ぴれーね
iyana yatsu
初版で購入すると貰える、書き下ろしSSです。
これが欲しくて新装版を購入しました。
で、本編ですが、結局二人の心は通いあわないままと、救いの無いラスト。
そこから、六年後の二人が語られるんですね。
ここでの杉本ですが、ほんの少しは三浦に愛情を持ったのか。
それとも、この不本意な状況に慣れ、全てに投げやりになっているのか。
これ、読む人間によって、どちらとも解釈出来そうなんですよね。
そういう、ギリギリの所をついてある書き方なんですよ。
で、どちらに解釈するかで、ラスト1行にゾッとするか、あたたかい気持ちになるかと、全然違う読後感を持っちゃうんじゃないでしょうか。
私はゾッとしたけどね!
何と言うか、絶妙な所をついてくるなぁ。
矛盾してるようですけど、杉本にほんの少しでも愛情が芽生えて欲しいと言う気持ちと、いやいや、そんな生ぬるい、ありきたりなオチに持っていって欲しくないと言う気持ち。
両方あるんですよね。
お手並み拝見的に思ってると、そう来たか!と。
やっぱ、一筋縄では行かない作家さんですよ。
てか、何様的な意見で申し訳ない。
以下、内容です。
本編終了後から六年後、33才になった杉本視点で語られます。
三泊四日の修学旅行引率、最終日ー。
修学旅行の引率が五回目になる杉本は、今年赴任してきたばかりの同僚教師とカフェで休憩をとるんですね。
そこで、杉本先生は格好いいし、モテるでしょう?と、彼女の有無を尋ねられます。
ーーーこの教師は、自分の「事情」をまだ誰にも聞いてないらしい。
沈んだ声で「彼女はいたんですけど、結婚式の当日に逃げられました」と告げる杉本。
「俺、何も知らなくて・・・」と、決まりわるげな同僚。
彼女との件があってから、自分に「彼女は」とか「結婚は」という話題を振ってくる知人はいなくなったんですね。
気遣いの出来る人物なら、もう一生聞いてこないだろう。
この後、現在は体の弱い友人と同居していると語る杉本。
同僚の中で、自分は「彼女に駆け落ちされ、体の弱い友人の面倒を見る親切な男」という印象になっただろう。
それでいい。
と、満足します。
大変な引率が終わり、やっと自宅に帰る杉本。
猛烈に疲れたと、ベッドに倒れ込みます。
安心すると同時にムラッとし、股間に右手をのばした所で、玄関ドアの開くガチャリという音が聞こえ、慌てて右手を胸元に引き寄せます。
足音が近づいてきて、「いつ帰ってきた?」と、同居人の声。
髪に触れる指が、撫でるようにそろそろと動きます。
肩に触れられ、肩甲骨を押す親指に、じわっと心地好い圧が広がる。
「メシを食えそうか?」
尋ねる同居人の手を掴み、そろそろと自分の股間に持って行きます。
「ここも張ってるな。メシの前にいっぺん抜くか?」
ほら、自分はおかしい。
おかしくなった。
嫌いな男に、オナニーの手伝いをさせようとしている。
でも、誰も知らない。
誰も知らないなら、もうそれは無かった事でいいだろう。
存在や行為。
慣れてくると、もうどうでもよくなってきた。
諦めて、嘘で囲う。
独身である事、男と同居してる事。
理由があれば、疑問を持たれない。
プライドは保たれる・・・。
背後からのしかかる他人の指を見ながら、杉本が最後にぼんやり思った事は・・・。
と言うお話。
えーと、この後の杉本が思った事に、私はゾッと来ちゃったんですよね。
恐ろしすぎる。
ただ、杉本に三浦に対する愛が芽生えたと感じた方なら、とてもあたたかい気持ちになるんじゃないでしょうか。
それにしても、相変わらず、杉本は嫌な奴でしたよ。
変わらねえ!
初版限定でついてくるペーパー。折って中に入ってましたが、書店さんによって違うのかな。本編の最後の最後にちょびっとだけ上げてもらえたメンタルを、これでまた叩き落された心地なお話でした・・・
以下ネタバレ
本編最後に、「咽ぶように泣く自分の心」とあって。
「ああ、こいつにちゃんとこういう気持ちがあるんだ」と、きちんと文字にしてもらえて非常に救われた心地だったんです。それを受けてのこのSS。受けが新婦に逃げられた4年後のお話で、和也視点なのですが。
私の中でいつまでも救われなかったのは和也の方でした。いやそりゃ自分の心を素直に認めろよとか言うレベルの関係じゃないのは分かるし、「好きだった!」とラブラブモードになるなんて絶対ないわと思いますが、あーもうちょっと救われたかった。嘘をつかず、一緒に暮らしヌくのを手伝ってもらう、それを受け入れること、これが和也の精一杯だったのか。
どんなふうだったら私が救われたのか、全く分からないので、愚痴ったらダメですね。すいません。
でももうちょっと楽になる人生を選んでほしかったな・・・