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平和な世の中だからこそ

「謹製ヘルブック」には書き下ろしはありませんが、コミコミスタジオで購入すると書き下ろしSS小冊子が付いてきます。
A5判16pの小冊子で、本文は2段組11ページ分、数えたわけではないですが推定1万字超のお話で、とても贅沢でした。
藤十郎が商談で訪れた都心のビルで火事が発生します。藤十郎はテナントオフィスの客側なので、先に避難誘導されて一旦は外に出るのですが、訪問時にビル内でみかけた小学生のことが気になり、燃えさかるビルに戻ります。
勝手に建物の上階に侵入していた子供達は火事のことを知らず、藤十郎が戻らなかったら確実に火に巻かれていました。
子供三人全員を無事に救出したまでは良かったのです。予科練を出た元海軍の飛行機乗りなだけに、状況判断は的確でひとつひとつきっちり確認して理詰めで行動しますし、語り口が穏やかなので、こちらもうっかりしていましたが、いくら非常事態で子供を助けるためとはいえ燃える建物に戻って最上階まで、しかもたった一人で救助活動を行うというのは、やはり無謀なのでした。
これまでのサバイバルな出来事からも、藤十郎ならなんとかしてしまいそうな気がしていて、おそらく本人もそう思っていて、だから、伊魚に後で言えばいいか、と後回しにしていたことも言えないままになってしまうのか、と思い始めた段になって、事態の深刻さを思い知ったところが良かったです。また、その藤十郎の考えを読んだ伊魚が彼を助けたことも。
戦争も終わり、何気ない平和な日常を過ごす二人が(テレビを見ている場面がある!)、今に至ってもペアである本領を発揮するのを読むのはとても嬉しいことでした。とても素敵なお話でした。

「彩雲の城」ペアの来し方行く末

1945シリーズの番外編集第2弾。25本ものSS・短編収録で、彩雲ペアの戦争中~戦後の半生を読むことができます。
2014年から2021年に書かれた、同人誌や旧版の特典ペーパー等からの再録で、520ページ超えの文庫本。読み応えたっぷりです。(書き下ろしはないです)
藤十郎と伊魚がどうやって心を繋げて、あの気難しい戦闘機「彗星」を乗りこなし太平洋に落下しつつも南の島で生き延びて、どうにか帰った日本でどう暮らしていったかというのは「彩雲の城」につぶさに描かれていますが、本書はその補完でもあり後日談でもあり、且つ、タイトルどおりエロチックでもあるという、大変贅沢な仕上がりです。
99.9パーセント彩雲ペアですが、ほんのちょこっとだけ恒と六郎が出ます。
すべてのお話にコメントすると大変なことになってしまうので、特に気に入ったお話のみレビューします。


○ねずみ花火の憂鬱

きっかけは藤十郎の母御が二人の住む家を訪ねてきて藤十郎に結婚をしつこくしつこく勧めたことでした。
伊魚の中にはずっと、自分さえいなければノンケの藤十郎は一般的な家の長男として妻を迎えて子をなして幸せに暮らせたはず、という思い込みがあり、これを機に爆発。
別れを切り出して家を出ていこうとします。
当然藤十郎は伊魚を引き止め説得し懇願し、果ては縛り付けて梁から吊して動けなくして身体にきく、という、その手法がどうなのかはさておき、三日間の拘束を描いたお話。
このうち特に気に入っているのは、伊魚が藤十郎を柔術で落とした場面と(かっこいいです)、がんじがらめに自分をきめつけて責めている頑なにも程がある伊魚が、三日目に、音を上げた振りをした藤十郎を這いずって追いかけた場面です。こんなことされたら藤十郎でなくても絆されます。読みながら涙目になりました。


