嫌な奴(文庫版)

iyana yatsu

嫌な奴(文庫版)
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神52
  • 萌×28
  • 萌5
  • 中立5
  • しゅみじゃない6

--

レビュー数
18
得点
312
評価数
76
平均
4.3 / 5
神率
68.4%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

媒体
小説
出版社
講談社
レーベル
講談社文庫
発売日
価格
¥693(税抜)  
ISBN
9784065162798

あらすじ

杉本和也は、大嫌いな「親友」三浦に会うため12年ぶりに故郷を訪れる。再会した三浦は昔と変わらず嫌な奴だったが、和也はどうしても突き放すことができない。三浦に押されるまま、一緒に暮らすことになってしまい……。不器用な友情と、胸が張り裂けるような愛情と性愛を見事に描く傑作!

表題作嫌な奴(文庫版)

三浦恵一、和也の元同級生、小学4年生→27歳
杉本(秋元)和也、高校教師、小学4年生→27歳

レビュー投稿数18

この作品で語られる「愛」は、得体の知れない怪物みたい

粗暴で自己中心的な大嫌いな「親友」。
その親友に延々と付きまとわれる主人公と、とても不条理な物語です。

これ、本当に不条理なんですよね。
大嫌いなのに友人面され、大嫌いなのに同居と居座られ、挙げ句の果てに犯されて、心は通いあわないまま、奇妙な同居生活は続いて行く。
この場合、主人公に共感してやりきれない気持ちになるのが通常だと思うんですけど、主人公もまた、共感し難い「嫌な奴」。
萌える要素がゼロの気がしますが、個人的には好きで仕方ないお話だったりします。

元々はノベルズで刊行された作品ですが、新装版になるにあたり、大幅に加筆修正されています。
大筋自体に変わりないですが、スマホが出てきたりと現代風になっていたり、言い回しなんかが洗練された印象。
旧版より、文章としては確実にこなれています。
あと、初回限定で書き下ろしのSSも付いてくるので、未読の方はぜひ。

ザックリした内容としましては、主人公・杉本が、たまたま転校先で同級生だった粗暴な男・三浦に、延々と付きまとわれると言うものです。

この三浦ですが、粗暴で自己中でと、クラスでも嫌われ者。
そんな彼が、ささいな出来事から杉本になつき、つきまとうようになるんですね。
で、三浦を気嫌いしつつも、「いい子」でありたいが為に拒否せず受け入れる杉本。
やがて二人は周囲から「親友」だと見られるようになる。

えーと、こちらラストの3ページのみ除いて、あとは杉本の視点で語られます。
で、これがめちゃくちゃしんどいんですよね。
杉本の三浦に対する感情と言うのは、まさに嫌悪感しかなくて。

杉本と言うのは、とにかく人の目が気になるタイプなんですよ。
その為、親友である三浦を無下には出来ない。
でも、三浦自体が嫌で仕方ない。
共に居るのが耐えられなくて、とにかく離れたくて仕方ない。
ところが、どこまでも三浦は自分についてくる。

また、親の再婚に伴って卒業と同時に姿を消し、三浦から離れる事に成功します。
ところが、病にかかった三浦を12年ぶりに見舞った事をキッカケに、再び付きまとわれる事になる。

こう、ここが木原先生の怖い所だと思うんですけど、杉本がですね、嫌なヤツなんですけど、それがすごく中途半端なんですよ。
杉本が三浦に振り回されてると同様に、三浦もまた杉本によって人生を狂わされているんですよね。
彼が高校を中退しなければならなかったのも、病にかかったのも、杉本に責任の一端があって。
杉本は三浦を毛嫌いしつつも、その事に罪悪感を覚えるくらいの善良さはあるため、強く突き放す事も出来ない。
そこにつけ込んで、無理やりアパートに居座り、同居生活へと持ち込む三浦。

