社会人1年生、営業職として入社した直人はかつてつきあっていた正臣と新職場で再会する、しかも自分に仕事を教えてくれる新人教育担当だった、というお話。
タイトル通りですね。本書は、「元カレが教育係だったんですが」(表題作、雑誌掲載作)と、「インターンが曲者すぎるんですが」(書き下ろし)の2本立て。分量的にはだいたい半分半分です。
表題作が150~160ページくらい、2本目が180ページくらいなので2本目の方が少し長いです。
つまり、あっという間にくっついてしまいます。
両視点なので、本当にすぐに両片思いだとわかるのですが、その仕掛けもこのページ数の故かと思いました。両視点だけに全然混乱せず、ミスリード起こしようもなく、わかりやすく読みやすいです。
だけど、もしも一冊まるまる表題作だったら、二人が結ばれるまでに一波乱あったりして、誤解が誤解を呼んだりして、もっとこちらの感情が乱れるくらいドラマチックになったのではないか、などと考えてしまいました。
それほどに、以前の二人の出会いと別れのエピソードは、非常にタイミングの悪いものでした。(でも、正臣の方はそういう時期に、自棄だったとはいえ会わない方がよかったと思うのですが。大学生だった時の直人が可哀相でした)
お互いがそのときのことに傷ついて後悔していて、だからこそまとまるのも早かったのですが、まとまるまでにもう一波乱あればもっと楽しめたなというのが正直なところです。
2本目については、こちらもタイトルどおりインターンの堂島がクセの強い子で、二人が(というよりインターンを任された正臣が)苦労するお話でした。堂島はなんとなくインターンで会社に入ることになって、つまらないしいちいちうるさいし面倒くさい、というのが丸わかりな、舐めきった態度の人でした。そんなに面倒ならインターンやめたらいいのにな、と思いながら読んでまして、二人の恋愛のことを途中すっかり忘れていました。
インターン、週5はまだしも3週間は長いような。そんなに面倒見てもらえるのはすごい有り難い制度だなと思いつつ、これでは会社は大学に文句を言っていいレベルなのでは。
直人は正臣のことをガチ恋製造機と内心で称していましたが、寧ろ直人の方が総モテでそんな気がします。
高校の同級生で同じ野球部で友達だった二人。スポーツ用品メーカーに勤務する一条は、プロ野球選手になった三門のことを陰でずっと応援していたが、あるとき仕事で再会することに、というところから始まるお話。
家中にポスターを貼るなどファンであると同時に抜きネタでもあるから、後ろめたくて顔が見られない一条と違って、ずっと探していたが叶わず偶然やっと会えたことからグイグイ押してくる三門。この距離感と、一条の妄想と、両片思いのフルコンボです。
ですが、お話のメインが妄想エッチとリアルエッチと回想エッチなので、読んでいるうちに一条は三門の何が好きなのかわからなくなっていきまして(結局肉欲だけなのか?)、好みに合わずにちょっと残念でした。スポーツ用品メーカー勤務という設定も、できたら出会いのきっかけのほかにもなにか別のエピソードがあれば広げられたような気がしますが、作品の主旨にはあんまり関係ないかもですね。
余計なことを考えずに読める明るい作品と思います。
幸運体質の尭良は売り出し中の俳優で大学生。同じ大学に通う司は不幸体質で生傷が絶えず、周囲から敬遠されていつも一人。大学の喫煙所で少し話したのをきっかけに打ち解けて仲良くなる、というところから始まるお話。
読むのにとても苦労しました。ちょこちょこ後戻りしていたのですが5話まで読んだところでもう一度一番初めに戻って読み直すほどでした。
辞書で「かわいい」の意味を調べる場面があって、これがこのタイトルに繋がります。作中では、調べた内容の「かわいい=かわいそう」に捕らわれていましたが最終的に(唐突に)「かわいい=いとしい」と結論づきました。
序盤では正反対の二人(幸運体質で友達多い尭良、不幸体質で一人の司)が、一緒にいるうちに尭良の方が変わっていきます。尭良は元々繊細で心の弱いところがあるのにそれを見せないように虚勢を張っているのですが、不幸体質で天涯孤独の司は実際には強気で芯がしっかりしていて、そうしたところに惹かれ憧れて依存している節があります。
