秋田県能代市から、「一流の和菓子職人になりたい」という夢を抱いて上京した、松井旭のビルドゥングスロマン(自己形成小説)。表紙絵は、江上さんの代表作である「エデンを遠く離れて」シリーズと同じく、竹田やよいさんです。タイトルの「花ごろも」は、作中で主人公が感激した上生菓子に由来しています。あとがきによりますと、この作品の取材のために、数年間で全国の銘菓子を百種以上試食したとのこと。
耽美小説シリーズの一冊として出版されましたが、BL要素は、主人公と、吉祥寺の有名和菓子店の長男である梶尾有希(正しくは「なおき」だが、通称はユキ)との間に軽く匂わせるだけです。初ノベルスの『君子蘭』(のちに『桜咲く、桜散る』と改題し加筆修正のうえ文庫化)に近いタイプの、一般文芸よりの青春小説でした。
図書館員同士のBL小説ということで、期待して購入しました。冷戦状態にある東側図書館(通称本館)の館長代理・郡司と、西側図書館(通称チビ館)勤務の新米司書・遠矢。館種でいえば、大学図書館と学校図書館になるようです。
しかし、お仕事ものとしては、突っ込み所満載でした。一例をあげますと、『渋谷駅五十年の歴史』という資料を学術情報センターのデータベースを使って検索した結果、この本館と国立国会図書館にしかないというのです。なぜ、その題名なら確実に持っていそうな、渋谷区立図書館をあたってみないんでしょうか?この書名は架空ですが、元ネタと推定される『渋谷駅100年史』は渋谷区立図書館にありました。
東館と西館とが仲が悪い理由も不明で、利用者への奉仕そっちのけで争っているシーンばかりが印象に残っています。
某巨大掲示板では、「リーフなのでアホアホ系」と書かれておりましたので、アホコメディとして読まれることをお勧めします。
角界が舞台ですが、主人公の鈴木誉は力士ではなく裏方、それも、誰もが真っ先に思い浮かべるであろう行司ではなく、呼出です。谷町のドラ息子の久保田梶之助(この名前は、力士の両国梶之助に由来するのかな?)とは、恋人未満。
二人が喧嘩をはじめたため、そろって力士に抱えられて相撲部屋の外に放り出される。そこから仲直りする展開に萌えました。
中村明日美子さんも、非BL作品で「呼出一」を描かれてましたが、コミックスは1巻だけが出て、主人公が本格的に仕事をする前の段階で打ち切り状態。
本書も上巻が発売されたきり、続編は刊行未定。大相撲が人気の今こそ、続きを読みたい作品です。