○指先と林檎飴

風に乗って聞こえて来たお祭りの音に惹かれて、連れ立って向かった境内の夜店で林檎飴を買って、伊魚の唇が飴の赤に染まるのが色っぽくて、帰宅するなり致す話なのですが(ざっくり過ぎる)、気に入っているのは、お祭りの音を聞いて「二時の方向」だと断じる伊魚と(さすが偵察員)、縁日ではしゃぐ子供を見て敗戦の虚しさを癒やす場面、それから二人のお布団シーンが秀逸でした。
まだ準備が出来ていないのに早く欲しいとがっつく伊魚が、存分に欲を満たされて、揺すられながら「気持ちいい」と藤十郎の背中に指先でモールス信号で伝える。本人は別に伝える気は無いんじゃないかなと思うのですが、本音を言えない彼が背中に指でトントン合図するのが可愛くて。「そういうのは口で言え」と文句を言う藤十郎が実はあけすけな隠語にやられているのがやっぱり可愛い。
気持ちのまま突っ走るため、翌朝我に返り恥じ入るのも可愛いです。特にこのお話は、朝ご飯にゆうべの林檎飴を二人で食べるというシーンもあって一層良きです。
次の「臨時教員・緒方氏の恋人について」というお話が本作の後日談のようで、伊魚と同じ学校に勤務する教員から、襟元からキスマークが見えていると指摘されるお話なのですが(本当は歯形や指の痕も見られている)、「手加減しろといっても聞かなくて困っているんです。気をつけさせます」と答えるのがもう。ちょっとちょっと。指摘した人は相手が女だと思っているので、どんな猛女だと目を白黒させるのも面白いです。


○なし崩しの昼下がり

これはお昼に、昼寝をしていた藤十郎を起こしに行って、返り討ちに遭うように執拗に迫られ、なし崩しに濃厚Hに雪崩れ込むお話で、事後の伊魚の不機嫌と「貴様のせいだ」までがセット。
もう伊魚の「貴様のせいだ」が私は好物になりつつあります。めちゃくちゃ可愛いです。
そもそも藤十郎の「挿れるだけだから」の「だけ」の意味が分からないし、当然「だけ」では済まないし、知り尽くした手管で結局陥落させられた伊魚の箍がはずれ、本気で「挿れて」と懇願させられてるしで、本当に良いものを読ませていただきありがとうございました。


○一と超ジュラルミン

出張で三日家を離れる藤十郎の指に、戯れに白い余り糸を結ぶ伊魚。
その出張から帰って来る日に突然雨が降ってきたので、傘を持っていない藤十郎のために駅まで迎えに行ったものの、聞いていた時刻になっても帰って来ず駅も最後で閉められてしまう。
どうしたんだろうと不安になりながらとぼとぼ帰途に就いた伊魚の目の前で、藤十郎が車から降り立つのに遭遇。港から送ってもらったというのを聞いて、安堵と自分の悪い想像による消せない不安とで気持ちが下がっているところに、前述の糸を出張中ずっとつけていて、解けては苦労して結び直すなどしていたと聞くというお話で、それで二人は指輪を買いに行くのです!
なんていいお話。このあとの「幾久しく今日の一から」も大好きです。
形なんていらないとずっと突っぱねていた伊魚ですが、形は寧ろこのような人にこそ必要で大切でした。末永くお幸せに。


○人の噂も七五〇〇日。

戦時中、横須賀基地に所属していた椎名という男が主人公。
この第三者の目を通して、当時の伊魚の様子と、篠沢と伊魚の噂話を回想していきます。
噂話が主流なので、読んでいるこちらも出歯亀みたいな気分。
当時の伊魚の美しさがふんだんに伝わります。
そして戦後の東京で偶然見かけた伊魚の表情がやわらかい物になっているというのも良かったです。藤十郎との日々のたまものですね。


