物語のハイライトである自転車ふたりのりのとーひこうのシーンが美しい。あんな時間を共有したら好きになる。好きになるよ。
太一と直人の関係性の変化が繊細に描かれていると思います。友達だとふたりの長所と短所がうまくかみあっているようなのに、恋人どうしという名目ができたとたん食い違いが生じてバランスが崩れてしまう。
直人は大家族で常に構われながら育ったためかDD (ダレデモ ダイスキ)で、誰が相手でも信頼から入れる子。
いっぽう太一は、もともとの内向的な性格に加え多感な時期に母親の不倫で家庭が傾いたことで「目を離したら直人が誰かに取られる」という強迫観念のようなものを抱えるようになる。こうした、家庭環境からのキャラクターづくりってとても好感を持ちます。
でもそれならそれで力で押さえつけずちゃんと直人の気持ちと向き合うべきなのにねー。不安だからって性欲ばっかおしつけてたら相手は悲しくなるよねー。
基本的にはストレスなく気持ちよく読めますが、太一の暴力は友達がうけてたら真剣に別れるよう諭すレベルでちょっと引きました。
あと、「ウチら感」が強い気がします。ある世代、ある条件の人意外がちょっとした疎外感を覚えてしまうような。
カフェ店員真木さんのいう「シンプルにごめんってなんだよ!?」みたいな。
ファッションや言葉づかい、ゲームアプリきっかけで友達 みたいな小ネタ等、今時の大学生のリアリティを丁寧に描く代わりに普遍性が弱まってしまっている 気がする。
ふみちゃんの靴下パンプスとかそんな長持ちするトレンドじゃないし。ふみちゃん可愛いからいいけど。
なんとなくおげれつ先生とは年齢が近い気がするし、都市部の大学に通ってたのでキャンパスライフも懐かしさと共感を持って楽しめましたが、もし世代や選んだ進路が違ったらまた別の評価になっていたかもしれない。
貧農出身の落ちこぼれ宦官、海燕とときの皇帝である泰藍
名家から差し出されたエリート宦官、麗琳と次期皇帝で太子の文昌
この二組の話。前半が海燕で、海燕のエピソードに連なる形で麗琳のストーリーが始まります。
言っちゃ悪いが、海燕編はわりと普通の身分違いシンデレラストーリー。私は麗琳編が好きなので、こっちを中心にレビューします。
楊麗琳。
名門・楊家に生まれながら、幼い頃に宦官として宮廷に送り込まれた。美貌と歌舞の才能に恵まれ、エリート学芸官にとして出世コースにのれそうだったのに自らの行動でそれをふいにしてしまう。
処刑されそうになったところを、皇帝の後継者である文昌に拾われますが、連れていかれたのは太子宮ではなく「犬舎」で……という展開。
前半の麗琳は海燕に執着しています。しかし、この執着の仕方が、まるでひとつのオモチャにこだわる子供のようで何とも拙く悲しいのです。
なぜ彼は海燕に執着したのか。たぶん、それは彼が麗琳の思い通りにできる唯一の存在だったから。
自分の言うことやることに強く逆らうこともなく、どんな意地悪をしてもなんだかんだ慕ってくれる。
弟でオモチャでペットで、そして精神的な拠り所でもあった。
そんな海燕を拐って契弟として囲いこむことで、安寧の場所を作りたかったのだろうと推察します。
しかし彼の計画は失敗に終わります。皇帝の愛人を奪った麗琳は、エリート学芸官から一転罪人へ。太子である文昌に助けられますが、待っていたのは着衣も許されず、犬耳をつけて太子が抱きに来てくれるのをただ待つ日々。
この太子がサラッと絶倫で変態なのですが、麗琳に情があることは本当なようで、皇帝である父の不興を買ってまで麗琳を守ろうと力を尽くします。
でも、麗琳はそんなこと知りませんから、一生人間扱いされずにこんなとこに閉じ込められるのか、という不安がついに爆発。同輩にこういい放ちます。