いや、何だろうな・・・。
こうやって一方的な執着を向け、主人公の人生にどんどん侵食して行く攻め。
そして、そんな攻めからなんとか逃れたいと、精神的にも肉体的にも追い詰められて行く主人公。
これが容赦なく書かれていて、読んでいて不条理だと言う感想しか出て来ないんですよね。
杉本の偽善者ぶりにも、三浦の気持ち悪さにも、奇妙な二人の関係にも、本当にやるせなくなる。
やるせなくなるんだけど、同時に強く心に刺さるものもあって。

三浦と言うのは、とにかく杉本と言う存在自体が、欲しくて欲しくて仕方ないんだと思うんですよ。
それが、執着であれ、愛であれ。
彼もまた、自分が毛嫌いされている事は分かっている。
それでも、離れる事も忘れる事も出来ない。
三浦に執着され続ける杉本も哀れなんだけど、三浦もまた、杉本の愛を求め続けと、すごく哀れなんですよね。
救いと言うものが無い。
それでも、狂ったように三浦を求め続ける杉本に、どこか心を動かされてしまう。

個人的にすごく心に残った部分なんですけど、精神的に限界を迎えた杉本が、一週間姿を消すんですよね。
そこで、戻った杉本を、強姦する三浦。
そこから二人は肉体関係を持つようになるんですけど、「こんな事をして何が楽しいんだ」と言う杉本に対して、三浦が返す台詞がとにかく壮絶で。
「俺が楽しんでると思うか」なんですよ。
お前がいたって、楽しいことなんてあるものか。一人の方がずっとマシだ。
なんですよ。
これこそ、三浦の本音だと思う。

何だろうな・・・。
一緒に居ても傷つけあうだけでありながら、それでも離れる事が出来ないとなると、愛とは一体何なんだろうなぁと。
私が知ってる愛と言うのは、優しくてあたたかくて、幸せにしてくれるものなんですよ。
でも、この作品で語られる愛と言うのは、得体の知れない怪物みたいに感じてしまう。
とても怖いんだけど、怖いから惹き込まれる的に。

まぁそんな感じで、万人受けは絶対しないとは思うんですけど、個人的には好きで仕方ない作品です。
木原作品中では評価もそれほど高くないんですけど、こうして新装版となり、多くの姐さんの目に触れる機会が出来た事を、純粋に嬉しく思いますね。
名作だと思ってるので。

ラスト3ページの三浦視点がとても秀逸なので、こちらもぜひ、読んでいただきたいです。

27

「ド」が付くほどのシリアス作品です

1998年に刊行されたノベルズの新装版。旧版は未読なのでそちらとの比較はできません。

1998年の作品ということは、すでに20年以上が経っているわけですが、木原先生の根っこはこういうストーリーなんだなとしみじみ思います。まさに木原ワールド。甘くもなく、どんよりとしていて、どこに愛があるんだろう、というドロドロなストーリーです。

木原作品の中でいえば、痛さはさほどない作品です。
どちらかというと、攻めが受けさんに執着している分、ラブがあるように、一見見える。

が。

が、ですよ。
そこは木原作品なので、一筋縄ではいかない執着愛が、この作品には描かれています。

内容は旧版と同じだと思いますが、一応ざっくりと。
ネタバレ含んでいます。苦手な方はご注意ください。




主人公は高校で教師をしている杉本。
彼のもとに、旧友で、親友でもある小野寺から一本の電話がかかってくる。

彼らの共通の友人である三浦が入院し、心身ともに弱っているから見舞いに行ってあげてほしい。

そう告げる小野寺に、肯定も拒否もしなかった杉本だが、本音を言うと彼は三浦に会いたくない。が、小野寺に促されるまま、三浦と再会し―。

小学4年生の時に、両親の離婚に伴い杉本(その時は母親の旧姓である秋元という名だったが)は母親の田舎に引っ越すことに。そこで、彼は一人の少年と出会う。

親から愛情を注いでもらっておらず、暴力的な、三浦という同級生に。

三浦に気に入られてしまい、何かと付きまとわれるようになるが、それが杉本は嫌だった。だからあの手この手で、三浦から離れようとする。三浦から離れて12年。やっと平穏な生活を送ることができるようになった杉本にとって、三浦との再会は望まないものではあったが、病床の床に臥せる三浦は以前とは様相が異なっていて。

