snowblack
rutile souvenir tresor
ルチルの冊子のタイトルは、毎回rutile souvenirに何か一言加えたものだが、
この一冊の一言は「宝物」。
その中から、一穂先生「藍より甘く」の番外編のみのレビューです。
:
サラリーマンとして働く暁行は、急な代役で九州に出張に行く。
なんとか仕事はうまくいき、その後の取引先社長の家のガーデンパーティ、
庭に咲いた小さな青い花を見て遙を思い出し、その季語を聞いて胸を締め付けられ、
そっとポケットに忍ばせて帰る。
帰りの飛行機が乱気流で大きく揺れ、機内に不安と緊張感が広がる。
もしかして……と、事故、死、という言葉を誰もがうっすらと思い浮かべ、そして。
無骨に妻の手を握りしめる夫、我が子に小さく歌う母親、メッセージを残そうとする人、
……それぞれが一緒にいる自分の大切な人を守ろうとし、
それぞれが自分の愛する人を思う時。
暁行もまた、祈りながら遙を思う。
安堵のため息が広がる中、無事に着陸した飛行機から降り立った暁行は、
そこで偶然にも遙と出会う。まるで神の恩寵のように。
勿論いつものようにテンションの低い遙に、アドレナリンが上がった状態の暁行は
いきなり「ホテルに行こう」と言う。
戸惑い、呆れながらも受け入れる遙。
彼の淡々としているようでいながらの、暖かさ、強さ、懐の深さ。
そして、決して曉行みたいには直裁に表現しないけれど、
いつも変わらず揺らがず好きで求めている想い。
現実的にはずっとしっかりして適応的に見える曉行が、こんな遙に甘えるのはよくわかる。
誰にとっても本当に宝物は、体温のある愛おしい誰か。
お互いの想いと絆が伝わってくる掌編でした。
アンソロですが、ミチさんがお目当てだったので
『藍より甘く』の番外編、『クラッシュド・ブルー』のみで失礼致します。
上司の代理で向かった九州出張。
無事商談もまとまり、
最後は取引先会長のご自宅でのガーデンパーティに出席する入江です。
庭の片隅に見つけた“忘れな草”で遥を想い、
会長に「季語は“藍微塵”だ」と教えられる。
声を掛けられた時に力の加減で摘んでしまったそれを
ハンカチにそっと包み、帰りの途につきます。
東京まで二時間もかからない国内線は
あっけないと思いながらうたたねしていると
突然の揺れで目が覚める。
隣の席で、博多弁の中年夫婦が
喧嘩ではない、ちょっとした会話を繰り広げて
その時はまだ余裕のあった入江ですが、
CAのアナウンスの緊張感と
水のペットボトルが飛んで来るほどの激しい揺れに動揺し始める。
大声で泣くこどもを聴き馴染みのある歌であやす母親もいる。
中年夫婦の夫は妻の手を左手で握りながら、
テーブルへ遺言を残そうとボールペンで書き綴る。
死ぬのかもしれない恐怖を機内の誰もが感じて、
それでも空の下にはみんな会いたい人がいる。
ひたすら純粋できれいな想いがここにはある。
ただの代理出張だったのに。週末には遥に会えるのに。
ハンカチに包んだ“忘れな草”をお守りのように握りしめ、
「忘れないでって意味じゃないからな」
心の中で名前を呼ぶ……。
どうにか無事着陸し、京浜急行の乗り場へ向かうと
沖縄の染色家の先生を見送ったところだった遥にばったり会います。
「ホテル行こう、今から」
急に求められ驚きを隠せない遥ですが、
最中にしか呼ばれない「遥」で手を握られ、了承せざるを得なくなるのです。
一番近いホテルへ。
“生存本能の高まり”というやつで一気にゲージが満タンになり
動物のような入江が遥をおいたてます。
指先の青い色が、空港で握った為遥にもついていました。
死ぬかもしれなかった怖さと
すぐ遥に会えた喜びがないまぜになって
身体で想いをぶつける入江…。
声がガラガラになった遥に歌をせがみ、
「飛行機怖かったせいで、眠れそうにないから」
だなんて、甘えただな!!w
“文字通りの藍微塵。
誰だって、いつこんなふうに、
そうと意識しないまますり潰してしまった花の呆気なさで
死んでいくかわからない”という文に
胸が締め付けられました。
だからこそ、愛する人と抱き合いたいんですね。
やはり必要な愛情の交換。
H描写は少なかったですが
入江の遥を大事に想う気持ちが伝わって
短いお話なのに涙が浮かびました。
ミチさんのお話だけでいくと神評価ですが
なにしろアンソロですので萌×2で。
(ただ単に私が未読の作家さんがいらっしゃって;)
それにしたって、たった6pなのに
この確固たる世界観!!!流石です!!!