というわけで、まさに人に歴史ありを痛感するこのシリーズの番外編集。
ヘルブックなだけにエロティックです。刊行ありがとうございました。

ツンとふんわりのギャップ

「365+1」に登場したモデルの美山靫彦を主人公にした物語。
時系列的には「365+1」よりも後なので、そちらのメインだった綾野と紺が仲良くやっているらしいのがぼんやりと見て取れます。
それよりも主人公の美山です。
なんて、なんって魅力的なキャラクターなのでしょう。ため息しか出ません。
断片的に要素だけを記せば、ネグレクトな母子家庭で育ち、母は出て行って行方不明、ティーンの時にファッション業界の大ボスに拾われて愛人になり良きも悪しきも様々叩き込まれ海外でも評価されているトップモデル、本人の自己評価は低い、不眠、神経質、片付け嫌い、好き嫌い多し、意地っ張り、等等等、ちょっとてんこ盛り過ぎます。
なのにこの魅力的なことはどうでしょう。要素が喧嘩しません。
ツンとふんわりのギャップと、頑なに意地を張る陰で悩んだり悲しんだりしているのが、どうにもこうにもやるせなくツボでした。
助けてあげたいけど、こちらは傍からぼんやり行く末を眺めることしか出来ません(あたりまえだ)。くやしい。
で、このめんどくさい美山が二度目に本気で好きになった人が、新進デザイナーの久保田です。
当初割れ鍋に綴じ蓋かと思ったのですが、でもよくよく考えるとそういうわけでもなくて、お互いがお互いを尊重して努力してなりたっていくカップルでした。
本書の3分の2くらいまでは目が離せなくて、美山が好き過ぎて気がかりで、読みながら私のモヤモヤが募り、彼をどうにかして差し上げろとグルグル唸っていたのですが、4分の3を過ぎた頃から、でもこれ実は灰原とよりを戻すのでもよくない?と思い始めてしまって、その分、その後の展開に気持ちが今ひとつ乗らなくなってしまいまして。勿体ないことをしました。
灰原は牙城だったので、なんの武器も装備していない一兵卒が大ボスから姫を取り返す暴挙を、手放しで賞賛できなかった。ここで盛り上がれたらよかったなあ。
作ってもらったカメリアを大事にしていたり、カメリアがあれば深く眠れたり、そういう美山が本当に可愛かったです。

お詫びのしるし

翡翠の里に、ラジャンが舞いができる舞台を建てるのですが、その理由が「こんなことになったのは、そもそも自分の短慮が原因だし、ひいては里が襲われたのも、元はと言えばラジャンの因果によるもの」なのでレネへのお詫びに、というものです。
レネとしては気にしなくていいし自分のことよりも里のために、ということのようですが、この上記の「 」部分は、外野からみても全くそのとおりなので、もしも私がこの場に居たら、そうだそうだと囃し「もらっておきなさい」とレネに強く勧めるところでした。寧ろここまではっきりラジャンの口から短慮が原因であるとの詫びの言葉を、地の文ではありながらも書いてもらえて、胸がすくような気持ちがしました。(いや、こちらはなにも迷惑を被っていないのですが)
出来上がった舞台はとても立派な建物のようで、レネは嬉しそうに舞っているので、更によかったなあと思います。
練習のたびにレネが魅惑的な振りを研究していくのも、それにラジャンが二重三重に魅了されるのもこの二人らしい。いつまでもお幸せに。

なんというアオハル物!

「PUNKS△TRIANGLE」の続編。「1」とついているので続巻が出ます。
でも大丈夫です。単話完結風です。ひっぱられてモヤモヤしません。そのことで購入を悩んでいる方は御安心を。
というのを、同じ沖田先生の「先輩、ナカみせて」1巻でも思いました。そのときも、「1」とついているから「2」へと続くわけだけど、完璧に単巻で完結しているように見えたので寧ろ2巻はどうなる?と訝しく思ったものでした。それに近いような感じです。
読者にとってはありがたい、安心設計の続き物です。それでいて続きも待ち遠しい。文化祭の行く末も、新キャラ二人の恋の行方も。

今回、登場した新キャラは、二人と同じクラスの三木くんと凜ちゃん。
四人でチームを組んで文化祭に向けて準備を進めています。
ショーのコンセプトを考えたり課題に明け暮れたり、食事したり合宿したり、酔い潰れたり恋話したり、なんというアオハル物なのか!
くわえて江永と千明は恋人になっているので、イチャイチャ可愛いです。千明の可愛さが爆裂しているため、江永の気が休まらないのも良きです。
前作は二人の恋がメインだったので、千明の過去エピソード含めて心の奥深くまで抉るような、バレたらどうする、どうやってバラすのが傷が浅い、などドキドキしながらページをめくりましたが、今回はそういうのとは別のドキドキ(主に、千明が可愛い問題)に終始しました。
三木の恋の相手については次巻に持ち越しでしょう。アイのライバルなのかな。名前と顔以外は詳細は不明です。
個人的には凜ちゃんのキャラがとてもツボでした。
一見クールビューティー女子なのに、友達への一途な恋と、謎テンションのラップとオヤジギャグ等の言動。ぐずぐずに酔っ払ってるはずなのに、送りは要らないと強気に一人で帰宅する様(でもあぶないよ)。ギャップが可愛くて、ほっとけないです。彼女のむくわれなさそうな恋の行方も見守りたいです。
前作もそうでしたが、この作品になると、作画の画面がとてもムーディーです。
キャラが服飾の学生だから、普段着もおしゃれで、その分作画がとても大変そう。(でも楽しんで描き込んでいそう)
夜の場面でなくても雰囲気があって、画面がとても華やかなのも魅力の一つと感じています。