高校中退で、病弱な三浦には職がない。
気の毒に思った杉本は、職探しの間という期限付きで三浦との同居を始めるが―。

三浦が、初めて出会ったときから杉本に執着するさまが凄いです。
杉本に執着するようになる理由があるのですが、この「理由」は、おそらく困っている人がいたらだれもがするであろう行為によって発生してます。だからこそ、杉本は三浦の執着する理由がわからない。

が、読者には三浦が杉本に執着する理由がきちんと読み取れる。

ちょっとした行動、しぐさ。
そういったもので、読者にそのすべてを読ませる手腕はさすが木原さんというべきか。

が、三浦が杉本に執着し続ける理由が理解しがたい。
愛情なのか、執着なのか、惰性なのか。
あれだけ杉本に拒否られてなお、心が折れずに杉本に執着し続ける三浦が、あっぱれですらあります。

このわけのわからない執着心こそ、木原作品の真骨頂といえるんじゃなかろうか、と思うのです。

いつまでも受け入れてもらえない愛情を持て余し、三浦がついに爆発させるシーンがあります。

お前が女だったらよかったんだ。

まー、なんとも勝手な言い分なのですが、このセリフに、三浦の孤独と、杉本に受け入れてもらうことの無い哀しみが集約されています。

愛してほしくて、受け入れてほしくて、自分を見てほしくて。

そんな三浦の心の叫びがね、なんとも切ないのです。
三浦は杉本をレイプまがいに抱くシーンが終盤長々と続きます。描写こそ少ないですが、杉本の、徐々に壊れていく彼の心の音まで聞こえそうなシーンに胸が痛くなります。

が、この作品が描いているのは三浦、外道!という内容ではありません。
三浦の自分勝手な行動から、杉本自身の心の闇を魅せています。

偽善者で、上っ面だけを繕う、そんな「嫌な奴」。
タイトルの「嫌な奴」は、三浦のことではなくって杉本のことなんじゃないかな。

どうすれば二人とも、幸せになれたのかな。

そんな問いが、突き付けられます。

今作品は男同士の絡みがあるのでBLにカテゴライズされるのかもしれませんが、BL的な萌はほぼありません。二人の間に、愛情が育つことはないからです。いやいや、最後は杉本も三浦に想いを寄せるんじゃない?などと思っていましたが、うん、甘かったね…。木原作品だしね…。

が、「男同士」の愛はなくとも、「人を愛すること」、そして「生きること」は一体どういうことなのか、を突き付けられた作品でした。

重く、痛く、ドシリアス。
甘々でほのぼのなお話を好む方にはお勧めしづらい作品ではありますが、1つの作品として読んだときにこれほどまでに心に突き刺さる作品はなかなかない。

そういった意味で、神評価です。

あ、そうそう。
今作品のレーベルは一般紙なんですよね。BLの棚で一生懸命探してましたが、BLのレーベルじゃないんです。
講談社さん、なかなかやるのう、などどちょっと上からな感想を抱きました。

これから本屋さんに行かれる腐姐さま、BL棚になければ一般の棚にありますよ。
という、プチ情報でした☆

26

木原沼へようこそ

あー、これこれ、
この救いのない、一方的な執着愛。
これこそ昔ながらの木原節だ。
スマホとかの、通信手段がアップデートされて今のお話になっていますが、かれこれ20年以上再販が待たれていた伝説の作品。
最初から最後まで、全然甘くならずに、ほぼ救いなく終わるところは、BL小説を読み始めた初期の頃、木原作品に出会って感じた衝撃のまま。
こんな風に、どうにもならないダメな人間を、どうやったら描けるのか、発想力も、書き切るだけの胆力も、どちらも圧倒的で、この味を知ったらもう、あなたもコノハラー。
多分、旧版よりはずっと読みやすくなっていると思うので、木原作品初心者さんにおススメして、木原沼の住人を増やしましょう。

