「FBI連邦捜査官 file 1 Liar」で出て来たミカール少年のその後のお話かな?あちらを知らなくても読めるが、知っているとちょっとだけ分かるキャラがいるかもしれない。こちらはCIA職員の上司と部下のカプ。
短編なので、事件はさくっと結末だけ描かれ、背景は要点のみ説明される。それでも切り取られた場面描写に臨場感があり、設定自体は見えていないところまでしっかり作られているのかな、と思った。
作戦を終えて帰ってきたミカールとその上司カーティスの久々の逢瀬は、きっと離れる前と同じ雰囲気なんだろうと思わせる憎まれ口の応酬。が、ついにぽろりとこぼれる本音が切ない。
命がけの任務に向かう恋人を見送るってどんな気分なんだろう。あえてドライな関係を装っているのか、のめり込まないよう感情を制御しているのか。
このカップルのお話も長編で読んでみたいな。
休暇を取り、アリゾナに旅行に来た二人が事件に巻き込まれるお話。
いつもはお堅いジェレミーのいろんな顔が見られて良かった。トラヴィスは相変わらず自由に動き回っている。なんだかんだ言いつつ、ちゃんと恋人なんだな、と実感できる絆が見えた気がした。
デートを楽しむ二人は、はしゃぐトラヴィスと見守るジェレミーといった感じ。ジェレミーは素晴らしい景色もトラヴィスを通して見ているようで、執着愛がすごいというか。受け止めるトラヴィスもすごいと思った。
事件は薄い洗脳と性犯罪。加害者の思考が詳しく書かれているが、本気で良い事をしていると思っていて、相手は自分の行為で救われたと信じている。最後までそこが貫かれていたのでモヤモヤは消えないが、ある意味リアルだとも思う。
トラヴィスが攫われ被害に遭いそうになったことで、トラヴィスより深く落ち込むジェレミー。そんなジェレミーを理解し、浮上させるトラヴィスはさすが。
性格的に合いそうにない二人が精神的に支え合うって良いな。
エピローグは次作の匂わせ?FBIメンバーが増えそうな気配が。シリーズ新作が出るなら嬉しい。
別で出ている、file1 Liar/file2 real friendsに出て来たキャラたちの後日談と、ちょっと変わった事件がいくつか。トラヴィスとジェレミーのラブ度は比較的高めかな。
file1 Liarの事件の中心にいた三人の少年たちの後日談や、file2 real friendsでチラ見えしていたベンとレイモンドがパートナーだった過去のお話、ミリアムとシスコン弟ジェラードの日常など、気になっていたところがピンポイントで描かれていて嬉しい。
トラヴィスとジェレミーの始まりも知ることができたけど、そこはもっと詳しく!と思ってしまった。ジェレミーの懐柔力はすごそう。
事件は大きく分けて二件で、どちらもぶっ飛んだ個性を持つキャラが活躍する。が、最終的にはそのクレイジーさを尊重する形で終わったりするので、すっきり爽快とはいかない。
トラヴィスもストレスを抱えたままジェレミーのもとに帰り、八つ当たり三昧。そしてジェレミーがベッドの中でなだめるという。気分が晴れていくトラヴィスと同じように、読んでいるこちらもモヤモヤが消えていく感覚を味わえた。
FBI捜査官として波乱に満ちた日々ではあるけれど、ちゃんと心休まる時間があって、それを共有する相手が隣にいて、自分の居場所も持っている。そうして一日の終わりに幸せを実感するのかな、なんてしみじみ思った。
file1 Liar/file2 real friends/file3 prayer1・2のシリーズ四冊を読んだ。
BLというより、同性の恋人がいる捜査官が主人公の事件モノ。捜査官同士のカプだけど、仕事上の相棒は別の女性捜査官で、恋人は要所に出てくる感じ。
職場では犬猿の仲、プライベートでは攻めの溺愛が見られる。面白くてシリーズ一気読みしてしまった。
◆file1 Liar
シリーズ一作目にこういう事件を持ってくるのは珍しい。FBIがすっきり解決!なんてことはなく、表向きには終わらせたけど、実は誰かの手のひらの上だった……みたいな結末。その黒幕にも驚かされる。
