雑誌Dear+2010年1月号より連載が開始され、2012年6月号にて一旦最終回を迎えるも、読者からの熱烈なリクエストにより雑誌Chéri+ 2014年ハル号にて復活。2018年現在も連載が続いている、夏目イサク先生の超人気作品です。
このシリーズ最大の魅力は、週刊誌記者の尾上(おのえ)とカメラ担当の蕪木(かぶらぎ)が、生い立ちも性格も仕事の仕方も何もかも異なるライバル関係でありながら、お互いに少しずつ惹かれ合う過程がとても丁寧に描かれているところです。それは2人がつき合い始めてからも変わらず、いろいろなエピソードを通してそれぞれが互いに欠けている部分を補い合うようにしながら、ますます大切な存在となっていく様子がときに微笑ましく、ときにせつなく描かれています。
また主役2人のみならず、周囲を固める脇キャラにも魅力的な人物が多数登場しますので、それぞれの視点で読むとまた違った景色が見えてきます。
楽しいばかりではなく割り切れない現実も描かれながら、最後には絶対に笑顔で本を閉じることができて、読めばきっと誰もが幸せになれる、そんな作品です。
紆余曲折ありつつも、ようやく付き合い始めた尾上と蕪木。それなりにラブラブな日々を過ごしているさなか、街で偶然蕪木の妹・理子(のりこ)に声を掛けられます。どうやら兄妹には何か確執めいたものがあるらしく、蕪木は早々にその場を逃げ出しますが、尾上はそのまま理子につかまってしまい…。
ちょっと天然で自分自身のことはあまりよくわかっていないけれど、他人の痛みや傷には敏感で、その奥にある真実がちゃんと見えている――そんな尾上最大の能力と魅力が、この2巻で爆発しています。
この巻には〝ラストエピソード〟として前篇が雑誌掲載されるやいなや、読者が阿鼻叫喚となったお話も収録されているのですが、それも含めて2巻全体をまとめるとしたら、「蕪木が尾上を手放せなくなるお話」でしょうか。
尾上の魅力に惹かれながらも、いや惹かれているからこそ、自分の存在に不安を覚える蕪木。そんな蕪木の真意が読めず、不安にさいなまれる尾上。お互いがお互いを思い合うが故に生じるすれ違いによって、2人の関係がさらに強いものとなっていく過程が、ここでもまた丁寧に描かれています。
尾上と蕪木が付き合い始めてまもなく1年、張り込み班に中途採用の新人・笠井(かさい)が配属されます。以前他誌で記者をしていた笠井は、研修のため蕪木とコンビを組むことに。何故か初対面の尾上をライバル視している笠井は、尾上に対し「蕪木さん もらいますね」と宣戦布告をしてきます。忙しさからなかなか蕪木に会えず、次々とスクープを上げる2人の姿に尾上はどんどん追いつめられて行きますが…。
他人の裏側を探ることが仕事のメインであるがために、どうしても荒みがちとなる職場において、ひとり異質を放つ尾上。やたら絡んできたり騙してきたりするような相手でも、いざというときは全て忘れて行動できる――本人は気づかずとも周囲の救いとなっているその魅力が、ここでも遺憾なく発揮されています。
そして、尾上に対する愛情ゲージがさらに上がり、もはやダダ漏れとなっている蕪木が、逆境にいる尾上のためにどう動くかも、重要な読みどころかつ萌えどころとなっています。
またこの巻には、雑誌Dear+150号記念に掲載された名作「駅前居酒屋PM8:00」(飴色パラドックス×どうしようもないけれどコラボまんが)も収録されています。
笠井の研修から開放され、久しぶりに2人でスクープを追うことになった尾上と蕪木。素直に喜ぶ尾上に対し、前巻の件以来尾上に好意を持ち始め、どうやら2人の仲を疑っているらしい笠井の様子に、気が気でない蕪木。笠井の尾上への好意がさらに増すことを防ぐため、蕪木はとっさに「おれとこいつ付き合ってるから」と交際宣言をしてしまいます。ところがその様子を、2人がスクープを追うターゲットである俳優・印南(いなみ)に聴かれていて…。
飴パラ史上、現時点でいちばん切なくていちばん泣けるお話です。
なかなか正体のわからない印南に関して意見を対立させながらも、根っこのところでは常にお互いを思いやって行動している2人。この巻でも「尾上によってどんどん変化している蕪木」と「基本的には尾上が主、蕪木が従」という2人の関係性が、しっかり描かれています。
印南篇は、誰の視点で読むかによっても感想が変わってきます。細かいところにも注目しながら、いろんな視点で繰り返しじっくり読みたくなる、そんな一冊となっています。
なお、この4巻からカバーデザインが一新され、それに伴って既刊の1~3巻も新しいデザインへ変更となりました。