なんでか未読分のほうが萌えてしまいました。
あんまりこういう経験はない(過去ルチル小冊子ではなかった)ので
今回の小冊子は自分の中では高評価です。
番外短編の殆ど全ての作品が単独で一応読める話になっていたと思います。
(萌えがあるかどうかは個人の好みに寄りそうです)
自分の既読作品は
和泉桂さん「宵星の憂い」
きたざわ尋子さん「甘い罪のカケラ」(旧版)
葉芝真巳さん「キッズログ」
椎崎夕さん「仕切り直しの初恋」
砂原糖子さん「高潔であるということ」
だったんですが(意外に読んでたな~~~)
「すごい上手い、面白い~!」と思ったのは
一穂ミチさん「藍より甘く」
神奈木智さん「うち巫女」シリーズ
玄上八絹さん「背中を抱きたい」
星野リリィさん「スーパーダブル」
という見事に未読ラインナップ。何故だ。
読んでないのがむしろハードル下げてるのかしら…。
「背中を抱きたい」はあまりに萌えて文庫購入
「うち巫女」も迷ったあげく既刊分買っちゃいました。
いい客だなぁ私。
うっかり素直にルチルの罠にはまってしまいましたが
「背中~」は素直につられて買って良かったです。
番外編から入ってむしろ萌え的にもよござんした。
「うち巫女」も脇役萌えでしたが充分楽しめちゃいました。
小冊子は結局萌えと合致するかどうか
毎度博打のようなものを感じますが
既読分の番外編も実は楽しかった(未読分のが萌えたけど)ので
ほぼ全部の作品を楽しめてしまいました。
…珍しい体験でした(笑)
全部の人には当てはまらないでしょうが
なんかこの号は自分にとっては非常にお得な一冊でした。
小説のショートストーリーおよび、コミックのショートストーリーが収録されて頁数もなかなかの冊子です。
ルチルやリンクスの小冊子は毎回表紙も凝った作りでお洒落な作りですよね。
イラストでなくても、こうして綺麗な表紙がつくので毎回ひそかに表紙も楽しみのひとつ。
しかし誠にわたくし事ですが、今回の冊子は非常に申し込まなくても良かったなという全サでした。
20本以上の数多くの番外編が収録されているのに、元になる既読本が3冊でした。
たった3冊(漫画1、小説2)だとー!
おかしい、作者さんの名前で行くと読んでいる作家さんばかりなのに、よりにもよって「これはいっか・・・」と買わなかった本の番外編ばかり収録。
盛大に外しました。
しかし、やはり番外編と言うのは読んでいて楽しいです。
多分、本編ではないけどこういうサービス的な話があると嬉しいよねーという雰囲気の話が多かったので、本編を読んでいる方には萌え萌え出来る作りだったと思います。
興味を惹かれたのは山本子鉄子さんの作品です。
コミックは未読ですが、可愛い?笑える可哀想?なお話っぽいので単行本を買ってみようかと興味がわきました。
リンクスおよび、ルチル関係の全サは発想が遅れて当たり前になってきていますね。
うぅ~ん、なので発送状況を見て「また遅れてるのか」という呟きは毎度のことです。
なにはともあれ、無事に届いて良かった良かった。