真相に気付いていたのはジェレミーだけっぽい匂わせがあり、トラヴィスはモヤモヤしながら終わっていく。犯人が因縁の相手になる気配もないし、ちょっと不思議な感情が残る読後感だった。
トラヴィスとジェレミーは、ほぼジェレミーからアクションを起こして関係が続いている印象。トラヴィスも会えて喜んではいるけど、会いに来るのはいつもジェレミーから。
そして怖いほどの執着愛を、寝ているトラヴィスに囁くジェレミー。実はトラヴィスのために職権濫用していたりも。何がジェレミーにそこまでさせるのか、二人の始まりから読めたら良いな。
◆file2 real friends
BL色は薄いがとても好きな巻。事件の犯人がトラヴィスのかつての友人で、トラヴィスの子供時代が見えたり、犯人を追う苦悩が見えたりと、キャラの内面が描かれている。一つ違えば逆の運命を辿っていたかもしれない二人の結末が切ない。
今回のジェレミーは見守り役のような感じで、傷付いたトラヴィスの精神安定剤の役割も果たす。ジェレミーの愛の深さを感じられる気がした。
弁護士のベンのお話も気になる終わり方だったな。
◆file3 prayer
前後編の大きな事件。過去の事件の復讐疑惑が浮上し、いくつもの事件が絡み合う面白い展開。思い込みから冤罪まで入り乱れていたそれぞれの事件は、真相が暴かれていくたびに驚きがある。
完全にすっきり解決とはいかないが、新しい一歩を踏み出すキャラたちを見ることができ、清々しい読後感だった。
今回はトラヴィス一人での捜査から、ジェレミーが加わりカプ二人での大仕事。BLはエロ含め新キャラ周りで盛り上がり、メインカプのラブ度は低め。とはいえ、わりと恋人関係とバレバレだったっぽいのには笑った。ジェレミーの態度が分かりやすいらしい。
二人の皮肉の応酬をたっぷり楽しめて良かった。
欲を言えば、頻発する日本語の乱れを修正してもらえるとよりスムーズに読めたかと思う。校正して欲しい!とはいえ、どのお話も面白かったので、続刊が出ればぜひ読みたい。
「キミログ」でハピエンを迎えた中学生カップルのその後がたっぷり見られる番外編集。長い遠恋期から同棲社会人期まで、一切よそ見することもなくお互いを見つめ続ける二人。中学時代から変わらず、あまりにもまっすぐで泣けてしまった。
始まりは本編の裏話的なお話から。片思い時代の曽原のソファラ節は、正直ノリとか元ネタとかが全然分からない。スマホもない時代だけど、感じるのは懐かしさや古さとは違い、中二病の黒歴史って普遍的なものなのかも、という変な実感。
付き合い始めてからのお話は、本当に何気ない日常を切り取ったものが詰め込まれており、ずっと見ていたくなる内容だった。
高校生になってからは、アメリカと日本の遠距離恋愛。この時、Webカメラを贈ったのが高垣からってとこが良い。曽原と高垣の気持ちがゆっくり同じ重さになっていく過程を見ているようで、微笑ましかった。
十年の遠距離恋愛を終えた二人は社会人になり、同棲生活に。それなりにモテて誘われて、高校・大学時代も簡単には会えなかったのに、お互いしか見ないカップルなんて奇跡では。
ラストは中学卒業から二十年後。15歳の高垣に向けた手紙という形で、今も二人仲良く暮らす様子が綴られている。何があっても添い遂げるんだろうと思える安心感。
幸せしかない、癒やされる一冊だった。
本編後のあまあまな二人のお話。読後に作者名を確認して驚く作品かも……。本当にごほうびのように甘さしかない。キャラの変化にも驚いた。
エアメールで文通し、パソコンを送ってビデオ通話を試みたりと、時代を表す描写。その時ならではのもどかしさに情緒を感じながら、榛野の小さな計算を微笑ましく思う。
それにしても、谷地の変わりっぷりはすごい。これ本当に谷地の行動?と何度も文章を読んで主語を確認した。こんなに甘々になるまでの過程を見ていないので、キャラ変した?とびっくり。谷地も十分恋にのめり込んでる感じなのかな。
この二人は長く続きそうだな、と思える終わり方でとても良かった。