22

戻れない分かれ道

友情か、愛情か、執着か。
杉本と三浦の関係に名前をつける必要はないのでしょう。本人たちも、もうわからないのですから。

それよりも、作品中に二度出てきた「分かれ道」(「道は二つに分かれ…」と表記されている)が、物語の隠れたキーワードのように思えて、気になって仕方がありませんでした。

杉本が三浦に無理やり体を奪われ逃げようとすると、三浦が杉本の職場に押し掛けて言います。
「お前は、俺に会わない方がよかったんだろうな。」
最初に読んだときは、病気の三浦を杉本が見舞って12年ぶりに再会したときのことだと思いました。(表紙の裏に書かれたあらすじが印象に残っていました。)
でも、もう一度読み返して、再会の後、杉本のアパートに押しかけた三浦が言った「お前を見つけちまったからな…」を読んだとき、「会わない方がよかったんだろうな」とは、二人が初めて出会ったときのことなのだろうと強く思いました。

18年前、田舎に引っ越してきたばかりの杉本少年が、何気なく散歩して出くわした分かれ道。舗装された道と、石ころが転がる黄土色の荒れた道。石ころ道を選ばなければ。ぬかるみにはまった父親の車椅子と格闘する三浦を手助けしなければ。きっと三浦は杉本を「見つける」ことはなかったような気がします。
再会し同居する二人が、四万十川近くの橋へ降りる道を選んだとき。橋への道を選ばなければ、後に三浦が体の関係になる女と出会うこともなかったでしょう。

もし、杉本の母親が再婚して引っ越さなければ。
もし、杉本が早いうちに三浦に「嫌い」と言えていれば。
もし、三浦の子どもが死んでいなければ。
もし、杉本の結婚が上手くいっていれば。
数えきれないほどの分かれ道があって。結局、杉本は三浦を振り切れなくて、三浦も杉本を手放せなくて。二人にはもう一緒にいる道しか残されていない気がします。

杉本の「たくさんの選択肢の中には、自分が変わっていく…そんな可能性もあったのだろうか。」というセリフに、心をグサリと刺されてしまいました。
「あのときが分かれ道だった」と気づいたときには、もう戻れないことが多いのではないでしょうか。人生の皮肉で、苦味。いい歳の自分は、過去の分かれ道を考えないようにしてたのに。しばらく考えてしまいそう。木原先生、ひどいよ(笑)。

小野寺のまっすぐさが、もやもやと心に引っかかっています。
そもそも、小野寺が杉本に「三浦に本当のことを言った方がいい」とか、「三浦を見舞ってやってくれ」なんて言わなければ。親切からでも、自分のひと言が誰かの背中を戻れない分かれ道に押し出してしまう可能性があるとしたら。そう考えたら、うかつなことは言えなくなってしまいそう。少し怖い。考えすぎかな。

17

恐怖すら覚える執着を愛と呼ぶのか?

1998年に出版された作品の新装版で、
スマホが出てきたり看護婦ではなく看護師になっていたり、
大幅に加筆修正されています。

読み終わってまず思ったのは、
これはボーイズラブなのか?ということ。
恐ろしいほどの執着で追ってくる「親友」三浦と、
三浦によって人生の歯車を狂わせていく和也の物語です。

三浦はとても傲慢でわがままです。
それは子どもの時から変わりませんが、
和也と出会って甘えを見せつつ、
一緒の高校に行くために必死に努力する一面もあります。
しかし、三浦の執着は恐怖を感じるほどのもので、
心底恐ろしくなりました。
勝手に家に居つくし、勤務先まで追いかけてくるし、
挙げ句の果て和也を無理やりレイプする……
一番ゾッとしたのは、女だったらどうとでもして束縛できると言ったところ:(;゙゚'ω゚'):
結婚していた時に生まれた子につけた名前は〝和也〟
こ、怖いよ……

