勢田に恋焦がれ、ただ見ているだけでいいという日永の純粋さ。ただ、ただまっすぐで、ほかに何もいらないと、勢田だけをひたすら見つめています。
勢田が傷つけられることだけにおびえ、自分が勢田を傷つけることだけを嫌悪し、ひたすら犬のように勢田の笑顔を待ち続けます。
せつないです。見ていてかわいそうです。
何を考えているかわからないとか、ストーカーする気持ち悪い男と表現されても、憎めないです。日永のすべてのエネルギーが勢田に向かい、自分でもどうしようもない、止めることのできない恋焦がれる気持ちに翻弄される哀れな男です。
あまりに不憫で、勢田も、自分の気持ちが同情か恋愛か分からなくなります。
誰だって、悲しげに見上げる切ない瞳をみたら、「まあ、しかたない、つきあってやる」って気持ちになりますよ。日永の孤独な魂が救われるラストに、よく選んでくれた、この不器用で、頑固な日永をと、勢田に感謝をおくり、日永を応援していた自分に気付くことでしょう。
10年も片思い、それも本人に気づかれていまの友人としての立場を喪いたくないというBL独特の思いこみ(;_;)に、読者はいらいらするほどじらされます。
「すれ違いじれった萌え」というジャンルがあれば、もう一二を争うかもしれない・・
想い人の剛志の過去の彼氏彼女との別れの理由が、わがままだとか、嫉妬深いだったので、洵はそれを知っているから、必死でそんな気持ちはないという振りをして、嫉妬心や寂しさを隠します。
でも、剛志としては、嫉妬して欲しいし、恋人の甘えるようなわがままを聞きたいわけで、素っ気ない素振りは自分のことを好きではないのではないかと、剛志も自信がなくなって、二人の間がぎこちなくなります。
こじれたら余計にかたくなになって、殻に閉じこもるタイプの洵だから、余計に話が進展しない!
誰にも相談できず同僚につい弱音をはくと、他人には弱音を吐けるんだと剛志が、すねる。
もう話はこじれて・・最後数ページでとうとう洵も切れて、今まで言いたかったけど言えなかったことを爆発。水戸黄門の印籠ぐらい、威力のあるカタルシスです。
両性具有、見世物小屋、報われない恋・・もう耽美小説の要素てんこ盛り!
懐かしい昭和の匂いがします。BLではなく、JUNEって感じです!
見せ物小屋でお客のまえで性交を強いられるのが嫌で逃げ出した類。
両性具有を見せ物にするのではなく、綱渡りとか、短刀投げで身を立てたいと密かに練習を重ねている類。
祭があるところに旅をしては、見せ物小屋を立てて暮らしている類たちだったが、半月ほど興行主となる三州屋の二代目は、父親が倒れたので帝大受験をあきらめて家業をついだ普通の青年慶一。
類たち見せ物小屋の芸人を差別することなく対等にあつかってくれる。
そんな慶一に認めてもらいたいと練習を重ねていたとき、足抜けした元の見せ物小屋の店主に見つかり、再び連れ戻されことに・・。
お客のまえで性交を強いられ、そんな姿を慶一に見られ、絶望を味わう類。そして、救い出しに来た慶一を命をかけて守ろうとする類の健気さ。
同時収録「絶唱」わたくしこちらの方がおすすめです。
山の中の小さな村、因習と伝統に縛られ家を存続するために親の決めた妻をめとるという昭和はじめの頃のお話。禁忌のなかで燃え上がる恋、切なく悲しいラストに胸がいたみます。
主人公大輔は、離婚した母親の替わりに家事全般を切りもりしているけど、それは仕方ないからで、いつも不満を腹にためています。
勉強もそこそこできるのに、家庭の事情で地元大学にいかなくてはいけないとそれも不満に思っているのに、それも腹にため込んで。
イライラする大輔に手をさしのべようとする周囲の人間も、邪魔だとしか感じることができず・・
そんな時に出会った総菜屋の店主。軽いノリで、おばちゃん達をさばいているけど、その料理には一手間も二手間もかかった愛情のあるもの。
大輔は、自分に置き換えてみてそんな風に家族に愛情をもって接していなかったことに気付きます。
