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私の“幼馴染みBL”の教科書にします

上下巻を読んでの感想です!
幼馴染みBL、それも“同い年”の幼馴染みが数ある設定の中でも一二を争うほど大好きな私、あらすじを読んですぐに購入を決めました。
好きな設定の作品はいくらあっても嬉しいですし、これからも沢山読むんだろうとは思うのですが、私の中での幼馴染みBLのお手本というか、教科書を見つけてしまったような気がしていて、この作品に出会えて良かったなと思います。


古矢先生の作品は他にも読んだことがありますが、穏やかで優しい空気感とキャラクターの表情や行動から伝わってくる心理描写の繊細さがとても魅力的だなと感じる作家さんでした。
それが今回は上下巻という大ボリュームで、幼馴染みの佑征と樹がどうやって出会い、どんなふうに育ち、何を見てどう感じてきたのか、そんなふたりの半生をじっくりと見守ることができ、読み応え十分でした。


樹は天才肌で飄々とした性格。一方の佑征は物静かで落ち着いた性格です。一見正反対のように見えるふたりですが、樹の自由奔放な振る舞いに佑征が振り回されるようなかたちで、微妙なバランスの関係性のまま腐れ縁を続けています。
何でもそつなくこなせる要領の良さゆえに、それを持ち合わせない周囲との軋轢が生まれてしまい、時には陰口で、また時には直接悪感情をぶつけられてしまう樹。
それを、最も比較されがちな幼馴染みという立場でありながら、彼のありのままを受け入れて手放しで肯定する佑征。言葉は多くなくとも、いつもただ傍にいてくれる佑征の優しさに、樹がどれだけ救われていたのかは想像に難くありません。


下巻後半の、雪の中でふたりが想いを吐露する場面で樹が、

「お前は世界で一番俺の味方でいてくれたじゃん 俺にはそれで十分だよ」

と言って見せた笑顔がとても印象的で、いちばん大好きなシーンです。
普段から自然体で過ごしているような樹ですが、どこか相手にこう見られたいという姿を演じているようにも見えました。それは佑征に対しても例外ではなく。
いつも佑征より一枚上手でいようとしているようで隙を感じさせない樹が、そういった壁を取り払って、彼のいちばん無防備な姿を晒した瞬間のように思えました。
ちょっと照れくさそうな、くしゃっとした笑顔がとても年相応に見えて、また中学時代の雨の日のシーンとも重なり、樹がそんな表情を見せられるのは今までもこれからも佑征だけなんだろうなあと思うと、幼馴染みのふたりがこれまで一緒に積み重ねてきた年月の重さや尊さにぐっときて、とても温かい気持ちになりました。


きっとこれからもふたりの関係性は大きくは変わらず、佑征が樹の尻に敷かれるような感じで仲良くやっていくんだろうと思いつつ、イチャイチャするような場面では佑征お得意の(?)ムッツリを大いに発動していただいて、逆に樹をドギマギさせていたら面白いなあとニヤニヤしてしまいました。

胸になにかを残していく作品

もしこの作品にメリバ要素があることを事前に知っていたら果たして手に取っただろうか…?と考えてしまうほどには感情を揺さぶられた作品でした。
個人的な好き嫌いだけで「しゅみじゃない」評価をしてしまうのはあまりにもったいなく感じたので、感想を書きつつ気持ちの整理をしていきたいと思います。

らくた先生の描かれるキャラクターの繊細な表情が大好きです。
タマちゃんの、かわいいけれどどこか世を儚んでいるような危なっかしさとか、矢澤に抱き締められてじんわりと緩んでいく様子とか、セリフがなくても感情がダイレクトに伝わってくるので、ものすごく感情移入してしまい読み進めるのがとてもつらかったです。

最終話の扉絵を見たとき、きっとこのページの先にこんな展開が待っているんだろうと期待したのですが、そんなシーンは永遠に来なくて。だんだんと終わりに近づくにつれて、心臓が痛くてページをめくる手が震えたのは初めての経験でした。
あの扉絵は矢澤とタマちゃんどちらが夢見た光景なんだろう。
タマちゃんの人生が本当に苦しくて、でも最期に矢澤に見守られながら笑顔で旅立てたのが彼にとって一筋の救いになっていればいいなと思います。
一瞬でも幸せだったと思える時間があれば、人生なんてそれでいいのかもしれません。

「さびしさが残る ちゃんと残ってくれる」

この言葉を見たとき、また涙が込み上げてきました。
私の好きな作品に、「誰かを愛するということは、失う時の痛みも引き受けるということだと思う」というセリフがあるんですが、それを思い出しました。
愛しく想っていた相手との別れはつらく悲しい。でも裏を返せば、それは本当に相手を愛していたからこそ感じられる特別なものだとも言えます。決して前向きな気持ちではないかもしれないけど、いつまでも忘れずに心の中に住まわせることがタマちゃんへのせめてもの手向けになっているのかなと思いました。

猫の青ちゃんにはもちろん矢澤からたっぷり愛情を注いでもらってすくすく育ってほしいと思いますが、光の腐女子としては、人間のタマちゃんと矢澤が幸せに過ごしているところをもっと見たかったです…。

しんどすぎてしばらくは読み返せそうにないので、もう少し落ち着いたらまたゆっくり味わいたいと思います。