__モコ__
ss『tokei-chapter1-』(dramacd「utsukushii koto」booklet)
ドラマCDブックレット内のSS。
タイトルにもある通り、正に『時計』のお話。
こちらは、松岡目線。
古びた寛末の時計。
「好きかもしれない」と言われてメールと電話のやり取りを挟んで、ある日の夜、初めて向こうから食事に誘ってくれた。
いいスーツを着ていこう、ネクタイはこれにしよう、そして、時計を返そう。
そう思って出勤する松岡だけれど――と進んでいきます。
どうしようもなく、松岡が臆病で燻ってかわいそうになるくらい。
本編を思い出して、それと重なってしまうから、という点も大いにありますが、それにしてもこの短いお話の中でも、松岡の、表に出ない必死さがありあまるほど伝わって来ます。
返せるタイミングだってあるのに、言い出せない。
いくらだって嘘の言い訳はイメージしていたのに、それが出来ない。
食事もいいスーツが台無しになるくらい、においが染みつく焼肉だった。
何で今日に限って…居酒屋で良かったのに。
そこまで考えて、気付くんです。
寛末にとって、いつもよりグレードアップした食事が焼肉だったのでは?
自分に対して、少しは気を持って考えてくれたのでは?
時計は返せなかったけれど、少し震えてしまう感覚をまた覚えてしまう。
いつまで待てばいいのか分からない。
いつまででも待てる。
「かもしれない」と言われた感情を、どうしたって期待してしまう。
悲しくなってしまうくらい、松岡の恋心が必死で必死で…本当泣けて来そうです。
松岡の思いが報われる時が来るのを知っていても、痛く切ない気持ちが拡がる感覚になります。