夢を追いかける二人

高校の同級生が将来の夢を語り合い、専門学校に進んで恋人同士になり、就職する段になって片や上京し片や地元に残っての遠距離恋愛が始まり4年。
起こるべくして起こった問題といえばそうなのですが、とても丁寧に二人の気持ちやら背景やらが描かれて、それこそ手に取るように伝わってきて最後まで目が離せませんでした。
地元に残って母の美容院を継いだ綾野の優しさも焦りも鬱屈も分かるし、東京で道を見失って堂々巡りをしている紺の自分本位な面も見栄を張りたいことも劣等感も分かる。
どちらも痛い程伝わってくるので、二人のことをそれぞれに応援していました。
言葉が足りないから拗れるんだよ、と思いつつ、でも言えないよな、とも思ってしまう。そういうところが凪良先生はうまいなあと。
「薔薇色じゃない」とか「汝、星の如く」とかにも通じるところがありますが、両作より不穏度が低いので安心して読めますし、キャラクターに寄り添いやすいと私は感じました。
それは二人のベクトルが同じ方向を向いていて、折れるタイミングも前を向くタイミングもほぼ同じだから、というのもあるかもしれないです。個人的にモヤモヤは少なかったです。
紺をとりまく環境は確かに華やかだけど、「センス」という目に見えない物と向き合うのは大変だろうと思いました。改めてスタイリストというお仕事の難しさを確認したような気持ちです。
モデルの美山は毒を吐く我が儘なキャラだけど、的を射たことを言うときもあるし、なんだかんだ憎めないのがすごいなと。電気ガスの引き落としの手続きをしてあげたいですもん(笑)
紺の師匠の英も、人を育てる難しさについてぽろっと零したりして、人間らしさを感じたりしました。この人はこういう本音を零す相手が居るのでしょうか。大勢の人に持ち上げられているけど実はすごく孤独なんじゃないだろうかと邪推しました。

一目惚れから始まる恋

一目惚れ同士の二人。片や大国の第二皇子、片や存在を秘匿しなければいけない一族の里長の第二子という、背負っている背景が二人とも重たく大きい。
それだけに様々な責任が伴い、こちらを立てればあちらが立たず、何かをしようとすれば国や一族を巻き込む大問題に発展し、二人の思惑など、しきたりや建前や先祖代々伝わる習わしや伝承その他の前ではなんの意味もないくらい、思うように事を運ぶことができません。
とてもはらはらしました。
シタール国第二皇子のラジャンは一言でいえばパリピの陽キャです。対するレネは苦労人でまじめな子で、ラジャンの軽率な行動によってレネやミルドヴァが窮地に立たされるなどするため、どうしても印象が良くなくて、読書中内心で何度も突っ込みました。
ラジャンを単体で見ればいい人なのですが、あまりにも自分の背景に目をつぶり我を通しているように見えるため、また、その行動が裏目に出ているように見えてしまうため、ストレスがたまりました。
二人の関係性が、燃え上がるような恋だったり、愛情深い繋がりが見えればまた違ったのですが、一目惚れしただけでお互いのことをよく知らないので当然相手を疑いもしますし(お話が進むにつれて、困難を乗り越えていくことで徐々に関係が深まっていきます)、ラジャンが強引な分、そしてレネの立場が特殊な分、レネやミドルヴァの皆さんがただただ気の毒でした。
ページの半分くらいまでは先が見通せずどうなってしまうのだろうとわくわくしていましたが、最後の解決策がかなり力技で、二人にとって都合がよすぎるようで腑に落ちず、残念に感じました。