ただ、和也にも憤りを感じました。
三浦が嫌いなのにいい顔をして裏で悪口を言っていた学生時代。
慕ってくる三浦に黙って往信不通になり、三浦が火事で亡くなったかもしれないと聞いても同情すらしない。
わたしは、三浦をここまでの悪魔にしたのは、
和也だったんじゃないかなと思うんですーー…

これって和也視点だから三浦が悪者のようになっていますが、
三浦視点だったら和也も相当な悪人ですよ。
実際、和也の親友だった小野寺は三浦を気にかけているし、
和也のことは酷いやつだという評価に変わっています。

けど、どんなに拒絶されても三浦は和也の傍を離れられないし、
三浦は和也の生活の一部になりつつあります。
ここから何かが始まるかもしれないし、
なにも始まらないかもしれないーー 
この物語のその後は、読者の想像力に委ねられています。

『嫌な奴』とは誰のことなのか?
和也にとっては三浦であり、
三浦にとっては和也かもしれません。
そして、読者にとっては……?

お互いを傷つけ合う関係に萌えは微塵も感じませんでしたし、
愛なのか執着なのか分からない感情をBLだとは思えません。
それでも深く心に刺さり、
忘れられない作品になりましたーー…
萌え云々ではなく、作品としての評価は神しかあり得ません。



16

愛とはなんだ。情とはなんだ。人間の深い業とは。

他のレビュアー様のレビューを、わかるーーー、わかるーーーと頷きながら読みました。愛とは温かいものだけじゃないんだな、それは行き着いた執着となって、もはや本人たちすらも、自分を行動させる深層心理を理解できないでいる。すごい本でした。

あらすじは他のレビュアー様が書かれているので感想を書きます。

とにかく、三浦、杉本の非常に繊細な心理描写を淡々と延々と書き綴り、物語の軸となるところに一切のブレがない。木原先生の想像力と語彙力、表現力は凄まじいもので、秀逸とかそういうレベルでは語れないほど。作品世界に惹き込む描写力は、他の追随を許さないほど圧倒的だと思います。

杉本に執着する三浦の様々な行動は恐怖です。杉本にどんな風に思われても、冷たくされても、その執着をやめることがない。じわじわ、杉本のテリトリーに入ってくるんですよね。遠慮もなく、本当に一方的に。

一方、杉本は三浦を徹底的に嫌悪するも、外面だけはよく、三浦を心底疎ましく思いながら、世間体や周りの目を気にしてはっきりできない。杉本は自分の教え子から「偽善者」と呼ばれ、ハッとするんです。自分が三浦に対してしてきたすべてが「偽善」であることに。

三浦が激しい執着の一端を見せるのは、決まって「杉本が黙って自分の前から消えたとき」なんですよね。杉本が高校進学直前に、自分に何も言わずに消えてしまったことが相当のトラウマになっていて、見境なき執着を見せる。杉本の勤める高校にまで押し入って追いかけるなんて、恐怖以外の何者でもないです…。

この作品は、愛とは何か、三浦の杉本に対するそれは、愛なのかなんなのか、ということを深く考えさせられました。三浦もわかっているんですよね、すべて。自分のこの抑えきれない執着が杉本の幸福には繋がっていないということ。ただ、三浦は杉本に優しくしてほしい、ただ、そばにいたい。本当にそれだけなんです。でもはっきり言ってめちゃめちゃ自己中ですよね。そこに、杉本の心はないし、明確に拒否されているんだし。でも、自分の抑えきれない欲望のために、執着をやめられない。

心をくれない、愛してくれない。けど、身体を繋げているときは優しくしてくれると感じられる。隣に眠るだけで安心していられる。身体だけでもいい、杉本という男がいてくれるなら。そこまでに思う三浦ってほんとーーーに、闇が深いなぁって思いました。

