シリアスとコメディーの絶妙な加減がたまらない
交渉人シリーズ全8作。主人公は交渉人の芽吹章とヤクザ若頭の兵頭寿悦。シリーズ6冊目「スウィーパーはときどき笑う」のみネゴオフィスのアルバイトの紀宵とヤクザ坊ちゃんの智紀との話である。
元検事・元弁護士の芽吹は,現在静かに1軒の小さな交渉人ネゴオフィスを経営している。オフィス所在の町は周防組というヤクザの管下にある。よりによってその周防組の若頭,兵頭寿悦は芽吹の元後輩であった。先輩と再会した兵頭はなんと芽吹を自分のものとして主張しはじめている?
とてもテンポがよく,BL以外の要素もしっかりしている小説である。主人公たちだけでなく,サイドキャラクターたちも見どころである。
夫婦漫才の始まり
才能あふれ,法律を武器にしている芽吹は頭の悪いヤクザをものともせず,いつも堂々とチンピラを撃退。その中,セクシーで頭脳的の元後輩,兵頭との再会は衝撃的であった。一番の見どころは,もちろん,辛うじて拒めようとする芽吹の懸命ぶり,と先輩に心酔しながらもどこか余裕の兵頭(笑)との攻防戦。爆笑の夫婦漫才とツッコミがここから始まる一冊。感情的にはまだ浅いところどまりだが,これからが大変楽しみな一冊である。最後は奈良千春先生の挿絵のセクシーで危険な眼差しを持つ兵頭に一目ぼれした。
兵頭の過去
好きでもなく,嫌いでもない,楽しい中が続いている二人。ストーカー被害というホストから依頼を受けた芽吹,クライアントのために,たとえ兵頭でも立ち向かう。兵頭の過去がわかる一冊,そしてそれを受け止める芽吹のカッコよさ。そして芽吹の親友の七五三野と兵頭とのやりとりも見逃せない(笑)恋かどうか微妙の中,二人の感情が進展していく。
信じる交渉人
シリーズ3作目,1冊目と2冊目よりが少しダークなターンになり,芽吹の意外な面が読めるのがますます楽しめるという一冊。
シリーズを読む中,芽吹を知れば知るほど,彼がどうして弁護士をやめて,何があって現在の仕事にたどりつくのか,知りたくなる。
今回の朝比奈過失致死事件の中で,まわりの圧力の中でも,相手を信じたい,人を信じることにこだわる芽吹がつらい目に合う。その芽吹を支える兵頭の愛情。明るい前作より,シリアスの内容が増える一冊,二人の感情がさらに進展。そして芽吹を挟むやきもちバトルも見どころ。
過去のトラウマ
今作は次作『交渉人は諦めない』と前後編になる。送られたUSB,開かれた過去。親友の死で自責しつづけていた芽吹,親友のトラウマを克服できず,兵頭との仲も危うくなる展開。特に好きなのはホテルでの二人のシーン,兵頭の言動一つ一つに芽吹への愛情が感じられる!芽吹が今までになく感情で兵頭を頼るようになったとわかったからこそ,後半の二人の展開がとても心が痛む。二人の感情はどこに向かっていくのか。芽吹さんの過去がわかり,そしてミステリーの内容が楽しめる4作目。そして表紙の奈良千春さんの挿絵の雰囲気がどんどん変わるのが気になる。
愛と信用
前作に続き,芽吹と兵頭は危うい渦巻の真ん中。兵頭に捨てられた芽吹の落ち込みの上,環に振り回され,またも危険な目に会う芽吹。騙しあいの中で愛と信用。紀宵と小百合さん,二人からの暖かい言葉大好き。芽吹もネゴオフィスの方たちに支えられ,愛されている。そしてハラハラドキドキの中,一番涙目なのは,兵頭への感情をはじめて丸出しにした芽吹。傷だらけの心の無力感,その心痛が読者にも伝わっている。最後まで読めてよかったと安堵しました。
チワワと大型犬との話
前から紀宵と智紀が気になって待ちくたびれた嬉しいスピンオフ。いつも無口でこつこつアルバイトしている紀宵さんの本業は死体掃除屋。紀宵の過去がわかり,本業の中智とある事件に巻き込まれていく。つらい過去がわかってそのような紀宵にぜひこれから幸せになってほしいと切に願っている。そして相手の智紀は,以前と違ってだんだんかっこよくなり,紀宵のことがだんだん気になる展開に癒されている。いい意味で予想を裏切る作品である。
中であの夫婦の存在感もなかなか。一番好きなシーンは紀宵と智が部屋の外で芽吹と兵頭のHシーンを盗み聞きしているところ。大人二人のフェロモンにそそられ、その気になった若いわんこの二人が萌え萌えです。
愛される交渉人
タイトルからもハッピーエンドがわかる一作。『~諦めない』で盛りになって今作でだんだん落ち着く。今回芽吹はなんと鵜沢万里雄の父から依頼を受けた。いつもながら,毎回依頼人のために火力全開の芽吹だが,今回は大変危険な境地に陥るほど,芽吹の心情に不穏の音が潜んでいる。。。終焉を迎える二人の仲に癒された。意外と兵頭が口うるさい嫁の一面があり,芽吹が逆にだめ旦那のほうで吹いた。
共に生きることの大切さ
シリーズを祝う記念すべき一冊。今回は親友七五三野の意見に従い,芽吹ネゴオフィス一同は沖縄旅行に。兵頭は芽吹に尾行し,そして面白くないことに,芽吹の元カノが芽吹の泊っているホテルで働くこともわかった。今回の依頼人が芽吹の元カノ,そして芽吹もまた小さな依頼から,大きなトラブルに巻き込まれる予感。兵頭と無人島で一夜を過ごし,いろいろ出来事があったが,めでたいハッピーエンドエンド。
そして一番うれしいことに,一連の事件の後,長年の生死の闇のさまよいを経てやっと兵頭と一緒に生きたいと思うようになった。最初に七五三野の前で自分と兵頭との関係を明らかにできないのが気になったが,生きていくために自分を守るための気持ちだとわかった。誰かを愛することはなかなか簡単ではない。それでも芽吹は兵頭と生きていく道を選んだ。