「私は栄えある楊家の男子ですよ!」
かなしいことに、宦官である麗琳はもう楊家からは離れた存在だし、「男子」でもないのです。麗琳を「楊家の御曹司」だと思っているのは、本人だけなのです。
この台詞に、宦官を題材にとった意義が込められていると思います。
麗琳も文昌も、一筋縄ではいかない魅力的なキャラクターです。如才ないようでいて作り笑いすら巧みでない、ずる賢いようで土壇場で賢い立ち回りができない麗琳。飄々としているように見えて、麗琳を守りたいのに父王との関係悪化も懸念しなければならない微妙な立場の文昌。型に押し込めたものではない、血の通ったキャラクター造形で、感情移入しやすいです。
ただ、物語が走りぎみなので文昌がなにゆえリスクを冒してまで麗琳を守ろうとしたのか という疑問はのこります。
というか、全7話で1話ずつ配信という形だったからか、全体としてざっくりした話なのですが、先生は本当はもっとじっくり描きたかったのではないかという印象を持ちました。
衣装や背景はかなり丁寧に描いてあるし、台詞の端々にきちんと資料をあたって作られてる感が出ている。中性的な容姿の海燕と麗琳が、子供の頃に去勢された「通貞」であることもちゃんと描写されている。なんかもったいない……
きっと色々補足したいことがあると勝手に思ってるので、単行本化希望です。
タイトルは、楊家だとかのプライドを捨て去って宦官として生き抜くことを決意した麗琳のモノローグ。
トップに置くならこっちだろ……なんで敢えておもらし……
カサッとした美中年弁護士、筧史朗。趣味は料理と倹約。
そんな彼と、ヒゲ乙女美容師矢吹ケンジの同棲初期の話。
史朗が好みではないというケンジの素直な言動と、メロメロだったという元彼伸彦のそっけない通り越してモラハラ気味な仕打ちが逐一対比して描かれます。
……ケンジやっぱイイヤツ。ほんとイイヤツ!
ごく自然に恋人を思いやることができるケンジ。彼の愛情が、数年後の筧史朗から「俺は一番大切な人と正月を過ごしたい」という率直な言葉を引き出す訳です。
で、ここが面白いところなのですが。
史朗は普段、ケンジに対して「亭主」的に振る舞っています。たまにエラそうなこと言ったり、重い荷物を持ってあげたり、ケンジ好みの乙女イベントにつきあってあげたり。両親に対して、「もしケンジが俺の嫁さんだったら」という発言をしたこともある。
対してケンジは自分で言うように「尽くすタイプ」。彼は史朗の「お世話」をしたくてたまらないのです。だから史朗が弱ったり疲れたりすると非常にイキイキまめまめしく動き、みずからの「よい奥さん」ぶりにうっとりします。
普段はこんな調子なのに、ベッドに入ると史朗はケンジの腕の中でされるがまま、泣きながら気持ちよがる子になる訳です。一方ケンジはいつもどおり史朗の意思を尊重し、尽くしています。いやむしろ、いつもより本領発揮といっても過言ではない。この、昼夜での関係性の変化が、すごく、いい……!
よしなが先生の同人誌を読んだことがある方は、あの濃厚さに耐えられるのか不安に思ってらっしゃると思いますが、本編の連載が青年誌なこともあるのか他とくらべるとかなりソフトです。怖がることはありません。
また、伸彦はただのクソ野郎ですが、こいつに対しては何一つ強く言えない従順な子になっちゃう史朗はそれはそれで萌えました。ブロッコリーの傍らにしどけなく横たわる姿はセクシーです。
来年も是非、「ケンジとシロさん」にお目にかかりたいと思います。
言いたいことが言えるから続いてる、という結びでしたが、いやいやケンジの器の大きさによるところが大きいですよ。わかってんのか筧史朗!