机の下で足を蹴るような関係性

シリーズ3冊目。3冊目ともなると中だるみがあってもおかしくないと思うのですが、全くそんなことはなく、最後まで楽しく読みました。
リバースエッジに新人が入社してきます。
ものすごく有能、技術者としての知識も豊富だし誰より作り上げる速度が早い。問題は自意識が高くて他との交流を徹底的に拒むタイパの人、ということです。
そしてポイントは新卒ではなく、久瀬商事からの転職者、というところです。
特に後者については久瀬の兄の差し金でもあるということがわかってから俄然目が離せなくなりました。
社内の誰もが鳴沢を慕い、今回の問題についても皆はお手上げで、正確に状況把握しようと立ち上がる鳴沢に「なんとかしてくれんの?!」と全員で前のめりになるシーンがとても可愛かったです。
私もこの難局をどう乗り越えるのだろうと思い見守っていました。
2巻の困難とは全くスケールが違いますが、仕事は結局は人なんだという意味では3巻の壁の方が高かったかもしれないです。
それほど難波という新人は手強すぎました。
久瀬が心配している方向に、難波が鳴沢に懐いたのは、初めてみたものを親だと思う刷り込みの一種と思いました。
鳴沢と久瀬のカップルも、3冊目ともなると良い感じの空気感やリズムが出て、読んでいるこちら側も以前より気恥ずかしさが無くなり正視できるようになりました。
二人のときはいくらでも甘くてよいのですが、机の下で足を蹴るような関係性は今後も続くといいなと願っています。

複層的な変化球BL

著者が一般文芸の本を次々と出している時期に、角川文庫から出されたこの本。BLの過去作なのにどうして今、一般のレーベルで出るんだろうと敬遠しているうちに店頭から無くなってしまい、結局後日取り寄せしたら3刷でした。
読み終わり、なるほどなあという気持ちです。BLはBLだけど変化球だなと感じました。
前半はひどくまったりとしています。著者の過去作に時折登場する、人生の中休みをしているような人が現れ、寝たきりになってしまった弟の介護に暮れる主人公に絡んで来ます。
余計なことを言っては怒られ、言葉が足りないようでもあり、そつなく先回りするようでもあり、そのことで主人公の気持ちが上がったり下がったり、とげとげしたり緩んだり、見ているこちらも苦しくなっていくほどです。
後半になって、少しずつ、前半で感じていた違和感の正体が明るみに出て、思いも寄らなかった仕掛けが明かされて、色々な事が収束していく様子は気持ちよくもありました。
ここに描かれる関係性と、同じ人物の過去の関係性が結びつくことで世界が複層的になるのを感じました。新聞社シリーズで良時と密と十和子の三人の複雑ともいえる関係性が、子どもの頃からのエピソードで少しずつ解き明かされていくように、かつての世界の上に今があることが如実にあらわされていました。
角川文庫は挿絵はありませんが、竹美家らら先生の絵柄がずっと脳内に浮かんでいました。元のレーベルでは藤たまき先生がお描きになっていたと後で知り、ふわっとした描線に親和性を感じました。
本書は大幅加筆修正された本編(「青を抱く」「青が降る」)のほか、著者ブログ掲載の「be with you」、購入者特典SS「ウェルメイドブルー」、書き下ろし「Dear my her」が収録されています。

デビュー作を読みました

木原先生のプロフィールにはたいてい「『眠る兎』でデビュー」と書いてあります。そういえば読んだこと無いなと思い、注文してみました。
といってもほんとのデビュー作掲載の雑誌でもなければノベルズでもなくて、新装版の文庫の方です。(ということに後から気付きました)
お話は、いまならマッチングアプリなんでしょうけど、このときはゲイ専門の雑誌に掲載された友達募集のコーナーを見て手紙を出した、ところから始まります。
時代ですね。いや、当時のゲイ専門の雑誌は見たことないですが、昔の雑誌には友達募集のコーナーが確かにありました。
切実な思いの真性ゲイは雑誌に載った方。遊び半分でノリで手紙を出したのはノンケです。しかも前者は高校教師、後者は同じ学校の生徒、先生の方は相手が高校生とは思っていません。
これだけでもう嫌な予感しかしないし、木原先生だからこのあとどんな酷い事になるのかとびくびくしながら読み進めました。
で、驚いたわけです。なぜなら、びっくりするほどのド直球な恋物語だったからです。
本書は、表題作の「眠る兎」のほか、8年後の物語「冬日」、さらにその3年後の「春の嵐」の計三作が収録されています。
「春の嵐」は書き下ろしで、前二作と比べると、よく知る木原先生らしさが味わえます。
「眠る兎」の主人公である高校生(当時)の里見のそばで、正論を口にして軌道修正を図ったり里見を応援したりする、よく出来た幼馴染みの柿本が「春の嵐」の主人公なのですが、あんなに真っ当でブレなかった彼が、会社の後輩くんに迫られていて目が離せません。
しかもどうやら気持ちは固まっていないのに身体先行です。目が離せません(2回目)
続き、どこかで読めないのかしら。とても気になって仕方ないです。