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father arrange
初読み作家さんなのですが、実に私のツボにはまりまして……
タイムスリップものなんですけれど、ちょっとばかり導入部が複雑なんですよ。
麻生宝は3歳の時に亡くなった父の命日に花を買うのが習慣です。父の仙太郎は仕事一筋の母に変わって宝をとても可愛がって育ててくれた記憶があります。母のピアノに合わせて父が歌っているのは宝にとってとても大切な記憶なのですが、花を抱えて家に帰った宝は、その思い出のピアノが母によって処分されていることに激しく動揺します。そればかりか、宝の本当の父親は茅葺譲という人で、仙太郎は頼まれて宝の世話をしていた母の幼馴染みだと打ち明けられます。衝撃と怒りで一杯になった宝は、はじめて母に逆らって家を飛び出したのですが、どこか不思議なホームレスの男を庇って車に轢かれてしまいます。気がつくと、美しい女装の男がどこか懐かしい歌を歌っているバーにいて、訳も解らないままにその男にキスをされてしまい……
まず何が面白かったってお話の始まりから、衝撃、衝撃、衝撃と続くノンストップジェットコースターの展開です。これがグイグイ読ませるんですよ。
「寝る前にちょっと」のつもりで読み始めたんですけれど、目が冴えちゃってねぇ……次の日大変でした。
そして、タイムスリップ先で書かれる、宝の母(町子)と仙太郎、そしてもう1人の男(ジョー)の関係がもう、好みのど真ん中だったんです!
理由があって、ずっと一緒にいた3人。
仙太郎は町子のこともジョーのことも大好きなのですけれど、でもその2人が決して自分のものにはならないことを知っているんですよ。だから精一杯、2人の前ではちゃらんぽらんな『恋多きドラァグクィーン』を演じているんです。
町子とジョーはある理由で仙太郎をすごく心配しています。でも、それは日常生活を送る上で軽々しく口に出せないことなんです。あまり心配していることを言うと仙太郎の自由を縛ってしまうことだから。
そして町子とジョーの間にも、あまり側に寄れない理由があるという。
この3人は互いのことをよく知るあまりに近くに寄り添うことが出来ない『ハリネズミのジレンマ』状態。
この、もの悲しいジレジレ感がねー、とっても読ませるんですよ。
だからこそ、ある意味『部外者』の宝の仙太郎に対する純粋な好意が生きて来て、意識的ではないにせよこの3人の関係を変えていくんです。
幸せな結末を持ってくるためには、そうするしかなかったんだと思うのですが『風呂敷のたたみ方』がちょっとばかり性急で強引ではあります。
あと、お話の中に出てくる歌の歌詞が、実際の名曲を連想させることが、ちょっとだけ鼻についちゃう感じもありました。
でも、この3人+宝の関係が書かれる『過去部分』がすごく私のツボに填まったんです。
また、タイムスリップに関して重要な役割を果たすシュウというおじさんの、生と死に関わる素晴らしい科白がありますが、これは「まさにそう!」と思える名台詞です。
お話の終盤に出てくるこの科白を読んで、前述の『欠点と思える様なこと』は全て吹っ飛びました。