がんばっているねと認めてくれる店主の存在がだんだん大きくなっていく。
素直になれない大輔でも、大事にしてくれる店主との関係は、暖かく読んでいる方もほっとさせられます。
この作品にでてくる日常の些細なことは、そのまま読者そのままの生活ですよ。
でも本当に気持ちの持ち方なんですよね。同じ事象が起きても、それをどう感じるかという気持ちの問題なんですよ。
大輔は明るくなることで、家族との関係もよくなり、読後もとてもほっこりさせてくれます。
裏切られてもそれでも愛して許している寛容で優しいキャラ、そしてそんな優しさに甘えきれずぐるぐる思い悩む主人公どうも、杉原さんはそういうキャラがお好きなようで、ルチルの二冊共に登場してきます。
が、この菩薩様のように寛容なキャラがくせ者です。
蜜の味なんですよ、くせになるほどよい甘さが、疲労した心に染み渡り癒されていくんです。
年末からの六青みつみ先生や、真瀬もと先生の痛いお話にいたたと心が疲弊してしまった腐女子には、一服の清涼剤。
ベースに深い愛情があるので、主人公がどんなに思い悩んでいても、困った奴だなって、主人公に寄り添ってくれるので、過酷な状況に陥ってるのに、心臓に負担になるようなハラハラはないので、安心してください。
かといって、甘いばっかりではないです。
自分ではどうにもならない過酷な状況に振り回され、優しさにすがりつきたいのに、そうできない主人公の痛さが、ぴりっといいスパイスになっています。
主人公里見浩一は、高校2年生。優柔不断な性格で、クラスメートの女子遠藤にそそのかされてゲイ雑誌の文通募集のページに大学生だといつわって投稿してしまう。
返事が帰ってきてしまい、遠藤が会いに行って見てみようと、またまたそそのかされた浩一は、そこで待つ人が同じ高校の教諭だと気づいてしまう。
遠藤とも別れ再び待ち合わせに帰ってみると、4時間も経っているのにまだ待っている高橋。
罪悪感からつい声をかけてしまい、緊張から振るえる高橋があまりに純粋で、つい断れなくなって再び会う約束を交わしてしまう浩一。優柔不断すぎ!
高橋はゲイである自分を恥じ、臆病で職業も名前も偽って、その臆病さが、タイトル「兎」なんですねえ。
いつしか、高橋のことが好きになった浩一ですが、高橋が臆病であることがよくわかっているだけに、同じ高校の生徒だとは言えなかった浩一。
でも、ばれちゃんですね。。ショックで逃げ出してしまった高橋。高橋に拒否され、無力な高校生であることを突きつけられた浩一は、がたがたに。。
高橋のおどおどしたおやじっぷりにメロメロになってしまいました!
1995年の作品ですよ。13年も前の作品なのに、おじさん(実年齢は26才ですが、高校生視点なので、すごくおじさんぽい。。(T_T))の純情のかわいらしさをすでに描くとは、木原先生の先見の明に、脱帽です。
木原先生との合同誌に書かれた作品ですが、合同誌の条件は「オヤジ」
木原先生のオヤジスキーの影響で、仕方なしに書いたオヤジですが・・美中年とつぶやき続けて書いただけあり、美しいオヤジに仕上がっています。
30代半ばオヤジですが、作中で「学生の時と同じく肌も白くつややかだ」と言わせて、少しでもオヤジ臭さから脱却しようとあがいているところが、なんとも杉原先生のかわいらしい所です。。
実は同人誌では40歳でした、木原先生は「NowHere」で同人誌より年齢がアップしましたが、杉原先生は同人誌より若返っています・・やはり杉原先生オヤジは苦手なようです。
しかし、オヤジスキーの読者には、枯れかけていたのに、再燃してしまった美中年の葛藤がなんともいい味わいでして。。
勢いだけではこえられない、生活や、社会のしがらみにあがく、大人の男のいじましさが、よかったですね。
帯にも「ずるい大人の恋物語」とあるように、両想いなのに、はっきりさせるのが怖くて、ずるい大人でいたがる、臆病な男の話です。
