攻め視点です。
短編で無理なく、しっかり纏められています。
バツイチ寡黙男がひとりきり、残りの人生を忠実に生きるなか、失いたくない宝物に出会ってしまった。
いままでは農家同士の付き合いで必要な作り笑いが多かった男にとって、心からの歓びを得られた。
愛する歓びがひとすじの光となったんですね。
攻めの歓びは読者としてもとても嬉しく、胸に沁みました。
しかし、失いたくない宝物ということはやがて…
ですが!とても優しいハッピーエンドなのです。
心に刺さりながらも優しく沁みる文章、小説の醍醐味です。
先生の投稿作とのこと。ということは実際に書いたのはデビュー前?!なんという才能でしょう。
先の方のレビューに書かれている「おやすみなさい、また明日」を彷彿とするストーリーという点、言われてみて気がついた感で納得です!
凪良ゆう先生の「憎らしい彼」を読了したあとなので、先生の作品を検索していたら、こちらの作品が気になり詳細をクリックしたのが読んだきっかけです。
早速電子のサイトに登録して拝読、読了しました。
新年そうそう、今年の初BLがこの作品で嬉しいです。
(繰り返し読みなおし、16/12/30に加筆)
美しい彼の続編が刊行されるとのお知らせを目にした時は、幻視かな?と思ったほど嬉しすぎました。
【口絵】
なんといっても、一枚目の口絵を目にした途端、感動感激!
一糸まとわぬ絡みの口絵なのですが、透明感があっておそろしいほどに純潔。
絡み絵で興奮することはあれど、感動したことは滅多にないです。
この絡みの口絵での、平良の目線が輝かしく美しい。
平良のカメラ師匠、野口さんがこの二人を撮ったらこんな風になるのだろうと思っています。
【本文感想】
平良(攻め)の清居(受け)に対する崇拝は、ネガティブ俺様的なのを通り越して、確固たる美学に成長していました。
平良の清居を想い崇める精神は、禁忌と神秘が相反する複雑で堅いゴシックのようなもの。その美学を侵犯することは、崇拝対象である清居ですら躊躇われるようなものではないかと思いました。
そんな「難しい彼」平良を受け入れる、綺麗で気高く男らしくて人間臭い清居の懐がとても温かい。
清居は平良と人間らしく触れたい気持ちがある、だからこそ、この二人には肉体的な触れ合いが必然だと思います。
直で繋がっているときは、平良は清居への死ぬほど好きでたまらない気持ちが抑えきれないから。
全体的に、清居の人間臭いところで平衡を保っているような気がします。
平良は、男か女かではなく、清居だから愛しているのですね。
だから、清居が女性で生まれていても同じように愛したのではないかと邪推。
【邪道な妄想】
実写化したときのキャスティングまで妄想してしまっています。
平良は松○○○○チ氏が素晴らしく演じそうだな、と。
平良の父は落ち着いて飄々とした小日向○世氏で、心配性の母は松○○子氏、平良の師匠野口さんは神○佑氏で、と妄想してしまいます。
しかし、綺麗で人間臭い清居のキャスティングが思いつかないです。
なんだかすみません。
【総評】
ハラハラドキドキ感動する神作です。
愁堂さんの201冊目の作品。全編受け視点です。
攻めは男前、無頼漢の捜一刑事。
受けは美人、頑固のSP。
イラストは、小山田さんの美麗でしっかりした画力にうっとりです。
受けのお父さんがちょっとだけ出演しました。お父さん、大人の事情を掌握している様が素敵で、石○浩二さんに脳内変換しましたwお父さんの絵もかっこいいです。
【ラブ編】
人を見たら疑うのが仕事の攻め。
常に身の危険を警戒するのが仕事の受け。
互いに最悪な第一印象だったのが、打ち解け助けられという安心展開です。ですが、恋心に至るのが駆け足かな、と。
【仕事編】
受けは青い。
余分なことを考えずに任務にかかることを信条としていた受けは、危ない方向に正義が暴走しました。
攻めは破天荒で、絶対的秩序がある警察組織ではあるまじきこと。だけどそれは、攻めに強力なバックボーンが着いてることを自覚して、それを解っているからミスしないんですね。かっこいいです。
受けのやってしまったことは、本来なら監察室に呼び出される重大なことなのですがそれはなかったです。
それにしても、レベルト大臣というのは最悪なサイコ野郎ですね。
しかし、政府が決断した大人の事情もよくわかります。
ギャグ、ラブコメ。受け視点が二編で、攻め視点が一編の計三編です。
攻めは俺様、腹黒、ダサ眼鏡、男前。
受けはヘタレ、美人、健気。
(作品ではダサ眼鏡とされているけど、最近ではおしゃれな人というイメージがあります、眼鏡)
ダサい男前俺様って、新しい。素敵キャラです。