イエ電と文通が現役だった時代のお話?谷地の何事もスローペースなキャラもあり、現代とは違う空気を楽しめる作品。榛野が人間らしい感情を知るまでの物語でもあるかも。こんなに情けなくなるか、と圧倒される人間描写が素晴らしかった。
会社をリストラされた谷地は冴えないおじさん。セリフ・行動・モノローグの全てが本当に冴えなくて、なんとなく生きてる感が伝わってくる。それでも人並みの感情やプライドはあり、ますます没個性なキャラって逆にすごい。
榛野は谷地視点の前半はロボットのような印象。谷地に執着し、ペースを崩して徐々に空回りキャラになっていくのが面白い。榛野視点の後半は、あまりに恋にのめり込んでいて驚いた。いつか仕事でも大きなミスをしそうでヒヤヒヤする。
榛野が告白しても、谷地が返事をしないまま関係が続いていき、曖昧な状態が結構長い。この間はずっと榛野視点で一喜一憂する様子が描かれ、榛野と同じ目線で谷地の気持ちが分からないと悩める感じがとても良い。
それにしても冷静に谷地をリストラし、仕事のデキる男だったはずの榛野が、ここまでダメダメな姿を晒してしまうのは呆気にとられる。さすがというかなんというか。
榛野が谷地に惚れたきっかけのエピソードを聞くと、人の心に触れた衝撃が忘れられなかったのかな、と思ってしまう。榛野の情けない姿の数々は、人間になるまでの工程の一つのような。
中だるみを感じたのは、榛野視点で前半の話をなぞるところ。一度見たエピソードを別視点で、というのが少々くどく飽きてしまうところがあった。時間を空けて読めば気にならなかったかもしれない。
「深呼吸」「深呼吸2」と2話収録されており、どちらも終わり方がめちゃくちゃ好き。最後の一文がじわっとくる温かさ。読後感も最高。
電子で前編・後編を読んだ。前編は、仲良し三人組のうち二人がカップルになるお話。後編は出来上がったカップルの相談役になっている、もう一人の友人のお話。
作風を語れるほどの読者でもないのに、木原さんの作品を読んでるなーと強く感じた。特に前編!恋して汚くなる描写の人間らしさがすごくて圧倒される。心への刺さり度が神。
吉本と三笠のお話は、とにかく吉本の性格が悪い!気分の波が激しく、すぐヒステリーを起こすし、無駄なプライドが高い。でもそういう捻じれた心理描写が本当にすごくて、引き込まれるように読んだ。
印象的だったのは、吉本の中に女性嫌悪の感情が生まれる瞬間。実質ただの逆恨みだけど、人の心の動きとしての説得力がありすぎて、ただただ納得させられてしまった。
三笠は天然っぽいキャラで、突っ走って何かやらかしそうな雰囲気がある。吉本と本気でぶつかろうとしているときの言動は結構怖い。
それにしても激しいくっつき方で、ENDマークで安堵の笑いが漏れてしまった。最後まで吉本は吉本で。第三者視点の後日談でも相変わらずの二人で笑った。
後編は、前編で良いポジションにいた門脇と、講師の松下のお話。
17歳も年上の大人として見ると、“一度ヤっただけで彼氏面”状態になっている松下の行動は正直怖い。
門脇はノリ気じゃないし同情の方が上回っているようだしで、ハピエン展開は意外。欲を言えば、恋や愛に転じる門脇の心理描写はもう少し欲しかった。いきなりあんな重い告白をするキャラだったとは。
くっついた後は、家族問題が絡んでくる。門脇には随分と厚かましかった松下が身内にはグズグズと何も言えない様子に、しっかりしろと言いたくなる。兄妹の言い合いでは、両方に嫌悪感。どちらかというと松下の自己中の方が嫌かも。
妹はこれから先も家に帰れば兄に期待する母の一言一言に傷付きながら生きていくんだろうか。歪みの元凶が分かる描写になっているので、辛辣な言葉が飛び交うシーンも読みやすかった。
門脇家族の方は完全な雪解けもありそう。温かすぎてびっくりするくらいのほっこり展開。終わり方も希望の見える感じで、読後感も良い。