この、見た目はこうだけど、実際の心の中は、という場面が多く、それがキャラの最初の印象と違っていたこともあって読むのに苦労したり、途中でとても混乱したのでした。(私だけかもです)
絵柄はきれいなのですが、どういうわけか二人のどちらが話しているのか分からなくなることが時々あって、何度か前に戻りました。顔立ちも髪の色も髪型も異なるので、顔が似ているわけではなくて、尭良の科白なのかと思うと司が話していて、あれ?と前に戻る感じです。普通の時でそうだったので、髪が乱れてメガネがない終盤のいいところは更にでした。
尭良が司を求める気持ちは理解できたのですが、司の方はどうだったのか少しわかりづらかったです。帯に共依存BLとありますが、共依存とは思えなかったです。
「ピンクハートジャム」の続編。2巻目、このあとも続きます。
beat1では金江さんの兄が登場しましたが、beat2では二人で優希の実家に御挨拶にいき、御両親とお祖母さまとの交流が描かれました。親としてはやはり、恋人として女の子ではなく男性を連れて帰ってきたことに思うところはあると思うのですが、理解をしよう差別的な発言をしないようにと気遣うなど、穏やかな対面となりました。お祖母さまが優しい人で、金江さんと一緒に居てくれる様子が良かったです。
そのような非常にセンシティブな内容だったので、実家でのエッチはちょっといやでした。
後半はマキさんのストーカー事件が描かれます。マキさんを守るために、優希が送迎を買って出るのですが、いやー怖いですよね、ストーカー。思い込みが激しくて言葉が通じない相手は、おとなしく見えても突然豹変することありますし、はらはらしながら読みました。
マキさんのキャラがとても好きです。最後彼を助けた謎の人物については次巻で明かされることでしょう。
「ピンクハートジャム」大好きで、続編楽しみにしていて、キャラも絵柄も好きなのですが、こうして全体を通して思うのは、両思いになるとストーリー展開が難しいのかなということです。もともとbeat1もbeat2も日常を淡々と描くような内容だから余計にそう感じたのかもしれません。
こちらのレビューで、そういうペーパーがあるんだ、いいなあ読みたいなあと思っていたら、実は私も持っていたことが分かりました(発掘)。
内容は、「漆黒の華」の後日談。ニューヨークで同棲しているダンと佐川のお話。ダン視点。
佐川がこっそり始めていたインスタグラムを、別名でフォローして毎日ひそかに佐川の行動をチェックするダン。怖い。怖いけどまあこの人ならやりかねない。可愛いのは、インスタの存在をヒューイから聞いて、その後意地で自力で探し抜いたところですかね。
佐川がニューヨークのカフェマスター的な感じでフォロワー数を増やしているとか、ニューヨークで働き始めた当初は言葉の壁で悩んでいたりとか、そういう本編後日のエピソードが知れるのも楽しいです。「漆黒の華」当時の佐川を思うと、フォロワー数の増とか仕事で自信を取り戻すとかで、またぞろ増長するようなイメージがありましたが、ダン視点で見る限りそうでもなさそうで(あくまでダン視点)。心身共に仲の良さが窺えて、なんだかこちらまで嬉しくなるようなSSでした。
表題作「鈍色の華」は40ページくらいの短いお話で、その続編「鈍色の果実」が60ページくらい、スピンオフ(時系列は後日に当たる)「漆黒の華」が130ページくらいというバランスで3本を収録しています。「鈍色の華」のみ小説アンソロジーに掲載された作品で、ほかは書き下ろしです。
いやーエッチでした。エッチというか、もうずっとセックスのことばかりなので、ページをめくってもめくっても「ペニス」という字面が踊り、だんだん感覚が麻痺していきました。
それでいてハッピーエンドなのです。あとがきにもありますが、それぞれで運命の相手を見つけて収まっていきます。
