「憂鬱な朝」は、Chara Selectionにて2008年から2018年まで連載された大人気シリーズ。映画化もされた「花は咲くか」の日高ショーコ先生による繊細で美しいイラストでつづられる明治浪漫BL。その内容はラブストーリーにとどまらず、近代化をすすめる明治という時代も丁寧に描かれており、骨太なドラマとして読み応え十分です。またその重厚さから、なかなか手に取りづらいという印象を抱くBLファンも少なくはありませんが、香り高い近代文学の雰囲気すら彷彿とさせる華麗な世界観は、ドラマチックな作品が好きな方にはぜひ堪能していただきたいです。
10歳という幼さで子爵家の当主となった久世暁人と彼の教育係で家令(家の事務・会計を管理、使用人の監督をする人)である桂木智之の出会いから始まる物語の前半は、ピリッとした愛憎劇の様相を呈します。その美貌と並外れた才覚で久世家を盛り立て支配しようとする桂木と、彼の思惑に翻弄されながらも一途に彼に恋焦がれる若き子爵・暁人。ラブストーリーとしての展開は、なかなか進まない関係性もあいまって、毎回超ド級の切なさで読者に迫ります。「次はどうなるの!?」とハラハラきゅんきゅんさせる内容に、既刊の7巻まであっという間に読み切ってしまえるほど、素晴らしい構成で読者の心をつかみ、毎年のようにちるちるアワードコミック部門の上位にランクインしています。
長きにわたり多くのファンをドキドキさせた本作、2018年9月発売のChara Selection11月号で完結し、10月に最終巻(8巻)が発売されました。10年にわたる連載のグランドフィナーレにふさわしい最終巻は、多くのファンに感動をもたらし、瞬く間にレビューランキング上位に躍り出ました。
間違いなくBL史上に残る名作、至高の萌えをご堪能ください!
桂木に認めてもらいたかっただけなのに…暁人様、切なくて苦しい恋のはじまり
急逝した父親に代わり10歳の久世暁人が、子爵家の主として東京の邸に迎えられるところから物語が始まります。幼い当主には家令である桂木が、教育係として成人するまで後見となることになっていました。「桂木に従え」と遺言された暁人は興味とも憧れともつかない気持ちを、この若く美しい家令に抱くのですが、まるで静かに憎むような桂木の眼差しの奥にある心を測りきれず悶々と思春期を過ごすうちに、いつしかその感情は抑えきれないほど強く激しいものへと変わっていくのでした。そんなある日、暁人が桂木の兄と面会したことをきっかけに二人の関係に変化が起こるのですが…!
お前の望みだったらなんでもする…体を重ねても暁人様の思いは行き場のないまま
“取引き”という形で体を重ねるようになった二人ですが、「お前の望み通りになんでもする」という暁人の強いに訴えにさえ、桂木はつれない態度をくずしません。そんな中、学院を病欠(といって情事に耽っている)している暁人を気遣って、親友の石崎が久世家を訪れます。迎え出た桂木は、石崎に“暁人の思いを利用している”と詰られたため、暁人には近日中に婚約してもらうつもりだと告げます。その様子を陰から伺い半ば自棄になる暁人。そんななか桂木の前に久世家の元書生・雨宮が現れ、先代の命令通り久世家に「家令」として仕えたいと申し出るのですが…。それぞれの思惑の行方が定まらないまま、物語は森山侯爵家の舞踏会へ!豪華な夜会の裏では様々な思惑も渦巻いていて…。
お前と一緒にいたいだけだ!・・・暁人様の言葉にさすがの桂木も揺らぎだす!?
公家の名門・佐条との婚約の話をすすめながら、子爵家当主としての仕事に本格的に取り組みだす暁人。その一方で今まで統括していた仕事をやや奪われるかたちになった桂木は、成長著しい暁人に対する自分の感情の変化に気づくのですが、その思いはかえって彼を鬱々とさせるのでした。暁人は、親友の父であり実業家の石崎に婚約の媒酌人を依頼しにいき、「(後見を引き受ける)代わりに桂木がほしい」と言われショックを受けます。そんななか桂木を久世家当主にと暗躍する雨宮の存在と思惑を暁人が知ることになり…。二人の関係の障害である過去の確執が明らかになる、もどかしさMAXの展開です。
お前しか好きになれないんだ…ついに暁人様の片思いに終止符?!