感じたものは萌えとは違うし、好きになれたのは門脇だけだし、誰にも共感できない。でも人の醜さもそのまま見せてくれる描写が素晴らしく、読み応えがある。十年後や二十年後に再読すればどう感じるのか、自分の感想に興味が湧く作品。
興味深い設定と魅力的な相手役、ケモな子供たちの可愛さなど、好きなところもたくさんあった。だが肝心なところで何も言えなくなる主人公が状況を打開することなく終わってしまい、結局また攻めに助けてもらう受けの話か、と冷めた。
深瀬は周囲の人々が動物に見えてしまうという、真面目に考えたら治療が必要なキャラ。そうなるに至った理由も深刻で、純粋にモフモフを楽しめる事情ではない。とはいえ、描き方に暗さはあまりないので、さらっと読める。
どうしても無理だったのが、子供を守るべき場面で何も言えなくなるところ。結局子供に助けられ、柚子崎が飛んできて収める。
しかもそんな醜態をさらしておいて、直後に自分の居場所を得るために柚子崎を誘惑する深瀬に啞然とする。子供を奪われそうになっても黙って震えていただけなのに、落ち込みもせず、この躯を好きにして、なんてセリフは言えるらしい。
二度目のピンチも怯えているだけで、やっぱり柚子崎が飛んでくる。せっかく子供たちが信頼してくれていたのに。克服のチャンスでもあったし、頼りない人扱いされて怒っていたわりに、深瀬は何もできないまま。自分を客観視できず、プライドだけは守りたいんだな、という印象になってしまった。
柚子崎は弟たちに接する、兄の顔がとても良かった。特に伶を気遣うとこが好き。深瀬に惚れるのは単純というかちょろいというか。強い執着を見せるほどの深瀬の魅力が分からず、ずいぶん盲目的だな、と思って見てしまった。
いろいろ片付いても深瀬の症状は変わらず、最低な元彼上司にも最後まで暴言を吐かれ、すっきりしない終わり方。強姦されているみたいだと言ってた行為も、後から柚子崎の熱量に感動してる感じになってて、深瀬は大丈夫なのかと心配になる。
まあ柚子崎くらい強引すぎるやり方で囲い込むタイプでないと、深瀬は安心できないのかもしれない。受けが守られるだけの萌えない関係性。
子供たちの可愛さのおかげで最後まで読めた作品だった。
面白かった。BLだけを見るとありふれた流れだが、部長という立場の仕事を絡めて世界を拡げ、読み応えのあるお話になっていた。部長視点で、会社周りの上層が持つ情報が入ってくるところが良い。康太の初々しさも可愛くて良かった。
導入は今では書けない話かな、という印象。部長と康太が関わりを持つ理由がなんとも……生贄を育てるため?と思ってしまうような。康太の気持ちがついてくれば問題ないが、そうでなければ一人の将来を勝手に導くお節介な話。
そんな思惑のことなど知らない康太は、部長の期待に応えようと頑張り、気持ちが分かりやすすぎる。落ち込んだり喜んだりが激しくて、心配になるくらい。
逆に部長の鈍さは何だったんだろう。青木の言う通り無意識のブレーキなら、好かれていると思うだけで、自分の方も気持ちを持って行かれると分かってたってことかな。
康太と付き合い始めてからは、冷静に策を練る部長。康太含め各方面に嘘を吐いていたり隠し事をしていたりとズルいが、康太に手を出した時点で、立場も野心も捨てざるを得ない状況になる覚悟も必要なのは分かっているはず。なので、どちらかというと応援気分で見ていた。
ついに康太に最大の秘密がバレると、思わぬ展開に。康太が辛い気持ちをぶつけるように部長を犯すという……うーん?これがリバ?傷付き殴り、その流れでぶち込むのはただの暴力。
その後辞表を出す部長にちょっと引いたが、まあ丸く納まって良かったのかな。
巻末の「可愛い男」でも康太は部長に上手く丸め込まれてる。反逆(?)はさらに数年後かな。分からないけど、この二人は精神的な力関係がいつか逆転しそうな気がする。その瞬間を見てみたいと思った。
本作は十年前の作品らしいが、今ではいろいろ言われるだろう内容が普通に描かれている。会社内の人間関係にNG事項が増えすぎて、特に上司と部下のBLは難しそう。そりゃ異世界に飛ばしたくもなるだろう、とか考えてしまった。