三浦が前妻との間にもうけた子供が夭折してしまったり、その後付き合った女性に妊娠していると嘘をつかれ、憤怒する描写があって、三浦にとって子供って本当に愛情を寄せられる絶対的なものなんだなって思いました。それは孤独な三浦のたった1つの断ち切れない絆になるものであり、この描写から、三浦の抱える孤独や過酷な過去を生き抜いてきたしんどさみたいなものがわかって、三浦が本当にかわいそうに思ってしまいました。だからこそ、杉本にあそこまでの執着を見せるのかなと。セックスを重ねた杉本に対して、孕めばいいのに、と話すセリフがあるんですけど、三浦は本気でそう思っているんだろうなと。自分にとっての愛情の絶対的なもの。愛に飢える三浦の奥底を丁寧に描いています。

杉本も杉本で、まぁ本当に嫌な奴なんですよね。私はこの作品の題名は、杉本のことを言っているんだと思いました。杉本も全然ブレないんですよねーー。どっかのタイミングで絆されて受け入れるのかな?と思いきや、ずーーーーっと、嫌悪(笑)ずーーーーっと拒絶(笑)ずーーーーっとすきあらば逃亡したい(笑)本当に二人の間に、愛は生まれないは、ずーーーーっと嫌いなんです、三浦のこと。これ、ほんとにすごいなって(笑)こんな作品初めてでした。でも、すごい。本当に徹底的に変化がないんですよ、杉本も。一貫して、三浦が嫌いだし、終始イラつくし、憤っている。その描写も生々しくて、細かくて、本当に木原先生すごいなーって思いました。脱帽です。

身体の関係になってからは、もはや杉本は無駄な抵抗せず、受け入れている。そのほうが楽だし、もはや、杉本自身もわからなくなっているんですよね。でも、三浦が入院することになり、やっと一人の時間、一人寝ができるようになっても、そこに三浦の存在を確認してしまう。ストーカーのごとく電話がかかってきて、ウザいな、めんどくさいなって思っても、三浦の存在がなくては安眠できなくなってきている。

これ、なんですかね…。杉本のなかに、ある種、三浦から逃れられなくなったことへの絶望感とかそういんじゃなくて、別の感情がうまれているんですよね。それは愛とはまだ呼べないものだけど、ある意味、三浦を受け入れたってことなのかなと。

単行本化を記念したSSが本の中に入っていて、三浦と肉体関係を持ってから何年後かの話なんですけど、すでに三浦との同居、というか、三浦と生きていくことを、半ば傍観者のように認識する杉本が描かれていました。でも、三浦との肉体関係は完全に杉本の一部になっていて、自分自身の身体を三浦に委ねるほどになっています。

つまり、お互いがお互いに向けたベクトルは違う方向に伸びてはいたものの、結果、同じところに着地はして、そこにいわゆる一般的でいうところの愛と呼べるものはなくとも、(三浦はあるかもしれないけど)お互いを受認して、なんというか、同じ想いではないんだけど、それぞれにいろいろ決着させて一緒にいる、という選択をしたのかなと。うーん…これをハッピーエンドというのか、という感じですが、杉本も長い年月、三浦という男に囚われてきたわけだしね…。結果、落ち着いたのかなと。

木原先生の作品は、人間突き詰めると…みたいなテーマが多いように思いますが、それを読者側に考えさせるだけの圧倒的な筆力に、もうなんもいえねー状態になります。あまりに圧倒されて、神以外の評価は考えられなかったです。

4

自分にかけた呪い

再読。

プライベートでも仕事でも死ぬほど忙しく精神的に余裕のないこの頃。
ふと夜中に目覚めてしまい、眠いのに寝付けず、こんなことをしている場合じゃないのにと焦りながらも現実逃避でこの本を手に取りました。

さらに追い討ち。

この追い込まれた気持ちを記録として残さなくては、、、と変な使命感に掻き立てられてレビューします。

嫌な奴

このタイトルの意味。
終始、受けの和也の視点で物語は進みます。
自分に執着する、攻めの三浦から必死で逃れる和也。
執拗に追いかける三浦。

逃げたかったのは、何からか?

