total review:279077today:29
ゲストさん
無料会員登録
ログイン
初めて読んだ石原さんの作品は友人から借りた「カリスマ」個性の強い絵柄も、どこか難解なストーリーも正直言って自分には苦手だと思った。 なんとなく馴染めないまま、作品を買うことも挿絵として見かけても、暫くは敬遠していたこの方の本を自ら手に取ろうと思った理由は定かではないのだが、その苦手意識がこの本によって一掃されてしまったのは確かだ。 「カリスマ」はアメリカを舞台にしていて自分自身日常生活のなかで一度も体感したことのない話であるのに対し、この作品の方は、日本が舞台で主人公が高校生であったことで話に馴染みやすい雰囲気が加わることで先の作品より敷居が低くなったのもあるかもしれない。 この作品を読んだことの無い人に話の内容を簡単に説明しておこう。 子供のころに経験したいいじめのような出来事で、対人恐怖症ぎみの入谷鉄央は同じ学年の中でもひどく存在感のある木津涼二になぜか目をつけられる。 隠されている自分の内側を暴かれる恐怖におびえて、出来るだけ木津と距離を置こうとする入谷だがどんなわけがあるのか木津のほうはほっておいてはくれない、自分の内側に無遠慮に侵入してくる木津に苛立ちを覚えながらも、それとはまた逆に彼に強く引かれていく気持ちも止められないでいる。 小、中学校時代にはいじめにも似た扱いを受けていつも泣いていた入谷は、そんな自分の過去をあまり知る人間のいない学校を選び、今までと態度もがらりと変えてまったく違う生活を送ろうとしていてそれは成功しているように見えていたのに、木津の前でだけはなぜかその均衡がくずれそうになってしまう。 逃げようとする入谷と捕らえた獲物を逃すまいとする木津、どちらも一歩も譲ろうとしないぎりぎりに張り詰めた攻防戦に読みながらぐいぐいと惹きつけられていく自分がいて止まらなくなってしまったのだ。 文庫化された折に各巻に新しく描き加えられた書下ろしがまた良い。二人のその後に当たる内容なので、ネタバレ的なものが嫌いな方は途中で読まないほうが良いかもしれないが男らしく成長した二人のその後の関係が垣間見える内容におもわず悶絶してしまう。 読み終わったあとに苦手だったあの作品を再読したのだが、何が苦手だったのかわからないほど普通に楽しめたのが不思議だった。 等身大の彼らが巻き起こす、ほろ苦く甘酸っぱい青春群像……。 すでに経験した者にはどこか懐かしく、それでいて長い間読み告がれていくための新鮮さも加味されたこの作品を、ぜひ一度手にとって読んでみてほしいものだ。
Copyright 2008~ © All right reserved,BLサイト ちるちる