シリーズ通して全ての巻が名作なんですが、8巻も衰えず神です。こんな長編もので軸がぶれずに質が衰えないなんてスゴすぎます。私の中でBLの価値観を変えたシリーズです。囀る〜って毎巻レビューしたい気持ちに駆られるんですけど、読後何度も読み直しちゃうのでいつも少し時間が空いちゃうんですよね笑
8巻は矢代に感情移入しやすい構造となっていて、読んでいて辛すぎます。1巻から通して描かれていた、矢代の矛盾性が隠すことなくモロに出ているのに対し、今まですぐ赤くなったり動揺したりしていた百目鬼の表情が分かりにくくなっていて(矢代が言っていた"ヤクザは演技するもの"になってしまった)どうして!そんなにすれ違ってしまうの!と終始もやもやハラハラ。
そして、百目鬼という男を知ってしまった矢代は以前にも増して痛々しいです。快感も無いのに体を求める、まさに自傷行為を続けている姿を見ると、5巻で言っていた「俺を壊すな」という言葉の重みをひしひしと感じます。矛盾だらけの自分を隠すことが出来なくなってしまったのも、矢代的には「壊された」という認識であると思っています。自分にまでも嘘をついて誤魔化して生きていた36年間より、温もりを知ってしまった4年間の方がずっと辛かったんじゃないでしょうか。お風呂でのシーンの後、ぽつりと1人呟く言葉に苦しくなります。
でも百目鬼も矢代への想いが絶えていないことを示唆している描写がちゃんとあります。
例えば、神谷は気づいていませんが、神谷が脱衣所に来たシーンでの対話で百目鬼は敬語に戻っていて、めちゃくちゃ動揺しています笑
4年も前にたった少しの期間一緒にいただけの相手の言動を今でも覚えていて、ふとしたタイミングでその人のことを思い出してしまう。そもそもこの時点で冷め切っていないんです。
冷めているように見えるけど矢代へ向けられた悲憤にも似た愛情、激情が表情の微妙な起伏から伝わってきて萌えずにはいられません。ただやっぱり、あんなに大事そうに触れていた髪を容赦なく掴む描写は美しくありつつも哀しいですね。
少し話はズレますが、クラブのママは奥山組が寄越した内通者なんじゃないかと個人的に考えてます。百目鬼を呼ばなかったあたり「売上金を盗まれた」というのも自作自演で、内通者が女の中にいるということを言わなかったのは百目鬼自身もそのことに気づいているからでは…?と深読みしてみます笑
いずれにせよ、心の繋がりはなくて騒動に一枚噛んでるだけじゃないかなあ。というかそう思いたいです泣
とにかく8巻も最高に面白かったので、既刊を読み返しつつ9巻を楽しみにしています!
今更ながら読み始めた囀る鳥は羽ばたかない。
どうしてこの作品をもっと早くに読まなかったのか。いや、人生の早いうちにこんな良作を知っていては勿体なかった…、と日々悶々としています。実際、囀るに出会ってからというもの、以前好きだった漫画もなんだか物足りなく感じています。今まで読んできた全漫画の中で一番です。これからこの作品以上の良作に出会えるんでしょうか。一冊読み終えるたびに感情を誰かに共有したくてしょうがなくなりました。
7巻は百目鬼がクールで読めない男になっています。(以前のゴールデンレトリーバーな面影がなくなって寂しい)
矢代が「人は変わるもの」と答えたのは、四年前の経験もあるのでしょうが、一番は再会した百目鬼の変化が原因なんでしょうね…。
でも私は綱川さんが言うように人はどうせ変わらないもので、一見変わったように見える百目鬼も本質は変わってないと思うんです。
というのも、百目鬼が変わったのはそもそも矢代のためだからです。
百目鬼は6巻の最後、何か覚悟をします。
冷静で涼しい顔をしている矢代が、実際は変化を恐れるほど脆いことに気づいてしまって覚悟を決めた顔をします。車中で(こいつには一生わからない)と矢代は思いますが、百目鬼はもうわかっているように私としては感じます。
6巻まで百目鬼は矢代に守られてきました。
自分が矢代を慕うほど矢代を守ることができなくなる。だから百目鬼は「変わること」、いや「演じること」を選んだんじゃないでしょうか。ヤクザは役者だと矢代が言ったように、矢代が演じることで自分を突き放して守ってくれたように、今度は自分が演じることで矢代を守ろうと強い覚悟を持っているように思えます。
変わったように見えても、そもそも軸や原動力は四年前のまま矢代なんじゃないでしょうか。
どちらかといえば、変化したのは矢代の方です。
長年守ってきた鉄の仮面が百目鬼と出会ってから剥がれ始めてます。7巻でも、百目鬼を忘れていたフリをつい忘れたり、自分で「頭と呼ぶのをやめろ」と言ったのに、連さんのことを頭と呼んだ時に小さく反応してしまったり(笑)
百目鬼が自分を置いて城戸を追いかけていった時の表情なんて…。偽り隠すのがだんだん下手になっていってます。
何はともあれ、覚醒(?)した百目鬼のかっこよさといったら…!矢代的には今のスマしてる百目鬼は可愛くないと思うんですけど、雛鳥のようにただ親の言いつけを守るだけでは矢代を守れないから良い変化だと思います。「流されてヤクザになる」と「自分からヤクザになる」とでは違います。ちなみにレビューしてて気づいたのですが、若かりし頃の矢代と影山の関係って、今の百目鬼と矢代の関係にそっくりですね…。矢代が極道の世界に入ったのは影山のためですし。矢代はそのことに気づくのかな〜。
そしてヨネダコウ先生の漫画が他と一線を画すのはセリフ選び。7巻はそれが顕著になっています。
特に好きなのは、百目鬼と再会した直後の車内での矢代の一言。たった一言ですが、その一言に四年間の後悔、苦しさ、再会できた感慨深さ、怒り、虚しさ、全てが詰まっていて胸がギュッと掴まれました。あえて多くを語らないセリフがかっこよくて痺れます。
もう一つ好きなのは、38話百目鬼のとあるセリフです。4巻20話で七原が矢代に同じようなことを言われていたのを思い出して、百目鬼〜!!(泣)となりました笑
長くなりましたが、どんな結末であれこの2人の行先を見届ける日を待ち侘びています。
一度読んだことのある本でしたが、手元に欲しくて購入しました。何度読んでも涙なしには読めない作品です。
読むたびに思うのは、これはBLではなく愛のお話なんだということ。キスだとか直接的な描写はほぼ無いけど、お互いが思い合って少しずつ成長していく、過去から抜け出して前へと進んでいく。恋人や家族という言葉では言い表せません。唯一無二の愛がただあるだけです。
全てが希望に溢れている終わり方じゃ無いけど、死んだ方が良かったと思っていた幸紀が天使に出会って変われたこと、それだけで十分なんだと思います。読んだ後は一つの人生を見たような満足感と幸福感、少しの切なさを感じます。
話はそれますが、はらださんは狡猾で計算高いクズ男を描くのがお上手な方だと認識していたので、幸紀のような不器用で優しいキャラクターもハマるなんて驚きました。今までの作品と毛色が違うからと言って挑戦しないのは勿体無いくらい、私は大好きな作品です。