DVものです。大学生の弟は、兄や母親に捨てられたというトラウマから、再びめぐり合って同居し始めた兄に、弟がいままで与えられなかった愛情をもとめてすがりつくのですが、些細な出来事、言葉尻の中からでも、かすかな裏切りを感じたら、人が変わったように暴力を振るいます。
一度手を離してしまった弟だからと、今度こそ力になってやりたいと、すがりつく弟と一緒に溺れていきます。どうしようもなく・・溺死しそうです。
しかし、弟も兄の真意を試していたんでしょうね。無意識に暴力というものさしで兄の決意を計っているんです。
弟の暴力に気付いた親友・・こいつは、いつか化けるぞと深読みするほど親切ですが、後半化けました・・やっぱり。無意識の下心みえみえでした。
親友のところに逃げ込んだ兄を折檻するために、友人たちにレイプさせます。
後半世間に知られてはいけないと思いながらも、弟を愛していてもう手放せないと自分の気持ちに決着をつけているので、読んでいてもなんだか安心です。
当て馬の親友も、いい感じに2人をかき回してくれるので・・笑
池戸さんといえば、お貴族さまやお医者さまというセレブなイメージがありますが。。
今回は、ダークです。ヤクザと彫師です。
しかもタイトルは「夜叉と獅子」そのまんま東映仁侠映画のタイトルになりそう・・
インテリヤクザっていうより、鶴田浩二とか高倉健ですよね。。(T_T)
もう期待しながら、ページをひらくと・・おおー彫師視点で話が進行します。。しかもこの彫師、背中フェチで、刺青フェチときて、刺青と聞いただけでずくりと背筋に喜びが走るちょっとあぶない主人公。
刺青を入れる針の感触が好きで好きで・・最後のほうは、墨を入れられるのも好きな変態君と判明しますが。。ヽ(^◇^*)/
でも和久、一途です。島津をすきになってしまい彫師としてのプライドも、何もかも捨ててもいいと言うほど好きになる分、相手にも同じだけすきになってほしいという、夜叉の一面をもっている自分に怖くなり、島津の元を去ろうとします。
自分のすべてを捨ててもいいほど愛している・・うううう、東映仁侠映画というより、大映映画ですか?
針をさす痛いシーンのはずなのに、和久の刺青に対する執着から、なんとも官能的なシーンにすりかわってちょっといたいのが苦手な方にもいけるのではないかという仕上がりです。
天才ソプラニスタが恋人に一方的に別れを告げられ5年。その彼が日本に恩師の退官公演のために恋人のピアニストを伴ってかえってくるところから話が始まります。
別れを告げられ、自殺未遂にまで追いつめられたほど愛していた男が帰ってくると知り、主人公は復讐のため相手のピアニストを奪おうと画策します。
捨てられたという憎しみと岸本を忘れられない悲しみが、からみあい、なんだか豪華な二時間スペシャルドラマをみているような愛憎劇です。うまいです。池戸裕子さん。
岸本が不器用なんです。(笑)諸悪の根元は、すべてこれ。
こつこつと努力して苦しみながら現状を手に入れた岸本、不器用だから、槇を愛し続けながら、歌を極めることができなかったんですね。
そんな岸本の事が理解できない天才槇。
復讐のため岸本のことはわすれたという振りをして、誰とでも寝られる事ができるようになったと岸本を誘います。
槇より歌を選んだというのに、まだまだ未練が残っていた岸本は、ほいほい槇の奸計にはまってしまって・・
槇にふりまわされ、おいつめられ、岸本はぼろぼろになり、歌えなくなってしまいます。槇としては、復讐なんですから無事目的を達成したわけですが、後味の悪い想いにさいなまれ、後悔し始めます。
槇を捨て、歌をとったはずなのに、その歌さえ取り上げられ追いつめられる岸本。
どうなるんだ、この二人と最期まではらはらどきどきさせられます。
槇を選ぶ“ふり”をして、岸本に本心を気づかせる役回りの、ピアニスト結城がすごくいいですね。自然体で、岸本や槇のぼろぼろに疲れた心をいやしてくれます。二人どちらからも求められたのが納得いきます。
ラスト、いつも自分のレベルにはい上がってくる事だけを要求していた天才槇が、かわいらしいところをみせてくれまするのがいいですね。