭は極端なケチなので筆頭の吉良上野介への付け届けも軽んじて。
吉良からは色々嫌味も向けられていたが、久馬の奉公を口利きしたのが実は吉良の関係者。吉良は久馬が逃げ出した事を知って殿中で内匠頭を嘲笑、その眼に激昂した内匠頭が吉良に斬りかかり…
これが「松の廊下」の真実⁉︎
「元禄色子」
ある日、陰間茶屋に連れてこられた少年武士を見て血が沸き立つ色子は、幸之助17才。
少年武士は大石主税(ちから)。大石内蔵助の嫡男で15才。
主人である浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけ、浅野家のみが取り潰しになった。その恥を雪ぐために赤穂浪士が吉良家に討ち入らんとする前日譚です。
内蔵助の倅として15才で死ぬ事になる主税に女の肌を味わわせてやりたい、その父親の命で商人の市兵衛ははじめは廓に、と考えたが直前に「色子はどうか?」と考えて陰間茶屋へと主税を連れて行く。
そこで出会ったのが元々侍の子で今は役者の卵兼色子の幸之助だが、幸之助は以前主税を見かけたことがあり、すぐに主税の正体と立場を理解する。
2人はあっという間に血の盃を交わすまでの情で結ばれて、主税が討ち入りを為し切腹の後、出家した幸之助は一生を僧として過ごした…というお話。
「男色武士道」
15才x17才の濃密な恋と死の後は、一貫してプラトニックな想いと覚悟を貫き通した男の話。
格別な信頼感で結ばれていた、小姓同士の千本九郎・19才と鷲見(すみ)左門・15才。
ところが左門が殿様の寵童だと揶揄されて、九郎は自分が助太刀をするから言った相手を討てと言い…
左門は殿様の威厳を守った誠の侍、と持ち上げられ、九郎は自分が助太刀した事を一生涯言わず、討った夜以来左門とは二度と顔を合わせず、左門からの真実を記した書状を破り棄て、しかしその紙切れを大切にしまっていて死の瞬間に「わしと共に土に埋めよ」と家来に命じ…
武士にとっての男色の崇高性が読み取れるお話です。
この他の収録作は江戸に生きる人間模様。淡々とした筆致でBLの空気感とはかけ離れていますが、時代小説に興味のある方、短編の読みやすさもありますのでたまにはこういうのもいかがでしょうか。