表題作「鈍色の華」は、鶴谷といううだつのあがらないアラフィフのリーマンが主人公で、外国の大企業のめちゃくちゃ偉い人2人に差し出され、セックスを教え込まれてエロい身体に開発される物語。
続く「鈍色の果実」は、つまみ食いしたつもりがすっかり骨抜きになった前述の外国人ダンから、執拗に言い寄られるのを鶴谷が断ち切るところから始まるお話。鶴谷は自分を彼らに差し出した、雇用主である社長に関係を迫ります。
この2本のお話の面白いところは、鶴谷が本当にただの気弱な初老の会社員で、見た目も平凡で仕事もあまり出来ないような人なのに、結果としてまるで魔性の男みたいになることですね。欲望に従順な鶴谷(開発された後)がさっきまでアヘアヘしていたのに突然素にかえって関係を切るから、スペックの高い男達が当然鶴谷は自分に言い寄られて嬉しいはずだと思い込んでいる鼻柱を折る恰好になるのです。美形でもなんでもない、ただの目立たないおじさんを内心馬鹿にしていたくせにみんなメロメロになっていくのがいいです。
一方で「漆黒の華」は、自分はもっとできるはずなのに評価されないと自意識の高い20代の男が、噂をききつけてダンに自ら自分の身体を売り本社に引き上げて欲しいと持ちかけるお話。これも面白かったです。主人公の佐川は周囲を見下して自分こそがもっと上にいるべき人間と思って憚らない嫌な奴なんですが、出来ないっぷりを周囲がちゃんと見ていたり、主人公がいい塩梅で転落していくのがなんとも小気味よく。ダンを踏み台に上に行って、キープしている優良物件女子と結婚しようという青写真がもう浅はかで。というわけで女性とのアレコレも出てきますのでいやな方は要注意ですが、ザマァ案件です。
前述のとおりセックスのことばっかりですが、そんなこんなでストーリーが面白くて、いわゆるエロネタとは少し違うかもしれません。でも、おじさんが開発される前半と、若者がへし折られる後半、どちらも読ませられますので秋の夜長に是非。
「海鷲に告げよ」の特典SS小冊子。
まだお互いのことを知らなかった時、音が鳴る戦闘機があると注意喚起する三上からの電信が張り出され、腹を立てる塁。
懐かしい場面です。ここから少しずつ、塁が三上に心を開いていき、唯一の存在になっていくのですが、このSSは、「海鷲に告げよ」に収録されている「ローレライの手紙」の補完ともいえるかもしれません。
「ローレライの手紙」の中で、塁から衛藤新多への手紙にその時々の気持ちが綴られていますが、その手紙の背景となる現場をのぞき見る感じです。事象としては「蒼穹のローレライ」等で知ってはいますが、改めて焦点をしぼって確認するといったところでしょうか。
SSのタイトルは「ミカミテツオ」で、どこの誰とも分からない電信の送り手としての名前ですね。そこから、自分の機体を任せられる信頼のおける整備員、そして特別な存在となる「三上徹雄」へと認識が変わっていく過程の物語は、切り口を変えて何度読んでもじんわり来るものだなとしみじみ思いました。
シリーズ3冊目。前作「初恋王子の穏やかでない新婚生活」から3か月後のお話。
季節は春、ディンズデール地方では恒例の花祭りの季節です。毎回なんらか事件がありますが、今回は前作で暗躍していた第3王子ディミトリアスがまたやらかして、タイトルどおり波乱に満ちています。
事件と事件解決への流れを中心に、各キャラクターが自由に動いて、楽しく読めました。
しかし、このシリーズは読むたびに主人公の恋の相手の印象が悪くなっていく珍しい作品ですね。思えば1冊目も2冊目もフレデリックに対して思うところがありましたが、フィンレイが彼を好きならまあじゃあしょうがないか、と不承不承目を瞑ってきました。前作は特に、フィンレイになんてことするんだと、お城の使用人のみなさんと同じくこちらもキレていましたが、本作はひどいことをしたというより、情けない面が強調されているように感じました。まあ地方領主として子供の頃から育てられていたら、別に武張ったところがなくて当然だし、足腰だって強くはないでしょう。臣下がいれば機転も利かせる必要はないですし。