ついに出生の秘密が暁人の知るところとなった桂木は、久世家を出て石崎家の大番頭におさまります。これからは外から暁人を支える覚悟だと石崎に告げるのですが、暁人もまたある決意を固め屋敷を出て下町で暮らし始めます。二人の行動にじれったい思いの石崎が、うっかり桂木に暁人の状況を伝えてしまうと、桂木は居ても立っても居られず暁人の下宿へ向かうのでした。久しぶりに再会した二人、そこで暁人のあふれる思いと大胆な計画を聞いた桂木は、混乱しながらも激しく暁人を求めるのでした。切なさMAXの下宿での逢瀬から、4巻の最後は感動必至です…!
桂木が目を逸らし続けていた感情とついに向き合い始める・・・様々な思惑が交錯する舞踏会
桂木からの思いがけない告白をうけ、暁人は気持ちの整理がつかないまま森山侯爵家の夜会に向かいます。それはある計画を実行するために、桂木が仕掛けたもので、暁人に替わり久世家の当主となる予定の先代の義弟・直継が呼ばれていたのでした。桂木のことで頭が一杯だった暁人でしたが、直継と対面するうちにある思いに突き動かされ、ついには桂木の計画を覆してしまうのでした。状況が変わってしまったことに、動揺を隠せない桂木でしたが…!最初から最後まで舞踏会という贅沢なターンです。主要人物大集合の夜会の合間、ひそやかにイチャコラする二人の様子にうっとり。
人を好きになり自分の弱さを知った桂木とさらに強くなった暁人様、二人の恋の行方は…!?
夜会での計画を暁人に覆されて以来、自分の弱さに気づき悶々と過ごす桂木。石崎家での仕事を粛々とこなしているなかで、さらに総右衛門から傾きかけた紡績工場の再建もまかされ、ますます仕事に没頭していくのでいた。一方、暁人は表向き隠居と見せかけ邸を出、ホテル暮らしをしながら、桂木兄弟や雨宮の協力を得て、久世家の事業再編成に向けて着々と計画を進めていました。暁人への気持ちに気づいてから、意見の衝突を恐れる桂木はすっかり静かになってしまうのですが、自分に内密で進められていた英国留学のことを知り…。
すっかり下界に降りてきてしまった桂木がひたすら悩む(眉間のしわも色っぽい)というターンですが、その反動からか二人の逢瀬はよりいっそう甘いものに!!
生涯かけてただ尽くすのは暁人様ただおひとりです…二度と離れないと決めた二人は!?
紡績工場の経営の件で総右衛門の怒りを買った桂木は、石崎家の大番頭の職を解かれてしまいます。その頃、暁人は “すべての元凶”に決着をつけるため、桂木の出生の秘密を知る最後の生き証人・高正(久世家の先代に仕えていた)に会うため桂木家を訪れ、両家が囚われているくだらない“決まり事”を終わらせ、迷わず先に進むべきだと決意を新たにするのでした。一方、職を解かれた桂木はその影響で暴落する紡績工場の株を買い叩き、桂木銀行として経営権を得ることに成功しますが、教育係をしていた総一郎から婚約の件で不興を買ってしまうのです。石崎家での居場所を失った桂木は、ついに暁人のいる鎌倉の久世家別邸へ向かうのでした!
仕事を離れ、鎌倉の別邸で、束の間のおだやかな時間を過ごす暁人と桂木。生まれて初めて無為に過ごす日々で、桂木はその出自にゆえに先代に拒絶された辛い過去を改めて思い返し、自分が先代のようにならず、暁人が桂木のようにならなかったのは、暁人が桂木を許し、諦めずに向き合ってくれたからだと、その想いを伝えるのでした。そんな桂木に暁人は、銀の懐中時計を贈ります。互いの名前を刻んだ揃いの時計は、同時に古くなっていくものが欲しかったという暁人がわざわざ誂えたものでした。そして、いったんは離れる覚悟を決めたものの、やはり一緒に英国へ来ないか?と桂木に旅券を渡すのですが…。
2人が選んだ結論に、BLの本質的な恋愛観を改めて考えさせられる素晴らしいラスト。神作品の最終巻がもたらす極上の萌えを全神経で堪能してください!