規制規制の世知辛いご時世に、敢えてR18を掲げた心意気を応援したい とピンクゴールド創刊の折りに仰っていた……と思うのですが……(笑)
非実在青少年なんたらへのエレガントな挑発か と思えるほどに乱される「非実在青少年」たちの学生服。
最近はいい年の社会人がわりと人生かけて恋愛するBLが多く、そういうものもよく読むし大好きですが、こういう刹那的な、残酷な、稚拙な、人間として未完成な少年同士の「恋のようなもの」っていうのがボーイズラブ(少年どうしの愛)の原点のひとつなのでは。
一万円を介した秘め事も、同級生の男の子のブラジャーを外したことも、鍵のかかる美術室でのセックスも、体育倉庫で触りあったことも、彼らが表題作のふたりくらいの年齢になったら朧気な思い出になってしまってそうな。どの話もそういう不確かさがただよっているように感じます。
それにしてもエロい中村明日美子描く舌と乳首そしてまなざし……それと擬音。
あと、受けのビジュアルがみんな似通っていると感じる方もいらっしゃいましょうが、O.B.でまったくデザインのかぶらない3CPを動かしてらっしゃるので、描けないのではなくただただ明日美子先生が佐条利人的ビジュアルが非常にお好きなだけなんですよ!と誰にともなく訴えたい。
山も谷もないストーリーでも素晴らしい作品はありますが、
それに代わる「なにか」は必要なわけで……。
私は、この作品の中にドラマチックな展開に代わる要素を見つけられませんでした。残念。
気になった点を3つあげます。
1.「小学校時代の思い出」がそうでもなかった
芙蓉の生い立ちと小学生のときの西澤との短い交流はこの作品の重要なキーです。しかしレビューを拝見して想像していたほど印象的な描写はなく……。
なんというか、「この物語はこれこれこういう前提がありますからよろしく」と前置きを提示されたような感じでした。
この序盤ですでに結構期待値が下がりました。
2.芙蓉と母親の関係
小さい頃から自分の境遇にたいして妙に達観した子供だった芙蓉。成長してからは同じマイノリティだということで自分を愛さなかった母親に理解まで示している。
生まなきゃよかったと繰り返し言われ、児相が急いで引き離すレベルのネグレクトを受けていたのに。
ちょっと母親に対する芙蓉のスタンスが不自然すぎて彼に感情移入がしづらかったです。
3.あまりにドキドキのない恋愛
BLであるからして、メイン二人の男性が最終くっつくのはどの作品でも読む前からわかりきっています。
だからふたりの心が通い合う経緯や友情が恋に変わる瞬間、性別という壁を乗り越える契機となる出来事等にこっちは一喜一憂するわけでして。
しかしこの作品は
芙蓉:西澤がずっと好き
西澤:早い段階で芙蓉がずっと好きだったことが判明
というイージーモード。なおかつ、ふたりの対人関係スキルの差から生じた誤解は芙蓉がけなげに待っていれば西澤が解きに来てくれるし、当て馬っぽい先輩は別に芙蓉狙いでも何でもない。この恋のどこに萌えればよかったのか。
他にも、西澤が何を学ぶ学生なのかすら明示されないフンワリ世界観とか、作者的に「不要」や酔芙蓉に引っ掻けたかったとはいえ、望まない子を産んだ不良娘のボキャブラリーから息子に芙蓉という名前をつけることって有りうるかなとか色々無粋なツッコミをしてしまう。
中堅新聞記者(バツイチ)西口氏×国会速記者の碧くん
ふたりとも自分の仕事に拘りと誇りを持っており、あまり色恋に夢中になることなく、生活の一部として恋愛してる感じに好感が持てます。
西口氏の「こういうオッサンいそうだな~」感と、碧くんの「こんなやついねーよ」感がアンバランスなのに不思議と相性がいい。
ただ、お互い一人の人間として興味が湧く過程はとても自然でしたが、恋に落ちて恋愛に発展するまでがあまりに薄味なような気もします。ふたりともまっさらノンケなのに、ことに至るのに戸惑いや葛藤もあんまり。
おしごと小説としては100点、BLとしては70点で、わる2して85点て感じです。