攻めは理論武装が完璧かつ毒舌な俺様だけど、気遣ってるように見せずに気遣うスマートな男前。
受けは学生時代は普通のお坊っちゃん。ですが、社会人になり父経営の会社に入社して、元ヤンのおっかない父親に自分の意見をハッキリぶつける成長ぶりがうかがえます。
カップルのふたり以外にも、友人やそれぞれの親家族がいい味出していました。
攻め父はどうしようもないダメ親父だけど、そのダメ親父の異変は切なかったです。
挿絵は、小説で書かれてるキャラのイメージとして伝わりにくかったかな、と。
あと気になったのは、ラグに押し倒したのに、絵ではフローリング直だったところ。
(ネチネチとごめんなさい)
でも、カラー絵は木下さん独特の色彩感が瑞々しくて好きです。
攻め視点、受け視点とところどころ変わります。
受けは、攻めの叔父に片思いしていました。その叔父が亡くなっていてというお話です。
受けは、幸せになりたくないとか、笑いたくないとか、食べ物の好き嫌いが多く歳上なのに未熟な行動を遠慮なくしています。無意識に、攻めがいる安心感があるからそういう行動をしていたのかな、と。
私は、SFのようなファンタジーという印象が強いです。
時間感覚の曖昧さにぼんやりして、読者のこちらとしても不安定になり、登場人物たちの疲労が存分に伝わりました。時間単位というのは、大事なのだなと。
「天国ホテル」ではなぜ「時間」が曖昧なのか(あるいは存在しないのか)、死者の時間が止まってるからなのですね。
そんな不安定で疲労する世界で、攻めは受けに対してだけでなく、他の人たちにも面倒見がよく格好いいです。
全編受け視点です。幼馴染の同級生。
表紙絵は高校生の頃と現在とが自然に織り込まれていて、ラテン的な色彩です。
田舎の保守的な家族、性的マイノリティへの偏見、カミングアウト、この三つが避けられない環境下をベースに生きてきたお話です。
二人とも、高校生にして簡単ではない決意をします。受けはその苦い決断をなかったことにして、自分の道を切り拓きなんともなかったように生活する。だからなのか、静かな流れで話が進みます。
受けが受験した医学部を蹴ってまで、地元と攻めから逃げた理由が終盤まで分からず読者としてもその謎に苦しみました。なので、受けが何かしらの苦しみを抱えているのが臨場感をもって伝わりました。
もうそんなに苦しまないでくれという感じでしたね。
受け母が男前ですが、攻めへの一発お見舞いは可哀想だった^^;
穏やかに情熱的に抱き合う後日談でホッとしました。
攻め視点、受け視点、攻めの親友視点と三編です。
作家買いです。
切ないファンタジー。キャラはモブを除いていい人たちばかりで安心できます。安心できる王道だけど、じわじわと変則的。
攻めは顔無しがなによりのコンプレックスで、それが嫌で仮面を装着しています。
受けが良い子なのですが、なにが良いかって攻めが顔を隠したがる習性を否定しないところ!
顔を出したくない人に無理矢理前向きな行動を強制しないのは、すごく良かったです。
寡黙で欲のない攻めが、受けを他の奴に盗られたくないと性急に抱くところは萌えました。
攻めの親友の春宵にも、人間のパートナーがいるとのこと。彼のスピンオフも読みたいです。
栗城さんの小説は、普遍的なベースにじわじわと変則的なエッセンスがあるところ、そして文体が堅実なところが好感です。
お勧め頂いた作品です。全編受け視点です。
露文学講師の柳(攻)の家政夫として、幹太(受)がアルバイトに通うお話です。家政夫といっても、実態は便利屋。
大学では講師と学生として、攻めの自宅ではお客様と家政夫としてほぼ毎日顔を合わせます。にもかかわらず、くっつくまでは綱渡りのような関係性に冷や冷やします。
家政夫といっても便利屋なので、友人代行果ては恋人代行も事業として引き受け可能。ただし、社則で交接は禁止。社則を破ってまで、高額な金銭のやりとりを持ち出してまで攻めに抱かれたった受けの心情は切ないものがあります。
二点気になるとすれば、ひとつは攻めの寝室を掃除した時に見つけてしまったアダルトDVDを見過ごしてあげなかったこと。同性愛にかぎらず気まずい(笑)これは受けの奥手と若さゆえ仕方のない面でもあります。
もう一つは便利屋社長の叔父に、攻めとの交接を暴露してしまったこと。報連相として話したのかもしれないですが、個人の究極のプライバシーを暴露してしまったのは引っかかります。
最後の、攻めの泣き落としが良かったです!無愛想で情けなく何を考えてるのか分からない攻めが、本当は好きだったんだと感極まって流す涙が本当に良かったです。
栗城さんの文体は、本当にきちんとしていて読みやすい。