途中から、和也の三浦に対する認知にズレがあることが明らかになります。
和也の中では、転校初日の印象のままの三浦のままです。
彼の内面に触れることを頑なに拒絶し、認知の修正を拒否します。
客観的に見ると、三浦は人たらしと言えるほど魅力的。
けれども、和也の中では、乱暴で自分勝手で鈍感な奴のまま。

諦念から三浦を受け入れはじめた和也。
ようやく認知のズレも受け入れはじめます。

小学生のような幼い情緒から、成長をはじめます。
これは、和也の成長物語と受け取りました。




0

どんなに嫌われていてもそばに居たい

幼馴染同士の何年にも渡る片思い。

主人公2人は幼馴染同士なのですが、受けの和也は攻めの三浦の事が嫌いで何とか逃げようと悩み、もがき続けます。
三浦はどんなに気持ちが通じなくても嫌われていても、何とかして和也のそばに居ようとするのですが、その姿が健気で泣いてしまいました。

2人の気持ちは最初から最後まで交わることはなく、それでも傍に居続けるという不思議な関係が続きヤキモキさせられました。

ずっと和也視点で、最後に少しだけ三浦視点の話があるのですが、悲しくて涙が止まらなかったです。

0

嫌な奴

小学生時代の凶暴な三浦のイメージが染み付いて大嫌いなのにかといって無下に扱うことも出来ずズルズル関係を続けた結果、救いようのない状況になる話
和也の本性が垣間見え初めてから三浦が傷つく様子が痛々しくていたたまれなくなる。一方的に追い詰めているのは三浦なのに。
無理やり体の関係に持ち込めても本当の意味では受け入れて貰えない。でも心が反応を示さなくても身体は応えてくれる。それが自分には優しいんだと吐露する三浦が哀れで愛しくて泣けます。
全く救いようがないかと思いきや、終盤の和也のエピソードから三浦を受け入れつつある事が窺えました。
なんだかんだ死ぬまでずっと一緒に居そうな二人。

新装版と旧版どちらも読みましたが、セリフなど変更されてる箇所が多く見られます。新装版では初回限定でその後の2人の様子が書かれたリーフレットが付いてきました。

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愛の不条理

 何か面白い小説が読みたいと思い、木原音瀬ってBL界では巨匠らしいし読んでみっか〜と軽い気持ちで「美しいこと」「箱の中」の文庫版を読んだのですが、す、っすげえ‼︎と衝撃でぶっ飛んでしまいました。

 私は面白かった作家の本をローラーするヘキがあるのですが、とにかく作品数が多いので、文庫になっているのを拾って読んで、出会ったのがこの作品です。やっぱりすごい〜すごく面白いよー!

 子どもの頃から苦手だった男に粘着され、大人になってもなんやかんやとそばを離れてくれず、結婚が決まってやっと逃げられると思っていたら婚約者に式当日に駆け落ちされ、戻ってきた男に最終的に手ごめにされる…という、ノンケの男子からしたら悪夢でしかないお話。でもこれが、腐女子の目を通すとなぜか良い…。なんだろう、ラブもときめきもなく、荒涼とした物語なのに、なんでこんなに面白く感じるんだろう。不思議です。

 この話の見どころは、やっぱり執着攻めのものすごさでしょうか。授業中に教室に乱入してきた三浦に、学校の中を追いかけられるシーンは圧巻です。あと、いきなりシャツを引き裂かれるところでわくわくしてしまいました、すみません笑

 攻めの三浦は、杉本に嫌われていることを知りつつも、離れようとしない。自分も相手も傷ついてもうぐちゃぐちゃなのに…。心はくれないんだろう、でも体に触れれば温かいとか、出会わない方が良かったとか、セリフがもう切なくて、一方通行の愛の悲しみを感じます。最後の一文にも胸を締めつけられました。三浦に感情移入しているのかも…
 三浦と比べると、どうしても杉本は見栄っ張りで情のないやつに感じてしまいます。彼も相当かわいそうなんですが。最後の方で、怒りと憎しみの中にあきらめの安寧を見い出しているような描写がありました。

 愛って決して甘いだけのものではなく、不条理かつ理不尽なものだということを思い知らされる傑作だと思います。いやあ、本当に木原作品はすごかった。

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