それもこれも、フィンレイの昔からの友人デリックが有能すぎるので、どうしても比べてしまうんですよね。デリックとフレデリック、名前もなんか似ているじゃないですか。星の数ほどたくさん名前があるのに、なんでこんな近似値みたいな名を付けたのか、ここにもなんらか意図を感じないでもないです。
で、色々読んでいきながら、どう考えてもフレデリックは見た目だけ男(装飾品)で、デリックやギルモアやギルバートなど、いい男はいっぱいいるのに、フィンレイはなんでこの人をこんなに好きなんだろう、と。初恋って罪だわー、に終始する次第です。
巻末のSS「末っ子王子の甘くない学院生活」は、無事に留学を果たしたライアンと、突然次期王太子候補になってしまったヒューバート殿下のお話。ヒューバートは13王子だから12王子のフィンレイの弟に当たるんですね。しかしライアンが可哀相ですね。心の傷はなかなかよくならないでしょうが、少しずつでも癒えていくといいです。
あとがきで、先生が双子のことを「セラピーアニマル」と称していて思わず笑ってしまいました。ナニー殺しからセラピーへ。なかなかの出世です。
レスキュー隊になるための特別研修が縁でつきあうことになった矢島と鳥飼、消防士BLの続編。
危険と隣り合わせの仕事なので、業務中の大怪我を心配したり、喧嘩をしたままでこれが最後になったらと不安になったりするのは、普通のリーマン物とは趣を異にしているという感慨はあったものの、ライバル心むき出しで対抗するような、子供の喧嘩みたいなところが魅力の一つでもあったので、2巻は張り合う場面もなくて正直少しトーンダウン。もともと所属する消防署も違いますしね。
キャンプに行ったり、気に入りの店でごはんを食べたり、仲良しで微笑ましいはずなのですがどうにも物足りないと思ってしまう理由はそこにある気がします。
レスキュー配属になったことを相手に言いづらい、というのも気持ちは分からないではないですが、1巻のバチバチを思うと意外というか、やはり変わってしまったんだなと違和感を覚えました。
一発で目が覚めるアラーム(指令音)で、二人同時にがばっと起きる様子が職業病で良かったです。
押さえ込んで知らない振りをして「友達」を続けることに倦んでいる、もとい外側から揺さぶられて直視せずにいられなくなった柿谷。とっくに気付いているものの、考えるのは今度にしようと逃げを打つことが常態化している周防。
幼馴染みで元同級生の二人が、同居生活7年目を迎えて関係を見つめ直すお話。
1巻の発行が2020年で、収録された1~8話は2016年~2020年に雑誌掲載されたものでした。
続く2巻は2022年発行で、9~18話は2020~2022年が初出です。つまり、2016年から2022年までの7年くらいかけてじっくりじっくり描かれた作品で、奇しくも二人の同居期間と大体同じくらいの時間が流れています。
全2巻のこの物語は、二人の生い立ちから家庭環境、現在の仕事の状況などの周辺も丁寧に描いて、二人の人となりをかなり浮き彫りにしています。
私が1巻を読んだのはほぼ1年くらい前で、そのときは読むのにとても苦労したので、2巻を読む気力がなかなか湧かず、こんなに時間が経ってしまいました。2巻を読むに当たって1巻の再読をしたのですが、初読のときと捉え方の違いを感じました。
今思えば1巻の自分のレビューはかなり的を外しているようです。現状維持でいいのでは、などと思って読んでいたから終始首を捻っていたのだと思います。ここでは二人は現状維持を良いとは思っていなくて、積極的にもうこのままでは無理だと柿谷が思って、周防も見ない振りに我知らずストレスを感じているので、一旦の解消は必然でした。
静かだった水面を戸和田さんが揺するからこんなことになったと当初私は思っていたのですが、元々ぐらぐらしていたものを戸和田さんがつついたに過ぎないと今回わかりました。
2巻の表紙の、何か話しながら手をつないで歩いている二人の様子があるべき姿で、この作品のすべてなのかも。
また、この二人をとりまく、戸和田さんと准一さん、佐久間店長と瑠衣さん、ねこ店長という、先輩諸氏の皆さんのキャラが鮮明で眼差しがあたたかく、作品の彩りや良いスパイスになっていると思いました。